風は、いつだって世界を回っている。暖かく包み込んで、楽しいこと、悲しいこと辛いこと、全部を見つめている。 私が目覚めたときから、世界はゆっくりと動き始めていた。長い間、風になっていた私は、この場所に辿り着いた。 小さな病室、綺麗だけど何もない所。窓の外に広がっている一面の向日葵が、とても綺麗だった。 優しい先生達。私が、ここから出るために必要なことを、色々と教えてくれる。私も、早くここから出て、あの人の役に立ちたいから、一生懸命頑張った。 新条先生は、私に色々優しくしてくれた。特に、あの人に関することに、お世話になった。 「今度から、そちらで働けるようになりました」 「そっか。で、住む場所は決まったさね?」 「それが、まだなんです」 「じゃぁ、とっておきの物件があるんだけど、どうするさね?」 私が、研修を終えてこの街に戻ってくるとき、アパートを紹介してくれたのも新条先生だった。 「桑原?」 お隣さんの標識には、そう書いてあった。 「不満か?」 引っ越しの手伝いに来てくれた新条先生は、不敵な笑みを浮かべている。 「ちなみに、あいつは病院に泊まり込みになるように調整済みさね」 どうやら、驚かせようと言う魂胆らしい。 「楽しみですね」 「そうだろ?」 二人で、笑う。あの人、ゆうちゃんが驚く顔、早くみたいと思った。 二人で過ごした時間。一緒に頑張る事が出来た。お仕事は、忙しくて、ゆうちゃんは大変そうだった。 「先生と、看護婦さん、恋人なの?」 子供達が、私のことをからかう。 ここに来て、数日。仕事もだいぶ慣れて、今では子供達の笑顔をみるのが大好きになっていた。 ゆうちゃんは、この子達のために頑張っている。私は、そのお手伝いを少しでもしたい。そう、思っている。 「先生は、お姉さんの大事な人だよ」 子供達にそうこたえて、微笑みかける。 子供達は素直で、輝いている。たとえそれが、死と隣り合わせの生活でも、子供達は笑顔を絶やさなかった。 「お姉ちゃんて、面白いね」 最近仲良くなった、健太君がそう言った。この子は、かなり重い病気で、先日も私の目も前で倒れた事がある。 「何が?」 「だって、ずっと先生のこと見てるんだもん」 「そう?」 「うん」 ゆうちゃんのことを、私はいつも目で追っている。どうやら子供達にはその事がばれているみたいだった。 「面白いかな?」 健太君の熱を測りながら、話しかける。熱はかなりある。それでも、この子は笑顔でいる。 「先生のこと好きなの?」 「うん」 これは、本当の気持ち。 「いいなぁ」 「ん?」 「好きな気持ちって、どんな気持ち?」 健太君は、真剣に聞いてきた。 「どんな気持ちって、ずっと一緒にいたいと思うことかな?」 私にも、良く解らないけど、ゆうちゃんが好きという気持ちはずっと変わっていない。今まで、頑張って来れたのも、ゆうちゃんがいたからだった。 「お姉ちゃん、結婚式には呼んでね」 からかうように、健太君はそう言う。 「もちろんだよ」 みんなが幸せになれる場所。そんな場所があればいいと思う。 風は、みんな知っている。 楽しいことも、辛いことも・・・。 「おはようございます」 「おう」 「徹夜ですか?」 「まぁな」 先生は、酷く疲れているみたいで、元気がなかった。 「どうかしたの?」 「なんでもない・・・」 素っ気ない返事。 「うー・・・」 「あ、そうだ病室に変更がある」 「入院ですか?」 「昨日、健太が退院した」 「え?」 先生は、普通にそう言ったつもりだと思うけど、解るんだよ。いつも先生のこと見てたから、少しの変化でも、気づいてしまう。 「健太の両親の都合で、急だけど、すずによろしくって、健太が言っていたぞ」 「・・・そうなんだ」 健太君は、私のことをすずとは呼ばないし、先生も患者さんの言葉を伝えるときは、患者さんが言ったときのままの言葉で言う癖みたいなものがある。 だから、健太君ならお姉ちゃんと、私のことを呼ぶ。 「・・・」 「・・・」 暗い沈黙。先生の気遣いは嬉しいけど、変えることの出来ない現実がここにある。 「訂正した方がいいのか?」 「・・・うん」 私の頬を、涙が伝わっている。 「昨夜遅く、健太は他界した」 「・・・」 辛いこと、悲しいこと、風は何でも知っている。 辛いことの後には、楽しいことが待っている。そう信じていたい。 健太君は、風になって世界を駆け抜ける。 病院の中だけでなく、もっと広い世界を見るための旅に出たんだから、私がここで泣いてはいけない。 だって、これから先、同じ様なことは何度も繰り返される。 ここは、そう言う場所だから・・・。 ---------------------------------- 無謀な試みを更にしてます(^^;; 大きくなったすずの視点で、今までのおさらいです。 かなり、無理ありますね(^^;; 次で、この話は終わる予定です(^^;; では、これで失礼します。 http://www2u.biglobe.ne.jp/~palu2/