終わらない休日 第1話 投稿者: ひさ
「おい、何そんなに見つめてんだ」
「…………」
「黙ってたらなんにも分からないだろ」
「…………」
「ったく……残念だけど俺は連れてってやれないぞ」
「…………」
「長森だったらよかったのにな。恨むんなら長森を恨めよ」
「…………」
「じゃあな、ねこ」
「みゃあーーーーーーーーーん」
その光景は、端から見ればかなり間の抜けたものだった。


今日は日曜日、そして明日は祝日であって当然の如く学校も休みなわけで……要するに浩平は暇だった。
そんな時は大抵商店街へ繰り出し、本屋で立ち読みしたりCDを眺めたりゲーセンに
寄ったりするのだが、今日もその例に漏れず遊び歩くつもりで、そしていつも
通り夕方には家に辿り付く……筈だったのだ。
しかし太陽の光は頭上にさんさんと照っており、そんな時間ならゲーセンで遊び
まくっている所なのに、浩平の足は何故か自宅の方へと向かっていた。
そして腕には浩平にそんな行動をさせている原因――一匹の猫が抱かれていた。
白地に黒が混じった模様はなんとなく牛を連想させ、そこそこ成長している為、
抱いている浩平の腕に温もりと一緒に直に結構な重量が伝わってくる。
特徴的なのは、今も抱かれながら浩平をじっと見つめている大きくてくりっとした瞳で、
こちらからは何を考えてるのか窺い知る事は出来そうに無かった。
「ファ〜〜〜」
「ったく、捨てられたってのにのんきな奴だなおまえ」
突然大きな欠伸をする猫を眺める浩平の顔には、呆れながらもつい微笑みが漏れていた。

そもそもの発端は一時間程前、商店街の店がそろそろ開店する頃を見計らって
家を出た浩平が途中で通った公園で、誰が見てもそこではあまりに不似合いな
ダンボール箱を目撃してしまったからだった。
それは浩平の中ですぐに好奇心となり、ごく自然の成り行きでダンボールの方
に導かれて行った。中には、小さく丸まっていた猫と『欲しい方貰って下さい』
という半ば殴り書きのようなメモが無造作に放り込まれていた。

「責任が持てないんなら、最初っから飼うんじゃねーっての……っておまえに言っても仕方ないよな」
抱かれて気持ちが良いのか、眠そうに目を細めている猫の頭を優しく撫でながら、
浩平は見付けた時の事を思い返してそんな言葉を漏らしていた。
結局の所、こういった状況を目の当たりにした時、黙って見過ごす事の出来ない
浩平「らしさ」が猫を連れて行く事への大きな要因になったのだが。
「でもどうするかなぁ、こいつ。俺んとこじゃ由起子さんに訊いてみないとわかんないし……」
拾っておいてそりゃ無責任だにゃ〜、と猫が言いたくなりそうな浩平の台詞だったが、
「ま、長森んちに持ってきゃいいか」
生憎浩平には、その言葉通り一番頼れる「アテ」があるのだった。


しかし、その浩平の思惑は脆くも崩れ去ってしまった。
「し、しまったぁ!長森んち、連休で家族旅行に出掛けてたんだった!!」
幼馴染みの家まで来て、ようやく浩平はその事を思い出していた。

ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポ〜ン!

猫を抱えて只でさえ押し難いのに、それでもほとんど自棄になってインターホンを
押し続けていた浩平だったが、やがてその行為自体虚しくなってしまいとうとう
諦めてしまった。
「せめて家の中の猫でも返事してくれよぉ」
確実に引き取ってもらえるだろうと信じて疑わなかった浩平にとって、一家不在という
のはかなりショックだったようだ。
もっとも、瑞佳を始めとしてここの家族はみんな愛猫家――浩平からして見れば少々溺愛し過ぎ
じゃないのかという程の――なので、引き取ってくれるのは確かだと思うのだが……。
これから、腕の中で気持ち良さそうに眠っている猫をどうすればいいのか
考えなければならないと思うと、気が重くなる浩平だった。
「ふう……、とりあえず家まで連れて帰るか」
浩平はそう言い残して名残惜しそうに瑞佳の家を後にし、とぼとぼと重い足取りで自宅へと向かった。

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「はい!話数付けたストーリーは今回が初めてです」
つっこみ瑞佳:ふ〜ん、今回は少し長くなりそうだね。
「まあ、1話分は短めだけど」
つっこみ瑞佳:第1話ってことは、最低4話はあるって事だよね?
「なんで?」
つっこみ瑞佳:だって3話分なら前・中・後編ですむんだもん。
「あっ!そっか、そういえば……」
つっこみ瑞佳:まさかそのつもりだったとか?
「た、多分3話じゃ収まらないから大丈夫大丈夫、はははは……」
つっこみ瑞佳:笑いが乾いてるよ。
「短いですがなるべく期間あけないで書いていきたいです(希望)」
つっこみ瑞佳:なんか不安だよ……。
「それでは、また近いうちに……投稿できるといいなぁ(^^;)」
つっこみ瑞佳:……はぁ〜。