Another story of ONE −澪編 投稿者: はなじろ
12月11日

 浩平「ほら、急いだ方がいいぞ」

 と、言っているそばからチャイムが校内に響く。

 澪「……」ふかぶかとお辞儀。

 そしてきびすを返すと、小さな体を精一杯のばして、手を振りながら階段を駆け下
 りていった。

 浩平「転ぶなよーっ!」
 澪「……」ぶんぶんとスケッチブックを振る。

 だいじょうぶ〜、と言うことらしい。

 澪の姿が見えなくなると同時に、チャイムが鳴り止む。

 浩平「オレも急がないと…」

 駆け出して、ふと足を止める。
 そして、階段の下を振り返る。
 もちろんすでに澪の姿はないのだが…。

 浩平「……って、何で居るーっ?!」

 はあはあっと息を切らしながらもにこにこ笑顔の澪が何故か戻って来ていた。

 『あのね』
 『ちょっと待ってね』

 澪はそう前置きをすると、スケッチブックになにやら一生懸命書き込み始めた。
 いや、待てってお前……。

 浩平「あのな、澪。分かってると思うけど、もう予鈴鳴ったんだからな。
    時間無いんだぞ?」

 澪はオレの忠告には全く耳を貸さずに、せっせとペンを進める。
 時々、「う〜ん」と考え込んだりするのがもどかしい。
 だから時間無いんだってば!

 浩平「ほら、澪!もう走らないと間に合わない時間だぞ!!」

 予鈴は授業の3分前に鳴るから、もう2分も無いだろう。
 それでも、澪は手を止めない。
 それどころか書くことに集中したいらしく、オレの声を聞こうとしていないみたい
 だ。
 
 浩平「あー!俺はもう行くぞ?いいな?」
 澪「……」…ふるふる。

 しびれを切らして宣言をして教室へ戻ろうとすると、やっとこちらに気を向けた澪
 がオレの上着の裾を掴んで離そうとしない。

 『待ってなの』

 だーっ!時間が無いの分かってるだろうに。
 ……こうなったら!

 浩平「貸してみろ!」

 途中まででも見てやれば満足するかもしれない。
 そう思い、澪から奪い取ったオレがそのページで目にしたのは、

  Alabama
  Alaska
  Arizona
  Arkansas
     ・
     ・
     ・

 英単語が20個弱ほど並んでいた。
 これは……。

 浩平「もしかして……これアメリカの州名か?」
 澪「……」うん、うん。 
 浩平「昨日、オレが言えって言ったからか?」
 澪「……」うん!

 一枚めくり、次のページに書き込む。

 『徹夜で全部憶えたの』 

 ……。

 浩平「努力は認めるけど、今は時間が無いの分かるだろ?
    頼むから、また今度にな?」
 澪「……」…えぐえぐ。

 『忘れちゃうの』

     ・
     ・
     ・

 結局、教室には20分遅れで帰った。

 ……。

 授業は小テストだった……。



2月6日

 そう約束した場所で…。
 澪は立っていた…。

 澪「……」

 冷たい雨にうたれながら…。

 浩平「澪っ!」

 駆け寄って、抱きしめるように澪の身体を抱く。
 そして、屋根のある場所に澪を連れていく。

 浩平「まったく、お前は…」
 澪「……」

 酷い目に遭ったっていうのに…。
 澪は、オレの顔を見て、にっこりと微笑んでいた。
 目の端に、涙を浮かべて…。

 浩平「…本当に…馬鹿だな…」
 澪「……」
 浩平「…オレの言葉なんか…真に受けるな…」
 澪「……」ふるふる…。
 浩平「まったく…そんなだから…」

 冷たくなった澪を抱きしめて…。
 オレは、それ以上の言葉が繋がらなかった…。

     ・
     ・
     ・
 
 浩平「ごめん……な」

 なんとかオレの気持ちを声に出す事ができたのは、二人ともそのままの格好でしば
 らく経ってからだった。
 今もオレの腕の中にある小さなこの体が、あの雨の中をオレの言葉を頑なに信じて
 待っていた事を考えると、申し訳無い気持ちといとおしさで胸がイッパイになる。

 浩平「ごめん」
 澪「……」ふるふる…。

 ゆっくりとオレの腕から離れて、澪はスケッチブックに何かを書き込む。
 そして澪は恥ずかしげに……顔を真っ赤にして……その言葉をオレに差し出した。
 その言葉は……。

 浩平「ごめん、澪」

 もう一度澪を抱きしめる。

 澪「……」…ぽっ。
 浩平「本当に、ごめん」

 抱きしめにはいられない。


 浩平「ごめん、澪……インクが滲んで全然読めない」

 澪「……」…えぐえぐ。



3月7日

 緑色のスケッチブック。
 間違いなく澪の物だった。

 浩平<…あいつ、ここで着替えたときにそのまま忘れていったな>

 苦笑しながらその側に近づく。
 スケッチブックの横には、澪のサインペンも一緒に転がっていた。

 浩平<…あいつのドジだけは絶対になおらないだろうな>

 何気なくスケッチブックの表示をめくる。

 『上月 澪』

 黒のサインペンで書かれた元気な文字。
 そのままページをめくる。

 『こうづき みお』

 懐かしい言葉。
 大切な思い出。
 それは、言葉を持たない少女の精一杯の言葉だった。
 澪の笑顔を思い浮かべながら、ページをめくる。
 やがて、最後のページ。
 何もか書かれていない真っ白のページ。

 浩平<……>

 オレは側に落ちていたサインペンのキャップを外した。
 そして、文字を並べる。
 今、オレが澪に送ることができる精一杯の言葉だ。

 浩平<……>

 ぱたんとスケッチブックを閉じて、そしてオレは部室を後にした。

 『さようなら、澪』

     ・
     ・
     ・

 が、オレはすぐに演劇部部室へと戻って来た。
 先ほどのスケッチブックを見ていて気になった事があったためだ。

 ぎっしりと書かれている中、時々、文字と文字の間に妙な空白があったり、何も書
 かれていないページがあった。
 ハッキリ言って浮いている。
 何か意味ありげなのだ。

 良く見てみると、何か書かれた址、力が加えられた址があるのが分かった。
 その址をじっくり見てみようと、顔を近づけると何かオレンジのような匂いがする。

 う〜ん、

  ・浮いているとしか思えない空白。
  ・何かが書かれた址。
  ・柑橘系の匂い。

 以上の事から考えられる結論は一つだ。

 俺はポケットの中からライターを出し、紙に火が着かない様に気を付けながら炙っ
 てみる。

     ・
     ・
     ・

 出てきたのは予想通り……悪い予想通り……。

 とても口に出せないような罵詈雑言だった……。

 ……。


 「えいえんはあるよ」


 「ここにあるよ」


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え〜、今回は見ての通り初めてギャグを書いてみました。

ツマラナイと言うクレームもOKなんですけど、問題はネタの被り。
オモイッキシありがちそうなネタなので、以前に同じ様なのを書かれている方がいらっ
しゃいましたら、面倒ですけどご連絡ください。
も、平身低頭謝らせて頂きますので!


では、毎度簡単ながらの感想です ―――

なお、次の作品は長期連載の途中と言うことで、またまたまた申し訳ありませんが、
今回は遠慮させていただきます。

・神凪さんの『アルテミス』
・ゾロGL91さんの『Juvenile K−10−』
・ひささんの『終わらない休日 第16話』
・PELSONAさんの『innocent world (仮)』
・Matsurugiさんの『おねめ〜わく たびたび… 続きの続きの続きで終り』
・ここにあるよ?さんの『ONE〜輝く季節へ〜始まり…その16』
・由代月さんの『佐織 vol.5』
・犬二号さんの『A棟巡回員の怠惰なる日常・6』

それと、

・WTTSさんの『個人宛て替え歌』&『二次創作応援歌』
・PELSONAさんの『茜』

の二作品に関しては、僕には感想もどきすら書けそうも無いので、素直に兜脱いじゃ
います。書けません。ごめんなさい。

また、最新の作品数編に関してはまだ未読ですので、次回に書かせていただきます。


以上、すみません:m(−−)m

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・高砂蓬介さんの『歌姫のティータイム 第一話』

 わぁ!オリジナルキャラが男性になるとは意外でした。

 内容は方はまだ導入部だけ見たいですので、ちょっとなんとも言えませんね。
 次回からを楽しみにしています。

 >しかし書いてて楽しいので万事おっけー。

 ええ。読んでいる方も楽しいので万全でしょう(^^;


・から丸さんの『人魚姫 第四話「魔剣」』

 今回はシリアスですか。
 全編にわたって緊迫感があって、ホント面白い。
 「早く次が読みたい!」って思わされます。

 ところで、前回、今回と「人魚姫」の影が薄いですね?(笑
 がんばれ!人魚姫・七瀬留美ー!!


・矢田洋さんの『ラブラブでいこう』

 長森の立場があんまり!
 みさき先輩も少しは恥じらいってモンを感じて欲しいし(^^;

 ところで、

 >それにただ単に『良かったです』『面白かったです』では意味が無いし

 僕はそれでも十分意味があると思いますし、このように書いています。
 それこそ「面白い」とか「スゴイ」ばかりですが、実際感じた書いているのですか
 ら「感想」としては間違っていないと思うのです。「批評」しているわけではない
 のですから。

 と、一応書いておきますと、こうやって書いているのも、この矢田さんの文に対す
 る「感想」ですからね……あくまで。


・寒河江直人さんの『ただひとりの同志』

 む、難しいですね。色々な解釈が出来そうです。
 僕はシンプルに受け取りましたけど、僕には理解できない所で深そうな感じ。
 面白いかどうかと言うのとは別の次元で、凄く印象に残りました。

 しかし、なあ……浩平もタイミングの悪い所で永遠の世界に行くよねえ(^^;


・幸せのおとしごさんの『何気ない一日』

 みさき先輩が可愛い〜、萌えます〜♪
 特に冒頭にシーンは是非ビジュアルとして見てみたいなーっ。

 綺麗な描写や比喩をされますね。
 是非見習いたい所ですけど……僕には無理だな(^^;


・はにゃまろさんの『ある雪の夜の物語』

 あ〜……今読み終わって、ドキドキしています。動悸がしますよー。
 瑞佳とすれ違うシーンからは一文一文、一単語一単語、一文字一文字、読み進める
 のが怖かった……。

 ONE本編では僅かながらも救いがあったのを、この状況設定にしてきっちりと書
 ききってしまわれるんですね。
 スゴイというのを通り越して畏怖の念をを感じます。

 これで、もう『ピーターパン』が素直に楽しめくなってしまったんじゃないかと心
 配(←僕自身がですよ)


・変身動物ポン太さんの『嫌いな・・・顔』

 七瀬が転校してきた当時の偽った自分が嫌いだったと言う解釈には、驚かされまし
 た。と、同時に「なるほどー!」。

 最後のシーン手前の「間」は流石と感心させられました。
 直接書かないで時間の経過を表しちゃうんですからねえ。上手いなあ。


・変身動物ポン太さんの『真夏の夜の・・・』

 僕も見事に騙されていました(^^;
 すっかり、ギャグホラーな展開(?)になるんだと思っていました。
 そういや前回も展開を読み違えたんですよね(爆

 深山部長がこんなに軽い性格だったんだとショックを受けながらも、目は澪の可愛
 さへ。悲鳴のくだりは、ホント良かったです。


・楓鳥 瑠留さんの『そして輝かなかった季節へ』

 >しかし、悲しき運命の歯車は回る。

 本編に入る前、この時点で笑ってしまいました(笑

 本編もアメリカの喜劇を思わすジェットコースターSS(?)
 いや、マジでこれはツボにハマリましたよ。

 >「めでたしじゃないよ〜、わたしのカレーどこ行ったのー」
 >流石コ○イチ

 絶対、1300g以上のタダ飯に違いない(^^;


・Kimさんの『永遠の中で … Visions』

 はぇ〜!永遠の世界に行った浩平の視点で、現実の世界と言うのは新しいですね!
 まだプロローグと思いますがいかがでしょう?

 今回単独の感想としては、随分とじっくりとしっかりと書かれるんだな、と言うの
 をなにより感じました。

 次回の投稿、楽しみに待ってます♪


・から丸さんの『人魚姫 第五話「鉄壁」』

 と、今度は全編アクションですか。
 う〜ん、スゴイ。
 ホント、良い意味で先が全く見えません〜。

 七瀬、カッコイイけど、これで良いんかな(^^;


・ヴラドさんの『三本立てなの』

 デビュー作でいきなり三本立てとは豪気ですね!

 >第一話 裁くの

 繭……強すぎ(笑

 >第二話 グレるの

 澪が凄く可愛いく描写されているのは良いんですけど、それ以上に1行目のインパ
 クトが巨大ですね。
 こんなにミスマッチな主語と述語の組み合わせ始めて見ましたよ(^^;

 >第三話 依存なの

 見事なアイデアです!笑えました。

 >そんではまた、機会がありましたらお邪魔させて頂きます

 はい!次の期待してます!


・Kimさんの『永遠の中で … Destiny』

 あ、このシリーズはずっとこの視点だったんですね。
 すっかり勘違いしておりました。

 なるほど〜。(茜シナリオで)浩平が帰ってきたのは、あの約束が契機だったんで
 すか。そうですね。そう考えると納得いきますね。

 次回、楽しみに待ってます。


・雀バル雀さんの『pain』

 相変わらず痛いの書きますね…雀バル雀さんのダーク系って『MOON.』的と言
 うか(なんだそりゃ?)、他人に転嫁できない痛みなんですよね。逃げようがない
 絶対の痛み。
 で、またその対象がそういう痛みの免疫が皆無っぽい瑞佳と言うのも……。

 あーもー、心にズキズキ来ますよぉう。

・雀バル雀さんの『さっか道 第弐話「カキすぎた男」』

 あなたはこのコーナーの作家さんを全員殺す気ですか!
 いや、まあ面白いんだけどさあ(^^;
 実際、殺し(笑)の手口のアイデアは素晴らしいですよ。

 ところでタイトルから別の事を想像してしまいましたけど、狙っていました?(笑


・高砂蓬介さんの『ゲー○ーズ』

 このページ久々の一発ギャグに爆笑したんですけど、タイトルから笑っちゃってた
 僕って……(^^;

 でも、あれって捨てられてるのかな?今日から探してみよう!(爆


・どんぐりさんの『今を奏でるピアノ エピロ−グ』

 う、うぐぅ……涙で目が曇ってディスプレイがぁ……。
 読んでいて、頭の中に『雨』が『A Tiar』が、そして『輝く季節へ』が自然
 と流れてきますよ〜(涙

 全部が全部スゴイと思うのですが、最後の13行はもう出来過ぎ。綺麗過ぎです。
 あと、「蛍の光」もきました〜。

 しかし、しまったー!ちゃんとした答辞を書かれてしまった!!(^^;


・本間ゆーじさんの『これもまた日常…になる?(3)』

 毎回思うのですが、とても読みやすいですよね。
 偉そうに言えるほど本間さんのSSを読んでいるわけじゃありませんけど(汗

 しかし、本当に一話目からは想像がつかない展開です。
 良い意味で裏切られていて、先が楽しみ楽しみ♪
 長くなりそうとのことですが、頑張ってくださいーっ!


・WTTSさんの『バカ女』

 わ〜い♪初めてWTTSさんにお返事的な感想が書ける!とか軽い気持ちで読みはじ
 めたら、まずタイトルでギャフン!(^^;
 内容で更に大ギャフン!まだ前編(?)だけですからなんとも言えないとも思うのです
 が、サラリと濃いこと書いてますねえ……凄い。特に、

 >我ながらこの発言内容はヒドいと思う。
 >七瀬のことを全く信用してないみたいじゃないの。

 この辺の文章には参りました〜!!
 楽しみにしていますので「続くかも」とか書かないで続き書いてくださいねーっ!


・シンさんの『口の聞けないカナリヤは…』

 >妙に大人びているのは人一倍苦労したからなの

 あはは(^^;
 でも、ホントの話し、心内では分かっているからこそ、表面的には幼いしぐさをし
 ているかもしれませんね。澪って精神的にはヒロイン中で一番強い印象あるし。

 最後のくだり、特に深山部長の台詞も良いのですが、

 >今度は私の方から話しかけた…

 僕はこの文章に感動を覚えました〜。


・まねき猫さんの『雨月物語〜浅茅が宿〜第四話』

 今回、印象に残ったのは何よりお菓子の薀蓄でしたね(^^;
 流石にお詳しい。面白かったです。

 お話はまだまだ続きますよね?
 頑張ってくださいーっ!


・楓鳥 瑠留さんの『折原VS七瀬 第一戦』

 す、スゴイ勢いがありますね……。
 1行目から。

 個人的には

 >ちゅるるるる〜ズズッ

 この擬音の使い方(タイミング)が素晴らしいな、と(笑
 

・高砂蓬介さんの『茜色の姉妹 第三章「共存 〜coexistence〜」』

 今回の紅は怖かった。

 久々に読んだ二章が妙に明るかったから忘れていましたけど、今回ので茜にとって
 紅は「敵」(と言って良いのかな?)だってことを思いだしましたよ。
 他作品とはちょっと毛色が違った感じだなとは思っていました(元々、高砂さん自
 身そう序章の後書きに書いておられましたね)がここまでとは……。

 次回も楽しみに待っています。

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最後に感謝の言葉を ―――

 前回でも今回でもこの様なSSを読んでくださった方、本当にありがとうございました!