永遠紀行 5 投稿者: はにゃまろ
<第5話> 望んだ世界
夕陽に赤く染まる海。
果てしない水平線の向こうに陽は落ちていく。
それは神秘的で心の奥底を揺さぶる光景だった。
でも・・・。
(きれいな夕焼けだね)
(ぼくには、そうは思えないよ)
(どうして?。私はすごくきれいだと思うよ)
(あれは切りぬかれた景色だ)
(それだときれいじゃないの?)
(あの夕陽は沈まない。いつまでも夕陽のままなんだ)
(だって・・・それを望んだのは、きみだよ)
(そう、ぼくはずっと変わらない世界を望んだんだ。・・・夜が訪れないことを望んでいた)
(ここは望みどおりなんだよ)
いつまで待ってもその夕陽が沈むことはない。
だから、朝が訪れることもないんだ。


気が付くと私は空き地で佇んでいた。
降りしきる雨の中、立ち尽くしていた。
ぬくもりが消えていくのを、ただ呆然と感じていた。
かすれた声でつぶやいてみる。
「約束・・・ですよ」
もう、独り。
この世界で独りだった。
傘をよけて空を見る。
灰色の空。
雨が生まれる場所。
浩平は、あそこへ行ったのでしょうか。
そして、私も。
・・・
・・・傘?。
「あっかねっ!」
私は急に掛けられた声に、驚いて振り返った。
「詩子!」
詩子が、どうしてここに・・・。
「懐かしいね、茜。昔はよくこの空き地で遊んだよね」
私はその言葉に強い既視感を感じた。
「ほらっ、茜。雨も止んできたし、そろそろ行こっか」
それはどこかで聞いた言葉。
「・・・詩子、私の事がわかるんですか?」
「やだなあ、茜。とーぜんでしょ」
「そう、ですか」
詩子の記憶、戻ったんでしょうか?。
でも・・・。
「そんなことより早く行こうよ」
感じる違和感。
「どこへ・・・ですか?」
「茜、忘れちゃったの?。司のところに決まってるじゃない」


流れる雲を見ていた。
世界の果てに向かい流れる雲。
でも、どこまで流れても、あの雲がたどり着く場所はないんだ。
それは永遠に繰り返すだけの存在。
進んでいるようで進んでいない。
メビウスの輪だ。
あるいは回転木馬。
ここは、リフレインを続ける世界。
(ここはずっと続いていくのかい?)
(ずっとずっと続くんだよ)
(永遠に、続くんだね)
(そうだよ。たとえ向こうの世界が終わってもここは終わらないよ)
(でもそんなに長い間ここにいたら、きっと退屈しちゃうと思うな)
(そうなったら眠ればいいんだよ)
(眠る?)
(そして夢を見るんだよ)
(夢・・・)
(永遠の夢、だよ)
でも、ぼくは夢なんか見ていられないんだ。
帰らなきゃ。
もう、彼女を待たせちゃいけない。


「それは、誰のことですか」
私は震える声で尋ねた。
「茜、ほんとに忘れちゃったの?。よくこの空き地で遊んだじゃないの。いつも三人一緒でさ」
詩子の顔が少し曇る。
「城島司、私達の幼馴染です・・・ね」
それは、今の私には痛い名前。
「よかったあ。もし茜が忘れてたらどうしようかと思ってたのよ」
「私は、私はずっと覚えていました。忘れたのは・・・」
詩子・・・あなたですよ。
「さあ行こうよ、茜」
詩子が私の手を引く。
「詩子。司が・・・帰ってきたんですか?」
だから、詩子の記憶が戻った?。
「もう、茜なに言ってるの。来たのは茜の方でしょ」
・・・私。
「司のところに、行きたかったんだよね」
私は唐突に理解した。
この傘はあの時の傘。
司に渡してあげたかった・・・傘。
私はもう、消えていたんだ。
「ほら、早く行こうよ茜」
詩子が私の手を引く。
懐かしかった。
これから一緒に司を呼びに行くんだ。
そして、いつものように三人で。
いつものように・・・。
「さあ行こ」
でも、だめ。
もうだめなんです。
私はもう、彼のところには行けない。
「・・・誰?」
「えっ」
「あなたは・・・誰なんですか?。どうして、詩子を装うんですか?」
「・・・私、誰に見えるかな?」
「詩子に、見えます」
「じゃあ、私も詩子なんだよ。私はあの時の詩子。ずっと待ってたんだから」
あの時の・・・詩子?
「どうして・・・」
「んー、なんでかな?。私にもよくわかんないの」
「そう、なんですか・・・」
「茜、早く司のところに行こうよ」
「・・・だめなんです。私は、帰らなければならないんです」
「えー、どうしてー」
「約束があるんです」
浩平との約束。
「必ず帰ってくるって・・・約束しました」
だから、行けない。
「うーん、そうなんだ。それじゃあしょうがないよね」
「ずっと、待っていてくれたのに・・・ごめんなさい。でも、私はもう彼の元へは行けないんです」
会ったら、もう帰れないから。
私はそんなに強くない・・・。
「でも困っちゃったね。どうすればいいかな?。ねえ、茜はどうしたいの」
「私は・・・浩平の所に、帰りたいです」
「よーし、じゃあその人も一緒につれて行こっか!。それならいいよねっ、茜」


誰か、大事な人が消えてしまった。
だけど、ぼくにはそれがわからなかったんだ。
思い出は空白だった。
あるのは冷たい空洞だけで、なんにも残ってなかったんだ。
ただ、ただ悲しかった。
わけもわからず悲しくて、涙が止まらなくて・・・そこから逃げたかった。
(ぼくは悲しかったんだ)
(うん)
(あんな悲しい事が起きる世界に絶望していた)
(知ってるよ)
(だから、この世界を求めたんだ)
(それも、知ってる)
(あれはよくある事なのかい? )
(どうなのかな?。よくわからないよ)
(誰も覚えていないんなんて、悲しすぎるよ)
なにも覚えていないなんて・・・悲しすぎる。
(そうだね)
(だってそんなに簡単に消えてしまうなんて、それじゃあその人の存在はいったいなんだったんだ)
そして、ぼくの存在はなんだったんだ。
(その人が残したものはなんだったんだよ)
なんだったんだよ、ぼくに残ったものは。
ぼくが・・・残したものは。
(たぶん、その子も・・・悲しかったんだよ)
(でも、それは悲しみを増やすだけじゃないか)
(・・・)
(悲しみが悲しみを生んで、そしてまた悲しみを生んで・・・。そんなの哀しすぎるよ)
(・・・しかたがない事なんだよ)
それでも、哀しすぎるよ。
(ひとつ、聞いてもいいかな?)
(うん、いいよ)
(この世界に来ないですむ方法はあったのかな?)
(・・・どうしてそんな事を聞くの)
(君はぼくの記憶から消えてしまった人を、知っているのかい?)
(・・・知らないよ。私が知っているのはきみの事だけだよ)
(その人は何が悲しかったんだろう)
(私にはわからないよ)
(ぼくはね、何かに成りたかったんだ。一生懸命努力して少しでもその何かに近付こうとしていたんだ。
たぶん、その人のために)
(がんばったんだね)
(うん。・・・でも、だめだったんだ。ぼくは、それにとどかなかった)
(私は、がんばった事が大切だと思うよ)
(ぼくじゃその人の悲しみを癒せなかったのかな?。ぼくがもっともっとがんばっていれば、
その人は消えなかったかもしれない。あの世界に繋ぎ止めておく事ができたかもしれない。
ぼくは自分のためではなくて、その人のためにがんばっていたと思うんだ。
だから、もしもそれが可能なんだとしたら、ぼくのその人への想いが
それだけのものだったのかと、悔しいんだ)
(それは、今のきみのことを言っているの?)
(・・・そうだね、今のぼくにも当てはまるかもしれない。ぼくは今度もとどかなかったのかな)
(たぶん・・・いくらがんばっても無理だったと思うよ)
少し哀しそうな顔をしてつぶやいた。
(だって、それはもう始まっていたんだから)
(そうなんだ・・・)
でも、それが無理だったとしても、待つ事はできるんだ。
今度は覚えているから。
彼女のすべてを、そして、約束を。
もう、決して忘れない。
(ぼくはここから帰らなきゃいけない)
(ここから帰るの? 。ここでは、つらい事や悲しい事はないんだよ)
(ごめん、ぼくにはもう、この世界は必要なかったんだ)
(向こうではいやなことがいっぱいあるんだよ。それでも帰るの?)
(ぼくはもう、なにもわからずに泣いていたあの時のぼくとは違うんだ。
長いときがたったんだ。いろいろな人と出会って、いろいろな日々に生きたんだ。
ぼくはあれから強くなったし、泣いてばかりじゃなくなった。
そして、大切な人ができた。なによりも大切な、かけがえのない人が。
ぼくは、もう彼女を待たせたくない)
(ここはずっとずっと続くんだよ)
(この世界がぼくが望んだ世界なら、ぼくが望めばこの世界は終わるんじゃないかい?)
(そう・・・だよ)
(ぼくはここから帰るよ。さようなら、みずか)
(・・・でもそれは、始まりでしかないんだよ)
そして、世界が暗転した。

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詩子「おっそーい」
ちびみずか「おそすぎだよ」
はにゃまろ「うう、ずびません。久しぶりすぎです。マジ忙しかったもんで。まあ言い訳は置いといて」
詩子「書くのが遅いだけなのに、いさぎよくないね」
ちびみずか「他の書いてたくせにー」
はにゃまろ「と言うわけでおかりなの正体は詩子でしたあ」
詩子「やっほー」
はにゃまろ「うそです」
詩子「えー、なんでー」
はにゃまろ「ちびみずかでしたあ」
ちびみずか「わーい」
はにゃまろ「うそです」
ちびみずか「ぶーー」
はにゃまろ「うーん、このネタもう誰も覚えてないだろうね。今回まだ登場してないし」
ちびみずか「間、あきすぎだよ」
詩子「一週間に一本書くって言ってたくせにー」
はにゃまろ「いやあ、ここ一ヶ月以上、由起子さんを超える生活が続いてるんだ。
程好いタイミングで販売しだしたコンビニの栄養ドリンクが嫌いだー。
でも、おかげさまでやっと由起子さんな日常に戻ることができそうだよ。
ははは、おかしいな。うれしいのに涙がでるなんて」
ちびみずか「きっと、うれし涙だよ」
詩子「にくいね、この幸せ者」
はにゃまろ「人間ってほんとに強いよね」
詩子「じゃあ、もう2時間ぐらい睡眠減らしても大丈夫だね」
ちびみずか「わー、それだけあればすぐに続き書けるね」
はにゃまろ「死ぬわーーー。死んでしまうー」
詩子「がんばってねー」
ちびみずか「がんばれー」
はにゃまろ「うう、他人事だと思ってからにー。感想下さった方々、付き合ってくれてるみなさん、
本当にありがとうございます。どうにも遅い話ですが、がんばってます」
詩子「死んじゃったら書けないから、半死にぐらいでいいんじゃないかな?」
ちびみずか「ほどよく死なないとだめだよ」
はにゃまろ「が、がんばってほどよく死にます。それではぁー」