向日葵の笑顔 第4話  投稿者:パル


毎日が、忙しく過ぎていく。すずが俺のことを先生と呼ぶようになってから、1週間が過ぎていた。
 「先生、遊びに来たんだよ」
 「家にいるときは、別に先生じゃなくても良いぞ」
 「うん、でも、先生だから、先生なんだよ」
 すずのやつは相変わらずで、今日も俺の部屋に遊びに来ていた。少しは、成長したと思ったけど、何となくこうやって二人でいると、あの夏が戻ってきたような気がする。
 お互いにくつろいでいる空間が、ここにあった。
 「あっ!まだこれあったんだ・・・」
 すずのやつが、なにかみつけたようだった。
 「ねぇ、先生。これやろ?」
 すずは、あの夏に二人で遊んだゲームを持っていた。
 「そう言えば、ずっと持っていたんだよな・・・」
 引っ越すときに、処分しようとも思ったけど、何故かそのまま持っていた。心のどこかで、もう一度すずと対戦したいという思いが残っていたのかもしれない。
 「先生、少しは強くなった?」
 「ぐっ・・・。強気でいられるのも、今の内だけだぞ!!」
 かなり得意げなすずの態度に、思わず熱くなってしまう。
 「・・・」
 「どうかしたの?」
 「お前って、あの夏の思い出、覚えているのか?」
 今思っても、アレは不思議な体験だった。俺がみた幻だったのかもしれない。でも、こうやってすずも同じ思い出を持っていると言うことは、幻じゃない証に思えた。
 「うん。すずは、全部覚えているんだよ」
 「全部?」
 「うん。だから、ゆうちゃんのこと、好きなんだよ」
 「・・・」
 「あ、ゆうちゃんじゃなくて、先生なんだよ」
 「・・・」
 「先生?」
 すずの気持ち、何となく気づいてはいる重い。
 俺の気持ちはどうなのか?
 まだはっきり答えがでない。こうやって一緒にいると楽しいし、安らぎを感じる。
 多分、すずのことが好きだと思うけど、心の中で、何かが引っかかっていた。

 「先生は、お姉ちゃんのことどう思っているの?」
 不意に、昼間健太と話したときの事を思い出す。
 「突然どうしたんだ?」
 定期検診の時、珍しく健太の方から話しかけてきた。この子は、俺相手だと、ほとんど無口で、何も言わない。
 「だって、あのお姉ちゃん、いつも先生の方を見てるよ」
 健太とすずは、今ではすっかり仲良しだった。健太は、すずのことをお姉ちゃんと呼んで慕っている。
 「そうか?」
 「僕達とお話ししているときも、先生が通ると、先生のこと見るんだよ」
 「それは、気づかなかったな」
 「まるで、向日葵みたい」
 「なにが?」
 「お姉ちゃん。先生は知ってる?」
 「なにを?」
 「お外に咲いていた向日葵。一日中ずっと見てると、ちゃんとお日様追いかけているんだ」
 「そうみたいだな」
 「沢山の向日葵が、笑いながらお日様を追いかけているように見えるんだよ」
 「笑っているのか?」
 「僕には、そう見える。みんなお日様が大好きだから、笑いながら追いかけるんだ」
 「楽しそうだな」
 「うん。楽しそう。だから、ここから見る向日葵、僕大好き」
 「そっか。じゃぁ、早く元気になって、来年は、窓からじゃなくて直接向日葵を見れるようにしないとな」
 「うん」
 健太は、元気良く返事をした。でも、この子は多分次の季節の向日葵を見ることは出来ない。
 この前倒れたのは、病気がかなり進んでいる証拠で、今日紫姉と相談した結果、家族も了承したので、今週末にでも退院させる予定だった。せめて最後は、病院のベットではなく、自分の部屋のベットでと言う、両親の願いだった。
 「ねぇ、先生」
 「何だ?」
 「先生は何でお医者さんになったの?」
 「どうした?突然」
 「僕も、将来お医者さんになりたいから・・・」
 「そっか、頑張れ」
 「うん」
 頑張れと言っても、意味のないことかもしれない。でも、そう言うことしか、俺には出来なかった。
 「そうだな、先生が医者になろうとした理由は・・・」
 医者になりたかった理由。この時は、家がお医者さんだったからと答えたけど、本当は別の理由があった。

 「どうしたの?」
 突然黙り込んだ俺のことを、すずは心配そうに見つめている。
 「気にするな」
 「うん・・・」
 すずのために、何かしたい。
 何かしたかった。
 でも、何も出来なかった・・・。
 多分、この事が今でも心に引っかかっている。
 俺が、医者になれたきっかけを作ってくれた人。 
 出会いと別れが繰り広げられる場所で、何とかやってこれたのは、思い出の中のすずがいたからで、目の前にいるすずに関しては、まだ何もわからないと言った感じだった。
 「あっ!!」
 「どうした?」
 「電話だよ」
 小さな音が聞こえる。どうやら、俺の携帯がなっているみたいだった。
 「ちょっといいか」
 「うん」
 携帯がなるときは、大抵仕事絡みだった。
 「はい、桑原です」
 「祐児か?」
 「紫姉?」
 「あぁ、大至急こっちに来てくれ」
 どうやら、急患か、入院患者のみに何かあった様だった。
 「わかりました。すぐに行きます」
 「頼む」
 紫姉の声は、何故か俺の心の中に不安な気持ちを植え付けた。
 「悪いけど、急患みたいだから、ちょっと病院まで行って来る」
 「うん。すずも行かなくて大丈夫?」
 「大丈夫、ドジな看護婦がいない方が、はかどって丁度良い」
 「うぅ・・・」
 そう言われて、ちょっとすずは拗ねている。
 「戸締まり、頼むな」
 「任せてなんだよ」
 すずの顔を見ていたら、心の中の不安が少し薄れた気がした。
 「じゃぁ、行って来る」
 「いってらっしゃいなんだよ」
 この時、俺は大切なことを忘れていた。俺が今まで経験してきた辛いこと。その事にすずを巻き込んだのではと言う事。
 その事を痛感させる出来事が、この後待ちかまえていたことを、この時はまだ知らなかった・・・。

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 間が、結構あいてしまいました(^^;;
 ようやく第4話が完成(^^;;;
 残り2話の予定ですので、もう少しつき合ってくれると嬉しいです(^^;;

 このSSに感想下さった方々、本当にありがとうございます(^^
 今回も、自分は、感想書けなくて申し訳ないです(^^;;

 次は出来るだけ早く書き上げたいと思ってます(^^;;
 では、これで失礼します。
http://www2u.biglobe.ne.jp/~palu2/