怪盗ミラクルルミ3! 投稿者: まてつや
「んあ〜、今日はホームルームの前に転校生の紹介をする柚木詩子くんだ」」
担任の髭の横に立っている転校生の女の子は、元気良く挨拶をする。
「みなさん、今日からよろしくお願いします」
「んあ〜、空いてる席は……そうだな七瀬の横に座ってくれ」
留美はその女の子に見覚えがあった。
「昨日のけがは、もういいわけ?」
「フッ、あの程度でわたしに勝ったと思っているの?」
やたら、偉そうな態度で言う詩子だが……完全に彼女の敗北だ……
というか、自爆であるのだが……
(はぁ……。なんだか先がおもいやられるわ……)
留美は深くため息を吐いた。



『待っているんです。……消えてしまった幼なじみを……』
あの人はこの場所で、わたしの目の前で消えました……
あなたにあの人のことを話すこともできます……
でも、覚えているのはわたしだけ……世界から忘れられてしまったのだから……
『あいつ……、傘持っていなかったから……』



浩平はそれ以上、彼女のつらそうな顔を見ていられなかった。
「俺じゃ……、ダメなのか?おまえの力になってやれないのか……」

ざぁぁぁああ…………

彼は茜を抱きしめた。
「……あなた自身も、『過酷』を背負っているのですね……」
(……えっ……!?)
『過酷』と言う単語に、反射的に茜から手を離す。
「大丈夫です……。痛みを知る度に……優しくなれる……はずだから……」
哀しい笑顔で茜はそう言った。

ざぁぁぁああ…………

「……俺は……、……俺は……、茜のことが……」
「……それでも、……わたしは消えてしまった彼を待ちます……」

ざぁぁぁああ…………

雨音が、2人の沈黙にからみつく……

ざぁぁぁああ…………

「……おまえは……、ふられたんだ……」
ぼそりと浩平、
だが、この雨の中そのつぶやきははたしてかのじょにとどいているのか。
「学校、遅れるぞ……」

ざぁぁぁああ…………

雨はまだ、やみそうになかった。




「おじゃましま〜す」
「あら、いらっしゃい。未悠ちゃん」
「こんにちは、晴香おばさん」
未悠は仕事の話をするために留美の家を訪ねていた。
「そういえば、おばさん。わたしが赤ちゃんの時に、目潰しをしたとかしないとか……」
「……うっ……」
かたまる晴香。
「郁未のヤツ……、言うな……って言ったのにぃ……」
「由依さんから、聞いたんですけど……」
「くぅぅ、あいつめ〜〜〜!」



留美の部屋。
(はぁぁ……。今日はなんだか折原の様子が変だったけど、何かあったのかなぁ……)
さっきからしゃべり続けている未悠の話もうわの空だった。
「ちょっとぉ、聞いてるの!留美!?」
「……聞いてない……」
「ねぇ……、留美。今日のあなた少しおかしいわよ」
そんな調子で……、いつもの数倍の時間をかけて……
『仕事』の話は、一応、終了した……。




『……あなた自身も、『過酷』を背負っているのですね……』
(俺の……過酷……)

……あるはずだ……

……みさお……みずか……

……『永遠』という名の過酷が……

……そして……それこそが浩平の背負っている過酷であり……
……茜にとっての過酷でもあるのだ……

……突然、世界から忘れられた茜の幼なじみ……

……彼らは……また同じことを繰り返すつもりなのか……





『……おまえは……、ふられたんだ……』
……1番聞きたくない言葉でありながら、1番聞きたい言葉だった……
幼なじみが帰ってくるのを信じていながらも
それを否定して欲しかった……
ずっと待っていたかったけれど……
本当は、待ちつづけることしかできない自分がイヤだった……
だれかに止めて欲しかった……

おまえのやっていたことは……全くの無駄……だと……
こんな抜け道のない日々を、解放してくれる存在を……
拒否していながら……待ち続けていたのだ……

……折原浩平を……


(わたしは……浩平のことが……)




『今夜、うさぴょんと言う名のぬいぐるみをいただきに参ります。怪盗ミラクルルミ』
「なにぃぃぃぃっっっっ!!!!!またもや予告状……!?」
連夜の予告状でさすがに驚く折原警部(よく降格されないものだ……)
これで、今夜も家へ帰れないだろう……




(今夜こそ……彼女を捕まえる……)
浩平は、また父親に内緒で1人隠れていた。
(彼女も『過酷』を背負っているはずなんだ……俺が、捕まえる……そして……)

ぎぃぃ……

扉を開ける音に……浩平の思考は中断された。
1つの影が……侵入してくる……
「これが例のぬいぐるみね」
折原は背後に回り込み……一気に飛びかかる……
「!?」
「……おとなしく……しろっ……」
「……くっ」
激しく彼女は抵抗するがやがてしめあげられ、
地面に覆い被さられる……
「さあ……今日こそ、おまえの正体を……」
その姿は……こうへいの知っている者だった……
「まさか、おまえはっ……!?」




(……浩平に会いたい……)
そう思ったら、いてもたってもいられなかった。
家を飛び出し……ミラクルルミが現れる場所へ急ぐ……
彼も……きっと、そこにいるから……



「久しぶりね」
そう言ったのは、茜のおば……葉子だった。
「ええ、本当に……」
もう1人の女性は総主(マスター)だった。
「ルミがあなたの後継者なのね……」
「ええ、そうよ」
「何を考えているの?郁未」
「あなたの後継者も……動きだしたようね……」



「おまえはっ……!?」
浩平は驚愕した……その女の子は自分のクラスメイトだったからだ。
「柚木詩子!?」
「……うう……」
ウルトラC子は今日も失敗していた……。
「ははは、お目当ての品はいただいてゆくわよ」
浩平がウルトラC子を追い詰めている間に……ルミは密かに行動していたのだ。
「くそ……、待て!」
しかし、すでにルミとの距離は大きすぎた……
(今日もC子のおかげで楽勝ね……)
そう思ったとき……突然、眼前に『力』が生まれていた……
「……!」
とっさにルミも『力』を放出する。

しゅぼぅぅん!!

互いの『力』が相殺しあって、霧散する……。
(……誰……なの……、わたしと同じ……過酷の力を使う者……!?)

そこにいたのはクラスメイトの里村茜だった……。
「あ……茜……」
浩平が呆然とつぶやく……
「浩平……ありがとうございます。あなたの言葉で、わたしは解放されました」
ルミはとりあえず、間合いを取る……
「今度は……わたしがあなたを救う番……」

どさっ!

そこまで言って、茜は倒れた。
(いきなり、あんな力をつかえば気絶くらいするわよ……)

「茜っ!」
浩平が茜に駆け寄る……
それを見たルミは少しだけ胸が痛んだ……
(な……なんでだろ……こんな気持ち……はじめて……)

しかし、長居をするわけにはいかなかった……
さっきの爆音に気づいて、折原警部たちはこっちに向かってくる……
ルミは急いで逃げ道を探した……
(C子はいつのまにか、1人だけ逃げていた……)




その夜、長森瑞佳はひさびさにぬいぐるみを抱いて寝た。
不思議な暖かさが、彼女の心を安らかにしてくれる……。



次の日の朝……、里村茜は浩平の席へ行き、
はっきりとこう言った……

「浩平。好きです。わたしとつきあってください」

茜の顔は真っ赤だった……




つづく

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あとがき
ついにここまで来ました……
第1回の時点で留美VS茜になるとは
作者以外に思っていた人は少ないんじゃないかな……
さてさて、最終回。
怪盗ミラクルルミ4!に乞ご期待!
……って、〜光と闇〜もクライマックスだったなぁ。

では、できるだけはやく、書けるのを祈りつつ……