終わらない休日 第2話 投稿者: ひさ
ふと、浩平は歩みを止めて空を見上げてみる。そんな行動を取ったのは、
正確に分かる訳でもないのに、今が午前中なのか昼過ぎなのかを知りた
かったのか、それとも自分が置かれている現実から一時だけでも目を
背けたかっただけなのか――とにかく空には雲一つなく何処を見ても
澄んだ青だけが広がっていた。

「ふあぁぁぁ〜」
浩平は一つ大きな欠伸をすると、空に向けていた視線を自分の腕の中に
抱かれたいるものへと戻し、再びゆっくり歩みを進めた。
何の因果か、腕に抱かれぐっすり眠っている一匹の猫を拾う派目になって
しまった浩平は、それを猫好きの幼馴染み長森瑞佳にプレゼントしようと
――正確には押しつけようと――思ったのだが、ちょっとした手違いで
それが叶わず結局自宅に連れて帰るしか無くなり、これからこの猫をどう
するか途方に暮れていたのだった。
「どうするかって言っても、長森に渡すまではこいつをほっぽり出す訳にも
いかないし、なんにしても面倒見なきゃなんないんだよな」
さっきからずっとぐっすり眠っている猫を見ながら、浩平はそう呟いていた。
別に浩平自身猫が嫌いなわけではなく、むしろどちらかと言えば好きな方
なのだが、世話をした事など一度も無いし、それに叔母の由起子がどういう
反応をするのか――実はそれが一番気になる所だった。
「由起子さんって、猫嫌いだったかな?」
家にいても、仕事が忙しい叔母と顔を合わせること自体少ないのだが、さすがに
黙って家の中で飼うには――たとえそれが一日二日だけだとしても――気が
引けるものがあった。
「ま、由起子さんには黙ってるわけにもいかないか。しっかしホントによく寝てるな」
そう言いながら、少しの間片腕で支えてやさしく頭を撫でてやる。猫の体重が
ずっしり掛かったが、安らかな寝顔を見ているとそんな事など忘れてしまわ
せる程、穏やかな気持ちになってゆく。
「こいつは、もしかしてすごく大切にされてたんじゃないのか……」
しばらく抱いていて気付いた事は、首輪がついていた事から飼い猫だった事、
そして拾った時から野良猫とは思えない綺麗に手入れされた毛並み、逃げも
せず浩平に懐いて来た……やはりこの猫が大事に飼われたいた、と言う事
だけだった。
本当にそうなのかは解かるはずも無いのだが、何となく浩平にはそう思えた。
「それなら、なんで捨てたりしたんだろうな?」
猫に問いかけても答えてくれる訳が無いのに、抱いていると何故かつい話し掛け
たくなってしまう。ただいつもなら空気と一緒に溶けてしまう独り言を、猫に
向かって吐いているだけなのかもしれない。
「あ〜あ、もう昼過ぎた頃かな。今頃なら遊んでる所だけど……こういう休日も
たまにはいいか、なぁ」
先程見上げた空を思い出し、また返事の返ってくる事の無い会話を繰り返していた。


そして一時ほどの後、浩平の腕の中から猫の姿は無くなっていた。


「くそっ!何処に行ったんだ!!」
ちょっとした油断だった。あれから目を覚ましてけだるそうにしていた猫だったが、
急にそのチャームポイントとも言うべき大きな瞳を更に見開いて、浩平の腕から
もがき逃れようとしたのだ。押さえ付ける浩平だったが、そのせいで鋭い爪に引っ
掛かれる羽目になってしまい、結果その腕からとうとう逃す事になってしまった。
しかし、考えてみれば悩みの種が自分から離れて行ってくれた事で清々するはず
なのだが、何故今必死で追いかけているのか浩平自身よく分からなかった。
そのもやもやした思いと反発するかのように、身体は猫を追いかけ走り出していた。
「ったく、なにやってんだ俺は」
爪で引っ掛かれた手の甲が少しズキッと痛んだが、そんな事は全速力で走っている
今はさして気にもならなかった。気紛れな猫の性格は、多少なりとも理解していた
つもりだったのだが予想以上に予想外な行動に正直甘く見ていた感があった。
「はぁっ、はぁっ、何処にいるんだよ……」
息を切らしながら力なく呟いた浩平は、しかしまだ走る事を止めようとはしなかった。
無我夢中で走ってきて、いつしか閑静な住宅街へと迷い込んでいたが、本当に猫がこっちに
逃げてきたのかどうか自信は無く、もうほとんど見失ってしまった状態だった。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ〜〜」
大きく息を吐いて、とうとう浩平は立ち止まってしまった。呼吸を整えて住宅街を
ゆっくりと見回してみても、猫の姿は影も形もなかった。
「見失ったか……」
しばらく入り組んだ路地を右往左往して探してみたが、やはり牛のような模様の
猫は見当たらなかった。
「もしかしてこっちに来てないんじゃないのか?それとも、元の飼い主の所に帰ったのか……」
それならもう追う必要は無いのかもしれない、一度捨てられて再び受け入れられるか
分からないが、それがあの猫の選んだ行動なら……。
「って、俺なに考えてんだ。相手は人間じゃないんだぞ」
どうかしてると自分で思うのだが、まるで人間の言葉を理解しているような
仕種をされた事を思い返すとそう考えられずにはいられなかった。
「……もう、行くか」
かなりの落胆を隠し切れず、肩を落としてもう一度周りを見回してから
住宅街を去ろうとしたその時、
「にゃあぁぁぁん」
微かにだが、確かにそんな鳴き声が浩平の耳に飛び込んできた。
それを聞いた瞬間、ある確信に近いものを感じていた。あの猫だ!
「おい!何処にいるんだ!!」
近くを通る通行人が大声を出す浩平を不信そうに見ていたが、そんな事には目もくれず、
転びそうな勢いで駆け出していた。ただその声のする方へと……。

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「第2話です。とりあえず、あいだ開けずに書けました」
つっこみ瑞佳:長さが第1話と全然違うんだもん。
「それはいつもの事なので気にしない気にしない(^^;)。しかし、登場人物が
浩平と猫だけだからちょっと行き詰まってきたみたい……」
つっこみ瑞佳:ホント、色気の無いSSだもんね。
「なんだよそれ(^^;)。でも今の所、他のヒロイン達は出すつもり無いです」
つっこみ瑞佳:そんなんで、続き書いてけるの?
「も、もしかして辛くなったらヒロイン出すかも(^^;)」
つっこみ瑞佳:はぁ〜。
「ねえ、なんか毎回溜息ついてて疲れない?」
つっこみ瑞佳:誰のせいだと思ってるんだよ!!
「ひょっとして……あたし?」
つっこみ瑞佳:ひょっとしなくてもだよ!もう次の投稿は二日後に決定だもん!
「ぐはぁっ!そ、それだけはヤメテ…」
つっこみ瑞佳:(無視)それではまたねっ!
「次回は感想だよもん。でも最近おっつかないの〜(爆死)」