終わらない休日 第13話 投稿者: ひさ
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★これまでのあらすじ
 俺、折原浩平は、連休の一日目にひょんな事から『プー』という名の猫を拾
ってしまう羽目に……って毎回同じ事ばっかり言ってるからなんか飽きてきた
ぞ。う〜ん、一日目はプーが逃げて元飼い主の少女と会って……それから由起
子さんと夕食を食べて、夜はプーと別れちまう嫌な夢見て……二日目は朝っぱ
らから長森の奴に電話で猫の世話を押し付けられて、それで出掛けてみると玄
関が開いていて俺が勝手に泥棒が入ったかもと思って調べて結局徒労に終わっ
て……それから商店街へプーと行ってそこで一日目に公園で会った少女と偶然
出会って……はぁっ、はぁっ……ちょ、ちょっと……疲れたな。でも、これで
大分短縮できただろ(←手抜きすんな! byひさ)
 ……うるさいな、毎回同じあらすじ読んでる人は飽き飽きしてんだよ。ここ
は俺の持ち場だから作者の戯言なんて無視無視っと。
 えっと、何処まで行ったっけな……そうそう、プーの飼い主の少女と出会っ
たんだけど名前が音子(ねこ)って言うんだってさ。なんか変って言うよりこ
いつに合ってるって俺は思ったんだよな。
 それでこの音子にあーだこーだ横から口出しされながら買物をしたわけだけ
ど、そのおかげで短時間の内に買物を済ませる事が出来た。
 そして……音子とプーの後ろ姿を追い掛けている内に、俺の心の中にわだか
まってた『プーを返したくない』という気持ちは、いつのまにか綺麗さっぱり
消えてしまっていた。俺はこいつらに感謝しなきゃならないな……。
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「……で、こいつはどうすればいいんだろうな」
「にゃあ〜」
「どうするの?」
 浩平がそう言葉を向けた相手は、『聞かれても知らないよ〜』という風な感
じで受け答えをするかのように一声鳴き、それを抱えている少女には逆に聞き
返されてしまった。
「まあ、こうなる事を覚悟して連れてきたんだけどなぁ……」
 とりあえずペットショップで買い物を済ませた浩平は、店の外に出てから、
ある重大な事実に気付いて途方に暮れていたのだった。
 買った物といえば、猫のトイレとトイレ用の砂を二袋、それに餌である猫缶
を1ケース(24缶入り)、あとは匂い消しのスプレーだとかノミ避けの首輪
などだ。
 浩平にはプーにとって必要なのかどうかよく分らないものも含めて、音子の
指示であれこれ買わされてしまった感じだった。音子によると、これだけ買っ
ておけばしばらく店に足を運ばなくても大丈夫との事だが、おかげで浩平は両
手一杯に荷物を持つ羽目になってしまったのだ。つまりは……、
「プーを持てなくなっちまったぞ」
 そういう事だった。

「どう考えてもこの状態じゃ持てそうにないんだよな」
 それは浩平が言うまでもなく、誰が見ても、そしておそらくさっきから黙っ
てこちらを見上げている音子もそう思っている事だろう。
 ただでさえ両手にこれ以上持てそうにない荷物を抱えていて、しかも結構な
重量で、浩平でも瑞佳の家を中継地点にして休憩を取らなければとても家まで
運べる気がしなかった。そんな状況の中でプーまで運ぼうなど、いくら考えて
みてもほとんど不可能なので答えなど出るはずも無い。
「どうしたもんかな……」
 そう言って何気なく音子の方に顔を向けると、ばったり目が合ってしまった。
 それは元々音子が浩平の方をずっと見ていたからなのだが、少女はプーをし
っかり抱いたまま笑顔を返している。
 実は浩平の頭の中に一つだけプーを連れて行ける方法があるにはあるのだが、
それはあまり気の進まないものだった。しかし、いくら頭を捻っても他に良い
方法が浮かばないとなると、もうその方法に頼らざるを得なかった。
「なあ音子……」
 そして浩平がその方法を実行しようとしたその時、
「浩平おにいちゃん、あたしがプーちゃんを持ってってあげるよ」
「へっ!? あ、ああ……」
 何とも間の抜けた受け答えだったのは、浩平が言おうとしていた事を先に音
子に言われてしまったからだった。
 浩平の考えていた唯一の方法とはなんの事は無い、音子にプーを抱いてもら
い一緒に付いて来てもらう事だったのだ。
「でも、俺の家に着く頃だと夕方過ぎになっちまうぞ。それに雨も降るって言
ってたしさ……大丈夫なのか?」
「だいじょ〜ぶ。それにあたしが持たなかったらプーちゃんどうするつもりな
のぉ」
「ここに置いてく」
「ええっ!? だめだめ! もう、浩平おにいちゃんに任せたら心配だよ。絶
対付いて行くからねっ!!」
「冗談だって」
 何処かで聞いた台詞だなと浩平はぼんやり思っていたが、もとよりプーを置
いて行く気などさらさら無かったので、音子がプーを連れて行くと言った時か
ら頼むつもりではいたのだ。
 ただ浩平にしてみれば音子に頼む事はあまり気が進まなくて、その理由とい
うのが心の中にあるのだが……なにしろそれ以上に良い方法が見つからないの
で仕方が無かった。とりあえず今は忘れよう、と浩平はその考えを無理矢理振
り払っていた。
「本当に帰りが遅くなっても大丈夫なのか?」
「だいじょ〜ぶだって」
「途中で寄るとこあるけどいいのか?」
「えっ、どこに行くのぉ?」
「まあそれは行ってからのお楽しみだな」
「う〜……うん、わかった」
「よし、それじゃあ行くか。プーの事よろしく頼んだぞ、音子」
「は〜い! あたしに任せといて、ねっプーちゃん」
「にゃあ〜〜ん」
 プーの一際甲高い鳴き声を合図に、二人と一匹は目指す浩平の家へと向かい
歩き始めた。鳴き声を聞きつけた通行人達が何事かとこちらを見ていたが、浩
平も音子も、そしてプーも全く気にも留めなかった。
 やがて通行人達が興味を失ってこちらを見向きもしなくなった頃、浩平達は
来た時よりも大分人が減った商店街をようやく抜けていた。
 浩平は朝に見た天気予報が気になったのか、ふと空を見上げてみたが午後を
少し回った今でも雲一つ無い穏かな青空は朝と変わらず、天気予報は外れだろ
うと思い始めていた。


「はぁ、はぁ、はぁ〜……や、やっと着いたぁ〜」
「浩平おにいちゃん、だらしないよぉ」
「うにゃあ」
 プーが何と言ったかまではよく分からないが、多分ニュアンスとしては音子
の発言と似たようなものだろう。といっても、今の浩平にはそんな事を考える
程の余力すら残っていなかったが……。
「お、おまえらなぁ、他人事だと思って勝手な事を……」
 商店街を後にして歩く事数十分、ようやく長森家に辿り付いた浩平の体力は
もはや限界を振り切っていた。とにかく両手一杯に持っている荷物が重いのだ。
 最初は楽勝と高をくくっていた浩平だったのだが、商店街を後にしてから徐
々に両腕に負荷が掛かってきて、更に足取りも重くなってしまい腕は感覚が無
くなってくるし足はガクガクだし、ここに着くまで行く時よりかなり時間が掛
かってしまうしでもう息も絶え絶えといった状態だった。
 しかし、さすがにいくら疲れていたとはいえ音子に荷物持ちを手伝ってもら
おうとは思わなかったし、そもそもこの少女だってプーを抱えて両手が塞がっ
ているのだ。
 その事を考えると、やはり音子と偶然出会えた事には感謝しなければならな
かった。果たして浩平一人でこの荷物を持ちながらプーまで抱えて来る事が出
来たかどうか……何とかなったかもしれないが、その場合もっと帰るまでの時
間が掛かっていた事だろう。それに荷物の上にプーの重さが加わって、長森家
に着くまで体力が持っただろうか……実はそれが一番怪しかった。
「浩平おにいちゃんの言ってた所ってここなの?」
「ああ、そうなんだが……お、おい音子。俺の、ズボンのポケットの中に、鍵
が入ってるから、ちょっと取り出して、玄関開けてくんないか?」
「うん、わかった」
 言葉も途切れ途切れな浩平が相当疲れていると悟ったのか、音子は素直に頷
き、抱えていたプーを降ろすと急ぐような感じでポケットをまさぐり始めた。 
「あった!」 
 程無くして鍵は見つかり、音子はとことこと玄関の方へ向かい鍵を開けに掛
かったのだが、なにやら手間取ってる様子だった。
「どうした?」
「浩平おにいちゃ〜ん、鍵が合わないよぉ」
 しばらくガチャガチャやっていた音子だったが、どうにも駄目らしく情けな
い声を上げて浩平の所まで戻ってきた。
 ちなみに、長森家は玄関までが軽い段差になっていて本当に少しだけそれを
上らなければならないのだが、そんな気力もない浩平は道路で待っていたのだ
った。その場に荷物を置いて自分で開ければいいのだろうが、そうしないのは
長森家に入るまでは絶対荷物は下ろさないぞ、という変な意地が浩平の中で働
いているからだった。浩平よ、何故そこまで意地を貫き通そうとするのか……。
「な、なに!? ちょっと、鍵を見せて……おい、合うわけ無いだろ。こりゃ、
俺んちの鍵だ」
「もう! 浩平おにいちゃんがポケットを探せって言ったんでしょ」
「悪い、反対の方、だったみたいだ」
「はいはい」
 相変わらずの浩平の途切れた口調に音子は呆れながら答えると、先程の鍵を
ポケットに戻し反対側のポケットを探ってみた。 
「これでいいの?」
「おう、それだそれ」
 今度は間違えてなるものかといった感じで浩平に鍵を見せた音子は、それが
正しいものと分かると再び玄関の方に向かった。
「あーーっ!!」
「おい、今度はなんだ」
「この肉球キーホルダー、かっわいい〜」
「…………」
 浩平は脱力して荷物を全部落としそうになってしまった……。
「鍵、開いたよぉ」
「おう。しっかし、なんでここん家は、玄関前に、階段があるんだぁ〜……は
ぁっ、はぁっ〜」
 浩平は最後の気力を振り絞って玄関前の階段をゆっくりと上がり、ようやく
玄関のドアに辿り付いていた。しかしその時、もう一度音子の奇声だか悲鳴だ
かを聞く事になるのだった。
「きゃあーーーーーー!!」
「お、おい! どうした、音子!!」
 勝手に先に入ったのか、音子のその声は家の中から聞こえてきた。浩平は疲
れている事も荷物を下ろすのも忘れて、急いで家の中に上がって声のする方へ
向かった。
「台所か!?」
 声の方向から場所を断定すると、浩平は一気に台所へと走った。
 しかし……普段の浩平ならば音子がどんな感情の声を上げたのかすぐに分か
っていたはずだったのだが、頭の中にあった今朝の泥棒侵入疑惑がその判断を
著しく鈍らせていたのは間違いなかった。
「音子!」
 台所のドアを勢いよく開け放った浩平だったが、次の瞬間その光景に呆然と
する事になるとは思いもしなかっただろう。
「あっ、浩平おにいちゃ〜ん。ね、みてみて! もぉ〜この猫さん達すっごぉ
ーく可愛いんだよぉ〜。うあ〜、みんな可愛いよぉ〜」

 ドンッ!!

「ぐああああああっ!!」
 その音子の言葉を聞いて再び脱力してしまった浩平は、遂に荷物の中の一つ
を手放してしまった。一番重い猫缶の箱が入った袋を……足の上に。
「きゃっ! お、おにいちゃん、大丈夫!?」
「いや、全然……」
 音子が小さな悲鳴を上げて駆け寄って来たと同時に、浩平は痛さと荷物の重
さに耐えかねてその場にへたり込んでしまった。長森家の猫達は、今の衝撃音
に驚いたのか散り散りに何処かへ行ってしまったようだ。
 そして浩平は足の痛みで自分でも気付いていないが、ようやくその場で商店
街から持ち続けてきた荷物から開放される事となった。

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 どうも、こんにちは。
 実はこの話、1日目6話・夢の話が1話・2日目6話の計13話で終わらせる
予定だったので本当はこれが最終話になるはずだったのですが……。
 どうやら2ヶ月開いて再開してから進みが遅くなっているみたいです。
こう2日目の方が長くなってしまうと、1日目にも色々手を加えたいなぁと思
ってしまう今日この頃です(^^;)。

 読んでくださった方、感想を書いて下さったSOMOさん、 どうもありがとう
ございましたm(_ _)m

 それでは…。