−斜陽−【瑞佳SIDE】 投稿者: ひさ
学校の帰り道……夕日を背に受け、浩平とわたしは肩を並べて歩いていた。
いつもと同じ、なのに最近今までとは何か違う感じがする。
まわりを包む空気が、どこかぎこちないんだ……。浩平も、その事は感じていると思う。
それは浩平と本当に思いを確かめ合った時からのような気がしていた。
何か発しようとすると、どうしようもなく胸が熱くなり、頭が真っ白になる。
でもね、同時に思うんだ。ああ、わたしはこんなに浩平の事が好きなんだなって……。


しばらく歩いて、少し影が延びている事に気付いた。
妙に足音だけが高く響いていると感じるのは、わたしの気のせいだろうか。
どれくらいそうしていたのか、浩平もわたしも相変わらず無言のまま……。

「それじゃね、浩平」
「ああ……」

最近、帰り道で交わす言葉はお互いその一言だけ。
「今日こそは」と思いながら、きっかけを掴めないまま時は過ぎてゆく。
そして、浩平と別れてから「明日はきっと……」ってまた思うのだろうか。

ふと、浩平の方をずっと見てなかった事が気になって、ちらっと顔を向けようとした。
それは、本当にほんの一瞬の行動だった。
でもその瞬間、まるで引き寄せられるように浩平と目が合ってしまう。
「あっ……」
わたしは驚きと恥ずかしさの混じったつぶやきを漏らし、浩平から目を背けた。
同時にそのつぶやきが浩平の口からも漏れていたのに気付いたのは、その直後だった。
どうやら、浩平もわたしと同じ行動をとったみたい。
なんだかそれがおかしくて、つい微笑が漏れてしまう。
「ふふっ」
「な、なんだよ」
「ううん、なんでもないよ」
「……」
浩平は少しこちらに顔を向けてから、照れたようにそっぽをむいてしまった。

(えっ……!?)
その時、浩平とわたしのまわりに流れていた空気が変わったような気がした。
重い沈黙を乗せた空気は払拭され、代わりにふわっと和やかな空気が2人を包む……。

あ……今までの、あの感じだ……。

そう思ったわたしの口から、それまでどうして話せなかったのかと驚くほど、
自然に言葉が発せられていた。
「ね、浩平。最近あんまり話をしてないよね……」
「ああ……」
「わたしは、話そうにも言葉にする事が出来なかったよ……浩平はどうしてずっと……?」
「多分、理由はおまえと同じだろ。だから考えてる事なんて…言葉なんか無くても分かってたさ」
そう言って、浩平はあさっての方に顔を向けたままわたしにすっと手を差し延べる。
(浩平……)
わたしは、無言でその手をぎゅっと握り返す。
それだけで浩平の想いがわたしの中に染みわたってゆく、大きくてあたたかな手……。
すると長く延びた二人の影が重なり合う。
そう、まるで光射すステージでダンスを踊っている様に……。


日没が近付くに連れて、影は更に長く長く延びていった。浩平とわたしの進む方へ真っ直ぐに……。
もうすこし・・・もうすこしだけわたし達を照らしていて。
この、限られた時間に感じる事の出来るふたりだけの世界を……。

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みなさま、はじめまして!SS初投稿のひさと申します。

数日前からここでSSを読ませて頂いてるうちに、自分でも何か書きたいなぁと思い
こんなものが出来上がってしまいました(^^;)。
いずれ同じ場面で浩平側の視点でも書きたいと思ったので、今回は【瑞佳SIDE】としました。
稚拙な文章ですが、読んで頂けたなら幸いです。

それでは〜