『広瀬』…エピソード3 投稿者: まてつや
2月14日……セントバレンタインデー

七瀬が俺にチョコをくれた……。

「いっとくけど、義理よ! ぎ・り!」
念押された……まぁ、いいけど。

「あんたは本命チョコもらえるからいいでしょーが」
と言って、七瀬は広瀬の方を見た。




放課後……
例の川辺へ2人で行く……。

「みんながいるとこだと恥ずかしいでしょ」
顔を赤くしながら、チョコを渡してくれるこいつの顔は可愛かった。

「手作り?」
「一応ね」
一人暮しみたいなもんだから、これでも料理には結構自信あるのよ。と笑う。
「今度、ご飯作りに行ってあげるね」


最近になって、こいつといっしょにいる時間が多くなってきていた。
真希が俺を求め、俺が真希を求めている……
いっしょにいるには、それだけで十分な理由だ。

「ずっと、このままいられたらいいね」
そんな幸せな……
「ああ、そうだな」
俺と広瀬と日常……でも、それは……
「わぁ〜、すっごい赤くて綺麗な夕焼け〜〜……」
水面に映る赤、広瀬を彩る赤、街を染める赤。

夕焼けの赤……赤い空……
この空の向こうに……
赤い世界……が……



〜〜〜みさお回想シーン〜〜〜



「兄さんみたいに……急に、消えたりしないでね」
永遠なんて……
「もう……ひとりぼっちにしないでね」
なかったんだ……




次の日……俺の朝食は用意されていなかった
由起子さんの分の食器はちゃんと洗い場にあるのにだ……



次の日……長森が朝、起こしに来なかった……
9年もつき合いのある……幼なじみまでもが……

薄らいでゆく……俺の……存在




次の日……台所のテーブルには……
俺の分の朝食があった……

(……由起子さんか?)

「なんで……今日は……飯があるんだ?」
「それはわたしが作ったからで〜〜す」

背後から……聞き覚えのある声が……した。


「広瀬!? な……なんで!」
俺のことを、覚えているのか……!
「え〜、『今度、ご飯作りに行ってあげるね』って言わなかった?」
「あ……ああ」

「朝ご飯ひとりで食べるの寂しいでしょ?」
わたしがそうだし、と微笑む。

ああ……ひとりの、つらさ……
広瀬のつらさ……
いつもいるはずの人がいなくなるつらさ……
わかってる……

俺も……同じなんだ……
広瀬と……

「……真希!」
だからこそ……
「ん、早く食べて、学校行こうよ」
つらい……
「……ああ」
もう……俺には、時間が……ない……




「いっしょに登校するなんてはじめてだね」
ああ、はじめてだ……そして、最後なんだ……

「勝負しよう」
いつもの川原の横の道で、俺は……そう切り出した。
「え、ちょっと……学校!」
「1回だけだよ」
俺は小石を拾った。
「ま、ちょっとくらい遅刻してもいいけどね」
広瀬も石を拾う。
「それとも、さぼっちゃおうか?」
「……それもいいかもな」


広瀬が、振りかぶって投げる。

びしゅっ……びしゅ……びっ……びっ…びっ…び…ぼちょっ……

「あれ? 今日は調子悪いなぁ」
今日の広瀬は7回しか跳ねなかった。


「俺の番だな……」

びしゅっ……びしゅっ……びしゅ……びっ……びっ…びっ…び…び…びび……

「うわ〜、初敗北〜〜、くやしいなぁ」
俺の方は11回跳ねた……

「よ〜し、俺が勝ったからな、ひとつ言うことを聞けよ」
「まぁ、仕方ないわね」

「俺、ちょっとノドが乾いたから、その辺の自販で、ジュースでも買ってきてくれよ
 あ、もちろん。おまえのおごりな」

「うん。わかった、すぐ戻ってくるね」

広瀬が手を振って、俺の視界から、消える……

(悪いな……広瀬……)

約束守れなくて……ゴメンな……
俺は……大ウソつきだな……

『俺が、怒ってやる……、心配してやる……、お前をひとりなんてしない!』


もう、怒っても、心配してもやれないんだ……
この道も……もう2度、2人で通ることもないんだ……

髪も瞳も、小さな背中も、あの笑顔も
もう、見ることが出来ないんだな……

だって、もう俺は……この世界から……


☆★☆★☆★


「はぁはぁ、結構時間かかちゃったぁ
 ごめんね〜、この辺に自販ないし、店はまだ開いてないし〜」

………………
………………………………

「浩平? 嫌だなぁ、隠れてないで早く出てきてよ〜」

………………
………………………………

「あれ……浩平……?」




〜〜〜エンディング〜〜〜
(BGM:遠いまなざし)


〜〜川辺で石を投げる広瀬〜〜



〜〜はじめて微笑む広瀬〜〜



〜〜クリスマスの涙のキス〜〜



〜〜はじめて2人で登校する広瀬〜〜



Fin.




大好きな兄さん。
わたしにいろいろなことを教えてくれた兄さん。

仕事で家を空けることが多かった両親の代わりに……
わたしは兄に育てられた……
優しい兄さん。

幸せだった……兄さんさえいれば、他になにもいらなかった……
なのに……



交通事故だった……
不運でもなんでもない……兄さんの意思だ。
兄さんは……車にひかれる寸前だった子供をかばって……死んだ……


悲しかった……でも、
一番辛かったのは……


「まったく、あいつは世話をかけてくれる……」
「たまに一族にああいう変わり者が現れるんだ……まったく、不快な……」
「子供をかばって死ぬだと? バカにもほどがあるな、でも、アイツにはお似合いだ」

兄さんの葬儀で聞いた、家族、親戚一同の会話……

違う! 兄さんはあなたたちよりも何倍も立派な人よ!!
バカはあなたたちだわ!!



最愛の兄さんを失い……
醜い親類たちを見て……
わたしには、だれもいないことが良くわかった……


……わたしは……ひとりだ……




それからのわたしは、生きることに意味を失っていた。

でも、あの人が……わたしに光を与えてくれた……



『俺が、怒ってやる……、心配してやる……、お前をひとりなんてしない!』



わたしは……ひとりじゃない……

そう言ったのは、あなたなのに……
兄さんと同じように……誰にも心配されずに消えていった……



そんなわたしを支えてくれるのは……たったひとりの友だちと呼べる相手。

彼女はわたしをいろいろ気遣ってくれた……でも……

『多分……わたしの方の片思い』

そう言った、七瀬でさえ、彼のことは覚えていなかった。


それを聞くのがつらく……わたしはひとりを実感した……






川沿いの道に舞い落ちる桜の花を踏みながら、ひとり歩いた……




ひざの辺りまで伸びた草むらの中を、露を飛ばし、ひとり歩いた……




いちょうの葉が舞う……ススキが揺れる、そんな風を感じて、ひとり歩いた……




寂しい並木道、枯葉をよけながら、ひとり歩いた……




そして……再び春……





卒業式……
七瀬とは進路が違ってしまう……
わたしは今度こそ……ひとりになった……



卒業証書のはいった筒を抱えたまま……
わたしは川原にやって来た……




もう……疲れたよ
あなたの居ない世界で生きるのは……

あなたがいなければ……生きる意味なんてない……

卒業証書なんて……いらない……
わたしはこんなものが欲しいんじゃないんだ……

「こんなもの……ゴミと同じよ!」

わたしは卒業証書を……振りかぶり……


「川にゴミを捨てちゃいけない、って兄貴から言われてないのか?」


……え……


「せっかく卒業できたのにもったいないなぁ、俺は留年決定なのにな」

忘れもしない……声。
振り向かなくても……わかる……

「浩平……!」

わたしは……彼に抱きついた。

「ばかぁ……どこいってたのよぉ、さびしかったんだからぁ……う……うっ……」

「悪い……」

「悪いわよ! ホントに……もう、ひとりにしないでよ……」

止まっていたわたしの時間が……またゆっくりと動きだす……
それは……2人だけにしか聞こえない、幸福の音……


「勝負するわよ……」

「勝負?」

「わたしが勝ったら……」

涙を拭くこともせずに、わたしは笑顔を作る。

「ずっと、そばにいてもらうんだからね」




〜〜〜輝く季節へ〜〜〜




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
☆あとがき
気がつけば……
SSコーナーに投稿するのは、実に1ヶ月と12日ぶりでしょうか……

わたしの中では2番目に長い作品になってしまいました……

繰り返しますが
広瀬FC『らぶり〜真希ちゃん』をよろしくぅ!
現在会員3人……

会員募集中です……

それでは……

http://www.geocities.co.jp/Playtown/1331/