とあるの日の学校帰りのこと……
「……るみ、かわいいです」
わたしは、その言葉にびくりと反応した。
わたしの名前は、七瀬留美。
聞き間違えがなければ、わたしのことを『かわいい』と言ったはずだ。
そう言われて悪い気はしない……が、それも言われる人による。
わたしの聞き間違えでなければ、今の声は同じクラスの里村さんのもののはずだ。
「……茜、本当にあんなのがかわいいのか?」
今度は別の声、こちらも聞き覚えがあった、折原の声だ。
「『あんなの』、とは何よ!」
と言い返したかったが、里村さんの前に出たくなかったので、黙って聞いていることにした。
「……るみ、欲しいです」
ぞくぅぅうぅぅぅぅううううううううううう!!!!!!!!
わたしは恐ろしくなって、その場から急いで逃げ出した。
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次の日、いつものように学校。
「わたし……って、かわいいの?」
「は……? 七瀬さん、どうしたの?」
あまりにも馬鹿な質問を投げかけたせいで瑞佳はヘンな視線をわたしに返す。
「ごめん、いまの言ったこと忘れて……」
「う……うん」
はぁ……、昨日のあれを聞いてから、わたし少しヘンね。
おかげで夢にまで見ちゃったわよ。里村さんが迫ってくるのを……
重症かもしれないわ。
「よお、七瀬。元気ないな」
「どうせ、わたしは『あんなの』ですよ〜だっ!!」
「はぁ……? 何言ってるんだ、おまえ?」
ふん、しらばっくれても、駄目なんだから、このアホ!
……授業中。
人間、気にしないと思えば思うほど気になるもので
わたしは、ふと里村さんの方を見ていた。
視線が合う。
どきぃぃっ!
あれ、いまヘンな感じが……
何かようですか?
里村さんの瞳がそう語っていた。
べつに何も……
そう……
わたしはノートに視線を戻し、授業に集中しようとする。
『……るみ、欲しいです』
昨日の、里村さんの言葉が、頭から離れない。
ま、まさか。
まさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかまさかぁ
もしかしてもしかしてもしかしてもしかしてもしかしてぇぇぇ……
わたし…、里村さんのこと、意識している……!?
ウソ、わたしは乙女なのよ。
乙女は、同姓を好きになるはずないのよ。
そおいうのはレ○、っていうのよ。
ちがうちがう、わたしはそんなじゃない、ないったらない、わたしはわたしは……
その日の放課後……
「……こんなところに呼び出して、何のようですか?」
里村さんは怪訝そうにこちらを見返していた。
「……わたし、昨日の里村さんの言葉が気になって。正直、最初は驚いちゃったけど、今はあなたのキモチがすごくうれしくて……」
「……わたしの、キモチ……?」
里村さんは、さらに怪訝そうに眉を動かす。
「……里村さん! いいえ、茜! わたしもあなたのこと大好きよ!」
「……そんなこと、言った記憶はありません」
「は?」
「一応、わたしはノーマルですから」
「え…、だって昨日商店街で『るみ、かわいい』って……」
「あのぬいぐ『るみ、かわいい』って言ったんです」
ぴしぃぃぃぃぃいいいいいっ!!!
「七瀬さんが、そういう趣味を持っていたとは知りませんでした」
「え…、あ、その。じょ……、冗談よ冗談。あははははは……」
「浩平に、言うとおもしろそうですね」
茜が否な笑いを浮かべながら言う。
「あは……あは、あははは」(ひきつり)
「あのぬいぐるみが欲しいんですよね、わたし」
「あうううううううううううううううううううううううううううううううううう」
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「あれ、七瀬さん。制服ここのに代えたんだ」
「う、うん。さすがに前の学校の制服のまま、ってわけにもいかないしね、あは、あはは」
まさか、前の制服を住井経由で中崎に50万で売ったとはいえない。
(おひまい)