終わらない休日 第14話 投稿者: ひさ
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★これまでのあらすじ
 俺、折原浩平はニ連休の一日目に『プー』という名の猫をひょんな事から拾
ってしまい、本当は遊び倒すはずだった予定が大狂いしてしまった。
 そしてこのプーに振り回されるように連休一日目は色々あって、あっという
間に過ぎてしまった……悪いな、今回長くなるんでここまでは短縮したぞ。
 プーと別れてしまうという嫌な夢を見た次の日、いきなり長森から猫の世話
を頼まれるという嬉しくないモーニングコールをもらった俺は、どうしても付
いて行くときかないプーを連れて仕方なく商店街に行くついでに長森家に向か
った。だけどな、玄関の鍵が開いてやがったせいで俺は居もしなかった泥棒を
探して余計な時間を使ってしまったんだ。
 結局猫の世話も途中で商店街に向かったんだが、案の定混みまくってやがっ
た。そして目指すペットショップの前で昨日公園で出会った、プーの本当の飼
い主である少女――音子と偶然再会する事となった。その音子の力を借りて、
両手一杯の荷物で持てなくなったプーを、俺の代わりに俺の家まで抱いて行っ
てもらう事になった。
 これには俺も凄く助かったんだが……長森の家に着いてからが問題だった。
音子のやつの紛らわしい叫び声のせいで、俺の足は……足は……。
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 浩平が自分の足に落としてしまった猫缶の箱を詰めた袋は、ご丁寧にも袋の
底に衝撃保護の為のウレタンが敷き詰めてあったので、結構な重量にも関わら
ず浩平の足は大事には至らなかったようだ。
 しかし、それでも足に受けた衝撃は相当なものだったらしく、浩平は今だ立
ち上がれず両手で揉んだりさすったりしていた。
 ただ浩平が立ち上がれないのはそのせいではなく、どちらかといえばこれま
で両手一杯に荷物を持ち歩いてきた事よる疲れの方が大きかったので、『立ち
上がれない』のではなく『立ち上がりたくない』と言った方が正しいのかもし
れない。
「おまえなぁ、紛らわしい声上げんなよ。何事かと思っただろーが」
「だって、あんまり猫ちゃん達が可愛かったから……大体浩平おにいちゃん、
玄関に荷物置いてくればいいのになんでずっと持ってるのぉ」
「そりゃ、まあ、あんな声だされちゃな……気になって荷物の事なんて忘れち
まってたんだよ」
 浩平は痛みに顔をしかめながら、側にしゃがみながら心配そうに様子を眺め
ている音子に向かって愚痴をこぼしてみたが、逆に痛いところを突かれてしま
い取り乱してしまった。
「ねえねえっ、あたしの事心配してくれたの?」
「まあ……な」
「そっかぁ〜、ふふっ」
(今朝ああいう事があったからなぁ……)
 音子は心配されたのがよっぽど嬉しかったのか、もしかしたら気にかけても
らえた事が嬉しかったのか、しきりにニコニコしている。
 浩平はふと今朝の泥棒侵入疑惑の事が頭に浮かんだが、音子の無邪気な笑顔
を見てると、もうそんな事などどうでも良くなっていた。
「ねえ、浩平おにいちゃん」
「なんだ?」
「さっきから気になってたんだけど、ここって誰の家なの?」
 そう音子に質問されて、浩平はそういえばここが何処なのかまだ何も話して
いない事に思い至った。
「ああ、ちょっと知り合いのな。音子もさっきの猫どもを見ただろ? あいつ
らの世話を無理矢理押し付けられちまったんだよ」
「ふ〜ん……ここの家の人達ってよっぽど猫が好きなんだね〜」
「ねこって……ああ、その猫か」
 どうも言葉にすると猫と音子が同じ発音なので、浩平には少々紛らわしく感
じていた。音子本人はどうなのだろうかと考えてみたが……おそらく全然気に
してないのだろうな、と浩平は思った。
「でも猫好きだなんて、そんな事分かるのか?」
「うん! 猫ちゃん達を見たらすぐにわかったよぉ」
「そんなもんかね……」  
 浩平には、元々この家の人達が猫好きだという事が分かっていたのでそんな
事は気にも留めなかったが、初めてここを訪れた音子がその事に気付いたのは、
やはりよっぽど猫が好きだという表れなのかもしれない。
「さてと……少し疲れも取れたし、やる事済ませてさっさと帰るか」
 浩平はそう言いながら、よっと掛け声を発して立ち上がった。急に立ったの
で少しふらふらしたが、身体の疲れや足の痛みは大分治まっていた。
「やる事って何をするの? 猫ちゃん達の餌やり?」
 浩平にならって立ち上がった音子は、興味津々といった感じで目を輝かせて
聞いてきた。
「餌は朝たんまり与えたけどなぁ……そうだ! なあ音子」  
「えっ、なになに」
「猫の餌やりとトイレの砂替え、どっちがいい?」
 どうやら浩平は、本人の意見も聞かずに音子に世話係の手伝いをさせるつも
りでいるようだった。
「あたし、猫ちゃんの餌やりがいい!」
「そっか……。よし! それじゃあ俺は二階に行ってトイレの砂替えしてくる
からそっちは頼んだぞ」
「はぁ〜い」
 どうやら音子の方も猫達の世話がしたかったのか、多少文句が出ると思って
いた浩平は、却って喜んでいる姿に拍子抜けしてしまった。
「猫は八匹いるから、そこにある皿に盛ってやってくれ。言っとくけど一匹一
皿だからな。猫缶はそこの冷蔵庫の脇に置いてある……」
「わかってるよぉ。さっき先に入って猫ちゃん達と遊んでた時に台所を一通り
見たもん」
 音子は『すごいでしょ〜』とばかりに胸を反らせて浩平の言葉を遮った。た
った一度見ただけで、一匹一皿という事まで分かるものだろうかと浩平は疑問
を感じたが、それならそれで余計な説明しなくてもいいのは手間が省けて良か
った、とも思っていた。
「じゃあ餌やりの方は頼んだぞ」
「うん、わかった。猫ちゃーーーん! ごーはーんーだよぉーーーー!!」
 音子はそう返事をしたかと思うと、いきなり大声を張り上げて猫達を呼び出
していた。
「にゃ〜ん」
「うなぁ〜」
「んにゃあ〜ん」
 すると驚く事に今まで何処に隠れていたのか、猫達がいかにも腹を空かせた
ような声を上げて続々と台所へと集結し始めたのだ。
「音子の奴、もうこいつらに懐かれてんのか。俺の時とはえらい違いだなぁ」
 そう言って苦笑しながら様子を眺めていた浩平は、今日この家で最後の仕事
になるだろうトイレの砂替えをする為、台所を後にして二階へと向かった。

「そういや、またプーのやつ見なくなったな……」
 猫の排泄で固まった砂をすくって側のゴミ袋に入れ、そして新しい砂をトイ
レに足し入れる作業をしている最中に、浩平はふとそんな事を思っていた。
 どうもこの家の中では猫達が多くて影が薄くなっているのか、朝と同じくこ
こに戻ってきてから玄関から中に入る姿を確認して以来、浩平はプーの姿を一
度も見ていなかった。朝はここの猫達に混じって図々しくも朝ご飯を食べてい
たのだが、今は下で音子が面倒を見ているのでそういう事は無いだろう。
「もっともあいつの場合、プーが台所に来たら餌をやっちまいそうだけどな」
 浩平はその光景を思い浮かべて微笑を漏らしていた。
 とりあえず、元々が現在留守中の家なので戸締りはしっかりしているし、唯
一出入りしている玄関もちゃんと閉めて……閉めて……?
「ああっ!!」
 浩平は悲鳴にも似た声を上げながら、一目散に階段を降りて玄関を目指した。
 さっき音子の悲鳴(というより歓喜の声)を聞き付けた時、荷物で両手が塞
がったまま家の中に上がったので、うっかり玄関のドアを閉め忘れていたのだ
った。
「くそっ! やっぱり……」
 案の定、玄関のドアは開けっぱなしになっていた。まだプーが居なくなった
と決まった訳ではないので、浩平は苛立ちながらドアをきつく閉めつつ、まず
は家の中を探そうと考えていた。
「おいっ! 音子っ!!」
 浩平は心に広がりつつある焦りを押し殺しながら、台所にいるであろう少女
に聞こえるように大声で呼び掛けていた。
「どうしたの!? 浩平おにいちゃん」
 やがてその声を聞きつけて、台所から何故か猫を数匹引き連れてやって来た
音子は、浩平のいつもと違う様子を見て不安げな表情を浮かべていた。
「おまえ、ここに着いてからプーを見てないか?」
「うん、見たよ」
「なっ!?……何処でだ!」
「今、ここの猫ちゃん達と一緒にご飯食べてるよ」

「………………………………はぁーーーーーっ」

 音子の言葉を聞いた浩平は、長い長い溜息を一つ吐くと階段の前までふらふ
らと進んで、その場に腰掛けるようにへなへなとへたり込んでしまった。どう
もこの家に着いてからというもの、浩平は拍子抜けさせられてばかりだ。
「ねえねえ、何かあったの?」
「……玄関のドアが開いてたんだよ。それでここに来てからプーを見てなかっ
たから、まさかって思ってさ」
「なぁ〜んだ。それなら大丈夫だよ、プーちゃんは好きな人の前から勝手に居
なくなったりするような子じゃないから」
「それっておまえの事か?」
「違うよ、浩平おにいちゃんの事だよぉ」
「はぁ? 俺が? プーに好かれてるだって!?」
「うんっ。プーちゃん、浩平お兄ちゃんの事すっごく好きみたいだよ」
「なんでそんな事が分かるんだよ」 
「ん〜、何となくだけど……でも絶対間違いないよ」
「なんだよそりゃ……」
 曖昧なんだか断言してるんだかよく分からない音子の言葉っだが、以前ずっ
と一緒に暮らしていて心を通い合わせられるからこそ、プーの気持ちが理解出
来るのだろう。浩平は心の中でそんな関係を少し羨ましく思ったが、もし音子
の言葉通り自分がプーに好かれているのだとしたら、いつか心を通わせる事が
出来るかもしれない……そんな風に感じていた。
 しかし、そう思っているという事は浩平自身まだ気付いていないのだろうか、
それとも色々あってそう感じた事を一時的に忘れているだけなのか……既にプ
ーとは出会った時から心が通い合っているという事に……。
「ところで、餌やりはもう終わったのか?」
「うん、もう猫ちゃん達は思い思いにくつろいでるよ。あっ、でも食べるのが
遅かったプーちゃんだけまだ終わってないかも」
「ったく、プーのやつ……心配かけやがって」
 浩平はようやくショックから立ち直ったのか、自分の勘違いで勝手に慌てて
いたのも忘れてプーに対してぶちぶち文句を漏らしながら台所に向かった。
 音子もふふっと笑いながら浩平の後に続いたが、その表情が心なしか寂しそ
うだったという事に、今浩平がその表情を見て果たして気付いただろうか……。

「ふにゃ〜ん」
 台所にいたプーはいかにもご満悦の様子だった。それを見ていて先程の自分
の取り乱し様が馬鹿らしく思えてきた浩平は、プーの頭をくしゃくしゃに撫で
回していた。
「嬉しそうな声上やがって。俺がどれだけ心配したか分かってんのか……って
言っても分かるわけ……」
「にゃん」
 プーが鳴きながら浩平の手に顔を摺り寄せる仕種をした時、言いかけた言葉
は途中で止まってしまっていた。それと同時に先程の音子の言葉が脳裏に蘇る。
「俺の事が大好き……か。俺もな、おまえの事大好きだぞ」
 今度は、浩平自身あまり見せる事がない微笑をプーに向けながら優しく頭を
撫でてやる。プーもされるがまま気持ち良さそうにしていた。
「浩平、おにいちゃん……」
 そんな様子を台所の入り口で見ていた音子は、しばらく黙って見ている事し
か出来なかったが、やがて遠慮がちに声を掛けていた。
「おう……どうしたんだ? 音子」
「えっ? 何が!?」
「いや、あんまり元気無さそうな顔してるからさ」
「そっかな……ちょっと疲れてるのかも」
「そっか。悪かったな、俺が頼まれた事なのに手伝わせちまって」
「ううん、あたし猫ちゃん達の世話とか大好きだから全然平気だよ」
「あとは俺が何とかプーを持ってくから、ここで帰っても……」
「嫌っ!!」
「音子……」
 言葉を遮られた浩平は、音子の過剰なまでの拒否反応に少なからず驚いてい
たが、それ以上にずっと心の中で予感していた事が現実のものになりつつある
という事に危惧を感じていた。
「じゃあ、俺んちまでプーの事頼んでいいか?」
「……うんっ」
 諭すような口調で話し掛けたのが良かったのか、少なくとも表面上の音子は
普段通りの感じに戻ったようだった。
「それじゃ、そろそろ帰るとするか」
「うん」
「っとその前に猫達の皿を……」
「お皿? お皿ならもう全部洗っておいたよ」
「そっか。それなら俺は戸締りの確認してくるから、音子はプーを連れて先に
外で待ってな」
「は〜い! 行こっ、プーちゃん」
「にゃあ〜ん」
 そう言ってプーを引き連れて行く音子は、もうすっかり普段の調子に戻って
いた。こんな風にすんなり反応するプーを見ていると、浩平にはやっぱり音子
がプーにとっての本当の家族なんだと感じて羨ましく思ってしまう。
「俺って、考え過ぎなのかな……」
 浩平は、音子が拒否反応を見せた時に感じたものを今はそっと心の中に仕舞
っておく事にした。いずれ別離の時が来ればハッキリするのだ。
「さてと。随分長居しちまった事だし、さっさと見回りして帰るか」
 その呟きで頭の中の考えを打ち消した浩平は、一階の各部屋、そして二階の
戸締りを確認するため台所を後にした。

「お、おい音子〜……か、鍵閉めてくれぇ〜」
 猫の世話を終えてこれでやっと帰れると安心しきっていた浩平は、大量の荷
物の存在をすっかり忘れていたのだった。そのせいか、再び両手に持った荷物
がここに着いた時よりも更に重く感じられた。
「も〜、そんな情けない声出さないでよぉ〜」
「にゃ〜ん」
 音子(とプー)は呆れた口調で浩平の姿を眺めつつ、言われた通り玄関の鍵
を閉めた。そのガチャリという閉錠の音が浩平も耳にも届いていた。
「ねぇ、この鍵どーするの?」
「そ、その……牛乳箱の中に入れといてくれ」
「こんな所に入れといて大丈夫なのぉ?」
「ここの家の住人が……いいって言ってんだから……大丈夫なんだろ。そ、そ
れより……も、さっさと帰るぞぉ」
 浩平はもう立ち止まってるだけでも辛いのか、1分1秒でも早く自宅に辿り
着く為に、音子とプーをほっぽってふらふらした危なっかしい足取りで先に歩
き出していた。
「あれじゃあ浩平お兄ちゃんの方が大丈夫か心配だよね」
「にゃん」
 そう言ってる割に全然心配してなさそうなのは、逆に浩平ならあれくらい大
丈夫だろうと思っているからなのか、音子(とプー)は呆れ顔で少し先に行っ
てしまった浩平の所へと足早に向かった。


 長森家からの帰り道、浩平と音子は終始無言で、プーも音子に抱かれたまま
大人しくしていた。もしかしたら眠っているのかもしれない。
 とはいえ特に気まずい雰囲気と言うわけではなく、浩平は荷物の重さでかな
り疲労しているので話す気力もあまりなかったのだが、音子の方もその事をわ
きまえていたのか、それとも猫達の世話で疲れてしまったのか……それでも浩
平と目が合うと、ニッコリ微笑ながら静かに隣を歩いていたのだった。
 そして……しばらく歩いて、やがて自宅が見え始めた頃に浩平の方から沈黙
を破った。
「なあ、音子」
「ん? なになに」
 浩平はこれから言おうとしている事を音子に告げようかどうかずっと迷って
いた。
 しかし、今話さなければ浩平の気持ちもスッキリしないので、決意を固めて
ゆっくりと話し始めた。
「プーの事だが……本当に俺に預けてもいいのか?」
「うん……いいよ」
「俺に預けるより、もし家で飼うのが駄目なら飼えるようになるまで隠れてで
も音子自身で面倒見た方がいいんじゃないか? いや、おまえ自身そうしたい
んじゃないのか?」
「……そんなことないよ。あたしが浩平おにいちゃんに預けたいって言ってる
んだから飼えるようになるまで預かっててよ」
「それっていつになるんだ?」
「わかんないよぉ、そんなの……」
「……さっき、おまえはプーが俺のこと大好きだって言ったよな」
「うん……」
「でもな、プーが本当に一番好きなのは……音子、おまえなんだよ。俺もプー
の事が好きだからこいつの気持ちはよく分かっているつもりだ。ほんの一日ち
ょっとの付き合いだけどな」
 浩平はまだ幼い音子にこんな事を言うのは酷かもしれないとも思ったが、少
しの間この少女と接してきて如何にプーが好きだという事を目の当たりにした
からこそ、きちんと伝えなければならない気がしたのだ。
「…………どうして」
「えっ?」
「どうして……どうしてそんな事言うのぉ!!」
「お、おいっ、音子!?」
 突然、音子が激高して浩平の身体にしがみ付いてきた。
「だってしょうがないじゃない! あたしだってプーちゃん飼いたいよぉ……
飼いたくて飼いたくてどうしようもないよ! でも駄目なの……新しいお家じ
ゃ駄目だってお母さんが……。だからあの時公園に……悲しくて悲しくて涙が
止まらなかったけど……それでもやっとプーちゃんと別れる事が出来たと思っ
たのに……どうして、どうしてまた今更プーちゃんと会っちゃったのよ!!」
 まるで水位ぎりぎりの防波堤が崩壊して激しい水の波が一気に噴き出したか
のように、音子の言葉は流れる涙と同じくとめどなく溢れていた。
「……うぐっ……ひっく……プーちゃんと……別れる……嫌、嫌だよぉ……」
 もはやしゃくりあげてまともな言葉になってない音子は、浩平の胸にうずく
まって泣いている。近所に通行人がいたら変な目で見られただろうが、幸い周
りには誰の姿もなかった。
 これが、浩平の予感していた事だった。一度プーを捨てたとはいえ音子にと
っては仕方の無かった事であって、好きだという気持ちは全く変わってないと
いう事を商店街で再会した時に強く感じていた。だから、結局また別れなけれ
ばならないのにプーと長い時間触れ合っていて、果たしてすんなり別れられる
だろうか……その事を危惧していたからこそ、浩平は商店街で音子が付いて行
くと言った時に躊躇してしまったのだ。 
 結局、その事を浩平自身の言葉で露わにした形になってしまい、苦い思い
だけが心の中に広がっていた。これで良かったのだろうかと……。
「…………」
 浩平は今だ泣きじゃくる音子の頭を撫でてやりたかったが、両手一杯の荷物
に阻まれてそうする事は叶わなかった。 

「にゃあーーーーーーーん」

 その時、てっきり眠っていると思っていたプーが一際長く、そして大きな声
で鳴いたのだった。それは……間違いなく音子を元気付ける言葉だった。  
「プーちゃん……うん、ありがと」
 音子はまだ顔を浩平の胸に埋めたままだったが、その態勢で抱いていたプー
に感謝の言葉を返すと共に更にぎゅっと強く抱き締めていた。

 浩平はプーの鳴き声が空に向かって放たれたような気がして、音子を支えた
態勢のままふと頭上を仰いだ。すると、瑞佳の家を出た時には確かに目一杯の
青が広がっていたはずだったのだが、今はその青空など見る影もなくいつのま
にか厚い雲が上空を覆っていて、すぐにでも雨が落ちてきそうな雰囲気だった。
「……嫌な……空だな」
 消え入りそうなその浩平の呟きは、先程のプーの鳴き声を追うように空の彼
方へと流されて行った……。

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 どうも、こんにちは。
 土、日と仕事が連休だったおかげで、13・14話と一気に書き上げる事が出来
た為、久々の連日投稿になります。ストックはこれで尽きましたが……(^^;)。
 書くのは休日じゃないとなかなか進まないですね。こんな時期は毎年思うん
ですけど、特に今年は『夏休み』というものが大変羨ましかったりします(^^;;)。
 
 今回は後半部分で結構気持ちが入りました。ここまで書き上げて、ようやく
終着点みたいなものが見えてきた気がします。音子との関わりや問題について
は次回で一応解決されそうなので、あとは浩平とプーの問題……以前見た夢と
合わせて終わりまで書き上げて行けたら、と思っています。

 最後に、読んで下さった方、感想を書いて下さったWTTSさん、どうもあ
りがとうございましたm(_ _)m

 それでは…。