ピーターパン  投稿者:はにゃまろ


<登場人物>
ピーターパン:ちびこうへい
ティンカーベル:ちびみずか
フック船長:七瀬留美
ワニ(着ぐるみ):椎名繭

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<あらすじ>



『子供は誰でも、ただひとりをのぞいてみんな大人になります』



『世界でたった一人、永遠に大人にならない子供』



『終わることのない楽園、ネバーランドに住んでいる少年』



『その少年の名はピーターパンと言いました』





みなさんはネバーランドを知っていますか?
そう、あのネバーランドです。
ピーターパンのお話に出てくる子供たちだけのとびっきりの楽園。
とても有名な話なので、きっとどこかで聞いた事があるのではないかと思います。
では、ネバーランドがたくさんあるという事は知っていますか?
夜空の星よりもたくさんのネバーランドが、世界には存在しているって事を知っていますか?
ネバーランドは世界中の子供たちの数だけ存在しているのです。
・・・いえ、それだけではありませんね。
今、現在進行形で子供な子供たちと、ちょっと昔、けっこう昔、昔の昔のずっと昔にでも子供だったことがある、この世界のすべての人々の数だけネバーランドは存在するのです。
・・・でも、実はネバーランドは、この世界のどこにもないのです。
それじゃあ、ネバーランドはいったいどこにあるのでしょうか?



子供は誰でも心の中に一枚の地図を持っています。
その地図は一言で言ってしまえば、しっちゃかめっちゃかなワンダーランドといったようなものすごいものです。
そこには怪獣がいて、ヒーローがいて、空飛ぶ島があって、ちょっと気になるクラスメイトがいます。
切り立った崖の上にはあやしげなお城がそびえたち、湖の真ん中の島には海賊の財宝が眠っていて、昨日返ってきた32点のテストは一本杉の木の洞にこっそり隠してあります。
シールにプラモデルに透きとおったひらぺったい石。大きくなったら絶対なんとかになるんだ。
そんなタイムカプセルは川沿いの右から3番目の桜の木。30cm下でひっそりと夢を見ています。
もちろんお月さまにはうさぎがいますし、トイレの花子さんやサンタクロースや悪の大魔王や宇宙人や、その他もろもろのあやしくも魅力的な宝物がどっさりつまっている、そんな地図です。
子供たちの世界はその地図を中心に回っているのです。
しかし、子供たちが大きくなるにしたがってこの地図はしだいに小さくなっていきます。
そして最後にはくるくるくるっと丸められて、思い出と書かれたフダが貼られてどこか隅っこの方に立てかけられてしまいます。
でも、子供たちにとっては、その地図はどんなものとも交換できない大切な宝物なのです。
その地図の名前を、ネバーランドと言いました。
誰もが子供のころに必ず訪れる世界、それがネバーランドです。



ネバーランドはたいていの場合、夜に訪れます。
起きているときにもネバーランドの一部がふわっと浮びあがることはありますが、
ネバーランド全体を見ようと思ったら、それはやっぱり夜、夢の中で見るしかないのです。
だからネバーランドのことを覚えている子供はほとんどいません。
朝起きた時にはネバーランドの切れっぱしが所々に漂っているだけなのです。
ネバーランドは決して終わることはありません。
子供たちがこの世にいる限り、ネバーランドは存在するのです。
今の子供たちが大人になって、ネバーランドを心の片隅に追いやってしまっても、
その時にはもう、次の子供たちがネバーランドの地図を広げ、そこに夢を描き込んでいることでしょう。
だからネバーランドがなくなるなんて事はないのです。
ネバーランドはいつでも、いつまでも、そこにあります。



さて、もう何年前の事になりますが、あるところに一人の少年がいました。
それは、きっとどこにでもいる、やんちゃでわがままでいじっぱりで、
でも少しは優しいところもある、そんな少年でした。
普通の男の子のように、毎日が楽しくて、走りまわって、飛んで、跳ねて、はしゃいで、遊んで、
ちょっとは勉強もして、夢を見て、生きていました。
しかし、その少年はとても悲しい事を三度体験しました。
最初の悲しみは少年の心を揺さ振りました。
ニ度目の悲しみは少年を打ちのめし、少年はもう二度と悲しいことが起こらない世界を願いました。
でも、三度目の悲しみが訪れて・・・
少年は自分のネバーランドをなくしてしまいました。
彼の地図は真っ白になってしまったのです。
そして少年は、この世界から彼の空っぽのネバーランドに向かって真っ逆さまに落ちていきました。
その少年がこのおはなしの主人公ピーターパンです。



ピーターパンは今でもネバーランドにいます。
ティンカーベルはネバーランドの妖精。
知ってますか?
妖精はホントの世界にはどこにもいないんですよ。
フック船長とワニは、彼が招いた友達です。
でも彼らは夢を見ているだけ。
夢から覚めたら夢を忘れてしまう存在です。
そこは彼が創ったネバーランド。
真っ白な地図に少年が描いた夢の欠片。
でも、なくした欠片が多すぎて、
望んだ世界と遥かに遠い、いつまでたっても創りかけの
ピーターパンのネバーランド。



「ぼくは思いっきり走るのが好きだ。なんだか、生きてるって感じがするだろ!」

「知らないのか?。ピーターパンは永遠に子供のままなんだ。大人になんかならないんだぞ」

「さみしいってなんだっけ?。そんなの、もう忘れちゃったよ」

「ずっとずっと昔に、忘れちゃったよ」



ネバーランドではないネバーランドのはなし
ピーターパンになれないピーターパンのはなし
明日をなくした少年のはなし

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・・・

・・・ゆ

・・・繭、繭

あ、・・・おはよう、繭・・・

もう・・・お昼よ。一緒にご飯食べよう、ねっ繭

繭、繭っ

・・・繭

また、寝ちゃった・・・

・・・ねえ、どうして?

繭は、この世界が嫌い?

夢の中にはお母さんやみゅーがいるの?

繭・・・

でもね、繭

夢には終わりがあるの

夢から覚めたら、そこには必ず明日がやってくるのよ・・・

ねえ、繭・・・



≪第7話 ワニの家出(前編)≫



夜です。
ネバーランドにも夜はやってきます。
空にはまんまるのお月さま。
それと一面にちりばめられた満天の星々。
それぞれがキラキラと輝いて、このネバーランドの夜を照らしています。
太陽とは違って少し冷たいような、でも、なんだかやさしい光たちです。
そんな光の下で、今頃はピーターパンも夢の中にいるに違いありません。
ちなみにここは、ネバーランドの真ん中の辺りです。
そこにはすんごく大きな木がそびえたっていて、その内部にピーターパンの秘密の隠れ家があるのです。
ここを作ったピーターパン本人がベリーグッドな出来だと言っているくらいですから、かなりそれなりに立派な出来だと言えることでしょう。
窓や扉が丸見えだったりしているので、あんまり秘密にはなっていないようですけどね。
ガサゴソ、ガサゴソ
おや?、なにやら怪しい人影が・・・
コンコンコン
「みゅーー、あーそーぼ」
どうやらワニ(着ぐるみ)が遊びにきたようです。
コンコンコン
「なにーーー」
どたん、ばたん、ずどん
ずがっ
「ぐうぅー」
なんだかびっくりしているみたいです。
しばらくたって、木の幹に取り付けられた扉がぎぎぃーとちょっとだけ開きました。
扉の隙間からくりくりっとした目が辺りの様子をうかがっています。
「みゅ?」
ワニは不思議そうに辺りをこっそりうかがっている(つもりの)人物の目を覗きこみました。
「ぬぬう」
なんだかぱちくりとまばたきしてます。
ワニがそーっとその目ん玉をつっつこうとしたその時、残念な事に扉は開いてしまいました。
「ふー、やっぱりワニかあ」
扉の中ではピーターパンがなんだかよくわかりませんが安心しています。
「みゅー!、こんばんわ」
ワニは元気よくあいさつしました。
「いや、待てよお」
「みゅ?」
何を警戒しているのかわかりませんが、ピーターパンはワニの回りをぐるぐるとまわりながらワニを観察しました。
「うーむ」
ぐるぐるぐると観察しています。
ワニも一緒にぐるぐるぐるしました。
「うーむ、うーむ」
「みゅみゅ?」
ぐるぐるぐるぐると観察しています。
ワニもさらにぐるぐるぐるぐるしました。
「うーむ、うーむ、うーむ」
「みゅみゅみゅ?」
ぐるぐるぐるぐるぐると・・・くどいのでカットします。



あんまりぐるぐるしすぎてワニの目が回りかけてきた頃、ピーターパンはいきなりピタリとストップしました。
足元が少しふらついているように見えるのはきっと気のせいでしょう。
「うーむ、このままではらちがあかん。ここはやっぱりあれだな」
「ほえ?、ぐるぐるはもういいの?」
ピーターパンがストップしたのを見て、ワニがぐるぐるするのを止めたその時!!
「ワニよおーーー」
「みゅっ!」
いきなりピーターパンはワニにガシィと抱き付こうとしました。
セクハラです!
が、ワニの野生の感によってスカッとかわされてしまいました。
「うぉっ・・・ワニっ、なんでよけるんだ!」
「みゅ〜、だってぇ・・・びっくりした」
ワニびっくりです。
「おまえー、さてはにせものだな!」
ピーターパンは真犯人を見つけたときの探偵のようにズバアッとワニを指差しました。
「・・・ほんものだもぅん。わにーわにー」
ワニは身振り手振りつきでわにーと鳴きました。
きっとそれが本物の証拠なのでしょう。
「うそだあ。ほんもののワニはぼくとすっごくかたい友情で結ばれてるんだぞ。ぼくが、『ワニよおーーー』ってこう両手を広げるとだな、ワニの方も『みゅうーーー』って・・・・・・なあ、ワニって『みゅう』って鳴くのか?」
「みゅ?・・・わにー?」
「・・・まあいいや、『みゅうーーー』って両手を広げてだな、そんでもって、だっだっだっだっだ、
ガシィィとかたく抱き合って夕陽が海に沈んでゆくんだ。それほどかたい友情で結ばれているんだぞ。
殴り合ったりしないぶん走れメロスも真っ青だな。わかったか?」
「うん、わかった」
本当にわかったかどうかは別ですが、ワニは素直にうなずきました。
「おおっ、わかってくれたかあ。んじゃ、リテイクだ」
「うんっ」
ピーターパンはがばあと両手を広げました。
「ワニよおーーー」
「みゅうーーー」
そしてピーターパンとワニはガシィとお互いの友情を確かめ合ったのでした。
残念ながら夕陽は海に沈んでいきませんでしたけど。
なぜって今は夜ですし、おまけにこの近くには海がないのです。
本当に残念ですね。
まあ、ともかく二人はガシィと抱き合ったわけです。
「むむ、このふわふわの手触り、抱きしめた時のぼよよんとした感触、しかも背中にはファスナーが付いているではないか・・・さてはほんもののワニ(着ぐるみ)だな!!」
「ほえ?」
ピーターパンは探偵が密室殺人事件のトリックをあばいたときのようにズババアッとワニを指差しました。
「いやー、よかったよかった。うん、よかったぞお。ってなわけで、わるいんだけどもちょこっとそこで待っててくれ」
「みゅ?・・・・・・うん」
でもワニがうなずくよりも前に、ピーターパンは後ろの階段をずだだだーと駆けのぼっていってしまいました。
「うみゅー・・・」
ワニちょっと寂しいです。



「あっ、こーへー、大丈夫だった?」
「ばかっ、ワニだったじゃないか」
「えーーー、なあんだ、ワニだったんだあ。よかったよかっただね」
ポカッ
「よかったよかったじゃないだろっ。まったくお化けなんているわけないではないか。無責任なこと言うなよなあ」
「うー、だって時間が時間だしー。それにワニはちょっと前に帰ったばっかりなんだよ。そのワニ、ほんもののワニだった?」
「うん、あの手触りはたしかに本革だった。ぼよよんとしてたし、ファスナーもあったぞ」
「うーん、どうしたのかなあ。いつもならもう起きてる時間なのに・・・」
「そんなのワニに聞いてみればいいだろ。まあだいたい予想はつくけどな」
「どんなの?」
「ずばりっ、おしっこだ!!」
「へ?」
「おしっこがしたくなって起きたんだよ。んで、無事し終わったんで帰ってきたって寸法だな」
「そーかなあ。なんかちがう気がする」
「ほらあ、よくあるだろ。こう真夜中にぶるぶるっと目が覚めてだな、うーむ、これはどうしたのかなあ・・・うん?、こ、これは・・・おおっ、もしかしするともしかして、ぼくはおしっこがしたいのかもしれん!!。そんでもって、たったったとトイレにいってしょわしょわしょわ〜っとな、なかなか気分がいいんだよなあ」
「・・・よくわかんないんだけど」
「なにい、おまえにはこの男のロマンがわからんのか」
「はあ、そんなのわかるわけないよ。きっとワニにもわかんないと思うよ」
「なぜっ?」
「なぜって言われても・・・困るよお」
「どうしてっ!」
「うー、どうしてって言われてもお」
「おまえはそう思う事はないと言うのかあ!!」
「・・・・・・そ、そんなことより今はワニだよ。うん、あんまり待たせちゃわるいもんね」
「うん?、そう言えばそうだな」
「うんっ、今はワニだよ」
「よし、それじゃあワニのもとへゴーだ。でも、この事については後でしっかりじじょーちょうしゅするからな」
「はう〜」



ワニが玄関の辺りの破壊活動に飽きた頃、ピーターパンがティンカーベルを従えてずだだだだあと階段を駆け下りてきました。
「みゅーー」
「よっ、ワニー。待ったか?」
「んーん、今きたところ・・・」
「そうかあ、それはよかったぞ。遅れちゃったんじゃないかと心配してたんだ。まあ、遠慮せず中へ上がれよ」
「うん」
「・・・はぁ」
ちょっとへんてこな会話ですがティンカーベルはもう慣れっこなのでいちいちつっこみません。
それよりも目の前の惨状かなり気になっているようです。
少し寂しいですね。



「ねえ、ワニ。ひとついいかな?」
やっとこさ辺りを片付け終えたティンカーベルが、ピーターパンとぎゅーせんめくりをしていたワニに尋ねました。
ちなみにぎゅーせんと言うのは牛乳ビンのふたのことです。
現在の成績はピーターパンが11枚、ワニが9枚となっていますので、結構いい勝負をしていると言えますね。
まあそれは置いといて、ワニはティンカーベルに聞き返しました。
「なあに?」
「あの・・・ワニ、さっき帰ったばっかりだよね。えっと・・・どうしたのかな?」
「みゅっ・・・うー、えっと、えっと・・・」
ティンカーベルの問いにワニはなぜかどぎまぎしています。
「やっぱりなあ」
ピーターパンが勝ち誇った顔ですっごく嬉しそうに言いました。
「ワニぃっ、おしっこだろ!!」
「みゅーーっ、ちっがう」
ビシィとワニチョップが炸裂しました。
どうやらさっきの会話、ワニに聞こえていたようです。
「あたぁ、ち、違うのかあ」
ピーターパンはもう心底、意外な顔をしました。
「くう、それじゃあいったいどうしたと言うんだ?」
「みゅぅ・・・・」
ピーターパンにそう聞かれて、ワニはうつむいてしまいました。
「ワニ、なにかあったの?」
心配性のティンカーベルはおろおろしています。
「ワ、ワニ、もしかして・・・」
ピーターパンが身を乗り出しました。
「おっきい方だったんだな!!」
「みゅーーーーっ」 「ピーターパンっっ」
バキッ      ビシッ
「ぐはぁあ」
ピーターパンの眉間と後頭部に、まるでマグネットパワーのプラスとマイナスのように同時にチョップが決まり見事なエックスの字をえがきました。
「ぐおぉぉぉ、ダ、ダブルできたか、ダブルで・・・」
「もうっ、デリカシーがないよっ」
「ちっがうもん!」
「ぐぅぅ、ティンカーベル覚えてろよ。この借りは必ず返すからなあ」
自業自得なくせにピーターパンはしっかりと復讐を誓ったのでした。
「むー、じごうじとくだよ。人が心配してるときにすぐちゃかすんだからあ」
ティンカーベルはぷくっとふくれました。
まあ、さっきのはさすがにデリカシーがなさすぎでしたからしょうがありませんね。
「くそー、ワニ本当に違うのか?」
「ちがう」
「うーーむ、それじゃあ・・・」
「みゅっ、下ネタ禁止っ」
なんということでしょう。
ワニがピシッとピーターパンを指差して・・・
禁止してしまいました。
「なにーーーーーっ、基本なんだぞお」
「みゅう、きらい」
「なんてことだあぁー、ふ、封じらてしまった。くっそーー」
「禁止!!」
ガスッ
ワニがピーターパンの下ネタにたいして厳しいつっこみを炸裂させました。
「ぐあああっ」
「ふわっ、ワニやりすぎだよ」
「うううー、い、今のは違うだろお、今のは。なんだか今日のワニ、つっこみが厳しいぞお」
どうやらつっこみがかなり厳しかったみたいでピーターパンは涙目になっています。
「みゅっ、ごめん」
「ぐぅぅ、ひどいぞ。すねちゃうからなあ」
ピーターパンはすねてしまいました。
「ピーターパンだいじょうぶ?」
「みゅう、ごめん・・・・・・」
さすがにやりすぎたと思ったのでしょう。
ワニはピーターパンの頭部のつっこみをいれたあたりをなでなでしました。
なでなでなで
「なんだよお、そんなんでごまかされたりしないからな」
なでなでなで
「いたいのいたいの、とんでけ・・・」
なでなでなで
「おい、ワニー」
「みゅう、ごめんね。もうすぐいたいのとんでくから・・・」
なでなでなで
「も、もういいよワニ。まあ、その、今日のところは許してやるよ。・・・別にごまかされたわけじゃないからな」
ピーターパンは簡単にごまかされてしまいました。
単純ですね。
なでなでなで
「ワ、ワニ、もういいってば」
「・・・いたいのとんでった?」
「おう、もう痛くないからだいじょうぶだ」
「うわあ、すごいよお。ピーターパン、ホントに痛くなくなったの?」
「ん?・・・ああ、痛くなくなったぞ。すごいなワニ」
「うん・・・おかあさんに教えてもらった・・・」
そういってワニは窓の外に見える星空を見つめました。
「そうかあ・・・おかあさんか・・・」
「ワニのおかあさん、やさしかったんだね」
「うん・・・」
そのとき窓の外を流れ星がひとすじだけ、すうっと流れました。
ピーターパンはなんだか急に辺りが冷え込んだような気がして、ちょっとだけ震えました。
「そうかあ・・・・・・・・・」
「みゅう、だいじょーぶ?」
ワニがおずおずとピーターパンにたずねました。
「なんだよワニ、もう痛くないって言っただろ。だいじょうぶだぞお」
「・・・おこってない?」
「ばか、わざとじゃないんだからそんなのにいつもでもおこってるわけないだろ」
「うん・・・ごめんね」
「まああれだな。それじゃあどーしてもワニの気がすまないって言うんだったら、さっきの禁止をなしにしてくれるだけでいいぞ」
「みゅーーー、でも禁止」
それでもやっぱり禁止でした。
残念なことです。
「ところで、今日はホントにどうしたんだワニ?」
「うん、ワニいつもならもう起きてる時間なんじゃないかな?」
「うーーー・・・あのね・・・」
「ああーっ、今度こそわかったぞ!!」
ピーターパンがまたもや叫びました。
シャキンッ
反射的にティンカーベルとワニはつっこみの構えをとります。
「ばかっ、二人ともなんのつもりだ」
「べつに気にしなくっていいよ。ちょっと準備しただけだから」
「みゅっ、スタンバイしただけ」
「・・・ぼくが信用できないっていうのか!!」
「こればっかりはちょっと・・・ねえワニ」
「うん」
「がーーーん」
ピーターパン大ショックです。
「ががーーーん」
本当にショックです。
「ががががーーーん」
「しつこいっ」
ペチッ
ワニが今度は威力を加減してピーターパンのおでこにペチッとつっこみました。
「うう、二人ともなんて薄情なんだ。熱い絆で結ばれていると信じてたのに・・・」
「そんなこと言われても、ちょっと信じられないよお」
「うん、信用できない」
「ぐう、裏切られてしまった」
ピーターパンは見事に信用されませんでした。
これも日頃の行いのおかげですね。
「それで、ピーターパンはなにがわかったの?」
つっこみ体勢を維持しつつティンカーベルが尋ねました。
「ああ、あれだな、あれ。きっと、にちよーびってやつなんじゃないかな。学校に行かなくってもいいから、もうちょっと寝てられるんだよなワニ」
「・・・」
「ワニ、そうなの?」
「・・・うん」
ワニはこくりとうなずきました。
「やっぱりなあ、ぼくは最初っからそうじゃないかと思っていたんだ」
予想が的中したのでピーターパンは得意満面です。
「うそばっかしだよ」
「なにー、ホントだぞお。最初のはあれだ。軽いジョークってやつだな」
「うそだよー。あれはぜったい本気で言ってたもん。ね、ワニ」
「みゅう、本気だった」
「ばかあ、演技に決まってるだろ。どうやらまんまと引っ掛かったようだな明智くん。ふっはっはっはっは」
「ワニ、あったかい牛乳のむ?」
「みゅ、飲みたい・・・」
ピーターパンは見事に無視されてしまいました
それからティンカーベルとワニは、ピーターパンがむなしくなるまで、暖かい眼差しでふっはっはと笑っているピーターパンを見守っていました。
ひどいですね。



そんなこんなでだいぶ夜も深けてきました。
「ふわあぁ、ちょっとねむいぞ」
ピーターパンが眠たそうに大アクビをしました。
しかたがありませんね、いつもならもうとっくに寝ている時間です。
「うにゅ、わたしもふわぁだよお・・・ねえ、ワニはまだ帰らなくていいの?」
ピーターパンのアクビがうつったのかティンカーベルも眠そうに目をこすりながらワニに尋ねました。
「みゅ?、もう少しここにいる・・・」
どうやらワニはもっと遊びたいようです。
「うーーん。ワニー、わるいけどぼくたちはもう寝る時間なんだ。って言うかはっきり言ってねむいぞ」
「どうして?」
「どうしてって・・・やっぱり夜はあそぶ時間じゃなくて寝る時間だろ。ここには時計ってのはないんだけどさ、やっぱり朝は朝で夜は夜じゃなきゃだめなんだ」
「みゅー・・・」
「おひさまがのぼるころに起きて、お月さまがのぼるころには寝るって決めたんだ。それがなくなっちゃったら、きっといつかは朝も昼も夜も、全部がごっちゃになって時間がわからなくなっちゃうと思うんだよ。ワニにはわからないと思うんだけど、それってすっごく怖いことなんだぞ。ホントに、本当に怖いことなんだ。だから、ワニにはわるいんだけどぼくたちはもう寝るよ」
そう言ったピーターパンの顔はやはりどこか寂しそうでした。
「ごめんな、ワニ」
「ごめんね、ワニ」
ピーターパンは少しきまり悪そうに、ティンカーベルは申し訳なさそうにしてワニに謝りました。
「うー・・・」
ワニはなんだか考え込んでしまいました。
「ワニ、別にもうあそべないわけじゃないんだぞ」
「そうだよワニ、またあしたあそぼうよ。ね、あしたもあさってもそのつぎもそのつぎも、ずっとずっとあるんだから」
「・・・一緒に寝る」
「へ?」
「みゅー、お泊まりするぅ」
ピーターパンはぎぎぎいとティンカーベルのほうを見ました。
そーいうことを今まで考えた事がなかったのか、ほへ〜ってな感じの顔をしてます。
ピーターパンはワニのほうを向き直すと、ポンっとワニの両肩に手を置き真剣な顔でワニを見つめました。
「ワニ・・・ひとつだけ、いいか?」
「・・・・・・うん」
「ワニ、あのな」
「うん・・・」
「おねしょするなよ」
「・・・・・」
「泊まってってもいいけど、おねしょしちゃだめだぞお」
「・・・・・・・・・」
ワニはぎぎぎぎいとティンカーベルのほうを見ました。
こくってうなずいています。
ワニもこくってうなずきかえしました。
「あのな、実はうちにはベッドがひとつしかないのだ。だから夜中にぶるぶるっと来てもぜったいに油断しちゃだめだぞ。もしもしょわしょわしょわ〜っとおねしょをされてしまうとすっごく困ったことになってしまってだな・・・」
バキッ      ビシッ



「ううーーーー、ひどいぞお」
ピーターパンが頭を抱えてうずくまっています。
「まったくもう、ホントにデリカシーがないよお」
「みゅうっ、禁止したのに・・・」
「ぐうー、さっきより痛いぞお、うぅぅぅ」
でも今度のは自業自得なのでワニもピーターパンのことをほったらかしです。
あんまし調子に乗らせたくなかったのでティンカーベルもピーターパンのことをほかっておくことにしました。
「ううーー、ずきずきするじゃないか、ばかあ」
ちょっと可哀想ですけどほかっておくことにしましょう。
「ねえワニ、本当に帰らないの?」
「みゅー、お泊まりする」
「それじゃあ今日はいっしょに寝ようね」
「うんっ」
「うちのベッド、ふっかふかですっごく気持ちいいんだよ」
「うわ〜、たのしみ」
「あっ、そのままの格好じゃ寝れないよね。後でピーターパンにパジャマを出してもらおうよ」
「うんっ」
「きっと、ワニパジャマだあって言うのを出してくれるよ」
「みゅう、わに〜」
「ワニ、お風呂もいっしょに入ろうね」
「うんっ、いっしょに入る」
「うちのお風呂、そんなにおっきくはないんだけど色々あるからきっと楽しいよ」
「たのしみ〜」
「うわー、なんだかわくわくするよお。ワニ、新しいことってなんだかわくわくするよね」
「みゅ〜、わくわくするぅ」
「いっしょに寝ようね」
「うんっ、いっしょ」
「あのね、ワニ・・・」
「うんっ・・・」
「それから、それからね・・・」
「みゅー、すっごーい・・・」
まあ、こんなかんじでネバーランドの夜は深けていったのでした。
「ううー、まだじんじんするぞお・・・」

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どもどもども、はにゃまろですー。
ピーターパンの第7話ですう。
はあ、ニヶ月近く間をあけてしまいました。
いろいろあったんですよお。
結果だけ言うと・・・
ソフトの出荷が遅れちゃいました。
やばいですねえ。
別にうちはゲーム会社じゃないんだけど、それでも発売日が延びるのはまずいよなあ。
ってな訳です。
それで二ヶ月も経ってしまったんであらすじを書いたのですが・・・
あんましあらすじになってないですね。
って言うか、なんだかこれじゃあ予告みたい・・・
でも、自分的にはなんかこのあらすじみたいな書き方が好きだったりします。
しかしまあ、こんなに飛び飛び連載だと伏線の意味がなくなっちゃいますね。
ちょっと考えないと・・・
やっぱり連載ものには向いてないのかなあ。
ところで、実はこのSSでは繭は小学5年生です。
そんで、浩平よりちょっと年上な設定のはず。
あんましお姉さんしてないですけど・・・
しかし、話が進まないことおびただしいです。
うーん、なんでどつき漫才になっちゃったのかなあ?
なんか書いてるうちにどんどん予定からずれてくんで困ってしまいます。
このままじゃ前中後編で終わらないかも・・・
完結編ってやったらまずいかなあ。
この次に書こうと思ってたクリスマスの話・・・時期はずれで書けなくなっちゃうなあ。
やっぱり向いてないかもと切実に思ってしまうはにゃまろでした。
では〜