「いいかげんにしろっっ!!」
その言葉に七瀬は驚いた。
言った浩平自身も驚いていた。
教室中が驚いた。
でも、その言葉に一番衝撃を受けたのは……彼女だった。
〜〜〜『広瀬』〜〜〜
「……あの」
次の日の放課後、ゲタ箱で浩平を待っていたのは、広瀬真希だった。
はじめて会話した2日前とは彼女の雰囲気はまるで違っていた。
「なんか用か?」
「……あの……ね」
広瀬は浩平の顔から視線をそらしながら……続ける。
「七瀬さんと……仲直りしたいの……」
「はあ?」
浩平には予想外の答えだった。
「あの……あの件については……わたしの方が本当に悪かったと思って……」
「……」
「直接、七瀬さんのところに行こうとも思ったんだけど……
話を聞いてもらえるかわからなかったから、折原についてもらおうと思って……」
「……」
「わたしがバカだった……」
広瀬が頭を下げる。
「わかった、七瀬を連れてくるから、ちょっと待ってろ」
「ごめんなさい……」
「あ、うん……もういいから、頭上げてよ、ね」
浩平に話をつけてもらって、
七瀬と広瀬は2人でいっしょに下校することになった。
「でも……、なんで急に謝る気に?」
「……本当に悪い事をしたと思ってるから……」
「……」
「……」
…………。
少しの沈黙の後、広瀬が意を決したように、口を開く。
「わたし……多分、七瀬さんのことがうらやましかったのよ」
「うらやましい?」
「……みんなから好かれてるから」
「でも……広瀬さんだって、あの……、友達いるじゃない」
「……あの子たちは、わたしに適応に合わせてくれてるだけよ……
本当に心配してくれたり、好感を持って、ちやほやしてくれてるわけじゃないわ」
「わたしこんな風だから仕方ないのかもしれないけど……
みんなに好かれたことなんかなくて、
あなたみたいに、怒って心配してくれる人もいない」
クラスのみんなに好かれている七瀬。
七瀬のために、怒ってくれた、心配してくれた折原浩平。
そんな彼女がうらやましい。
「わたしに……本気で怒ってくれたり、心配してくれる人なんて……いない」
すごく辛そうな表情(かお)だった。
「本当の友達なんて、わたしには一人もいないの……」
七瀬は、そんな広瀬の手を取り……
『じゃあさ、わたしと友達になろう』
そんな七瀬の笑顔に……広瀬は涙が出そうになった……
☆★☆★☆★
『いいかげんにしろっっ!!』
その言葉に七瀬さんは驚いていた。
言った折原自身も驚いていた。
教室中が驚いた。
でも、その言葉に一番衝撃を受けたのは……わたしだったんだ……
わたし個人のバカな考えを……怒ってくれた……
まわりの連中は……誰も言わなかったことを……言ってくれた……
『いいかげんにしろっっ!!』
その言葉は、七瀬さんのために言った言葉で、わたしのために言ってくれたものではなかった……
でも……、わたしはその言葉をずっと求めていたんだ……
「広瀬さん、いっしょに帰ろう」
七瀬さんは、やっぱり優しかった。
あの日以来、わたしたちはいっしょに帰ることが多かった。
『じゃあさ、わたしと友達になろう』
あの笑顔……、とても綺麗だった……
「わたしだって、そんな好かれてばっかりじゃなかったよ」
嬉しかった。
「わたしも……広瀬さんとなら、本当の友達になれそうな気がするの」
『じゃあさ、わたしと友達になろう』
七瀬さんは、気休めやなぐさめなんかでなく……
わたしに本気で応えてくれた……それが本当に嬉しかった……
「七瀬〜〜、いっしょに帰るか?」
今日の放課後は折原が七瀬さんを誘っていた。
「うん、いいわよ。3人で帰ろっ」
七瀬さんがわたしを呼んだ……
「いいの?」
わたしは折原に聞こえないように小声で七瀬さんに言う。
「なにが?」
「2人のジャマにならない?」
「ジャマ?」
「2人とも……つき合ってるんでしょ?」
ごちぃん!!
七瀬さんはハデにコケた。
「何やってんだ、おまえ?」
「なんでもないのよ」
のろのろと立ちあがり、七瀬さんは、あははと笑った。
そして、わたしの方に向き直り、また小声で……
「つき合ってなんか……ないわよ」
「そうなの?」
七瀬さんと折原は、いつみても仲が良さそうだったし、
わたしとのあの事件以来、さらにいっしょにいるみたいだったんだけど……
「多分……わたしの方の片思い」
それっきり、七瀬さんはその話題を打ち切った。
☆★☆★☆★
「じゃあ、わたしはここで」
七瀬といつもの場所で別れる。
あいつ曰く「あんたなんかに家を知られたくない」だそうだ。
まあ、いいけどな。
「おう、またな〜」
「またね、七瀬さん」
………………
………………………………
「わたしはこっちなんだけど」
「あ、俺もそっちなんだ」
………………
………………………………
しかし、なんて言うか。
七瀬に広瀬、この2人が仲良くなるとはなぁ……
なんか最初に思ってたときと印象が違う。
歩いている道は川沿いだった。
案外、浅い川なんでガキのころ夏場に遊んだ記憶がある。
「ねえ」
少しの間の沈黙を破ったのは、広瀬だった。
「なんだ?」
歩いている道は川沿いだった。
案外、浅い川なんでガキのころ夏場に遊んだ記憶がある。
「勝負しない?」
そう言うと広瀬は、俺の答えも待たずに、川辺に下りていった。
広瀬が腕を振り上げて、手にした小石を放った。
びしゅっ……びしゅっ……びしゅ……びっ……びっ…びっ…びっ…び…び…びびび……
水面をすべるように跳ねて、消えた。
「へへ〜、どう17回跳ねたよ〜」
はじめて見る広瀬の笑顔だった。
広瀬がいう勝負は……『とび石』だった。
川に石を投げて、何回跳ねるかを競うゲームだ。
「おまえ上手いな〜」
俺もやったことがあるが、女の子ってこういう遊びしないと思ってた。
言いながら俺も小石を拾って、投げる。
びしゅっ……びしゅ……びっ……びっ…びっ…びっ……ぼちゃ
俺のほうは7回跳ねて……消えた。
「小さいころに兄さんに教えてもらったからね」
「……ふぅん」
「ところで……」
と、こっちの真顔に戻って、言ってくる。
「勝負に勝ったんだから、わたしの質問に答えてよね」
「はあ?」
なんなんだ?
良く考えてみれば、広瀬と七瀬は仲良くなったが、
俺って、広瀬にこんな風に気軽に話しかけられてたか?
「七瀬さんのこと……どう思ってる?」
予想外の質問だった、
いや、どんなのを予想していたのかは自分でも良くわかってないけど……
「どう…って?」
いや、それより何でそんなこと聞きたがるんだ?
「だって、なんとも思っていない人のために、あんなこと言えないでしょ?」
……あんなこと……
『いいかげんにしろっっ!!』
「あんな風に言ってくれる人がいるなんて……七瀬さん、うらやましいな」
俺自身、驚いていたんだ……あの言葉。
どうして言えたのか……
「あの言葉……うれしかったよ、ありがと」
にっこり笑って、広瀬はばいばいと手を振った。
俺は、ただ黙って、その顔を見ていることしかできなかった。
☆★☆★☆★
鍵をはずし、ゆっくりと家の扉を開ける。
「……ただいま」
誰もいない家に向かってそう答える。
そう……
誰もいない家に……
彼女を心配する人も、怒ってくれる人もいない家に……
☆★☆★☆★
広瀬FC『らぶり〜真希ちゃん』を設立しました。
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