終わらない休日 第5話 投稿者: ひさ
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★これまでのあらすじ
 俺、折原浩平は、連休で遊びに出掛ける途中で捨て猫を拾ってしまった。そ
 もそも長森が留守でこいつを渡せなかった事が始まりだった気がするんだよ
 な。それから、逃げられてそれを追い掛ける俺がなぜかいて、その後捕まえ
 たと思ったら、今度はこいつを拾った公園で元の飼い主だった女の子と偶然
 出会ったんだ。その子との会話で、こいつが「プー」という名前だという事、
 そしてプーはやむを得ない事情で捨てなくてはならなかったという事を初め
 て知った。俺は、女の子がいつかプーを再び飼える日が来るまで大事に預か
 る事を約束して別れた。見えなくなるまでお互いに手を振りながら……。
 こうして散々寄り道してしまった俺とプーは、ようやく今度こそ自宅へ向か
 って歩き出した。
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家に近付くに連れて、夕闇が辺りの景色を包み込んでゆく。
浩平は思い掛けない出来事の連続で、かなりの疲労状態だったが、帰るべき場所に
向かって歩いていると、ようやく全身がリラックスしてくるような感じがした。
腕の中には、白を基調としてその中に黒の染みが着いたような――牛みたいな模様
をした、一匹の猫が抱かれていた。名前は先程公園で会った、元飼い主の女の子
から教えてもらったのだが、名前をプーと言う。何となくこの猫にはお似合いの
名前だな……と浩平が思うのは、プーが現在捨て猫の状態だからだった。
「飼われる事の無い、ぷーたろーのプーちゃん、か……」
浩平は、微笑みながら眠っているプーを見ていた。すーすー寝息を立てて身体が伸縮
する動きが抱える両腕に伝わってくる。そんなプーに、浩平は少し愚痴混じりの言葉を
発していた。
「ったく、こんなに疲れ果てたのはおまえのせいなんだぞ」
結局の所、連休で遊ぶつもりだった浩平が見事に予定を狂わされたのは、このプーの
せいだと言わざるを得ない。公園で拾って、逃げられて追い掛けて、そして再び公園
に訪れ、以前飼い主だった女の子とプーとひとときを過ごした――本当に目まぐるしい
一日だったが、浩平のその疲れはいつしか心地良いものへと変わっていた。
「疲れがそう感じるってことは、今日は結構充実した一日だったのかな……」
独り言のつもりで呟いたのだが、眠っていると思っていた腕に抱かれるプーはいつの
まにか目を覚まし、しっかりとその言葉を聞いていた。浩平の方にその大きな瞳を
向けながら。
「どうした、腹でも減ったのか?」
「にゃ〜あ」
浩平がプーに話し掛ける事は、もう当たり前のようになってしまったが、それで実際に
鳴き声を返されるのは初めての事だった。
「はは、そっか。それじゃ帰ったら何か食わせてやるからな」
浩平は苦笑しながらプーに答えていた。プーが鳴いた瞬間、今まで何となく一方通行だった
会話が初めて繋がったような気がして、浩平は心の中で嬉しさが込み上げてきた。それに
つられて自宅に向かう足も、速度が少しだけ上がっていた。


浩平の家がようやく確認できる距離まで近付いた頃には、もうどっぷりと日が暮れ、回りの
家々には温かな灯がちらほらと燈り始めていた。
「あれ?由起子さん帰ってきてんのか?」
そんな言葉が浩平の口から漏れたのは、いつものこの時間ならまず燈る事の無いその灯りが、
自分の家にも点いていたからだった。
浩平の叔母である由起子はとにかく忙しい人で、平日だろうと休日だろうとあまり仕事の
休みには関係無なかった。実際浩平と一つ屋根の下に暮らしていても、顔を合わせる事
など一週間に数回程しかないというのだから、それも頷ける。元々由起子の家に浩平が
居候しているという状況だったのだが、今ではその立場が全く逆になっている感じだった。
「めずらしいな。今日は仕事が早く終わったのかな」
一応叔母にあたる訳だが、由起子は浩平にとって歳の離れた姉のような存在だった。
別に『おばさん』と呼んでも由起子は気にも留めないと思うのだが、浩平の方がそう呼ぶ
には失礼なんじゃないか?と躊躇してしまう。年齢は浩平にもはっきりと判らないのだが、
確かに外見ではとても『おばさん』という風には見えない。
しかし、『お姉さん』はどう考えても変だし――そうでなくても恥ずかしいので、浩平は
『由起子さん』と呼ぶ事にしている。もうずっと以前からそう呼んでいたので特に違和感
も感じないし、その呼び方を変えるつもりもなかった。
「さてと……おまえの事どう説明するかな……」
「にゃあ〜」
訊かれてもワカンナイにゃ〜、とでも言っているようなプーの声を聞きながら、浩平はやっと
自宅の玄関前まで着いていた。しかしその事を考えると、どうしてもあと少しで安らげる場所
へと続くこのドアノブを回し辛くなってしまう。
「う〜ん……拾ってきた、じゃストレート過ぎるし……そうだ!長森の奴から預かってきた
事に……でも絶対あとでバレそうだしなぁ……やっぱり正直に話そうかな……でもそれで
ダメって言われたらなぁ……」
ドアの前で立ち往生しながらあれこれ言い訳を考えている浩平のその姿は、まるで深夜に酔っ
払って帰ってきて女房に締めだしを食らっている亭主のようだ。
「えーい、見付かったらその時はその時だ!」
いつまで経っても考えがまとまらないので、浩平はとりあえず部屋まで直行する事にして、
それからどうするか決める事にした。勢いよくドアノブに手を掛け、ダッシュ態勢に入った
その時……、

ぽんぽん

「うわっ!」
いきなり背中を叩かれ、驚きのあまりプーを思わず落としそうになったが、なんとか自分の
叫び声を上げるだけに留まった。恐る恐る背後へと振り返った浩平の前に立っていたのは、
今まで言い訳を考えていて、それを言おうとしていた張本人――由起子だったのだ。
「ゆ、由起子さん。なんで……」
「なにやってるの、浩平?遅かったじゃない……あら?」
浩平の言葉を遮ってそう訊いてきた由起子は、さすがに向かい合った甥の腕に抱かれているもの
を見過ごす筈もなかった。かくして、プーの存在はあっさり見付かってしまったのだった。
「こ、こいつは……あの、その……え〜と……」
「…………」
口調がしどろもどろになっている浩平を余所に、由起子はプーに顔を近付けてまじまじと眺めていた。
「可愛い猫ちゃんね。名前はなんていうの?」
浩平とプーのどちらに訊いたのか、ともすれば独り言の様にもとれる由起子の問い掛けに、浩平は
なんと答えれば良いのか分からずに口をつぐんでしまった。
「浩平、ちょっと私に抱かせてみて」
「あ、ああ……」
由起子は問い掛けた答えを待たずに、今度はそう言いながら手を差し出してきたので、浩平はさっと
プーを渡してしまっていた。受け取った由起子は、意外な程手馴れた手つきでプーを抱きながら
優しく頭を撫でたりしている。そんな様子をただ何も言えずに黙って眺めていた浩平は、由起子の
プーを見つめる眼差しを見て、ようやくプーの事を彼女にありのまま話す事に決めた。
「名前はプーっていうんだ。今日出掛ける途中で見つけて長森にあげようと思って、でも居なかった
から帰ってくるまで家で預かってやろうって……ダメかな?」
「ふ〜ん、帰りが遅くなったのはそういう訳だったの」
ようやく納得したという感じで、由起子はうんうんと頷いている。問い掛けの答えをやきもき
しながら待っている浩平を見て心の中でくすっと笑いながら、まず抱いているプーを浩平に
返して、それからゆっくりと口を開いた。
「いいわよ。私も猫好きだし、なんならもし瑞佳ちゃんの所がダメだったら家で飼ってもいいしね」
その言葉を聞いて、浩平はふぅ〜っと安堵の溜息を漏らした。何だか偶然由起子とバッタリ会って、
成り行き任せに事が運んだ感じがしたが、とにかくこれで堂々とプーを家に入れる事が出来る。
しかし、飼ってもいいとまで言われるとは正直想像していなかった。由起子がこれほど猫好きだった
という事は、浩平にとって結構意外な事実だった。
(おい、よかったな)
心配そうにこちらを見ているようなプーに、浩平はそんな気持ちを込めてパチッとウインクで答えた。
「ところで、由起子さんこそ電気点けっぱなしで何処行ってたんだ?」
プーの事が一段落したので、浩平は先程由起子に訊きかけて宙ぶらりんになっていた疑問を
もう一度訊き返していた。
「ああ、仕事が早く上がったから久々に夕食作ろうと思ったんだけど、調味料をほとんど切らして
いてね……ちょっと近くまで買いに行ってたのよ」
そう言って、由起子は手に下げてるビニール袋を浩平の前にぶらぶらと差し出した。中を覗くと
確かに砂糖や塩、こしょうといった基本的な調味料が何種類も入っていた。
と言う事は、砂糖や塩まで切れてたんだろうか?などと浩平は考えていたが、由起子は家で料理
など滅多にしないし、浩平自身も調味料を使うような料理などあまりしなかったので、それも
ありうるかも知れないと思った。
「ははは……調味料何にも無かったッけ」
しかし由起子の手料理など実に久しぶりで、浩平はお腹の虫が今すぐ鳴ってしまいそうな程
夕食が楽しみになっていた。家でほとんど料理を作らない由起子――正確には作っている
暇が無いのだが――には、さすがに調味料の有無は分からなかったのだろうが、彼女の料理
腕は相当なものだと浩平は記憶していた。それでも、最後に由起子の手料理を食べたのは大分
以前の事なので、詳しいメニューが何だったかというのはすっかり忘れてしまっていたが……。
「さ、浩平もプーちゃんも中に入りましょ。夕食もあと30分位で出来るからね」
「うん、由起子さんの許しが出たならおまえも堂々と入れるな」
「んにゃあ〜」
「ふふっ、何だか浩平の言葉が解かってるみたいねぇ」
由起子は微笑みながらそう言って、先に家の中に入っていった。浩平は、その言葉を反芻しながら
複雑な表情でプーを眺めてみた。
「きっと……解かってるんだよ、な」
プーは何も答えない。しかし、じっとこちらを見つめるその瞳からは肯定の色が覗えた。たとえ
違っていたとしても、今の浩平はそう信じい気持ちだった。
再びドアノブを握り、そしてゆっくりドア開いた時、浩平はやっとその言葉を発する事ができた。

「ただいまぁ〜」

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「めちゃくちゃ進行遅いですが、一応次回が休日一日目のエピローグでようやっと
話の中間点という所になります」
つっこみ瑞佳:あいだ開きすぎだよ。
「た、確かに……またあらすじ書いてしまったし」
つっこみ瑞佳:それが投稿ペースが遅いっていう何よりの証拠だもん。
「ぐっ……いつもながら反論できんのが悔しい……」
つっこみ瑞佳:はぁ〜。
「しかし、ようやくまともなヒロインが登場したね」
つっこみ瑞佳:由起子さんは、ヒロインって言えるほどの年じゃ……。
「それ以上言ってはいけませーーーーーん!!(爆)」
つっこみ瑞佳:それにゲームでも名前しか出てないのに、ヒロインなんて…だもん。
「だからそういうコト言っちゃダメだって(^^;)。もしかして自分が出番無いからひがんでんの?」
つっこみ瑞佳:寝言は寝てる時に言ってね。
「……はい」
つっこみ瑞佳:ところで、第6話の進行状況は?
「ふっふっふっ……実はもう書き上がってるのだぁ!とりあえず一日目を書き上げないと
 すっきりしないんで2話分書いてたのさっ」
つっこみ瑞佳:……だったらさっさとアップしろだもーーーーーーーん!!
「それなら、見直しして2、3日中にでもアップしますか(←書き上がってるので余裕綽々(爆死))」
つっこみ瑞佳:う〜、なんだか悔しいんだもん。
「その前に、先に残りの感想をアップする予定です。それでは〜」
つっこみ瑞佳:それじゃあ、またね♪