二学期 投稿者: ひさ
 長い休みは過ぎゆく夏の日と共に終わりを告げる。
 夏休みの終わり――つまり二学期の始まりというのは、春休みや冬休みが
終わる時に比べて、ある気持ちが非常に高まるのではないだろうか?



『学校に行くのが、かったるい』



 と、いう気持ちだ。

 長期休暇の後にまた学校で勉強の日々が始まるのだから、それが当たり前
の事だと分かっていても気が重くなるのは、まあ仕方ないといった所か。
 夏休みの課題がまだ終わってない人などは、更に気持ちが沈んでしまうか
もしれない。

 でも、そう思う人ばかりではないはず……。 
 
 夏休み中も部活に励んでた人は、それまでもずっと学校に通ってたわけで、
別に二学期になってもかったるいとは思わないかもしれないし、久し振りに
友達と会うのが楽しみな人は、かったるいどころか逆に学校が始まるのを心
待ちにしていた事だろう。


 一人一人が夏休み中の様々な思い出を持ち寄って学校に集まる。
 そんな二学期の始まり。


 ――さて、この二人の場合はどうだろうか……。



 ……………………



「ほら〜、浩平起きなさいよ〜」
「……ん……なんだ? ……長森……こんな朝っぱらからどうしたんだ?」
「どうしたんだ? じゃないよ〜。早く行かないと新学期早々遅刻しちゃう
よ〜」
「……そうか、これは夢なんだ。まだ夏休みだってのに長森が起こしに来る
わけ無いもんな」
「はぁ〜。今日から二学期だよ、浩平」
「な、なにっ? ……はは〜ん、いつも俺に迷惑掛けられてるもんだから夢
の中で嘘吐いて仕返ししようってんだな? その手には乗らないぞ。今から
目を覚ましてお前の幻を打ち消してやる!」
「……迷惑掛けてると思ってるならボケてないで早く支度するんだもん」
「……はい」


「ところで浩平、夏休みの課題終わってる?」
「ああ、昨日の夜中机にかじりつきながら死に物狂いで……やってたはずな
んだが……なんでベッドの中で寝てたんだ俺?」
「こ、浩平〜。課題がまだ半分も終わってないよ」
「なっ……そ、そんな馬鹿な!?」
「が、学校行ったらわたしのノート貸してあげるから――」
「……俺は机で勉強してたんだぞ」
「えっ?」
「それなのにベッドで寝てるなんておかしいじゃないか!」
「えっ? えっ!?」
「机で勉強してたのなら机の上で突っ伏して朝を迎えるのが筋ってモンだろ!!
それなのにベッドで寝てるなんて……そんな馬鹿な話があるか!?」
「……そういう問題じゃないと思うけど」
「俺はこの謎を解明する為にもう一度ベッドに潜り込むっ!」
「浩平……言動が意味不明だよ……」
「いや、もうひと眠りすれば何かこう……真相が頭の中にビビっと閃くかな
って思ってさ」
「はぁ〜……って時間! ちょ、ちょっと浩平。急がないと本当に間に合わ
なくなっちゃうよ〜」
「おう。それじゃ、とっとと着替えて顔洗って歯磨いて朝メシ食って……あ
とは朝シャンで完璧だな」
「もう、それ全部実行できる時間なんて無いよ……」
「それならせめて朝シャンだけは外せまい」
「それは時間的に一番無理だよ。大体浩平、今まで朝シャンなんて一度もし
た事ないでしょ?」
「あのなぁ、それは長森が気付いてないだけだ。男の身だしなみの基本であ
る朝シャンを俺が欠かすわけないだろ」
「でもわたし、浩平が朝シャンしてる所なんて見た事ないもん」
「……見たいのか?」
「え……ち、違っ……そ、そんなの……み、見たくないもんっ」
「そんなのって……お前、さりげなく酷いぞ今の。それに何焦ってんだよ。
……もしかしてシャワーを浴びる時みたく俺が裸になるとこ想像してたんじ
ゃないだろうな?」
「(どきっ)ち、ち、違うもん」
「やっぱり……男の淫らな姿が容易に想像出来るなんて……長森さんって不
潔よね……」
「わ、わたしは時間が無いからちょっと焦ってただけだもんっ」
「ふふん……上手く逃げたわね」
「……どうしてオネェ言葉になっちゃうの」
「いや、何となくだ」
「はぁ〜……って時間!!」
「それ、つい数分前にも言ったぞ」
「分かってるならもう少し急ぐ素振りを見せてよ〜。もう……新学期初日か
ら全力疾走しなきゃならなくなりそうだよ」
「それは違うぞ」
「えっ!?」
「なりそうじゃなくて、もう嫌でも全力疾走しなきゃ学校には間に合わない。
これは決定事項なんだ。良かったな、長森」
「冷静に語らないでよ……。ところで何が『良かったな』なの?」
「夏休みの間は走り込んでなかったから、ブランクを取り戻すにはもってこ
いじゃないか。二学期も全力疾走でばりばり登校だぞ!」
「わたし、毎日全力疾走なんて嫌だもん。そもそも浩平がいつも起きるの遅
いから走らなきゃ間に合わない事態になっちゃうんだよ」
「それなら俺に構わず一人で先に行けばよかっただろ」
「だ、だってわたしが起こしに来ないと浩平ずっと寝てるかもしれないんだ
もん。それに初日から遅刻するのはまずいかなって思ったから……」
「なんか他の日だったら遅刻しても大丈夫そうな言い方だな」
「違うもん」
「ま、いいか。しかし……そろそろ行かないと本当にヤバそうな時間だな」
「だからさっきから言ってるのに〜。もうっ! 早く早くっ!!」
「わかってるよ。それじゃぱぱっと走って学校に行くか」
「…………」
「…………」
「……こ、浩平〜」
「ん? 何だ?」
「まだ制服に着替えてないよ〜」 
「あ、そうだった。長森、悪いけど先に外で待っててくれよ」


「…………はあっ〜」



 ……………………



 ……相変わらずだった。


 しかしこんなやり取りを見ていると、浩平と瑞佳にとって夏休みが終わり
ニ学期になったからかったるいとか、そういう気持ちとは無関係のように思
える。

 これから全力疾走で学校へと向かう姿が目に浮かぶ。
 夏の名残を含む初秋の風を受けながら駆け抜ける二人は、一体どんな夏の
思い出を抱えて行くのだろうか。
 ただ、願わくば急ぎ過ぎてその思いを道の途中に落っことさないで欲しい
ものだ……。
 
 

 耳を澄ませば始業のチャイムが聞こえてくる。ぎりぎりの時間で間に合っ
た二人を手招きしているように……。

 また新しい日常の日々が始まろうとしていた。


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 どうも、こんばんは。
 
 本当は9月1日に投稿したかったのですが、結局間に合いませんでした…。
 季節モノの期間限定作品というのはよく書き起こすのですが、間に合わず
お蔵入りというパターンが多いので今回は何とか上げたかったです。結局少
々遅刻してしまいましたが。

 夏休みがほしかったよちくしょう、という思いを込めて憂鬱な二学期の始
まりを書いてみました(^^;)。
 まあ、浩平と瑞佳のやり取りに憂鬱なんて言葉は見当たらないですけどね。
 浩平と瑞佳の朝のシーンは意図的に会話だけで進めてみましたが、簡単そ
うに思えて結構難しかったです。

 長い続きものを書いてると、たまにはこういう単発ものもいいかなって思
ったりもしますが、まあ息抜きにという事で(^^;)。


 最後に、ここまで読んで下さった方、終わらない休日に感想を書いて下さ
った方、どうもありがとうございましたm(_ _)m
 
 それでは……。