異変  投稿者:炎のヒマ人


異変は、ある日突然起こった。
折原浩平がそれに気付いたのは、いつも通りの忙しい朝のことである。
浩平達と同じように学校に急いでいる七瀬を見かけて瑞佳がこう呟いた。
「七瀬さん、可愛い…」
うっとりとしてそう言ったのだ。
「学校に遅刻しかけてるってことは、朝が弱いんだよ。
 私が起こしてあげなくちゃ!
 だから浩平、明日からは一人で起きて学校に来てね」
「!?」
突然のことに呆然とする浩平。
「どうしたの? 早くしないと遅刻するよー」
わけが分からないまま学校へ向かう浩平であった…。

なんとか遅刻せずに教室へ入る浩平達。
教室では七瀬に繭が抱きついている。
「みゅー♪」
「ちょ…ちょっとお、どうしたの繭?」
いつもなら七瀬のお下げを引っ張ろうとするのに、抱きつくというのは前例がない。
浩平とその光景を見ていた瑞佳も、
「ずるぅい、繭。私もするもん!」
同じように七瀬に抱きつこうとする。
「みゅー♪」
「わーっ、七瀬さ〜ん♪」
「ちょっ、ちょっと瑞佳まで。折原! 助けて!」
浩平と同じように七瀬も訳が分からないらしい。
住井が声を掛けてくる。
「おい折原、一体何があったんだ?」
「俺が知るかっ」

髭が来てHRがはじまるので、瑞佳と繭は渋々七瀬から離れた。
席に着こうとする浩平と七瀬。
七瀬のイスには何か置いてある。
「ざぶとん? …七瀬、お前痔だったのか?」
「違うわっ! あほっ!」
「じゃあ何でこんなのが置いてあるんだ?」
「知らないわよ…」
とりあえず座る七瀬。
「わぁ、ふかふか」
機嫌は良さそうである。
ふと浩平が横を見ると、広瀬真希が嬉しそうに七瀬をみつめている。
広瀬を見続けていた浩平と目が合うと、キッとにらみつける。
「一体俺が何をしたんだ…?」
そう思わずにはいられない浩平であった。

昼休みまでの授業中、クラスの女子による七瀬に関する様々なイベントが行われた。
まずは「クラスの女子人気投票」
ダントツで七瀬が一位。というか七瀬しか票が入っていない。
次に「漢字テスト」
頼みもしないのに、模範解答が謎の女生徒から七瀬に送られてきた。
当然七瀬は満点で、先生の口からその名がよみあげられると同時に教室は女子による拍手喝采でわき上がった。
そして「制服オークション」
繭が着ている七瀬の制服が再びオークションにかけられた。
どんな高値で誰が買い取ったのかはもはや判らない。

そして昼休み。
「七瀬さーん、一緒にお弁当食べよう!」
「みゅー♪」
「浩平、席どいてね」
「ぐあ…」
あっさりと席を占領される浩平。
「折原…もうあたし何がなんだか…」
七瀬自身はこの状況に身を任せることにしたようだ。
七瀬のまわりではクラス中の女子が食事をしている。
その中には茜の姿も。
「茜、お前も七瀬のことが気になるのか?」
「…もちろんです。
 それから折原君、私のこと『茜』って呼んでもいいのは七瀬さんだけです」
「ぐあ…」

学食で昼食をとることにした浩平。
たまたまみさき先輩がいたので同席させてもらうことにする。
「浩平君、どうしたの、いつもの元気がないよ?」
「みさき先輩。どうもこうも…。
 クラスの七瀬って奴が急に人気者になって」
「七瀬さん!?」
カレーを食べるのを止めて、声をあげるみさき。
「七瀬さんがここにいるの!?」
「いや、ここにはいないけど」
浩平の返事にとてつもなく悲しい顔をする。
「ひどいよ…浩平君。嘘をつくなんて…」
「は!?」
「ひどいよ…七瀬さんがいないのにいるなんて言って…」
悲しげに立ち去っていくみさき。
「そんなこと言ってないぞ。せんぱーい! おーい!」
「…行っちゃった」
この後、浩平はみさきの残していった空の食器の後片付けをする羽目になる。

「一体何なんだ…」
教室に帰ろうとすると、窓越しに皆に囲まれて苦笑している七瀬を見つめている二人の人物がいた。
「あら、折原君」
『こんにちは』
「深山先輩に澪じゃないか。こんな所で何してるんですか?」
「折原君。私達、七瀬さんを演劇部にスカウトしようと思うの」
『勧誘するの』
「…はぁ」
「あの娘ならきっとスターになるわ」
『演劇の星なの』
「……」
「私が手とり足とりでコーチするの。そう…二人きりで。うふふ」
うっとりしてため息までついている。
『お姉様になってもらうの』
これまた嬉しそうにする澪。
「…そうですか…」

疲れ果てた浩平。
早退して家で寝ることにする。これは悪い夢だ。
自分の席の鞄を持って教室を出る。
あいかわらず七瀬は女生徒に異様に好かれている。
教室の外のギャラリーもいつの間にか増加している。
これから七瀬はどうなるのだろうか?
苦笑を続けている七瀬を横目に浩平は思った。

「女房思いのいい奴だった…」


家の前まで着いた浩平。
ドアに張り紙がしてある。

『浩平へ 七瀬さんを連れてくるまで、家に入れません  由起子』
「ぐあ…」

  完

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こんな出来ですが、読んでくれてありがとうございます〜。

はじめまして。炎のヒマ人と申すものです。

某電撃ギャルゲー雑誌に「七瀬は女の子に人気がある」と書かれてたので、
それからこの話を思い付き、書きました。
で、せっかくだから投稿することにしました。

どうして七瀬がこんなに好かれるようになったかは考えてません。
この後七瀬がどうなったかも考えてません。
貴方のご想像におまかせします。

それでは〜