向日葵の笑顔 最終話  投稿者:パル


何かを変えたいと思った。自分を、変えたいと思った。
 あの日の猫のように、どんなにあがいても無駄な事はある。
 無駄だと知っていて、すぐに諦めていた今までの自分。
 それだけ、幼い日に経験したあの猫達との出会いと別れは強烈だった。

 「お疲れさまでした」
 一日の仕事を終え、家に帰る。今日一日、ずっとすずの事を考えていた気がする。
 すずは、仲の良くなった患者が死亡して、気落ちしていた。
でもこれは、この先も繰り返される出来事。俺の役に立ちたいと看護婦になったすず。
 でもそれは、この先も辛い思いを彼女にさせると言うことで、なんだか辛かった。
 あいつには、泣き顔は似合わない気がする。いつもの笑顔、それこそ健太が言っていた向日葵のような笑顔でいて欲しかった。

 「・・・いるのか?」
 灯りのついた部屋。いったん自分の部屋に帰り、一息いれてからすずの部屋に向かった。
 お隣さんというのは、こう言うとき助かる。紫姉に感謝しないとな。
 「うん」
 少し元気のない声。
 「入っても良いか?」
 「どうぞ」
 すずの部屋に入る。余り物はないけど、きちんと掃除がしてあって、こいつも女なんだと言うことを少し考えてしまう。
 「どうかしたんですか?」
 「ちょっと、すずの顔が見たくなったんだ」
 「・・・」
 「辛いか?」
 「うん。少しだけ・・・」
 すずの目は、赤くなっている。
 「どうする?」
 「?」
 「このまま、看護婦続けること出来るか?」
 「それは・・・大丈夫」
 「なんで?」
 「ゆうちゃんがいるから」
 「・・・」
 「ゆうちゃんは、お日様なんだよ」
 「お日様?」
 「健太君が言っていたんだよ。私は向日葵みたいだって」
 「それは、俺も聞いたよ」
 「でね、私が向日葵でゆうちゃんのことみているなら、ゆうちゃんはお日様で私を照らしてくれているんだよ」
 「俺は、お前に辛い思いをさせただけじゃないのか?」
 「辛いこともあるけど、楽しいこと、嬉しいこともあるんだよ。風はね、みんな知っているんだよ」
 風・・・。久しぶりに聞いたその言葉は、なんだか新鮮だった。
 「すずは、ゆうちゃんと出会って、変わったんだよ」
 「俺も、すずとであって、変われたんだ」
 「これからも、どんどん変わって行くんだよ」
 「そうだな・・・」
 変えようと思った事。変えてしまったこと。変えてしまった事が怖かったのかもしれない。
 (よくよく考えてみたら、俺ってお前のこと良く知らないんだよな・・・)
 再会してから今までの間、あの夏の時そのままだと思っていた。
 あの時の延長、突然不思議な少女がやってきて、住み着いてしまう。部屋だけでなくいつの間にか心の中にまで、その子は住み着いてしまった。
 だから、現実に戻ったとき、その子のことをどう扱って良いのか混乱して、あの時の延長のように感じていた。
 でも今は違う。同じ時間を過ごし、同じ痛みを感じている。そして多分、同じ喜びを感じてくれる。
 
「お別れは悲しいんだよ・・・」
 そう言いながら、すずは抱きついてきた。
 そして、そのまま泣き出してしまう。すずにとっての最初の患者のために、彼女は泣いていた。
 「俺が、そばにいてあげるから・・・」
 綺麗な黒い髪を撫でながら、優しく抱きしめる。
 「ずっと、一緒だよね?」
 「あぁ、勿論」
 今ならわかる。あの時、何かを変えようと頑張ったのは、無駄ではなかった。こうやって、再びすずを腕の中に抱きしめる事が出来たのも、あの日から頑張ってきたおかげだから。
  「俺はお前のことが好きだからな・・・」
 ずっと、気になっていた存在。俺を変えてくれた人で、多分これからも俺のことを変えていくと思う。
 「すずは、ゆうちゃんのこと、大好きなんだよ」
 「あぁ、だからずっと一緒にいような」
 「うん」
 
抱きしめていた身体を離して、お互いに向き合う。
 そして、お互いに色々なことを語り合った。

 今までのこと。
 あの夏よりも前のこと。
 今まで知らなかった、すずのことを色々と聞いた。
 今まで知らなかったすずの事を知って、もっとこいつの事が好きになった。
 看護婦になるために、一生懸命努力したすず。
 色々なものを見て、色々なことを感じていた不思議なすず。
 そして、それらのことを楽しそうに話すすずの姿が、とても愛おしかった。
 「ゆうちゃん?」
 話が一段落したとき、俺は再びすずを抱きしめていた。
 「・・・」
 「・・・」
 そして自然に重なり合う唇。
 この日、俺達は初めて同じベットの中で朝を迎えることになる。
 沢山の、幸せな気分と一緒に・・・。


 「先生、今日も一日、頑張りましょうね」
 「そうだな」
 ごく自然な会話。繰り返される毎日。
 「ゆうちゃんは、お日様なんだよ」
 と、すずは言ったけど、こいつも俺のことを照らしてくれるお日様なのかもしれない。
 お互いに、大好きな人のために笑顔でいる。
 大好きな人を追いかけながら、笑っている向日葵。
 俺がもし、お日様なら、頑張らないといけない。
 大切な向日葵の笑顔が、枯れないように。



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 無謀にもすずEND間の出来事に挑戦してみたSS、なんとか終わりました(^^;;;
 前と時間かなり開いているので、あらすじをつけたかったのですが、上手くまとめれなかったので、省略してしまいました(^^;;;
 HPの方に、全話収録してありますので、そちらを参照して下さい(^^;;

 今後も、鈴うたのSSが出来たら書いていこうと思ってます(^^;;
 最後まで読んでくれて、ありがとうございました。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~palu2/