『広瀬』…エピソード2 投稿者: まてつや
12月24日……終業式。
今日を終われば、待ち望んだ冬休みだ。

退屈な校長の話に、かったるい大掃除……
特に何もあるわけでない……そんな日。

1つだけ、いつもと違ったのは、七瀬が風邪で学校を休んだことくらいだった。




住井たちと学校で遅くまで騒いで、帰ることにした。
実際、家に家族もいない(由起子さん忙しいからな)
いっしょに過ごす恋人もいないやつのクリスマスなんて
こんな風に、仲間内で騒ぐくらいしかない……
(長森のヤツだって友達同士でパーティだしな)


夕方……というほど、明るくなく、
夜……というほど暗い時間でもなかった。

ひとりで、ゆっくりと家路につく……

そして……ある場所で足が止まった……

例の川辺だった。

『七瀬さんのこと……どう思ってる?』
なんでそんなことを聞くんだ?
『あんな風に言ってくれる人がいるなんて……七瀬さん、うらやましいな』
なんでそんなことを言うんだ?
『あの言葉……うれしかったよ、ありがと』
あの言葉……


「……折原」
呼ばれる声で我に返る。
その声の主は……
川辺に座りこんで、こっちを見ていた……

「……広瀬」
いつもよりも、ずっとずっと小さく見える……広瀬の背中……
「……良かったぁ」
泣きそうな顔で、ホッとしたような感じで言う。
「……この道通らなかったら……どうしようかと思っちゃった」
笑顔がぎこちない……
「なんだよ……ここで俺が通るのを待ってたのか?」
「うん……ひとりきりで、クリスマスを過ごすのが……嫌だったの」
七瀬さんが風邪ひいちゃったからね、と付け加える。

「七瀬とパーティでもするつもりだったのか……」
「……わたしには誰もいないからね」
「そんなことないだろう? 七瀬が風邪引いたのは仕方ないけど、
家に帰れば家族がいるだろ?」
「……」

………………
………………………………

沈黙が流れた……俺、何か悪いこと言ったのか?
そう言おうと口を開きかけたときに、広瀬の唇が言葉を紡いでいた……

「また……勝負しない?」
俺がおまえに勝てるわけないだろうが……
「わたしが勝ったら……」
彼女はスッと立ちあがる。

「今晩……あなたの家に泊めて」

心臓がどきり!と飛びでそうだった……

………………
………………………………
………………
………………………………

「……親が、心配しないのか?」

「しない」

「だって、女の子が無断外泊……」
「両親は仕事で海外に行ってる……」
「……『とび石』を教えてくれた、っていう兄は……」
「1年前……死んだ」
「……!!」

「家には、誰もいない……。
 わたしを心配してくれる人も、怒ってくれる人も……」

広瀬は背を向けていたが……俺には見えてしまった……
いつもよりも小さな肩を震わせて、彼女が地面にこぼれ落とした涙の雫を……

「……もう……、ひとりは嫌なの!
 わたしたちのことをなんとも思っていない両親でも別に良かった!!
 でも、それは……最愛の家族が……兄さんがいたからっ!!
 わたしにいろんなことを教えてくれた、最愛の人が! 
 他に何も要らなかった……なのに、なのに……」

俺は……何も言えなかった……

「そんな永遠は一瞬で終わったわ!!
 兄さんがいない世界に住んでるなんて、意味がない……」

そういえば……広瀬は、もともと成績優秀でこの学校に入ったらしい……
でも……あるときを境に……
クラスでも、不良と呼ばれるグループに入ってしまった……
それは……
兄の死のせいだったのか……


『あんな風に言ってくれる人がいるなんて……七瀬さん、うらやましいな』

『あの言葉……うれしかったよ、ありがと』

『わたしを心配してくれる人も、怒ってくれる人も……』

全ての疑問が、1つの線につながった……そうだったんだ
最愛の家族を失う……
俺が一番良く知っていたんじゃないか……

そんな俺を救ってくれたのは……長森のヤツだった。

でも……広瀬は、そんな救いがなかったんだ……
ずっとずっと、絶望したまま生きてきた……
泣いてばかりで生きてきた……
寂しさを感じないように、1人は嫌だから……不良グループとでも、
彼女はいっしょにいたんだ……

「ごめん……どうかしてた、今の話……忘れて……」
目をごしごしとこすって、振り向く……
「……わたし帰るね……」
精一杯の笑顔で、痛々しい笑顔で、広瀬は……俺から離れてゆく……

俺は、広瀬を……後ろから、抱きしめていた……

「…あっ……」
「俺が、怒ってやる……、心配してやる……、お前をひとりなんてしない!」

ぎゅぅ、と腕に力をこめた……

「俺の最愛の人になってくれ」

広瀬を振り向かせる……
顔は涙でひどいものだった……でも、すごくかわいく見えた……

「……折原……あのっ……、わたし、あなたのこと……好……」
「好きだ」

先を言わせる前に彼女の唇を閉じた……
はじめてのキスは……
2人の涙で、少ししょっぱかった……






==あとがき==
今回は短いです。
その分、3が長いですが……
次回完結です。

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