向日葵の笑顔 第5話  投稿者:パル

 
 風は、いつだって世界を回っている。暖かく包み込んで、楽しいこと、悲しいこと辛いこと、全部を見つめている。

 私が目覚めたときから、世界はゆっくりと動き始めていた。長い間、風になっていた私は、この場所に辿り着いた。
 小さな病室、綺麗だけど何もない所。窓の外に広がっている一面の向日葵が、とても綺麗だった。
 優しい先生達。私が、ここから出るために必要なことを、色々と教えてくれる。私も、早くここから出て、あの人の役に立ちたいから、一生懸命頑張った。
 新条先生は、私に色々優しくしてくれた。特に、あの人に関することに、お世話になった。
 「今度から、そちらで働けるようになりました」
 「そっか。で、住む場所は決まったさね?」
 「それが、まだなんです」
 「じゃぁ、とっておきの物件があるんだけど、どうするさね?」
 私が、研修を終えてこの街に戻ってくるとき、アパートを紹介してくれたのも新条先生だった。
 「桑原?」
 お隣さんの標識には、そう書いてあった。
 「不満か?」
 引っ越しの手伝いに来てくれた新条先生は、不敵な笑みを浮かべている。
 「ちなみに、あいつは病院に泊まり込みになるように調整済みさね」
 どうやら、驚かせようと言う魂胆らしい。
 「楽しみですね」
 「そうだろ?」
 二人で、笑う。あの人、ゆうちゃんが驚く顔、早くみたいと思った。

 二人で過ごした時間。一緒に頑張る事が出来た。お仕事は、忙しくて、ゆうちゃんは大変そうだった。
 「先生と、看護婦さん、恋人なの?」
 子供達が、私のことをからかう。
 ここに来て、数日。仕事もだいぶ慣れて、今では子供達の笑顔をみるのが大好きになっていた。
 ゆうちゃんは、この子達のために頑張っている。私は、そのお手伝いを少しでもしたい。そう、思っている。
 「先生は、お姉さんの大事な人だよ」
 子供達にそうこたえて、微笑みかける。
 子供達は素直で、輝いている。たとえそれが、死と隣り合わせの生活でも、子供達は笑顔を絶やさなかった。

 「お姉ちゃんて、面白いね」
 最近仲良くなった、健太君がそう言った。この子は、かなり重い病気で、先日も私の目も前で倒れた事がある。
 「何が?」
 「だって、ずっと先生のこと見てるんだもん」
 「そう?」
 「うん」
 ゆうちゃんのことを、私はいつも目で追っている。どうやら子供達にはその事がばれているみたいだった。
 「面白いかな?」
 健太君の熱を測りながら、話しかける。熱はかなりある。それでも、この子は笑顔でいる。
 「先生のこと好きなの?」
 「うん」
 これは、本当の気持ち。
 「いいなぁ」
 「ん?」
 「好きな気持ちって、どんな気持ち?」
 健太君は、真剣に聞いてきた。
 「どんな気持ちって、ずっと一緒にいたいと思うことかな?」
 私にも、良く解らないけど、ゆうちゃんが好きという気持ちはずっと変わっていない。今まで、頑張って来れたのも、ゆうちゃんがいたからだった。
 「お姉ちゃん、結婚式には呼んでね」
 からかうように、健太君はそう言う。
 「もちろんだよ」
 みんなが幸せになれる場所。そんな場所があればいいと思う。
 風は、みんな知っている。
 楽しいことも、辛いことも・・・。

 「おはようございます」
 「おう」
 「徹夜ですか?」
 「まぁな」
 先生は、酷く疲れているみたいで、元気がなかった。
 「どうかしたの?」
 「なんでもない・・・」
 素っ気ない返事。
 「うー・・・」
 「あ、そうだ病室に変更がある」
 「入院ですか?」
 「昨日、健太が退院した」
 「え?」
 先生は、普通にそう言ったつもりだと思うけど、解るんだよ。いつも先生のこと見てたから、少しの変化でも、気づいてしまう。
 「健太の両親の都合で、急だけど、すずによろしくって、健太が言っていたぞ」
 「・・・そうなんだ」
 健太君は、私のことをすずとは呼ばないし、先生も患者さんの言葉を伝えるときは、患者さんが言ったときのままの言葉で言う癖みたいなものがある。
 だから、健太君ならお姉ちゃんと、私のことを呼ぶ。
 「・・・」
 「・・・」
 暗い沈黙。先生の気遣いは嬉しいけど、変えることの出来ない現実がここにある。
 「訂正した方がいいのか?」
 「・・・うん」
 私の頬を、涙が伝わっている。
 「昨夜遅く、健太は他界した」
 「・・・」

 辛いこと、悲しいこと、風は何でも知っている。
 辛いことの後には、楽しいことが待っている。そう信じていたい。
 健太君は、風になって世界を駆け抜ける。
 病院の中だけでなく、もっと広い世界を見るための旅に出たんだから、私がここで泣いてはいけない。
 だって、これから先、同じ様なことは何度も繰り返される。
 ここは、そう言う場所だから・・・。


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 無謀な試みを更にしてます(^^;;
 大きくなったすずの視点で、今までのおさらいです。
 かなり、無理ありますね(^^;;
 次で、この話は終わる予定です(^^;;
 では、これで失礼します。


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