永遠紀行 4 投稿者: はにゃまろ
<第4話>追憶、そして・・・
その箱には幸せが詰まっていた。
いつ覗いても平凡で変わり映えがせず、でも、ささやかな喜びや悲しみで満たされていた。
それが、いつのまにか空っぽになっていたんだ。
底にこびり付いた思い出だけが鮮明で、悲しかった。
もう、空っぽの箱。
俺達の日常。


学校、俺達の日常を綴った場所。いままで気付かなかった、胸に悲しみを秘めたクラスメイト。
学校、私達の日常を綴った場所。私は人との関わりを避け、心を閉ざしていた。
『よお』
『・・・何かようですか?』
『今朝の事が、気になってな』
『・・・どうして』
『嫌なら嫌で構わないけど・・・』
『・・・嫌です』
『そうか・・・』
『・・・』
『分かった、それならもうこの話はしない』
『・・・』
『でも、折角だから一緒に飯でも食うか?』
『・・・嫌です』

「茜、これからデートしないか?」
「・・・デート。これから、ですか?」
「おう、これからだ」
「・・・はい」

中庭、二人で食べた昼食。俺は茜の事が知りたかった。
中庭、二人で食べた昼食。寒さの中、頑なに避けていた。でも・・・嫌じゃなかった。
『今日は特に寒いよな』
『・・・』
『雪になるかもな』
『・・・』
『里村、なんでこんな場所で食べてるんだ?』
『誰もいないところで食べたかったからです』
『なるほど、確かにこの季節なら普通は誰もこないな』
『・・・普通は』
『悪かったな・・・』
『・・・はい』
『なあ・・・』
『・・・はい』
『どうしてあんな場所にいたんだ・・・?』
『好きなんです、あの場所が』
『その割には悲しそうだったな』
『・・・』
俺は知りたかった。

『昼休み、もう終わりか・・・』
『・・・』
『またここで食べるのか?』
『・・・はい』
『だったら、俺もまたつきあうかな』
『・・・』
『いいだろ?』
『・・・』
嫌・・・じゃなかった。

「昼食・・・ジャムパン半分だけなんですか?」
「うっ、すまん、それしかなかったんだ。ジャムパン嫌いか?」
「そんな事、ないです」
「こうして中庭で食べるのも久しぶりだな」
「そう・・・ですね」
「なんかここで食べると、いつもよりうまく感じるよな」
「・・・はい」
「茜、おいしいか?」
「・・・はい、10点です」
「100点中か?」
「10点中です」
「しかし、ジャムパンだぞ」
「浩平と一緒だから・・・です」
「そっか・・・。そうだな、今日のジャムパンには特別に10点をやろう」

商店街、二人で歩いた道。帰り際に見せてくれた微かな笑みが眩しかった。
いつのまにか育っていた、気付かぬ思い。
商店街、二人で歩いた道。いつもと変わらない商店街。だけど、二人だったから・・・楽しかった。
また、輝き始めた私の世界。
『・・・寒いなぁ』
『・・・寒いですね』
『っておまえそんな寒そうな格好でよく歩けるな』
『・・・慣れました』
『そうか、それならいいけど』
『・・・よくはないですけど』
『・・・とりあえず歩こう。それで少しはマシになるだろう』
『・・・走りましょう。その方がいいです』
『そうだな。商店街に入ってしまえばこっちのものだ』
『・・・はい』

『ほら、見て見ろこの賑わい』
『・・・前とおなじに見えますけど』
『店の中が一味違うんだ・・・』
『・・・』
『・・・たぶん』
『・・・はい』
『ということで、歩くか』
『はい』

『じゃあな、茜』
『・・・はい』
『よかったら、またつきあってくれな』
『・・・』
『・・・分かりません』
『そうか・・・』
『・・・』
『浩平』
『ん?』
『今日は、楽しかったです』
俺に向けてくれた笑顔。
あなたに向けた笑顔。

「浩平、・・・犯罪ですよ」
「ちゃんと代金は置いてきたぞ」
「でも、勝手に持っていきました」
「いや、しっかり断ったからな」
「でも・・・店の人、気付きませんでした」
「商売に対する情熱が足りないな」
「・・・そういう問題じゃないと思います」
「気にするな。ワッフル、食べたかったんだろ」
「・・・はい」
「茜、次はどの店に行く。こんな体験はめったにできないぞ」
「・・・公園」
「そうだな、ワッフルが冷める前に食べておきたいもんな」
「人が・・・いないところがいいです」
「・・・そうか」
「はい」
「・・・すまん、茜」
「浩平・・・」
「こんなの、楽しく・・・ないよな」
「・・・いいんです。浩平と一緒にいるから・・・それだけでいいです」

公園、俺達が初めてキスを交わした場所。降りしきる雨の中、茜は来てくれた。
俺の大切な人。
公園、私達が初めてキスを交わした場所。降りしきる雨の中、私を待っていた。
閉じ込めた思いが押さえ切れなかった。
『・・・来る場所間違ってないか・・・?』
『・・・あってます』
『・・・どうして、来てくれたんだ?。来ないって言ってたのに・・・』
『・・・傘、持ってないと思ったから。風邪・・・ひくと思ったから』
『・・・』
『それだけです・・・』
『・・・そうか。・・・傘さしてた割にはずいぶん濡れてるな』
『・・・走ったから。走ってきたから・・・』
『まったく・・・それだけ濡れてたら傘持ってる意味ないな』
『・・・そうですね』
『そんなことやってると、また倒れるぞ』
『・・・その時は、浩平がまた助けてくれます』
『俺まで倒れたらどうするんだ』
『そうですね』
『そうですね・・・じゃないだろ。まったくおまえは・・・』
『・・・私は、馬鹿ですから』
『ほんとにそうだ』
『はい』
『・・・茜』
『・・・はい』
『ありがとうな』
『・・・』
俺の元に来てくれたことに・・・。
俺を選んでくれたことに・・・。
『いいんです。私は・・・ふられたんですから』
『・・・ありがとう』
俺の大切な人。

『・・・今日はもう帰ろうか。さすがにこの姿で映画もないだろう』
『はい』
『じゃあ、家まで送っていくよ』
『・・・』
『どうした、茜?』
『こんな時、普通は傘を持ってくれるものです』
『ああ、そう言えばそうか。悪かったな』
『・・・』
『・・・どうした』
『こんな時・・・。
・・・普通はうつむいてくれるものです・・・』
『はは、そう言えばそうだよな』
『・・・はい』
初めて交わすキス。
『・・・どこにも行かないですよね』
私の大切な人・・・。
『ああ、ずっと一緒だ。ずっと、ずっとだ・・・』
信じて・・・いいんですね・・・。
ずっと一緒。

「やっぱり甘すぎるぞ、このワッフル」
「そんな事ないです」
「しかし、なんかこう、喉に引っ掛かるような感じがするんだが」
「浩平、前に好きだと言ったのは、嘘だったんですね・・・」
「いっいや、あれは嘘じゃなくてだな、好きではあるけれどもやや甘すぎるかなあ、と思っている
わけだ。喉に引っ掛かる感触もいい味だしてると思うぞ」
「そうですか、安心しました」
「いやー、このワッフルはうまいなあ」
「もう一つ、あげます」
「・・・」
「食べてください」
「なあ、茜。もしかして楽しんでないか?」
「はい、楽しいです」
「ぐあっ」
「浩平はこのワッフルが好きなんですよね」
「そ、そうだな。好きと言えるかもしれな・・・」
「浩平?」
「・・・」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもないんだ」
「そうですか」

「なあ、茜。・・・キスして、いいか?」
「嫌です」
「茜とキスしたいんだ」
「別れの、キスなんですか?」
「茜・・・」
「悲しくなるだけだから・・・嫌です」
「茜、聞いてくれ」
「・・・はい」
「今から俺達は他人だ」
「!」
「ここで別れるんだ」
「・・・どうして、どうしてですか」
「その方が別れが悲しくないからだ」
「そんな・・・」
「俺の家、知ってるよな。鍵、渡しておく。由起子さんはしばらく出張だから大丈夫だ」
「こう、へい」
「茜、別れのキスしてもいいか?」
「嫌っ、嫌・・・絶対に嫌です」
「ごめんな、茜」
暖かいけど、冷たい。そんな・・・キス。
「嫌っ。浩平、行かないでください。浩平、こうへい、こうへ・・・い」


俺は走っていた。
心が痛かった。
自分を殺してやりたかった。
でも、俺は茜と一緒にいることはできなかった。
俺は、俺はあの時、茜を忘れかけたんだ。
茜を見て誰だろうと思っていたんだ。
茜に俺と同じ思いをさせたくなかった。
目の前で相手が自分の事を忘れるなんて、そんな辛い思いをさせたくなかった。
もし俺が茜の事を他人を見る目で見たら、茜は・・・。
あんな辛い思いを味わうのは俺一人で十分だ。
茜が俺の事を忘れてくれればいい。
こんな冷たい奴の事は忘れてくれればいい。
そうすれば茜は好きだった幼馴染のいる世界へ喜んで行けるはずだ。
悲しい事はすべて捨てて、旅立ってほしかった。
それを、願った。
俺は、それを願っていた。
本当に、願った・・・。
本当に?

あてもなく走りつづけていた。
俺にはもうわかっていた。
茜を忘れかけたあの瞬間、心に冷たいものが流れこんできて。
あの時と同じだった。
俺は誰かを忘れているんだ。
記憶が欠けているんだ。
心が空っぽだったんだ。
だから泣いていたんだ。
ずっと、ずっと泣いていたんだ。
あの空っぽの街、空っぽの家、空っぽのベッド。
俺は一人じゃなかった。
俺の隣に、大切な誰かがいたんだ。
誰だったんだ。
俺を空き地で待っていたのは。
俺が空き地で待っていたのは。
誰なんだ。
だれなんだ。
ダレナンダ。
ダレ、ナ、ン、ダ・・・。

顔にあたる雨で目が覚めた。
雨?
ここは裏山だった。
そうか、俺は疲れ果てて、ここで倒れたんだ。
茜!。
俺はまだ茜の事を忘れていなかった。
安心した。このまま茜の思い出を胸に消えていきたかった。
茜、今頃どうしてるのだろうか。
強く胸が痛んだ。
茜は俺を許してくれないだろう。
俺を恨んでいるかもしれない。
でも、俺は茜と一緒にいる事はできなかった。
できなかったんだ。
このまま・・・消えるのか。
向こうでも茜のことを覚えていられるだろうか。
俺の忘れ物、見つかるかな。
来た!。
その時、強い消失感が俺を襲った。
引き込まれるような強い流れだ。
この世界から自分が消えていくのがわかった。
・・・茜、ごめんな。
俺はその流れに身をまかせようとした。
でも、
茜の記憶が薄れていく!。
また、俺の心にあの冷たい空洞が広がり始めた。
嫌だっ!。
俺はもうあんな思いはしたくない。
絶対にしたくないんだ。
最後まで、いや、向こうの世界でだって茜との思い出を忘れる訳にはいかない。
俺は必死で記憶をかき集めた。
空き地での出会い。
二人で食べた昼食。
二人で歩いた道。
二人で過ごした時間。
すべてのかけがえのない思いを抱きしめて、その流れに死に物狂いで立ち向かった。
永遠とも思える時間が流れた後、ふっとその力が弱まった。
消えなかった。俺は茜の事を忘れなかったんだ。
抗う事が可能なんだ。
少しの間なら、茜が消えるまでの間ならなんとかなるかもしれない。
俺は最後まで茜と一緒にいよう。
茜が消えるまで俺は絶対に茜を忘れない。
この世界に居続けてやる。
そして、茜が消える最後の瞬間まで、茜を抱きしめていよう。
茜の名前を呼びながら。
もう手遅れかもしれなかった。
でも、もしも茜が俺の事を忘れていても、それでも俺は茜と一緒にいる。
誰か自分を知っている人間が、見送ってくれる人がいた方が心強いからな。
その時は、笑顔で見送ってやるんだ。
俺は茜がいるだろう、その場所に向かった。
あの空き地へ。


雨の空き地。
そこに茜はいた。
傘もささずに。
ずぶ濡れになって。
ただ待っていた。
「・・・よお、何やってんだこんな所で?」
「・・・誰?」
冷たい・・・瞳だった・・・。
「・・・クラスメイトの名前くらい・・・覚えておけよな」
声が震えそうだった。それでも、俺は最後まで一緒に・・・。
「同じクラスの、折原だ」
「・・・何の用ですか?」
冷たい声。
「おまえを・・・見送りに来たんだよ。せっかくの旅立ちだ。誰もいないと寂しいだろ?」
「・・・そう、ですね」
「俺がクラスの代表として見送りに来たんだ」
「・・・そうですか。・・・ありがとうございます」
「向こうの世界でも元気でやっていけよ。向こうには好きな人もいるんだろ?」
「好きな人は、向こうにはいません」
「そっか、・・・でも知り合いはいるんだろ?」
「どうして・・・」
「えっ」
「どうして他人のふりをするんですか」
茜の頬を涙が伝った。
泣いていたんだ。
「私は、浩平の事を忘れないって言ったのに。絶対に忘れないって言ったのに。
どうして、どうして信じてくれないんですか。どうして・・・独りにするんですか。
私は浩平が私の事を忘れてもそれでも・・・一緒にいたい」
「・・・茜」
「浩平は、私の事が・・・嫌い、なんですか」
「そんな訳、ないだろ。そんな事あるはずないじゃないか。俺は、茜の事が、この世で一番に、
どうしようもなく好きなんだ」
「だったら、だったら最後まで、一人にしないでください」
「すまん、茜」
俺は茜を抱きしめた。
大事な人。本当に大事な人を。
なによりも大切な人を。
抱きしめていた。

「浩平」
「茜」
「私は、まだ浩平を許してませんよ」
「そうか・・・どうしたら、許してくれる?」
「誕生日プレゼント。くれたら許してあげます」
「もしかしてあれか?」
「そうです」
「はは、誕生日プレゼントはいいとしても、あれは勘弁してほしいな」
「約束です」
「ああ、約束する。茜の誕生日プレゼント、いつになるか分からないけど必ず、
必ず手渡しでプレゼントするからな」
「許してあげます」
冷たいけど、暖かいキス。
「浩平の・・・誕生日プレゼントです」
「茜、覚えていたのか」
「はい」
「もっとほしいな」
「欲張り・・・少しだけですよ」

空き地、二人が出会った場所。雨の中、佇んでいた。何かを待つ、その悲しい瞳が俺の胸を突いた。
そこは雨の空き地。茜の悲しみを刻み、俺が無くしたものを求めて泣いた場所。
そして、三つの盟約が交わされた場所。
空き地、二人が出会った場所。私はその場所でずっと待っていた。その世界が訪れるのを。
来るはずがないと思っていたその世界。おせっかいなクラスメイト。ほうっておいてほしかった。
でも、私は彼を引き止めていた。彼に何かを求めていた。
彼は私をこの空き地から解き放ってくれた。
そして、私に大切な思いを与えてくれた。
本当に好きな人。
今でも一番大切な人。
「茜、俺は必ずこの空き地に戻ってくる」
「私も、必ずここに戻ってきます」
「そしたら、こんどこそずっと一緒にいてほしいんだ」
「・・・はい。浩平、約束ですよ」
この空き地は二人の誓いを刻んだ場所。
そして、始まりと終わりが集う場所。だけど、また始めるんだ。俺達の物語を。
いつか雨上がりの空き地で。

それは唐突に来た。
前のものとは比べ物にならない巨大な力の奔流。
「浩平!」
茜の気配が薄れていく。
「あかねーーーー!」
俺は茜を抱きしめたまま必死でこの世界にしがみついた。
うすれゆく意識の片隅に、俺はその声を聞いた。
「いらっしゃーい。ようこそ永遠の世界へ!」

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はにゃまろ「ぐはっ、3週間ぶりだあ。ごめんよー」
おかりな「・・・」
はにゃまろ「いや、ほら、土日しか書けないし。書くの激遅なもんで。ねえ」
おかりな「・・・」
はにゃまろ「そりゃあ、他にもちょこっと違うの書いてたけど、あれは息抜きみたいなものと言うことでさ」
おかりな「・・・」
はにゃまろ「ほら、最後に出てきたじゃないか。次回からはおかりな卒業だよ」
おかりな「ぷー」
はにゃまろ「いや、今回はまだだめだけどさ。ってもうばればれかあ」
おかりな「・・・ぷー」
はにゃまろ「さて、気を取りなおしてと。感想くださったみなさん、ありがとうございます。
次回からやっと永遠の世界編です」
おかりな「ぷぷー」
はにゃまろ「こっからが長いんだよー(汗)」
おかりな「ぱーぱぺー」
はにゃまろ「こんなペースではたしていつ終わる事ができるのやら。文章も相変わらず下手くそです。
でも、必ず決着つけます。絶対です。ほんとほんと。はにわ嘘つかないあるよ」
おかりな「ぱーぷー」
はにゃまろ「くっ、言うね」
おかりな「ぱーぷー?」
はにゃまろ「と言うわけで次回おかし戦記3で会いましょう」
おかりな「ぷぴーーーー!」
はにゃまろ「それでは、失礼しますー」
おかりな「ぱーーぷーーー!」