帰宅 投稿者: はなじろ
「はい、長森です。もしもし?」

 うまい具合に瑞佳ちゃん本人が出てくれた。

「あ、あの……」

 それでも私はなかなか声を出すことが出来なかった。
 もし、「浩平」が私の妄想だったら?
 私は結果が出てしまうことが怖くなっていた。

「はい?」

「わ、たし、は……」



  それは、少し前の事。

  夕飯の支度をしていた私は突然に気づいた。
  一人分しか用意していない事に。
  本来なら二人分作らなければならないのに。

  その瞬間まで私は忘れていたのだ。
  同居しているはずの、甥の、その存在を忘れていた。

  衝撃だった。

  いったいどうしたら、たった一人の家族の事を忘れることが出来ると言うの?
  それも、全てを。

  混乱。

  もしかして私はオカシクなってしまったの?
  突然、妄想を作り上げて、それに振り回されるような人間になってしまったの?



「……もしかして、由起子さんですか?!」 

「え?」

 分かってくれた。それも声だけで分かってくれた。嬉しかった。
 瑞佳ちゃんが私の事を知っていると言うことは、浩平は実在したと言うことだ。
 嬉しい。

 でも、私は何が嬉しかったのだろう?

 浩平が実在したと言うことが?
 私の記憶が間違っていなかったと言うことが?

「お久しぶりです」

「え……ええ!ええ!!久しぶりね。瑞佳ちゃん。元気だったかしら?」

「はい。由起子さんは?」

「そうね。色々あったけど」
 
「そうですか」

「……」

「……」

 当然のように訪れる沈黙。
 私の方から用があって電話をしたのだ。私から話しを切り出さなければならない。
 しかし、いったい何をどう聞けばいいのか?

「今日は?……浩平のことですか?」

 驚いた。
 でも、考えてみたら当たり前の事かもしれない。
 彼女と私の繋がりはそれしかないのだから。



  浩平。

  私の、たった一人の家族。

  本当は引き取るつもりなど無かった。
  あの日、葬式会場で泣いている浩平を見るまでは。

  それまでは預かってはいてもあくまで一時的な事で、いずれは姉さんのもとへと帰
  るものだと信じていた。
  お義兄さんは居なくても、いずれはあの一家へ戻るものだと信じていた。

  お義兄さんと姉さんと浩平とみさお。
  仲の良い夫婦と仲の良い兄妹の四人家族。

  それは私の理想だった。
  仮面夫婦の両親の元で育ち、仕事に生きることしか出来ない私には羨望の的だった。
  同じ家庭に育ちながら、私には得られないモノを手に入れた姉さんには嫉妬すら感
  じていた。

  なのに……義兄さんが事故にあい、姉さんが変わり、みさおは入院して……。

  そして、あの日。みさおの葬式の日。
  私にも分かってしまった。
  姉さんがその場に来なかった事で、分かってしまった。

  もう、あの家族が揃う事は無いんだ、と。

  とても切なかった。

  ふと目を向けると、独りで泣きつづけてる浩平が居た。
  帰る所の無くなってしまった浩平。

  その浩平を見たときに私は思った。

  私は姉さんのような母親にはなれないだろうけど、せめて浩平が帰る「家族」ぐら
  いはなってやりたい。せめて浩平が帰る「家」ぐらいはつくってやりたい。

  思った。

  思ったはずなのに……。



「瑞佳ちゃんは……その……浩平のこと……」

「はい。ちゃんと覚えていますよ」

 え?

 覚えている?

 と言う事は……知っているはずだ。
 何を、かは分からないけど、彼女は何かを知っている。

「いったい、どう言う事なのかしらっ?浩平はどうなってしまったのっ?」

「……すみませんけど、私にもよくは分からないんです」

 慌てて詰問するような言い方になってしまった私に、瑞佳ちゃんは本当に申し訳な
 さそうな声で答えてくれた。

「そ、そう。じゃあ、知っている事だけでも良いの」

「はい。あれは……」

 瑞佳ちゃんは話してくれた。

 浩平に変化が訪れたのが一年ほど前だと言う事。
 徐々に縁の薄い者からその存在を否定し始めたと言う事。
 彼女も一時期忘れてしまっていた事。
 最後は彼女の目の前で消えていった事。

 そして、いつかは分からないが、いずれは帰ってくると言う事を。

 訳の分からない内容ではあったけど、何故かそれが嘘ではない事は理解出来た。
 それより、私が気になったのは……

「帰ってくる?浩平はちゃんと帰ってくるのね?」

「はい。浩平は必ず帰ってきますよ……約束、しましたから」

 最後の言葉はそれまでの彼女のそれとは違い、とても力強いものだった。



  パニック状態が収まった私がまずした事は、浩平が本当に居たはずだと言う事の
  確認だった。浩平が暮らしていた部屋へと急ぐ。
  だが、その部屋に人の住んでいる匂いは無い。

  ……思い出した……去年の……そう、丁度、今ごろの時期。
  全て捨ててしまったんだ。私が。

  ショックだった。

  私は彼から帰る家を奪ってしまっていたんだ……。



「……そう。約束したのね」

「……由起子さん?」

「……浩平は……」

「はい」

「浩平は元のここに帰ってきてくれるのかしら?
 私は……なにも約束をしてない」

 私は嫌な女だ。
 大切な家族の安否よりも先に、自分の状態や責任の心配ばかりしてしまう様な。 

 そんな私を浩平は……。

「由起子さんは浩平を信じられないんですか?」

 ?!

「わ、私にと……って……浩平、は、家族……なんだか……ら」

 今回の件で大きく膨れ上がっていた心の不安をズバリ指摘され、言葉が上手く出て
 こない。

 本当に浩平に取って私は家族たりえていたのだろうか?

 それは昔から、浩平を引き取った時からすっと抱えていた不安だった。

 そして、不安は不信となっていた。
 ……なっていた事を、今思い知らされた。

「大丈夫ですよ」

 瑞佳ちゃんの声はとても落ち着いていた。
 信じているのだろう、心から浩平のことを。
 何処とも知れないところへ行っている浩平が無事に帰ってくることを。

「大丈夫ですよ」

 もう一度繰り返される言葉。

 そう。本当は分かっていたはずだ。
 浩平の気持ちの事で無闇に私が悩んでも仕方が無い。
 私は私に出来る事をするしかない。

 私が浩平の家族として、今、出来ることは、ただ一つ……。

「ありがとう」

 私は、瑞佳ちゃんに感謝の気持ちを伝え、電話を切った。



     ・
     ・
     ・
     ・
     ・



「ただいま〜」

「おかえりなさい……遅かったわね」

 もしかしたら、涙が出てしまうんじゃないかと危惧していたけど、意外なほど平静
 に対処できた。

「腹減ったよ。由起子さん?なんかあるかな?」

「簡単なものならね。すぐに作ってあげられるわよ」

「お願い!」

 まるで、遊びに行って予定よりちょっと遅れて帰ってきたと言った様子。
 一年間も家をあけていたなどと言う気配を微塵も見せない。


 でも、それでいい。それが嬉しい。

 ここはあなたの家で、私はたった一人の家族なんだから。



 おかえりなさい、浩平。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

千夜「おいっ!こらーっ、だぉっ!!」

……。

千夜「物自体がどうしようもないのは……まあ、君の力量を考えれば仕方ないとして
   ……これは、ずいぶん前に書いたのの焼き直しだっ!
   今週に入って時間を作れるようになったから、SSも感想もバリバリ書きまく
   るって言ってたのは何だったんだぉ!」

……。

千夜「本当は、心底嫌だったのに……。
   あんたが泣いて「一生懸命やりますから、まじめにやりますから」なんて殊勝
   なことを言うからアシスタントやってやりゃあ……」

……。

千夜「って、聞いてんのかーっ!」

……あ……。

千夜「お、やっと気づいたのかぉ?
   大体あんたは人として基本的にだぁね……」

……加○が……。

千夜「はい?」

……○奈が呼んでる……。
……お兄ちゃん、寂しいよって……呼んでる……。

千夜「……ああ―っ?!
   ……この男またゲームのキャラに壊れてるぅ!
   ……しかも、タクティクスのキャラクターじゃないお……」

……ただいま、加○……。
……もう、大丈夫だよ……。

千夜「ディスプレイに向かって話し掛けてるし……」

……ウグ……つづく屋根〜が、み〜んな〜♪……ウウ……(涙)

千夜「き、気持ち悪いから、泣きながら挿入歌を歌うなぉう……」

……さあ、○奈。一緒に駄菓子を食べよう。そしてそれから水鉄砲で遊ぶんだ……。

千夜「へ?」

……お兄ちゃんはね、こう見えても本当は運動神経いいんだよ……。

千夜「そりゃ、また別のゲームだおっ!いい加減、目ぇ覚ませっ!!
   食らうおっ!タイガードライバー’91ぃぃぃっ!!!」

……はっ!
……え?千夜?何をしようと?……って、これまた三沢の?!
……や、やめろ……ぐぇっ!

千夜「これで少しは……あれ?」

……。

千夜「やり、過ぎちゃった……かな……?
   ……息……無いみたいだし……」

……。

千夜「え〜……と言うわけで、都合がいい事にこのバカが話せなくなっちゃいました
   ので、ちゃーちゃんがこのクダラナイ後書きをまともに締めさせてもらうぉ」

千夜「こちらで感想をくださった、
   どんぐりさん、雀バルさん、SOMOさん、ひささん、シンさん。
   遅れ馳せながら心から感謝いたします。ありがとうございました。

   ご挨拶を頂けた、吉田樹さん。
   こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

   そして、前回でも今回でもこの様な○○なSSを読んでくださった方。

   皆さん、本当にありがとうございました!」

千夜「近いうちに必ずはなじろ自身に感謝を、そして感想を書かせますので、
   今回はこれで許してやってください」

……次回……『ONE 〜加○やく季節へ〜』……。

千夜「蘇ってまで、そんな駄洒落が毎回言いたいものか……」