【43】 はんばーがーしょっく
 投稿者: ひさ <dayomon@30.club.or.jp> ( 謎 ) 2000/3/19(日)17:25
「ねえねえ、商店街に最近新しくオープンしたハンバーガーショップって知
ってる?」
「もち、あたしなんかもう放課後毎日通い詰め」
「え〜いいな〜。私まだ行った事無いんだぁ。どう? 美味しい?」
「まあそれなりにね。あっ! そうそう、その店イチオシのてりやきバーガ
ーってのが超美味しいのよ!」 
「ホントに〜?! じゃあ私も今日行こうっと」



 俺、折原浩平は休み時間中、クラスの女子生徒達のそんな会話をぼけっと
しながら聞いていた。
 別に聞き耳を立ててる訳じゃないけど、あんなでかい声で話してたんじゃ
嫌でも耳に入ってしまうんだからしょうがないよな、うん。
 ……などと特に突っ込まれてもいないのに、心の中で自分自身に弁解して
いると、

 くいくいっ……

 誰かが俺の制服の袖を引っ張ってきた。
「何だ、繭か」 
「みゅ〜、てりやきばーがー……」
 それはどー見ても俺と同年齢に見えやしないんだが、一応同じクラスって
事になってる椎名繭だった。
 ……はは〜ん、さてはこいつもさっきの会話を聞いてたんだな。
 繭は俺の制服の袖を掴んだまま、もう片方の手を人差し指を口にくわえて
懇願するように俺の方をじっと見ている。
 というより、これじゃまるで親におねだりしている子供のようにしか見え
ないな。まあ、これはこれで可愛い気もするけど。
「商店街のハンバーガーショップに行きたいんだろ?」
「うんっ」
 尋ねる俺に元気良く頷く繭。
 こいつのてりやきバーガー好きは、クラス中の誰もが知ってるほど有名な
事だ。
 だからその事が話に出た時点で、何となく繭が俺の所に来るんじゃないか
……とは思っていた。
 理由は分からないが、どうも俺はこいつに懐かれているらしい。
 当然それも周知の事実だ。
 幼馴染みの長森なんかは「しっかりした人が見付かって良かったね」など
と言いやがる。
 一体繭のどこをどう見てしっかりしてると言えるのだろうか?
 結局その時は、長森は俺じゃなく繭の方――どう考えても俺を見てたんだ
が――に言ったんだなと勝手に解釈していたけど。
「そっか。俺もな、行きたいって思ってたんだよ。放課後一緒に行くか?」
「うんっ!」
 ぶんっ、と首を大きく縦に振って繭はもう一度頷いた。
 まあ何だかんだ言っても、俺はこいつのこういう素直な所が結構好きなん
だよな。
「みゅ〜、てりやきばーがーてりやきばーがー」
 口ずさみながら自分の席に戻った繭は、放課後てりやきバーガーを食べる
姿を思い浮かべてるのかもしれない。
 そんな様子に苦笑しながら、俺も初めて行く店がどんなものなのかと頭の
中で思いを巡らせていた。

 しかし……この時まだ知る良しも無かった。
 後にハンバーガーショップで俺に降り掛かる災難など……。



 ……………………



 放課後、俺は繭を引き連れて例のハンバーガーショップへ向かっていた。
「どんなメニューがあるのか楽しみだな」
「うんっ」
 頷く繭はさっきからずっとニコニコしている。
 よっぽど嬉しいんだろうなぁ。
 そんな笑顔を見てると、何だかこっちまで嬉しくてスキップでもしたい気
分になってくる。
「あー、あれっ」
「ん? あぁ、あの人が集ってる場所がそうなのかもな」
 繭が指差した先には、何やら人だかりが出来ている。
 学生服姿が多いみたいだから、多分あそこらへんに店があるのだろう。
「みゅ〜、はやくはやくっ!」
「お、おい、ちょっと待てよっ」
 駆け出す繭を慌てて追いながら、俺は人だかりの方へと近付いて行った。 

「いらっしゃいませ!」
 俺が店の中に入ると、元気のいい店員さんの挨拶に出迎えられた。
 店の前まで来て思い出したんだが、ここ最近徐々に近隣の街で拡大してき
てるハンバーガーショップのチェーン店だったのだ。
 噂話でしか聞いた事は無かったけど、確かにこの店はてりやきバーガーを
一番のウリにしている。
「みゅ〜。はんばーがー、ちーずばーがー……」
 と、先に駆け込んだ繭が早速メニューを読み始めている。
 俺はざっと店内を見回したが、さすがに女子生徒の噂になるだけあって店
内は学校帰りの生徒を中心に超満員だ。
「ふ〜ん。まあ、そこそこオードソックスな感じだな」
 俺も繭の後に続き、並びながら掲示されているメニューを眺めていた。
「なあ、聞くまでもないと思うけど……繭はどれにする?」
 しばらく並んで、そろそろ注文する順番が近付いてきたので俺は繭に尋ね
てみた。
「てりやきばーがー……」
「はは、やっぱりな」
「てりやきばーがーてりやきばーがーてりやきばーがーてりやきばーがーて
りやきばーがーてりやきばーがーてりやきばーがーてりやきばーがーてりや
きばーがー!」
「だぁー声がでかいっ!」
 予想通りの答えを一気にまくし立てる繭。
 しかもやたら大声でわめくもんだから、他の客の視線を一気に集めてしま
った。ったく、かなり恥ずかしいぞ……。
「てりやきばーがー食べたいっ!!」
「あーわかった、わかった! ははは……」
 なおもてりやきバーガーを連発しようとする繭を宥めつつ、回りの客に愛
想笑いを振りまく俺。
(……ほっ、知り合いは居ないみたいだな)
 ざっと辺りを見回して俺は胸を撫で下ろす。
 特に七瀬なんぞに見られた日にゃ、いつも俺にされてる仕打ちの腹いせに
何を言われるか分かったもんじゃない。
「それじゃ……」
 ようやくカウンターの前まで来たので、俺は自分の分と繭の分を注文しよ
うと口を開きかけた。
「ご注文を繰り返します」
 ところが、だ。
 その時目の前から俺が全く予想もしない言葉が飛んできた。
「へっ!? ちょ、ちょっと、俺まだ注文なんて……」
 声の主は、カウンターに立っている店員のおねーさんのものだった。
 俺は一瞬唖然としながらもすぐ我に返り、手を振りながら慌ててストップ
を掛けようとする。
「てりやきバーガー11個にハンバーガーセットとチーズバーガーセットが
1つずつで宜しいですね?」
「よくないっっ!!」
 笑顔を浮かべて忠実に仕事をこなす店員のおねーさんは、俺の言葉など全
く聞いちゃいない。
 しかも並んでた時の繭の言葉を聞いていたのか、ちゃっかりハンバーガー
とチーズバーガーまでセットになって注文に加えられている。
「宜しいですね?」
「だから――」 
「うんっ!」
「お、おい繭?!」
 繭はニコニコ顔で頷いて、期待の眼差しで俺を見ている。
 おねーさんの脅迫紛いの必殺スマイルと繭の視線に挟み撃ちされた俺には、
もはや頷くという選択肢しか残されていなかった。
「……いくらですか?」
「ご会計、2395円になります」
「はい……って、俺が全部出すのか?」
「うんっ」
「…………」

 
 ……結局繭はてりやき2個半、俺はてりやき5個とハンバーガーとチーズ
バーガーを食べた所で限界が来て、後はお持ち帰りする事となった。
 一瞬みさき先輩が頭に浮かんだけど、たったてりやき3個半を処理しても
らう為に呼ぶには、あまりに申し訳ないような気がしたから止める事にした。
 みさき先輩を呼ぶには最低てりやき10個は用意しとかないと……少ない
よ〜って拗ねちゃいそうだもんなぁ。
「ありがとうございました〜」
 そんな事を考えながら店を出る時に、さっきのおねーさんが全く悪びれた
様子も無く、精一杯の笑顔で俺と繭に声を掛けやがった。
「あんたがいる時はもう二度と来ねーよ……」
 俺は店を出てから店内をちらりと振り返り、ぼそりと毒づいた。
「おなかいっぱい、しあわせみゅ〜」
(しかし……)
 と、俺はそんな繭の笑顔を見て心の中で呟く。
 こいつの幸せそうな笑顔を見られた事だけは、俺に降り掛かった災難の中
で唯一の救いだった。
 この表情を見る為に散財したんだと思えば、少しは気も晴れる……わけな
いよな、やっぱり。
 俺にとって2395円という金額は結構な額なのだ……とほほ。
「またこよーね」
「ん? あ、ああ……そうだな」
(あの店員が居ない時にな……)
 俺は心の中でそれだけ付け加えて繭に答えると、夕暮れ時になってもなお
人の波が途絶えないハンバーガーショップを後にした。



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 どうも、こんにちは。

 この話、どっかで見たことあるなぁと思った方……当たりです(笑)。
 一年くらい前に「感想だけでもいいですか?(5)」で書いた感想おまけ
SSの加筆バージョンになります。
 オチは一緒ですが元の倍以上加筆してるので、あの頃より少しはマシにな
ってる……と思います。
 もしおまけで書いたのがどんなもんか興味あるという物好きな方(^^;)は、
WTTSさん管理の「TacticsSSコーナー第2図書館」に保管され
てるので行って見てください。
 あと『本望』を読んで下さった方、感想下さった方、どうもありがとうご
ざいましたm(_ _)m 私の方の感想もまとめて必ず、必ずや……(^^;)。

 最後に……

・宣伝その1
 ↓うちのHPです。過去にここで投稿したSSとか載っけてます。お暇な
方は遊びに来てみて下さい。

 http://www.people.or.jp/~SIDE-ONE/

・宣伝その2
 ↓【刑事版】
 WTTSさんが管理されているSS掲示版の投稿者と読者の交流を目的と
した場所です。作者の後書きや設定のお話、読者の感想など、お気軽にカキ
コしてみて下さいませ(紹介文前回のまんまや(^^;))。

 http://www67.tcup.com/6717/denju.html


 それでは、この辺で。