ホワイト・レイン 投稿者: ひさ
「み、瑞佳。明日ちょっと俺んち来てくれないか?」
「……うん、いいよ」
そう浩平に告げられたのは、昨日の学校での事だった。

サァァァァーーーーーーーーーーーーーー

あまりに静かで、部屋の中にいた時には気付かなかったけど、
外にはいつのまにか雨が降っていた。
「それじゃ、少し出掛けてくるからお留守番よろしくね」
わたしは、玄関まで出迎えてくれた猫達にそう言って玄関のドアを
閉めると、傘を広げて雨の中へと進んで行った。

「あの時はたしか雪が降ったんだっけ」
丁度1ヶ月の出来事を振り返りながら、わたしは空から落ちてくる
雨を眺めてそう呟いていた。
多分、生涯忘れる事のない素敵な思い出――浩平がわたしの中で幼馴染み
以上の存在だという事に気付いてからの、初めてのバレンタインだった。
浩平がどうして今日わたしを呼んだのか、昨日から何度も何度も自分に問い掛けて
いたけど、今日の日の事を考えると導き出される答えは全て同じになってしまう。
「やっぱり、ホワイトデーの事なのかな?」
別にわたしは見返りを求めてチョコをプレゼントしたわけではないし、
浩平だってそんな事は判ってると思うんだけど、それでも心の中では
どうしても期待してしまう自分がいるのだった。
「まだそうだと決まったわけじゃないのに、何考えてんだろわたし」
どんなものをプレゼントしてくれるのだろう……そんな事を思ってしまう自分に
ちょっと自己嫌悪してしまう。
「雨、止みそうにないなぁ」
気を紛らわせるようにもう一度空を見上げてみても、相変わらずどんよりと
した雲が覆っていて、期待と不安が混ざったわたしの気持ちを何となく反映
しているような気がした。
そんな色々な事を考えていたせいで、ほとんど歩いた時間も感じさせず
いつの間にか浩平の家がすぐそこまで迫っていた。


ピンポ〜〜ン

わたしはインターホンの前に立ち、緊張して僅かに震える指でボタンを押す。
しばらくして、ガチャリとドアが開き浩平が出てきた。
「……待ってたぞ、瑞佳」
「うん」
その浩平の言葉に、不安など一気に吹き飛んでしまい嬉しくなったわたし
だったけど、その直後に浩平の姿が妙である事に気付いていた。
「浩平どうしたの、その格好」
「うん、まあ、とりあえず中入れよ。寒いだろ?」
雨は降っていても気温はそれほど低くなかったので特に寒くはなかった
のだけれど、このまま外に居ても濡れるだけなのでわたしは浩平の言葉
に従って中に入ることにした。
「浩平、どこかに出掛けるの?」
「う……ん、それはだな、えっと……」
そう、浩平の格好は家の中でくつろいでいるような服装ではなくて、まるで
これから何処かに出掛けるような服装だった。
しかも、わたしは玄関に入ったのに浩平自身がなかなか家の中へ上がろうとしないのだ。
再び不安が湧き上ってきてしまったわたしが困惑した表情を浮かべて浩平を
見ていると、急に何かを決意した様に突然少し大き目の声で話し掛けてきた。
「み、瑞佳っ!」
「えっ!なに!?」
「あのさ、今日、その、ホワイトデーだよな」
「うん」
「その事なんだけど、その……」
さっきから何とも浩平の歯切れの悪い言葉が、わたしは気になって仕方が
なかったけど平静を装って問い掛けてみた。
「どうしたの、浩平?」
「悪いっ!実は俺、バレンタインのお返しがしたくて、でもホワイトデーって何を
あげればいいのかよくわかんなくてなんにも買ってないんだ」
「えっ?」
「それで今日一緒に買いに行こうって思って、その、おまえを呼んだんだ……」
「浩平……」
わたしは今、心の底から喜びをを感じていた。何かを貰ったりする形でなんかじゃなくて、
浩平のその気持ちこそが本当に欲しかったものだったから……嬉しかった。
「うん……。今日の予報だと一日中こんな天気らしいから早く行って来ようよ」
玄関を開けて雨が降りしきる外へ出ながら、わたしは浩平にそう答えていた。
「ああ……こめんな」
「ううん、浩平が誤る事なんて全然ないよ。わたし、浩平の気持ち嬉しかったから」
「そっか、ありがとな」
そう言って浩平が傘を広げて外に出た時、ようやく家の中では違和感があった
その服装が景色にぴったり合わさった。
「それでさ、ホワイトデーって普通どんなものあげればいいんだ?」
「ふふっ、それはね……」
渡す本人にそんな事を訊いている浩平が何だかおかしくて、わたしは
つい苦笑を漏らしてしまっていた。


サァァァァーーーーーーーーーーーーーー

ふと、空を見上げてみる。今だにどんよりした雲だったけれど、これから浩平と
過ごすひとときに胸躍らせるわたしの心はもう映してはいない。
やがて浩平とわたしの姿は、いつまでもいつまでも静かに降りしきる雨の中に溶け込んでいった。

________________________________________

こんにちは!今日はいつものうるさい奴は居ません(^^;)。

一応、1ヶ月前に投稿した「バレンタイン・スノウ」の続きという事で
作中では、浩平は『瑞佳』と呼ぶ事にしています。
それと、ゲーム中のこの時期だと悠々とこんな事してるなんて不自然かも
知れませんが、今回はゲーム中での出来事を切り離して純粋にホワイトデー
の事だけを書いてみました。でも、ホワイトデーにあげるものなんて
いくら浩平でもわかるよなぁ、と思ったりして(^^;)。

それでは〜