「裕児さん、朝ですよ!!」
家の外から、元気な声が聞こえてくる。
「まだ寝てるんですか?」
玄関の扉が開いて、一人の女の子が入ってきた。
「さすがに、今日はもう起きてるよ」
「あはは、今日ですからね」
「あぁ・・・」
今日は、俺が受験した大学の合格発表日。その中でも、本命の発表の日だった。
「朝ご飯、食べました?」
「まだ」
「じゃぁ、何か作りましょうか?」
「何かじゃなくて、ご飯とみそ汁だろ?」
「おみそ汁、嫌いです?」
「そんなこと無いよ、特に、みつきちゃんが作ってくるみそ汁は、大好きだよ」
「おだてても、なにもでませんよ」
この子、岡田みつきちゃんは、俺の友人岡田の妹だ。
色々とあって、今ではたまにこうやって遊びに来て、時々ご飯を作ってくる関係になっていた。
と言っても、恋人と言うよりも、妹見たいな感じだけど、明るくて一緒にいて楽しい女の子だった。
「寒いと思ったら、雪が積もってたのか・・・」
カーテンを開けて窓の外を見ると、街はうっすらと雪化粧を施していた。
「道とか、結構凍ってましたよ。私、何回か・・・」
「どうかした?」
「な、なんでもないです。転んだだけですから」
「そそっかしいな」
「氷の上は・・・」
「上は?」
「上は・・・冷たかったです」
「それは当たり前だろう。氷の上が暖かかったら、なんか怖いぞ」
「そうですよね」
うーん、なんか変な会話だ。
「あ、ご飯出来ましたよ」
「わかった」
「暖かいうちに、食べてくださいね」
「了解」
みつきちゃんが、作ってくれたご飯を食べる。いつものことだけど、美味しかった。
一人暮らしの俺の朝はいつも素っ気ない物なので、こういう家庭的な味は、大変貴重だった。
「さて、行くか」
「はい」
大学は、ここから電車に乗って約1時間の所にある。朝食を食べ終えて、お茶を飲んだ後、俺達は目的地に向かって出発した。
「ここ、凍っているから滑らないように注意しなよ」
「はい。滑らないようにしますね・・・あっ!」
そう言ってから、みつきちゃんは口元に手を当てて慌てている。
「どうかした?」
「えっと、滑るとか、落ちるとか、今日は絶対に言わないつもりだったのに・・・」
「そんなの気にしない。駄目なときは、駄目なんだから」
「でも、もし私がそう言ったせいで裕児さんが大学不合格になったら・・・」
「そんなことで、駄目にならないよ。もし駄目だったら悪いのは俺だから」
「でも・・・」
相変わらず、変なところで暴走する子なだ、みつきちゃんは。
「とにかく、行くよ」
「・・・はい」
電車の中は、お互い無言だった。さっきの事もあるけど、会場に近づくにつれ、緊張してきた。
「大丈夫ですよ、きっと」
そう言って、微笑んでくれるみつきちゃんの存在は、ありがたかった。
「・・・どうです?」
合格発表の会場は、凄い人だった。
「ちょっと待って・・・」
張り出されている数字から、俺の番号を探す。
「・・・あっ!」
「ありました?」
「よっっし!!」
「合格ですか?」
「おうっ!」
「おめでとうござます」
どうにか、この学校に合格することが出来たみたいだった。
少しの間、みつきちゃんと合格したことを一緒にはしゃいで喜び合った。
「そうだ、何かお礼をしないと」
「え?」
「俺が、無事合格できたのも、みつきちゃんのおかげだしね」
「そんなこと無いですよ。裕児さんが頑張ったからです」
「俺一人だったら、今年も浪人していたと思う。一人になって、落ち込んでいたのを励ましてくれり、美味しいご飯で力づけてくれたからね」
「そ、そんなこと無いです」
「あんまり、高い物とかは無理だけど、何か欲しい物とかない?」
「・・・良いんですか?」
「俺が出来る範囲ならだけどね」
「では、一つお願いしても良いですか?」
みつきちゃんは、ちょっと考えてからそう言った。なんか照れているみたいで、少し俯いている。
「なんだい?」
「あの、『みつきちゃん』ではなくて・・・」
恥ずかしいのか、だんだん小声になっている。顔を赤くしながら、上目遣いで、こう言った。
「『みつきちゃん』ではなくて、『みつき』って呼んでください」
「え?」
「そう呼んでくれると、嬉しいな」
何となく、今までみつきちゃんと呼んでいた。
それを呼び捨てにするだけだから、簡単なことだけど、なぜか照れてしまう。
俺って、こんなに純情少年だったのか?
「じゃぁ・・・、みつき」
「はい」
そう笑顔で返事をする女の子。
今日は、合格発表。無事に大学に合格して、人生の分岐点を通過した日と言っても良いだろう。
だけど、それ以上に大きな分岐点を通過したのかも知れない。
-----------------------------------------
ちょっと時期的に早い気もしますけど、合格発表を絡めた鈴うたのSSです(^^;;
鈴うたSSで、あの時期以外の話考えると、結構辛いと思いました(^^;;
鈴うたのSS少なくてちょっと寂しいです(涙)
鈴うたのSSある場所知っている人がいたら、教えて欲しいです(^^;;
では、今回はこれで失礼します。http://www2u.biglobe.ne.jp/~palu2/