アルバムの余白には……(前編) 投稿者: まてつや
今日は、娘といっしょに大掃除をしていた。
朝から動き詰で、いいかげん、腰が痛くなりはじめていたころ…
娘が、何かに見入っていて、掃除をサボっていることに気がついた。

「こら、何してるのよ」
わたしは娘のおでこを軽く小突く。
わたしは娘の見入っていたものを覗き見た。
「ああ、昔のアルバムだよ……。なつかしいなぁ」
そう言って、娘の手からアルバムを奪う。
「あ…、お母さん。まだ見てたのに…」
娘が非難の声をあげた。
わたしはそれを聞き流して、自分の思い出のアルバムに見入った。
「これはね…、母さんがお父さんと結婚する前のアルバムなんだよ」
「へえ……、これがお母さんで……こっちがお父さんかな?」
娘がとある写真をさして言う。
「やっぱり、親子だもん。お母さんとわたしって、似てるね」
「このころのわたしたちはねぇ……」
わたしはいつのまにか、思い出話に花を咲かせ、
娘に1つ1つの思い出を語っていた……。



「これが高校の時の卒業写真よ。ああ、みんな懐かしいな。佐織とか七瀬さんや里村さんどうしてるかなぁ……」
「あれ?お母さん、この写真……お父さんがいないんだけど……。2年生のときの写真はあるのに……お父さんが3年生の写真がないよ?」
「え……っと、お父さんはちょっとした理由で1年間、日本にいなかったんだよ」
さすがに、永遠の盟約が云々と説明する気にはならない。
「留学でもしてたんだね。お父さんかっこいい!」
「あはははは……」
否定するわけにもいかず、わたしはただ笑うしかなかった。



さらにページをめくる……、高校を卒業したわたしたちの写真は
明らかに2人きりの写真が多くなっていた。
「このころから、付き合ってたんだね」
改めて娘に言われると、少しだけ赤くなってしまった。
「あれ…?このページだけ写真が1枚も張ってないよ…。次のページからはちゃんとあるのに…?」
「ホントは1枚だけ張ってあったんだけど……、ちょっとした理由であえて余白にしてるのよ。そのページは……」
「え〜、どうしてぇ、どうして〜?知りたいなぁ、お母さぁん」
「そう…あれはね。はじめての……2人きりの旅行のとき……だったのよ」

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「はぁ…、浩平と2人きりで旅行なんて……夢みたいだよ」
「親に、友人のウチに泊る。なんて、ウソまでつくなんて……やーい、不良!」
「もう、行きたい。って言い出したのは浩平のほうじゃない!」
「俺と2人で、旅行するの嫌か?」
「え…、全然……嫌じゃない」(ぽっ)



そう、つきあって4年目の夏。
急に浩平が2人だけで温泉でも行こう。って言い出した。
「え……、こ……浩平!本気で言ってるの?」
「ああ」
「お金とかは…」
「バイトをずっとして、貯めてた」
「ずいぶん、急だよ」
「俺がそういうやつだってことは、ずっと前からわかってたことだろ」
その日の浩平の反応は、なんかすごくたんたんとしてたんだ……




「ふんぱつしたかいもあって、景色も部屋も最高だなぁ……」
「うわ……、浩平……ホントにお金、大丈夫?」
「夕食まで出かけようぜ、浴衣に着替えてさぁ……。お……この部屋、ゲタまで用意してあるぜ」
「わぁ……。わたし1度、ゲタをカランコロン鳴らして歩いてみたかったんだよね」



「おおお……、浴衣のおまえもかわいいぞ」
「えへ……、ありがと……浩平」
「写真にでも撮っておきたいけど……、おまえの親とかに内緒だもんな……撮らないほうがいいか……」




そろそろおなかも減ってきて、夕食の時間になった。
冷たいビールで乾杯して……
「せっかくだから、料理くらい写真に撮っておくか……」
「うわ、すごいね。カニ鍋だぁ……」

……………
……………………………
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「結婚しよう」
「へ……?」
浩平が急にそんなことを言い出した。
「それを言うために、旅行に誘ったの?」
「ああ、好きなんだ。おまえのことが……、だれよりもずっと」
わたしのほっぺたがあつくなってきたのは、酔ったせいだけではなかった。
「あ…わたし、お風呂……入ってくる……ね」
わたしは気が動転して、浩平を傷つけるようなことを言ってしまった……



わたしは浩平のことが好きだ。
それは自信をもって、誓える。
ずっといっしょに居たい。とも思っていたはずだ。
じゃあ、なぜ素直にYESと言えなかったんだろう?
胸の中は浩平への想いで、一杯で……今にもあふれて……パンクしそうなのに……
何がそんなに不安なんだろう?
ほっぺがだんだんあつくなってくるのは……のぼせただけではないはずだ……



その夜は……浩平と一言も口を聞かずに……眠った……


(つづく)

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あとがき
ども、12日ぶりのまてつやです。
あははは、ダメだ。感想どころか……読むペースさえ追いつかないぜ(汗)

とにかく、近いうちに続きを書きます。……では……