バレンタイン・スノウ 投稿者: ひさ
「……」
「……」
なんだか気まずい……。
お互いの息遣いだけが妙にはっきり感じられる。
こうも静かだと、高鳴る鼓動までこいつに聞こえてしまいそうだ……。


「浩平、ちょっと付き合ってもらえるかな……」
長森はそう言って、休日にわざわざ俺の家まで誘いに来た。
今日は2月14日……意味するものはお互い分かっている。
あいにく今年は日曜日だったので学校で、というのは無理な事だった。
実は前日に貰えるかも、と密かに期待してたのだけれど……それもなかった。
そのとき、俺は急に不安に駆られた。

本当に貰えるんだろうか……。

去年までは、ごく当たり前のように……そう、言わば「義理」のようなかたちだったから
こいつから貰える事が当然の事と思っていた。
でも、今年はお互い好きだと気付いて、そして心を重ね合わせてから初めての事なんだ。
長森だって俺だけの為のものを用意してくれているさ。だから今日俺を誘ったんだ……そう思いたい。


しかし、いったいどこまで歩くんだ?長森はずっと黙ったまんまだし、かといって
俺の方から訊くのも何となくはばかられた。
……あれっ?そう言えば、何か見覚えのある風景だな…それにこの道順はもしかして……、

そして辿り着いた先は……学校だった。

「浩平」
「あ、な、なんだ?長森」
急に声を掛けられたもんだから、つい間抜けな声を上げてしまった。
「はい、これ」
うつむきがちに長森が差し出したそれは、小さな箱に綺麗にラッピングされたものだった。
俺の胸の鼓動は、嬉しさと安堵感で今や最高潮に達していた。
「ありがとな。でもなんで学校なんだ?」
「うん……だってここは、浩平との思い出が一番たくさんあるところだから、
この場所で渡したかったんだよ。今年からは特別な日になったから……」
「なが……瑞佳……」
その瞬間、俺は瑞佳の事がどうしようもなく愛しく思い、気が付くと強く抱きしめていた。
「こ、浩平!?」
瑞佳はびくりと肩を跳ね上がらせたけど、やがて体の強張りがすーっと抜けていくのを感じた。
俺と瑞佳は、どちらからともなく顔を近付け、そして……唇が重なり合う……。
「ん……」
軽い触れ合い、でも温もりは十分過ぎる程に伝わってくる……。


……どれくらいの時が経ったのか……いつしか2人の唇は自然に離れてゆく……
重ねた時と同じように、どちらからともなく……。


……その後、しばらく続いた沈黙を破ったのは瑞佳の方だった。
「ね、浩平。その包みを今開けてみてよ」
そう瑞佳に言われて、俺は手に持っている箱を眺めた。
「いいのか?」
「うん」
瑞佳は、少し頬が上気した顔を縦に振る。
俺は最初少し戸惑ったけど、慎重にラッピングを解いていく。
そして、出てきたものは真っ白な粉雪をまぶしたホワイトチョコレートだった。
「これは……」
「これはね、浩平とわたしのこころをイメージして作ったんだよ……」
「ああ」
俺には瑞佳が言葉にしなくても、これの意味する事がハッキリと解かっていた。


幼馴染みという枠を越えた2人は、だけどそのこころはまるで淡い粉雪のように
何色にも染まってなく、まだ純粋で真っ白で……そんな気持ちがぎゅっと詰まっているんだ。


「浩平とわたし、来年の今頃は何色に染まっているんだろうね」
「さあな……」
そう答えて、ふと天を仰いだ……あれは……。
「あ!?ほら見てっ!雪だよっ浩平!!」
どうやら瑞佳も気付いたらしい。まるで小さな子みたいにはしゃいでいる。
「ああ。どうりで……日が照ってるってのに、やけに冷える訳だ」
「……そろそろ帰ろっか」
「そうだな」
俺達は、しばらく舞い降りてくる雪を眺めてから学校を後にした。


最初ちらほら舞っていた雪は、いつしかとめどなく空から溢れ出ていた。
その情景は、まるで2人のこころを街中に注いでいるかのようだった……。

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こんにちは!SS書き初心者のひさです。
皆さんに便乗して、バレンタインSSを即興で書き上げました。
書いてるときは勢いだったので気になりませんでしたけど
あんまし読み返したくないです、恥ずかしいから(^^;)。
あ〜なんか書いてて虚しくなってきたよ……ちくしょう(爆死)。

それでは〜(^^;;)