「人を待たせる事と人に待たされる事、どちらが嫌ですか?」 急にそんな質問を投げかけたものだから、浩平は私が作ってきたお弁当の中身を 口一杯にほおばったまま、面食らったようなおかしな表情をした。 「へ?ひおをまはへるほとほ、ひほにまははれるこほ?」 「……汚いです」 私にそう言われて、浩平はまず食べる事に集中したのか黙って口をモグモグさせている。 何故こんな事を訊いてしまったのか……実は私自身よく分かっていない。 ただ、昼食時はいつも浩平の方から話し掛けて来るので、たまには私の方から、 という思いがあったのかもしれない。 それとも浩平ならこう答えるだろう、という私の考えが 正しいのかどうかを確かめたかっただけなのかも……。 数分後、お弁当を全部食べ尽くした浩平はゴクリとお茶を飲み干してから、ようやく答えた。 「茜はどっちが嫌なのか当ててやろうか?」 「……嫌です」 どうせ最初はまともに答えてくれないだろうと思ったら案の定……。 「浩平の答えを訊いているんです」 私に促されて、浩平はうんうん頭を抱えて唸りながら考え始めた。 ……そんなに難しい事なのだろうか? 大抵の人は待たされる方が嫌なんじゃないか、というのが私の考え。 だって待たせる方は、少なくともその場所に行けば会えるか会えないかハッキリする。 その人が居ればなんの問題も無いし――待たされた人と喧嘩になるかもしれないけど―― 会えなければそれで諦めがつくかもしれない。 ただ、そこで会えない人を待つことになると、その人は「待たせる人」から「待たされる人」へと変わってしまう。 待たされる……これほど辛く苦しいものはない。 待っても待っても報われず、それでも「いつかきっと」って思ってしまう……。 私は報われたのかもしれない……浩平は約束通り帰って来てくれたから。 でも、その間にどれだけの涙が私の頬を伝ったか……どれほど胸が張り裂けんばかりに痛かったか……。 もう二度とあんな思いはしたくない。 私なら……私なら考えるまでもなく答えは分かり切っている。 それは………。 「だあぁ〜っ!わかんね〜」 浩平の急な叫び声が、私の思考を中断させた。 どうやら考えすぎて頭がオーバーヒートしたらしい。 「俺はどっちも嫌だぞ、茜」 「そんな答えずるいです。……でも、浩平らしいです」 私は心の中でくすりと笑った。 それは浩平の答えが面白かったからではなく、私が思ってた通りの返答だったから……。 「そういう茜はどうなんだ?」 その気持ちが表情に出てしまったのか、今度は浩平が面白く無さそうな顔をして質問を返してきた。 私はさっきの浩平の言葉を思い出して、悪戯っぽく答えてみせた。 「……浩平が当ててくれるんじゃないんですか?」 「そうだな、う〜ん……」 そう言って、浩平は顎に手を添えて考える仕草をする。 私は浩平をじっと見ながら答えを待った。 「それは、明日俺とデートしてくれたらその時に教えてやるよ」 「嫌です」 私は即答した。……やっぱりまともに答えてくれない。 その私の返答がいつもの事と思ったのか、浩平は特にさしたる動揺も見せていない。 「それじゃあ今日学校が終わってからにしよう」 「今答えてください」 そう、私は今すぐ知りたくて内心やきもきしていた。 浩平は私の本当の思いを答えてくれるのだろうか……。 「そんなに知りたいのか?」 「はい」 「それじゃ、学校終わったら家に帰って着替えていつもの公園で待ち合わせな」 浩平はそう言って、私の頭にポンと手を乗せて芝生の上から立ちあがった。 「浩平!私は今……」 キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜〜ン 昼休みの終了を告げるチャイムが、私の言葉を遮ってしまった。 「ほら、早く教室に戻んないと午後の授業が始まっちまうぞ」 浩平は、芝生に座ったままじっと自分を見ている私に手を差し出す。 でも私は、浩平が答えてくれるまで立ち上がろうとはしなかった。 頑固だなと自分でも思う……でも、浩平の口からその「答え」をすぐに訊きたかった。 浩平はそんな私の事を、困ったような表情で見下ろしながら口を開いた。 「知りたいことが気になれば、待つ事だってそう苦になるもんじゃないと思うぞ」 その瞬間、私は胸の鼓動がドキリと跳ね上がるのを感じた。 浩平は見抜いている?私の考えてる事を……まさか……でも……。 「……浩平は、私を待たせるつもりなんですか?」 「そんなわけないだろ」 浩平は、頭を掻きながら笑顔で言葉を返す。 私は浩平の手を握り、立ち上がってからぽつりと呟いた。 「……わかりました」 ________________________________________ 「仕事が連休だったので、早いうちに二作目が書けました!」 つっこみ瑞佳:でもいきなりタイトルの漢字が違ってるよ。 「あのね、あれはわざとなのっ!(^^;)」 つっこみ瑞佳:待つ喜び=期待……考えが安直だよ。 「自分でも分かってるからあんまり言わんといて〜」 つっこみ瑞佳:でも、斜陽【浩平SIDE】じゃなかったんだね。 「なんか急にこのネタが思いついちゃったから(^^;)」 つっこみ瑞佳:しかも初心者の分際で、この程度で前後編に分けてるよ。 「ぐっ。やけに手厳しいなぁ……」 つっこみ瑞佳:だってわたし「つっこみ瑞佳」だもん。 「ぐはぁっ」 つっこみ瑞佳:と言うわけで、テキパキ書いて早くわたしにつっこみ入れさせてよ。 「は、はぁ(人選誤ったかなぁ……)」 こんにちは!SS書き初心者のひさです。 今回は「待つ」をテーマに茜ストーリーを書いてみました。 茜の「待つ」は辛い思いばかりなので待つ事に喜びを感じて欲しい、と言う思いからです。 でも全然うまく表現できてません……前後編だし(^^;)。 浩平が帰って来てからのお話なのですが、なんか書き上がってから たしか帰って来たのが卒業近かった気がしたので(違ったかな)、時期的に学校で 弁当食ってるなんて無理があるんじゃないか?って思ってしまいました(^^;)。 結局そのまま載せてしまいましたが、もしそう思われた方がおられましたらどうかご容赦を……。 それでは〜