永遠紀行  投稿者:はにゃまろ


<第1話>旅のおとずれ

カンカンカンッ
病院の廊下に甲高い音が鳴り響いた。
今日はちちおや参観日だ。
ぼくはそのために、変装をすませたところなんだ。
スーツを着て、ネクタイをしめて。
そして、ここがポイントなんだけど、足の下に空き缶をしこむんだ。
こうすれば背も高くなって、どこから見ても立派なお父さんだ。
仕上げに油性マジックで髭を書いて完成。
「みさお、今いくからな」
カンカンカンッ
ドテッ
転んでしまった。もっと練習しておけばよかった。この格好は結構歩きにくい。
カンカンカンッ
カンカンカンッ
ぼくはドアの前にたち、ノックをした。
「みさおー」
ドアを開けて中に入る。
「あれっ?」
・ ・・・・・・・
誰もいない病室。
・ ・・・・・・・
誰もいないベッド。
カンカンカンッ!
ぼくは思わず駆け寄った。
ドテッ!
「いてて、なんで空き缶なんか履いてるんだ?、転んじゃったじゃないか」
起き上がって自分の格好を見た。
われながら変な格好だ。ぼくはなんでこんな格好してるんだ?
「お父さんの真似事でもしてたのかな?」
おもわず出たその言葉が、なぜか心に痛かった。
「なんで・・・、なんでぼくは悲しくないのに悲しいんだ」
ぼくはベッドの上を見た。
ベッドの真中に、ぽつんとカメレオンのおもちゃが転がっていた。
「さっきまで誰か居たのかな?」
ぼくは、そのカメレオンを手の平で転がしてみた。
ころころ、ころころ、ころころ。
カメレオンはゆっくりと舌を出し入れしていた。
「あれっ?、変だなあ。悲しい事なんかなんにもないのに、・・・涙が止まらないや」
「あはははは。涙が次から次にぼろぼろ出てくるぞ。おかしいなあ。ほんとに・・おか・・しいや・・・」
ぼくは、そのカメレオンのおもちゃを握り締めながら、ベッドの上でずっと泣いていた。
ベッドに残っていた温もりが冷めていくのが、どうしようもなく悲しかった。
  
  
 いつもと変わらない日常の中。友達とはしゃいでいる時。大好きな人との語らいの合間。
ささやかな幸せを感じている。そんな時、妙な感覚に陥ることがある。
大切な、なにかを忘れている。
いつか、その忘れ物を取りに帰らなくてはならない。宝物を忘れた場所へ。
そう強く感じるのだ。
その感覚はすぐに消えてしまう。
でも、その時はもう歩き出していたんだ。その場所に向かって。


 俺はその場所の前にいた。
「なあ茜、今日は趣向を変えて他のものを食べてみないか?」
「・・・嫌です」
「ココナッツなんて、一度食べてみたいと思うんだが」
「浩平は、あのワッフルが嫌いなんですか」
ぐっ、私のことが嫌いなんですか、と言ってるように聞こえるぞ。
「いや、そう言う訳じゃないんだが。せっかくいろいろあるんだから、それぞれの個性を楽しもうとだな」
「それでは、ココナッツも買いましょう」
「・・・」
はあ、今日も失敗してしまった。

 俺達は公園でワッフルを食べた。
ココナッツの味は、先に食べた、というか食べさせられたスペシャルワッフルに打ち消されて
まったくわからなかった。
食べる順番を見誤ったか。一生の不覚だ。
「なあ茜、ココナッツおいしかったか?」
茜もスペシャルから先に食べたはずだが。
「これはこれでおいしいです」
やっぱりわかるのか。無敵の味覚を誇る茜だからな。
「変なこと考えてませんか?」
くっ、しかも勘も鋭いし。
「なあ茜、目はいい方か」
「はい、そうですが?」
「じゃあ、耳はよく聞こえるか」
「聞こえます」
やっぱり、茜アイや茜イヤーも鋭かったか。
「変なこと考えてますね、浩平」
「そんなことはないぞ。茜はどこをとっても最高だと思っていたところだ」
「・・・恥ずかしいです」
ふう、なんとかごまかせたか。
「んっ?」
ぐあっ、向こうから柚木が接近してくるではないか。
最近、学校にこないんで安心していたが、こちらを油断させるための罠だったのか。
「茜、そろそろ他の所にいくか」
「どうしたんですか?」
「いや、雲行きが怪しい。雨が降ること請け合いだ。嵐になるかもしれん」
「雲ひとつありません」
「この場所は危険だ。早く避難しよう」
「浩平、詩子です」
ぐあっ、気付かれてしまったか。
「茜、柚木も急がしそうだし邪魔をしちゃ悪いぞ」
「暇そうです」
くそう、茜とのデートを邪魔しようとは、柚木許すまじ。
茜が駆け寄っていくので、しかたなく茜に着いて行った。
「詩子、ひさしぶりです」
「見ての通り俺と茜はデート中だ。おまえも忙しいだろう。じゃあな」
「・・・?」
「浩平、ひどいです」
「いや、こういうことははっきり言ったほうがいいと思うぞ」
「えっと・・・、誰だっけ?」
どうしたんだ、こいつは。ふざけているのか。
「おまえこそ何者だ。名を名乗れ」
「えっ、わたし? わたしは柚木詩子だけど・・・、どこかで会ったっけ?」
こいつ、本当に忘れてるのか?
「茜、なんとか言ってやってくれ」
「・・・」
どうしたんだ、茜。なんか、様子がおかしいぞ。
「・・・えっと、君が浩平君でそっちが茜さんだよね。ごめん、どっちも聞き覚えがないの。
名字はなんていうの?」
「!」
茜のことも覚えてないとは。まさか本当に記憶喪失なのか?
「茜、どうやら柚木は記憶喪失の・・・」
話しの途中でいきなり茜が走り出した。
「おいっ、茜。どうしたんだ?。すまん柚木、おまえは置いていく。ひとりで病院に行ってくれ。
大丈夫だ、きっと記憶は戻ると信じてるぞ。茜とお見舞いにいくからな」
正直、記憶喪失の柚木をほおって行くのはかなり気が引けたが、茜の思いつめた表情が気になった。
まあ柚木はあんな性格だから、記憶が無くなったって
「おいっ、柚木。なんでおまえがこの学校にいる」
「大丈夫だよ。私は記憶喪失だからねっ」
「おいっ、柚木。なんで俺と茜に着いて来るんだ」
「しょうがないよ。私は記憶喪失だからねっ」
と、やけに語尾を強調して話してくれるに違いない。
しかし、茜にとっては幼馴染に忘れられたことは、かなりのショックだと思う。
・ ・・帰ってこない幼馴染をずっと待っていた茜にとっては。

 茜にはすぐに追いついた。
「茜」
「・・・浩平」
「茜、ショックなのはわかるが大丈夫だ。記憶喪失とはいっても柚木は自分の名前とかは
覚えていたからな。たぶん、治るだろう。それに・・・もし治らなかったとしてもあの性格だ。
また思い出を作っていけばいいじゃないか」
「浩平、・・・違うんです」
違う? 柚木のことがショックだったんじゃないのか?
「・・・着いて来て下さい」
そう言うと茜は歩き出した。
俺はなにかを話し掛けようとしたが、茜の思いつめた顔を見ると言葉がでなかった。
俺は無言で茜に着いて行った。なぜか茜がどこに向かっているのかがわかった。
あの空き地だ。
そしてその時、俺は自分が向かうべき場所が、その空き地の向こうにあるということを知っていた。
なぜか、それを知っていた。


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はじめまして〜。ぼくの名前は、はにゃまろです。
始めてSS書くくせに、いきなり連載ものにチャレンジ。
それでも当初は4話ぐらいの予定だったんだけど、今のメモから考えて10話以上ほぼ確定。
仕事が忙しいのによくやるよね。でもSSって読むのも楽しいけど書くのも楽しいな。
新人のくせに会社でねた考えてるし。まったく、よけい忙しくなるのにね。
忙しくてほんとに死ぬけど、でもがんばって週一ぐらいのペースで投稿する予定です。
感想もがんばって書く予定だからちょっとぐらいは眺めてやってね。
しかし、今日も仕事あったりする・・・。ぐあっ。もうすぐ午前4時。