−斜陽−【浩平SIDE】 投稿者: ひさ
(……はぁ〜)
俺はこの学校の帰り道、何度目か分からなくなる程の長森のような溜息を心の中で吐いた。
その原因(だと俺は思っている)長森瑞佳は、すぐ横で多少うつむきがちに歩いている。
長森は俺の幼馴染みだった。
過去形なのは、それが「恋人同士」という名に変化したからだ。
あまりにお互いの距離が近すぎて、好きだという感情すら自然なものと思っていたけど、
それが違うという事に気付いたのはごく最近……そして俺と長森の気持ちはひとつになった。

思えばそれからだ、俺と長森の間で極端に会話が少なくなったのは。
学校だと平気で話せるのに、ふたりきり――特に学校からの帰り道――になると、途端に何も話せなくなってしまう。
教室はクラスの連中がいるから、長森と話していても気を紛らす事が出来る。
でも俺の視界に映るのが長森だけになると、動悸が治まらない、まともに顔を見る事が出来ない、言葉を発することが出来ない……何も出来ない。
それでも一緒に帰る事を拒まないのは、少しでも長くこいつと同じ刻を過ごしたいと思ってるからなんだろうか。
いや、これも俺達にとってはもう自然な事なのかもしれない。
(くそ〜、こんなの全然俺らしくないぞ)
そう思いながらも話す言葉が見つからない俺は、ちらちらと横目で長森を見やる……なんだか情けない。
長森は、相変わらず視線を地面の方に向けたまま沈黙を保っている。
まるで俺が何か話をするのを待ってるように見える……のは多分気のせいだろうな……。
(……はぁ〜)
自分でもうんざりしている心の中の溜息を、しかし俺はまだ止められずにいた。


どれくらい沈黙が支配していたんだろうか。心の中で幾度となく繰り返した溜息も、もう疲れてネタ切れだった。
太陽が更に傾いたのか、さっきよりも影が長く延びていた。
(ついでにこの沈黙も延びる影の先まで持ってってくれよ……)
それを見ながら、俺はそんな下らない事を考えていた。

ここの所、やけに家路が長く感じる。正確には長森と別れるまでの間だけど……。

「それじゃね、浩平」

別れ際に長森のその言葉を聞くと、沈黙から開放された事に少しだけホッとする。
でも、それ以上にまた今日も話せなかったな…と後悔してしまう。それで結局なにも言えないまま、

「ああ……」

って、素っ気無い言葉で別れてしまう。
本当は俺から話し掛ければ、長森だっていつもみたく相槌を打ってくれるだろうに…と思う。
(あ〜あ、ホント俺らしくないな……)
そういえば、長森はこの状況をどう思ってるんだろうか?
何となく想像は付くけど……ただ横目で表情を見てる限りでは、心の中を窺い知る事は出来ない。
そう思って、つい長森の方に顔を向けてしまった俺は、偶然にも同じ瞬間こちらを見たらしい長森と見事に目が合ってしまった。
「あっ……」
長森は驚いた顔して俺から目を背けた…ように見えた。
表現が曖昧なのは、俺も長森と全く同じ行動を取ってしまったからだ。
しかも悔しい事に俺のほうが一瞬先に目を背けてしまったような気がする。
「ふふっ」
その時、長森がまるで俺の心中を見抜いたかのように微笑を洩らした。
「な、なんだよ」
「ううん、なんでもないよ」
「……」
恥ずかしさの余り動揺しまくった俺は、長森に向けていた顔を照れ隠しにわざとゆっくり反対側へ回していた。

(あれっ!?この感じは……)
ふと、今までぎこちなかった空気が、普段と同じものに変わった感じがした。
(今なら、口を開けば何か話せるような気がする)
そう思った俺だったけど、先に話し始めたのは意外にも長森の方だった。
「ね、浩平。最近あんまり話をしてないよね……」
「ああ……」
「わたしは、話そうにも言葉にする事が出来なかったよ……浩平はどうしてずっと……?」
長森のその言葉を聞いて、俺はようやく話せる言葉を自然に見つけ出す事が出来た。
「多分、理由はおまえと同じだろ。だから考えてる事なんて…言葉なんか無くても分かってたさ」
そして、汗ばんだ手を服で拭って長森の方へ差し出す。恥ずかしくて相変わらず顔は背けたままで……。
ぎゅっ…。
長森が無言で俺の手を握り返す。小さくて、あったかくて、とてもやわらかな手だった。
こうしているだけで、本当にお互いの想いが伝わるように感じた。


日没が近くなり、気が付けば俺と長森の影はさっきよりずっと長く延びていた。
(本当に、延びる影のずーっと先に持ってってくれたみたいだな、沈黙を……いや、わだかまりかな?)
結局二言三言話してから、またお互い無言のままが続いている。
でも今までと感覚が違うという事は、しっかり握り合っているこの手が何よりの証明になっていた。
(明日からは、また普段通りに話せそうだな)
俺はそんな事を考えながら、進む方向へ延びている影の先端をじっと見つめていた。

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つっこみ茜:……どうして私がこんな所にいるんですか。
「いけだものさんに捧ぐ!という事で今回だけの限定で来てもらったんだよ(^^;)。
 さあ!その静かながらも辛辣な口調で思う存分つっこみを入れてくれぃ!!」
つっこみ茜:……嫌です。
「う〜ん、予想通りの返答だけど……なぜ?」
つっこみ茜:以前も言いましたが、私は大爆笑ギャグもの以外興味ありません。
「それはもういいって(^^;)」
つっこみ茜:……ひとこと言わせてもらえれば、遅すぎです。
「ははは……それは自分でも分かっとります……。でも双方の視点から書くのって難しかったんだよぅ」
つっこみ茜:……そう言えば、つっこみ瑞佳さんからのメモを預かってきました。
「どれどれ、ちょっと見せて」

『次回から、つっこみ2割増し決定だから覚悟しておくんだもん』byつっこみ瑞佳

「ぐはぁ!!」
つっこみ茜:……確かに渡しました。では私の用件は果たしたのでもう帰ります、さようなら。
「さ、さよならー、今日はありがとね……はぁ、次回が恐い(爆)」