ピーターパン 投稿者: はにゃまろ
『子供は誰でも、ただひとりをのぞいてみんな大人になります』



『世界でたった一人、永遠に大人にならない子供』



『終わることのない楽園、ネバーランドに住んでいる少年』



『その少年の名はピーターパンと言いました』





「おーい、なにやってんだよ。もっと速く走らないと置いてっちゃうぞ」

「あーん、まってよー」

「ほら、そんなにもたもたしてたら日が暮れちゃうだろ」

「もう、そんなにいそがなくてもだいじょうぶだよお」

「あしたもあさってもそのつぎも、ずっとずっとあそんでいられるんだから・・・」



子供は誰でも心の中に地図を持っています。
その地図は一言で言ってしまえば、しっちゃかめっちゃかなワンダーランドといったようなものすごいものです。
そこには怪獣がいて、ヒーローがいて、空飛ぶ島があって、ちょっと気になるクラスメイトがいます。
あやしげなお城がそびえたち、昨日返ってきた32点のテストがこっそり隠してあって、もちろんお月さまにはうさぎがいますし、トイレの花子さんやサンタクロースや悪の大魔王や宇宙人や、その他もろもろのあやしくも魅力的な宝物がどっさりつまっている、そんな地図です。
子供たちの世界はその地図を中心に回っているのです。
しかし、子供たちが大きくなるにしたがってこの地図はしだいに小さくなっていきます。
そして最後にはくるくるくるっと丸められて、思い出と書かれたフダが貼られてどこか隅っこの方に立てかけられてしまうのです。
でも子供たちにとっては、その地図はどんなものとも交換できない大切な宝物なのでした。
その地図の名前を、ネバーランドと言いました。
そう、あのネバーランドです。
ネバーランドは子供が誰でも持っている心の地図なのです。
その地図はどんなに乱暴に扱っても決して破れることはありませんし、PTAや担任の先生がやっきになって、特製洗濯機の汚れ物モードで洗ったとしても色あせることはありません。
でも、この世界にはたった一つだけその地図を真っ白な白紙に戻してしまうものがありました。
さて、あるところに一人の少年がいました。
その少年はとても悲しい事を三度体験しました。
最初の悲しみは少年の心を揺さ振りました。
ニ度目の悲しみは少年を打ちのめし、少年はもう二度と悲しいことが起こらない世界を願いました。
そして、三度目の悲しみ・・・
少年の地図は真っ白に染まりました。
そしてその少年は、この世界から彼の空っぽのネバーランドに向かって真っ逆さまに落ちていったのです。
その少年がこのおはなしの主人公ピーターパンです。



ネバーランドへ行こうよ。

そこは大人たちが忘れてしまった子供たちだけのとびっきりの楽園なんだ。

そこは楽しいことでいっぱいだよ。

いつまでも遊んでいられるんだ。

さあ、君もネバーランドへ行こうよ。



≪第1話 ピーターパン、フック船長と対決する≫

ここはネバーランド。
この物語の主人公、ピーターパンが住んでいる終わることのない永遠の楽園です。
ピーターパンは毎日、ネバーランドで楽しく遊んで暮らしていました。
今日もピーターパンはなにか面白いことを見つけたようです。
「ティンカーベル、先程捕獲したフック船長の様子はどうだ!」
ピーターパンはティンカーベルに話しかけました。
ティンカーベルはネバーランドに住んでいる妖精です。
ピーターパンの大切なパートナーなのです。
「すっごく元気だよ。最初はあんまりフック船長らしくなかったんだけど、事情を説明したらばっちりフック船長っぽくなったよ」
「そうか、やはりぼくの目に狂いはなかっただろ。一目見たときから、奴はフック船長に違いないと感じていたんだ」
「こーへーの言ったとおりだったね」
ピシッ
ティンカーベルはデコピンをくらいました。
「ばかっ、何度言ったらわかるんだ。ぼくはピーターパン、おまえはティンカーベルだ。今度間違えたらほんとにひどいからな」
「うう、そうだったよ。ごめんね、こーへー。次からは気を付けるよ」
ポカッ
一発かますとピーターパンは走り出しました。
「ティンカーベルっ、フック船長のところに行くぞ!」
「ううー、痛いよ〜。あっ、こーへー待ってよー」



ピーターパンとティンカーベルはフック船長のところにやって来ました。
フック船長はでっかいオリの中に閉じ込められています。
なんだかすごく怒っているみたいです。
「こらーーーっ、早くこっから出しなさいよ!」
「まあまあ、落ちつきたまえ」
ピーターパンは偉そうにフック船長に話しかけました。
「あんたたちわかってるの?。これはゆーかいよ、誘拐。誘拐はすっごく罪が重いんだから。ただじゃすまないわよ」
ピーターパンはフック船長の言葉を無視して続けました。
「よろこびたまへ、君はわがネバーランドのフック船長に選ばれたのだよ。このピーターパンの宿敵だぞ。全国のフック船長ファンの羨望の的ではないか」
「なんで私がフック船長なのよ!。フック船長っていったら男じゃないの。ウェンディ、ウェンディでしょ、ふつー」
なかなか贅沢なフック船長です。
「何を言っているんだい?。君ほどフック船長にふさわしい人間は他にいないではないか。さあ、ぼくに渋い中年の魅了を見せてくれい」
「・・・」
フック船長の顔がピクピクッと引きつりました。
もちろんピーターパンはそんなこと気にしません。
「まあ大人しくフックライフを満喫してくれたまへよ」
「・・・ふふふ、そうね、フック船長もいいかもしれないわ。わかったからここから出してくれないかなあ」
どうやらフック船長は観念したようです。
「よしよし。さあ、ティンカーベルよ。フック船長を野に解き放つのだあ」
「あいあいさー」
ピーターパンの命令に従ってティンカーベルはオリの閂を外しました。
ぎぎぎぎーーー
オリが不気味な音とともに開かれます。
「れでぃーごー!」
同時にピーターパンはくらうちんぐすたーとで猛ダッシュです。
「うふふふ、ピーターパーン待ってよー。そんなに急がなくてもダイジョーブ。ほら、一緒に遊びましょお」
フック船長もその口調とは裏腹に物凄い勢いでピーターパンを追いかけます。
「くおおおーーー。ど、どうしたフック、その程度の足じゃぼくには追いつけないぞ」
「そっちこそどうしたの、ピーターパン?、声が震えてるわよ。それが限界なのかしら。それともこのフック船長が怖いの?。所詮はガキね、おーほっほっほっほっほ」
フック船長が予想外の脚力を見せたためピーターパンは焦り気味です。
「ティンカーベルっ、ティンカーーベルっ!、なんとかしろーーーっ」
「・・・こーーーへーーー・・・まってよーーーー・・・」
どうやらティンカーベルは足が遅いようです。
「ええーい、役立たずめえ」
「ピーターパン、逃げてばかりじゃだめよ。ヒーローらしくフック船長と対決してみせて。全国のピーターパンファンが決着を待ち望んでいるわよ」
余裕を見せながらフック船長は着実にピーターパンとの差を縮めていきます。
とうとうピーターパンはフック船長に追い詰められてしまいました。
「ふふふ、さっきの勢いはどうしたのかしら?。やっぱり、悪ガキにはお仕置き必要よね。覚悟してもらうわ、ピーターパン」
「くっ・・・」
ピーターパン絶体絶命の大ピンチです。
「まずはかるーく二三発、お尻を叩かせてもらおうかしら。かるーくね、かるーく。お仕置きって言ったらやっぱりそれよね」
「・・・くっくっく」
どうしたことでしょう、絶体絶命のはずのピーターパンが笑っています。
「まんまと引っかかったな、フック船長」
「えっ?」
「フック船長、君の体力が予想外にずば抜けていた事は素直に認めよう。だが!、このぼくがフック船長との闘いに何も準備しなかったと思っているのか」
「・・・それは、どういうことかしら?」
フック船長は戸惑いを隠しきれない様子で尋ねました。
「フック船長の弱点はなんだか知ってるか」
「・・・ワニ?・・・って、いるのっ!?」
形勢逆転です。フック船長は驚愕しました。
「かもーーん、ワニ!」
ぱっちーん
ピーターパンの指ぱっちんを合図に近くの茂みが不気味な音をたてます。
がさ、がさがさがさ
「う、うそ、冗談でしょ、マジ?。ちょっとあんた、ほんとに洒落になんないわよ。殺人は誘拐より罪が重いのよ。ねえ、ねえってば!」
フック船長、絶体絶命の大ピンチですっ。
がさ、がさ、がさあっ
「きゃああああっ」
「みゅー、わにーーー」
茂みから飛び出したワニがフック船長に襲いかかりました。
「はえ?って、ぎゃあああああああああ」
「フック船長やぶれたりい」
「ぎゃあああああああすっ、なんなのよーーー」
フック船長はワニ(着ぐるみ)に襲われています。ピーターパンの輝かしい勝利です。
「みゅう、みゅっ、みゅうううう」
「ぎゃあ、ぎゃっ、ぎゃああああ」
ワニ(着ぐるみ)の容赦ない攻撃にフック船長はもうノックダウン寸前です。
「ふっはっはっはっはーーー、恐れ入ったかー。所詮はやられ役、主役には決して勝てないのだ!」
「みゅーーーーーーーーーー」
「ふっはっはっはっはーーー」
「いーーーーーかげんにしなさああああいっ!!」
ついにフック船長は大爆発してしまいました。
どうやら本当に怒ったようです。
「みゅっ」
「ふはっ」
ピーターパンとワニ(着ぐるみ)はその場に固まってしまいました。
「あんたらっ!!」
フック船長はビシィッと一人と一匹を指差しました。
「いったいなんなのっ!?」
物凄い剣幕です。
「ピーターパンだぞっ」
「みゅっ?、わに♪」
「・・・で、本当は?」
今度はとっても冷たい声です。
ピーターパンとワニ(着ぐるみ)は少しぞっとしました。
「なんだよお、ぼくは本当にピーターパンなんだぞ」
「うー、わにだもぅん」
ギロッ
フック船長はガンを飛ばしました。
「みゅっ!! 繭」
「ピーターパンだあ」
「そお、繭ちゃんね。いい、人の髪の毛はずうぇったいに引っ張っちゃダメなの。わかるわよね?」
フック船長は優しくそう言いました。
「うー・・・うん」
ワニは素直にうなずきました。もしかしたらフック船長が怖かったのかもしれません。
「・・・で、あんたは」
「ううー、ほんとのほんとなんだ。ぼくはピーターパンなんだからなあ」
フック船長の視線がピーターパンに突き刺さります。
「だって、ピーターパンなんだもぅん」
ピーターパンはセリフをぱくって対抗しました。
「・・・はぁ、もういいわ。ねえ、いったい何がしたかったの?」
フック船長は少し疲れた顔をしてピーターパンに尋ねました。
「・・・」
ピーターパンは俯いてもじもじしています。
「言えないの?、まあいいわ。・・・繭ちゃんは何がしたかったのかな?」
「ピーターパンが一緒に遊ぼうって・・・」
「一緒に遊びたかったの?」
「・・・うん」
ワニは小さくうなずきました。
「はぁぁ、あんたもそうなの?」
フック船長はだいぶ疲れた顔をしてピーターパンに尋ねました。
「・・・・・・うん」
「あのね、あんなことしなくてもちゃんと訳を説明すれば、ちょっとぐらいなら付き合ってあげてもいいのよ。一緒に遊ぶんだったらその相手をいやな気分にさせちゃだめでしょ」
「でも、あの方法だとスリル満点で・・・」
フック船長が目から冷凍光線を発しました。
「ぐぅ、ごめんなさい」
ピーターパンの敗北です。
「いい、二度とあんなまねするんじゃないわよ。次はないと思った方が身のためよ」
フック船長はかなりマジでした。
「・・・わかった、もう二度としないよ。お姉ちゃん、さよなら・・・」
ちょっといじけ気味です。
「え、さよならって・・・あのね、別にもう付き合わないってわけじゃ・・・」
「ワニよお、次のフック船長が見つかるまでがまんしてくれるか。大丈夫、次のはもっとソフトなのにするよ。それまでは他のことして遊ぼうな」
「みゅー・・・」
ピーターパンはワニ(着ぐるみ)と肩を組んでその場に腰をおろしました。
なぜか、夕日が海に沈んでゆきます。
「・・・てりやきばーがー」
「うん、わかるよ。悲しいのって、お腹すいてるのと似てるよな」
二人の背中には哀愁が漂っています。
「だーーーっ、鬱陶しい。付き合ってもいいって言ってるでしょっ」
フック船長が吠えました。
「でも、嫌がる人を無理矢理ってよくないよな」
「みゅう、お姉ちゃんさよなら・・・」
「ちょっとお、これじゃあまるで私が悪者みたいじゃないの」
うーん、フック船長はどっちかというと悪役の方ですね。
「じゃあ、これからもフック船長やってくれる?」
ピーターパンは反撃に出ました。
「うっ・・・ウェンディじゃだめかな?」
「お姉ちゃん・・・フック船長がいないとワニの出番がないんだ」
「みゅー・・・」
ピーターパンとワニは寂しげにうつむきました。
「ええーい、いいわよ、フックでもなんでもやってやるわよ。あんたら覚悟しなさいよ」
「やったー!、よかったなワニー」
「みゅうううっ」
ガシィ
ピーターパンとワニはガシィと抱き合ってお互いの友情を確認しました。
「うう、悪い夢を見てるみたいだわ」
フック船長は頭を抱えています。
がんばってください、フック船長。
きっと、世界中のフック船長ファンがあなたの活躍を期待しているにちがいありません。
大丈夫、明日という日は明るい日です。
きっといつか報われる日がくることでしょう。
ガシィと抱き合う一人と一匹を呆然と見つめるフック船長の背後では、先程の夕日が静かに海に沈んでいくのでした。
その頃、ティンカーベルはと言いますと、
「・・・こーーーへーーー・・・あっ、違ったよお。ピーターパーーーン、まってよーーー・・・」
と、これがピーターパンの日常です。
まあ、こんな風にピーターパンは毎日遊んで過ごしていました。



「七瀬さん、おはよー」
「ふあ、おはよー、瑞佳」
「七瀬さん、大丈夫?。なんだか寝不足みたいだけど」
「うん、最近ちょっと夢見が悪くて」
「夢?」
「よく覚えてないんだけど、妙な夢ばかり見てるみたいなのよ」
「なんだか大変そうだね」
「はぁぁぁ」


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ども〜、はにゃまろです。
さて、ピーターパンとウェンディの感動物語です。
あれ?、おかしいな。
当初の予定ではシリアス短編になるはずだったのに・・・。
ウェンディ出てきてないぞ、どうしてかなあ。
作者の疑問をよそにピーターパンは続いてしまうのでした。
本当に大丈夫かなあ。
ちゃんちゃん