永遠紀行 2 投稿者: はにゃまろ
<第2話>その空き地には雨が似合い・・・

「あーかーねっ!」
いつものように空き地で佇んでいた私は、急に掛けられた声に驚いて振り返った。
「・・・詩子ですか。おどかさないで下さい。びっくりしました」
詩子が、どうしてここに・・・
「懐かしいね、茜。昔はよくこの空き地で遊んだよね」
「・・・ええ、そうですね」
私達3人で。私は心の中でそう付け加えた。
「ほらっ、茜。雨も止んできたし、商店街にでも繰り出そうよ」
詩子、ずっと見てたんだ。
「詩子・・・、何も聞かないんですか」
聞いてほしくなかった。私も、詩子も悲しくなるから。
「うーん、やめとく。茜、そっとしといてほしそうだからね」
「・・・そうですか」
「でもね、例え話とかなら聞きたいな。そうすれば茜も少しは楽になると思うよ」
「そう・・・ですね」
話して、みようかな。
「もしも、詩子に好きな人がいて、その人が遠くに行ってしまったらどうしますか」
私は詩子に尋ねた。
「もちろん追いかけるよ」
「そこがどこなのかわからないんです」
「がんばって探すよ」
「そこは探しても見つからないんです」
「んー、それでもやっぱり見つけようとがんばるかな」
「そう・・・ですか」
詩子らしい答えだった。私は待っているだけ。
帰ってこないって、分かっているのに・・・。
「あっかねっ!」
詩子が、考え込んでいた私をいきなり後ろから抱きしめた。
「詩子!、やめて下さい。恥ずかしいです」
「大丈夫」
あっ。
詩子が耳元でささやいた。
「そこに行けるよ」
やさしい声。
「強く願えば大丈夫」
不思議な感じ。
「詩子ちゃんの、お墨付きだよっ!」
そして、私は・・・永遠を望んだ。
   

 俺と茜は空き地の中で佇んでいた。
いつのまにか空はどんよりと曇っており、今にも雨が降り出しそうだった。
この空き地には雨が似合うのかもしれない。
いや、それは俺の思い込みか。
そういえば、晴れた日にこの空き地に入ったのは、もう何年も前のことだったな。
最近は雨の日しかここに来たことはなかった。
・・・もう、待たなくてもいいんだよな、茜。
「茜、そろそろ話してくれないか」
俺は茜に話しかけた。
「・・・浩平。聞いてくれますか」
「ああ」
「私には、幼馴染が二人いました」
「柚木と、ここで待っていたあいつか」
「はい。私と詩子とあの人。いつも三人一緒でした。詩子が一人ではしゃいでいて、
私達二人はそれに振り回されてばかりでした。でも、私にはそれが楽しかった。
そして、あの人もそうだと思っていました。」
俺と長森のような関係だったんだな。
・・・まてよ、たしか柚木はもう一人の幼馴染の事を知らないって言っていたぞ。
「茜、柚木はそいつの事を知らないって言っていたぞ?。今回の事もそれと同じなのか」
「半分、正解です」
茜は寂しそうに微笑んだ。
「忘れたのは詩子だけではないんです。」
「最初は、記憶喪失だと思いました。でも、あの人のことだけが記憶から抜け落ちていて、
そのうち周りの人達も、あの人のことを忘れていって。」
茜・・・
「いつのまにか、あの人のことを覚えているのは、私だけになっていました」
茜、泣いているのか。
「浩平、私はがんばりました。いろいろ駆けずり回って、みんなに変な目で見られて、
それでもがんばったんです。消えてしまいそうな記憶を、思い出を必死に抱きしめて。
でも、あの人はもういいって。これは自分が望んだことだって言って、悲しそうに笑っていました」
「そして、この場所で・・・あの人は、私の前から消えてしまいました」
消えた。
そんなばかな。
人間が消えるなんて。
そんなことが現実にあるのか。
俺達もそうだというのか。
「私はこの空き地で待っていました。私が覚えていれば、いつか帰ってきてくれるって信じて」
「でも本当は、あの人が帰ってこないことはわかっていたんです。ずっと呼んでいたのに、
あの人は振り返ってくれませんでした。どこか遠いところを見つめて、めったに笑わない人だったのに、
すごくうれしそうに微笑んでいました。だから、私が待っていても帰ってくるはずないのに」
「でも、大好きでどうしようもなく好きだったんです」
「だから、私はあの人が行った世界を望みました」
茜はぼろぼろと涙をこぼして泣いていた。
許せなかった。茜にこんな思いをさせるそいつが、そいつに嫉妬している自分が。
「茜っ」
俺は茜を抱きしめていた。
「茜。俺は、俺は絶対に茜を一人にしない」
茜はしばらくの間、俺の腕の中で肩を震わせていた。
そんな茜がいとおしかった。
「浩平。・・・私は浩平のおかげで救われました。今は、浩平のことが一番好きです」
それは、俺が一番求めていた言葉だった。
「茜、俺も茜のことがどうしようもなく好きだぞ」
俺達は無言で抱き合っていた。
「浩平、もう大丈夫です」
「いや、まだ油断はならない。もうしばらくこうしていよう」
「浩平、恥ずかしいです」
そういえばここは夕方の空き地だったな。帰りがけに前を通る人も多い。
俺はしぶしぶ茜から離れた。
「それで、今の俺達には、茜の幼馴染に起こった事と同じ事が起きているっていうことか。
でも、茜はもうそいつの行った世界へ行きたいとは思ってないんだろ。だったら大丈夫なんじゃないのか」
「わかりません。もしかしたら、一種の誓い、盟約みたいなものなのかもしれません」
盟約・・・か。
「茜はその盟約をしたのか?」
「・・・多分、あの時に」
「一度結んだ盟約は破棄できないっていうのか。くそっ、なんとかならないのか」
「浩平・・・」
「そうだ、柚木は俺のことも忘れていたぞ。俺はそんな約束した覚えはないんだが」
『・・・を待ってるの』
雨の空き地。
待っている少女。
長森・・・。
「浩平は、過去に辛い思いをした事はありませんでしたか」
「辛いことか。親父は死んじまったし、お袋はそのせいで宗教に走ったけど、そんなに悲しくは
なかったな」
「・・・浩平、冷たいです」
「いや、たしかに悲しかったんだが、なにか支えがあったような気がするんだ」
『どうして・・・?』
そう、支えがあった。それはなんだ?
「だから俺が永遠の世界を求めるなんてことはなかったと思うぞ」
「永遠の、世界?」
えっ、・・・今、俺はなんて言ったんだ?
「浩平?」
「茜、俺は・・・」
雨の日の空き地。
待っている少女。
長森・・・じゃない。
誰だ、あれは・・・誰だったんだ?。
『・・・ずっと・・・一緒・・・』
そうだ。俺は泣いていたんだ。この空き地でずっと泣いていたんだ。
思い出せない。とても悲しいことがあったはずなのにそれが思い出せない。
「思い出せない、思い出せないんだ。悲しい事があったはずなのに、それがなんなのか思い出せないんだ。
すごく大切な事なのに、忘れちゃいけない事なのに」
「浩平っ、しっかりしてください」
「・・・茜、俺は何か大切なものを忘れてしまった。多分、その時に俺は永遠を求めたんだ。
何もなくならない、永遠に変わらない世界を」
『・・・えいえんはあるよ・・・』


あの日、ベッドで泣いているぼくを見つけた病院の人が、叔母さんに連絡してくれて、
ぼくは叔母さんに引き取られていった。
今まで一人にしていてごめんね。これからは一緒に暮らそう。
そう叔母さんは言っていた。
ぼくは、叔母さんが何を言っているのかわからなかった。
もうなんにもわからなかった。
ぼくは空っぽだった。
  
 ぼくは、自分がいままで住んでいたという街を離れ、叔母さんの所で暮らす事になった。
その街を離れる事ができてうれしかった。
ぼくがいままで過ごしてきた街。そこは切り抜かれた街だった。
どこを見ても空白でいっぱいだった。
ぼくはそこから逃げたかった。
わけのわからない悲しみから・・・逃げたかった。

 引っ越した先は、4月の陽光に映え、緑のきれいな街だった。
でも、それでも、ぼくの涙は乾くことはなかった。
どれだけ涙というものは流しつづけられるのだろう。不思議だった。
「泣いてるの?」
そしてその町で、最初に泣いているぼくを見つけたのがその女の子だった。
それは小雨がぱらつく日だった。
その日も、ぼくは近所の空き地で泣いていた。
そこはぼくのお気に入りの場所。
そこを見つけた時、なぜか懐かしくて、ここはぼくが泣くのにふさわしい場所だと思った。
ぼくは話しかけてくるその子を無視して泣き続けた。
やがて雨が激しくなり、その子は去っていった。
ぼくは雨の中、しゃがみこんで泣き続けた。
いつかは雨がやむように、ぼくの涙もいつかは止まる。そう信じたかった。
いきなり雨が止んだ。
見上げるとそこには大きな傘があった。
さっきの子が重そうに、その傘で雨を防いでいた。
「・・・きみはだれ?」
ぼくは尋ねた。
「わたしは、ながもりみずか」
「なんでぼくにかまうの?」
「キミが泣き止むのを待ってるの。一緒に遊びたいから」
どうしてその子がぼくをほかっておいてくれないのか、ぼくにはわからなかった。
「ぼくは泣き止まない。ずっと泣き続けて生きるんだ」
「どうして・・・?」
「・・・ぼくは、無くしちゃいけないものを無くしちゃったんだ」
「悲しい事があったのに、それがなんなのかわからないんだ」
「だから、・・・ぼくの中は空っぽなんだ。ぼくには泣く事しかできない」
「ずっと楽しい日々が続いていたはずなのに」
「永遠なんてなかったんだ。それはシャボン玉のように消えてしまうんだ」
そんな思いが言葉で伝わるとは思わなかった。
でも彼女は言った。
「永遠はあるよ」
そしてぼくの両頬は、その子の手の中にあった。
「大きくなったらキミの忘れ物を探しに行こうよ」
「それまではずっと、わたしが一緒に居てあげるよ」
言って、ちょんとぼくの口に、その女の子は口をあてた。
永遠の盟約だ。


 俺はその場に立ち尽くしていた。
「浩平、最後まで・・・一緒に居てください」
茜はそう言って俺の服を両手でつかみしめた。
「茜、最後なんて言うな。茜の幼馴染はその世界を望んでいたんだろ。でも、今の俺達はそんな世界は
望んでいないんだ。消えないように努力するんだ。消えてしまったら戻ってこようとがんばるんだ。
俺は茜のために絶対戻ってくる。茜も、俺のためにがんばってくれ」
俺は自分に言い聞かせるように叫んでいた。
「・・・はい。私も、浩平のために、がんばります」
茜は泣きそうな顔で笑っていた。俺も同じような顔なんだろう。
この逆らいがたい流れの前に絶対などあるだろうか。
確証もないまま俺はそれを信じていた。信じるしかなかった。
いつのまにか雨が降り出していた。
やっぱり、この空き地には雨が似合う。
そんなことを考えていた。

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どもー、はにゃまろです。
第二話の公開です。ちょっと長くなってしまいました。半分に切るべきだったかな(汗)。
さて、私も後書きアシスタントを呼びたい所ですが、今はまだ、ちょっと。
???:「※※※※※※※」
はにゃまろ:「ねたばれなので、映像、音声ともにおとどけできないんですよ。しばらくの間はこれね」
おかりな:「ぽー、ぷー」
はにゃまろ:「まあまあ、あと少しの辛抱だから。ほんの3週間ぐらいだからさ」
おかりな:「ぴーっ!、ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ」
はにゃまろ:「いやー、SS書くのって難しいですね。おのれの表現力のなさに愛想が尽きちゃいます」
おかりな:「ぴーっ!」
はにゃまろ:「第三話なんかだめだめで、まるまる一本ぼつになっちゃいました。ぐあっ、時間がたんねー」
おかりな:「ぽー、ぷー、ぴー、ぱー、ぺー」
はにゃまろ:「このままでは周一回ペース早くもくずれてしまう…。対策を練らねば」
おかりな:「ぽー」
はにゃまろ:「・・・」
おかりな:「・・・」
はにゃまろ:「続き、早く書くね」
おかりな:「ぽー、ぱー」
はにゃまろ:「感想下さった方々本当にありがとうございます。それでは失礼いたします」
おかりな:「ぷー」