母娘雛 投稿者: ひさ
「……ん……むぅ……ん……みゅ……」
私は、この子が完全に熟睡しているのを確かめて、そっと部屋の扉を閉めた。
「さてと、早く準備しなくちゃ」

明日3月3日は桃の節句、ひな祭りの日だ。
でも、この家ではまだ雛人形を飾っていない。実は私がわざと出していなかっただけなのだけれど……。
「繭は喜んでくれるかしら?」
ちょっと子供っぽくて母親の私から見ても実年齢より幼く見えるあの子だけど、もういい年だし
こんな物を出しても嬉しがらないかもしれない――そう思うと、なかなか飾る事が出来ない。
それが今まで出せずに躊躇している理由だった。
でも、前日になってようやく決心がついた。やっぱり、どう思われようと見せてやりたい。
だって私の雛人形は、お母さんから貰った大切な宝物だったから……。
そして今度は、私の手から直接あの娘に贈ってあげたいと思っている。
あの子に見せるのは今回が初めてだけど、今まで母親らしい事をあまりして来なかった分
これからは精一杯愛情を注いであげたい、という思いだった。

「おかしいわね、たしかこの辺にしまっておいたはずなのに……」
あの子の隣りの部屋なのでなるべく音を立てないように探していた私だったが、どうやら随分長い間
押入れの中から出さなかったせいで相当奥の方に入ってしまったみたいだ。
僅かな物音でも結構敏感に反応する子なので、必要以上に神経質になりながら中の物を少しずつ出してゆく。
そして半分くらい引っ張り出してから、はたとある事に気付いた。
「あっ!そういえば、あれは繭の部屋にしまっておいたんだったわ」
そうなのだ。ここだと沢山の荷物に紛れて分からなくなりそうだったので、
私が自分でこっそりあの子の部屋にしまっておいたんだった……。
「どうしよう。今探しに行けば、繭が起きてしまうかもしれないし……」
少しの間悩んで、それでもあの子にどうしても見せてやりたいという思いから、私は結局探しに行くことにした。


先程去った時と同じく、私は部屋の扉をそーっと開けて娘の寝顔を覗った。
「……ん……みゅ……んぅ……みゅ……」
(大丈夫、よく眠っているわ)
そう自分に言い聞かせて、この子が起きない様に早いところ雛人形を出してこの部屋から退散しようと思った。
物音を立てないように押入れを慎重に開けて行き、中を覗いてみる。
ほとんど真っ暗で手探りの作業だったけど、場所を大体把握していたのでそれは程無くして見つかった。
(あったわ)
中から出てきたのは、しっかり蓋が閉められた少し大きめの木箱がふたつ。
それを両脇に抱えて静かに部屋を出て行こうとしたその時、
「ん……お…かあさん?……」
背後から聞こえてきた突然の声に、私は思わず身体をビクッと震わせてしまった。
「ま、繭……」
そう言って振り返る私だったが、次の瞬間安堵の溜息が漏れていた。
「……う……ん……みゅ……ん……」
どうやら寝言だったのか、それとも僅かに目が覚めてまた眠ってしまったのか、
とにかくこの子はベッドの中でぐっすりと寝息を立てていた。
「おやすみなさい、繭」
ホッとした私は寝返りでずれた布団をかけ直し、そっと髪を撫ででからこの子の部屋を後にした。


木箱を抱えて居間に足を運んだ私は、そこで蓋を開けてみる事にした。
出てきたのはお内裏さまとお雛さま。少し年季は入っているものの、まだまだ十分見栄えのするものだった。
「なんだか……とっても懐かしいわね」
そういえば小さかった頃、友達の家に遊びに行って豪華な雛飾りを見て羨ましがって、
お母さんに買って買ってとねだって困らせたこと事があった。
そんな私にお母さんはこの雛人形を見せてくれた。その時、羨ましがっていた事がまるで嘘の様に心の中から消えていた。
それはお母さんが全て自分の手で、私の為に作ってくれたのだと知ったから。
しばらく過去を懐かしんで雛人形に魅入っていた私には、その時居間の戸が開く音など全く耳に入っていなかった。
「あ、おひなさま」
「えっ!?」
私は予期せぬ言葉に心底驚いた。なんと、てっきり寝たはずだと思っていたこの子が私の目の前に立っていたのだ。
眠い目を擦りながらとことこ近付いてきて、私の隣りにちょこんと座り興味深そうに雛人形を眺め出した。
「繭……」
そんなこの子の姿を見ていると、どうしようもなく愛しくて自然と顔が綻んでしまう。
最初この子に見つかった時は見付かってしまい落胆したけど、次第にそんな事はどうでも良くなっていった。
「明日驚かせようと思ったのに、見つかっちゃったわね」
「ほえっ?」
私の言った言葉の意味がよく解からなかったのか、不思議そうな顔をして私を見つめる。
何か話そうと言葉を捜していたが、やがてこの子の方から私に語り掛けてきた。
「これおかあさんの?」
「ええ、そうよ。でも明日からはあなたの物よ、繭」
「ふえっ?」
「これはね、お母さんのお母さん――繭のおばあちゃんが作ってくれたものなの」
「おばあちゃん?」
「そうよ。ねえ、繭はもっとたくさんお人形のある方がいい?」
「ううん」
首をふるふると振って再び雛人形の方に視線を戻し、じっと眺めている。
そして、今度はそのままの態勢で独り言のような言葉を呟いた。
「きれいだね」
「本当にそう思う?」
「うんっ!」
ニッコリと笑顔で頷くこの子を見て、私はもうひとつ渡すべきものを今ここで贈る事にした。
明日渡そうと思って、後ろ手に隠し持って側に置いていたそれをさっとこの子の前に差し出す。
「繭。これは、お母さんからあなたへの贈り物よ」
「ふわぁ〜」
それは、私が繭の為に作った雛人形だった。小さくて形もいまいちだけど、それでも私なりに精一杯の
思いを込めて作ったつもりだ。そう、昔お母さんが私にそうしてくれたように……。
私からそれを受け取ったこの子は両手の掌の上に乗せて見ていたが、そのうち私が思いも掛けぬ行動に出ていた。
「おとうさん、おかあさん、みゅ〜」
私の雛人形をお母さんのお内裏さまとお雛さまの間に並べて、指を指してそう呼んでいたのだ。
これはまるで……そう、まるで家族の姿そのものだった。
「繭……あなた……」
気が付くと、この子を抱き締めていた。涙が遂に溢れて止まらなくなってしまった。
どうして泣いてしまったのだろう?自分に問い掛けても明確な答えは出なかったけど、多分この子の
優しさがとても嬉しかった事と、それを十分理解していなかった私自身への悔しさからだと思う。
「おかあさん、あったかい……」
この子は自分がどうして抱き締められているのか、私がどうして泣いているのか、もしかしたら全部解かって
いるのかもしれない……静かに身を委ねている姿を見ていると、そう思えてならなかった。

「ん……みゅ……すぅ……」
やがてこの子は、私の腕に抱かれて小さな寝息を立て始めた。
ふと壁掛けの時計を見やると、もう深夜0時を少し過ぎてしまっていた。
「もうこれは、あなたのものになったのよ。あとでちゃんと飾りましょうね」
私は机の上に3人仲良く並んでいる雛人形を眺めながら、先程言った言葉をもう一度そっと語り掛けた。

おやすみなさい……繭……。

________________________________________

「な、なんとか間に合ったぁ〜。ひな祭りのお話です」
つっこみ瑞佳:でも、書く前は繭ちゃんがメインの話じゃなかったの?
「ははは……何でだろ(^^;)。ともかく華穂さんメインになりました」
つっこみ瑞佳:繭ちゃんの描写が全然なってないんだもん。
「う〜ん、繭はやっぱりゲーム中でもまともな会話が少ないからホントに難しいよぅ。
 でも、華穂さんは全て自分イメージで書いたけど割とよく表現できてると思わない?」
つっこみ瑞佳:ううん、全然だもん。
「ぐっ……(マジでつっこみ2割増しなのか)」
つっこみ瑞佳:今日に間に合わせようと、急いで雑に書いたのが見え見えだよ。
「ひ、ひどいわ。こういうネタは期間限定だから一生懸命書いたのにぃぃぃ!!」
つっこみ瑞佳:……その、オネェ言葉を今すぐ止めないと次回からつっこみ5割増しにするもん。
「…………はい」
つっこみ瑞佳:それじゃあ次回は……感想だから明日お会いするもんっ!
「もう好きにして……(TT)。でもなるべくなら↑のいう事は真に受けないで下さいね(爆)」