向日葵の笑顔 第3話  投稿者:パル


すずと再会してから、2週間が過ぎていた。暑かった夏もそろそろ終わりで、一面に咲き誇っていた向日葵も、頭を下げて種を実らせている。

 すずとの関係は、相変わらずというか、あの夏の日々と同じ様な関係になっていた。最後の瞬間ではなく、普通に過ごしていた日々の、すぐ側にいて、大切な存在だけど、それが恋なのか愛なのかわからない。
 ただ、このままずっと側にいて欲しいと願う俺がいた。この今の関係を、壊すのが怖かった。

 「今日は、なんの話が良いのかな?」
 子供達を集めて、すずがお話をしている。入院中の子供達の、一つの楽しみの中に、この時間が生まれていた。
 「お姉ちゃん、この本読んで」
 「あ、健太君ずるい。私の本読んで」
 「お前、この前読んでもらっただろ?次は俺の番だぞ」
 「喧嘩は、ダメなんだよ。順番に読んであげるから、ちょっと我慢するんだよ」
 「はい」
 「・・・はい」
 多少、ドジなところもあるけど、すずはこの病棟に必要な存在になりつつあった。
 「なかなか、子供の扱いが上手だね」
 「精神年齢が、近いんだろ」
 「そうかもね」
 たまたま遊びに来ていた七海と、その光景を見ながらお茶を飲んでいた。
 「お前の方は、大丈夫なのか?」
 「なにが?」
 「もうすぐ出産なんだろ?」
 ちなみに、水泳競技で、かなりの成績を収めた七海だけど、結局はこの街の小さな喫茶店のマスターと結婚して、一緒に店をやっていた。
 その店は、美味しい料理とパワフルな七海の魅力のおかげで、毎日繁盛していた。
 その店のマスターとはお互い、料理好きという共通の趣味があったせいか、2年前に結婚。もうすぐ出産予定だった。
 ちなみに、こいつの名字は佐久間になっている。要するに、こいつは予備校時代の仲間だった佐久間と結婚した。
 「そう言う、桑原は、どうなの?」
 「なにが?」
 「恋人出来たの?」
 「あのなぁ・・・」
 「私のことふっておいて、まだ恋人の作ってないなんて・・・」
 「まだ根に持っているのか?」
 「まさか。初恋は、実らないって言うでしょ?」
 「そうだな・・・」
 一瞬、昔のことを思い出す。俺の初恋の相手は、現在ミュージシャンとして成功して、活躍している。色々な人から求婚をされていると言う話は聞いたことあるけど、その全てを断って、一人で頑張っているらしい。
 「もしかして、あの子のこと気にしているの?」
 「あの子?」
 「そこにいる、すずちゃんのこと」
 「気にしているというか、あいつの場合は、恋とか、愛とか言うイメージじゃ無いんだよな」
 「そう?だって桑原あの子のために、医者になったんでしょ?」
 「そうだけど、結局俺はなにもしていないから・・・」
 「そうかな?だって、桑原が、医者になってなかったら、ここにいないでしょ?」
 「そうだろうな・・・」
 「桑原が、医者になったことは、無駄じゃないはずだよ」
 「どうかしたのか?」
 「なによ」
 「お前が俺に優しい言葉かけるなんて、明日は、台風でも来るのか?」
 「あのねぇ、私も、いつまでも昔のままじゃないんだよ。それに、もうすぐ母親になるからね。少しぐらいは、優しくならないと」
 「少しで良いのか?」
 「あんた、喧嘩売ってるの?」
 「お前が、どう変わったか、テストしてるんだよ」
 「何だって!!」
 ここで怒り出す辺り、やっぱり昔と大差は無い気がする。

 「ゆうちゃん!!」

 この時、すずが血相を変えて部屋に乱入してきた。
 「こら、ここでは桑原先生と・・・」
 「大変なんだよ。健太君が・・・」
 「なんだって!!」
 その名前を聞いて、俺は慌てて席を立つ。
 「悪い、七海。急患だ」
 「あ、気にしないで。私が邪魔してるんだから」
 七海の返事もロクに聞かないで、慌ててその場所に向かう。その場所、さっきまですず達がいた場所の中心に、一人の男の子が苦しそうに倒れていた。
 「すずは、新条先生に集中治療室の使用準備をしてもらえるよう伝えてくれ」
 「はい」
 苦しそうにしている男の子を抱きかかえ、集中治療室に向かう。
 この子の名前は、健太。長期入院患者で、病気の度合いはかなり深刻だった。
 「ゆうちゃん、大丈夫だよね?」
 戻ってきたすずが心配そうに聞いてくる。こいつが来てから今日まで、児童病棟は平穏だった。本来なら、この状況が当たり前。いつ誰が倒れても不思議ではない場所。それがここだったから・・・。

 集中治療室に、ランプが灯る。中では、俺と紫姉が、症状を落ち着かせるために一生懸命処置をしている。そのサポートを、しっかりとすずはやってくれた。

 「なんとか、治まったみたいだな」
 ベッドで寝ている健太を見ながら、俺は一息ついた。
 「ゆうちゃん、ありがとうなんだよ」
 「だから、ここでは先生と呼べと言っているだろ?」
 「うん。ゆうちゃんは、先生なんだよ。だって、健太君苦しそうじゃないから」
 「とりあえずは、これで大丈夫だからな」
 「桑原先生」
 「なんだ?」
 今俺を呼んだ声には、いつもと違う感覚があった。
 「先生は凄いんだよ。すずには、健太君を治すこと出来ないから・・・」
 「すずだって、充分凄いぞ。俺には、こいつを笑顔にすることなんて出来ないからな」
 「え?」
 「大抵の連中は、俺のこと見ると、泣き顔になる。注射が怖いからってな」
 「すずも、注射はいやなんだよ」
 「看護婦がそんなこと言ってどうする」
 「ううぅ・・・」
 どうやら、すずは俺のことを医者として認めてくれたようだった。先生という言葉に、多少尊敬の色が見えた。今まで、俺が強制して先生をつけされていたけど、もうこれからはその必要は無いのかも知れない。
 そう思うと、俺は今医者となっていることを誇りに思えた。なによりも誰よりも、ここにいるすずが認めてくれたことが、一番嬉しかったから・・・。

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 と言うわけで、無謀鈴うた連続SS第3話です(^^;;;
 他のキャラのその後も少し想像してみました(^^;;;
 成長したすずが書きにくいです、次からが大変(^^;;

 少しだけ感想です(^^;;
 WTTSさん
>鈴をうたう日
 とにかく、その2が凄いです(^▽^)
 元ネタ知っている自分もなんですけど、流石WTTSさん、「にやり」とさせられました(^^
 鈴うたSSが増えて来たのは嬉しいです(^^

 変身動物ポン太さん 
>特定影響下における行動の観察と考察?
 なんにでも、影響受けるすずらしい行動ですね(^^
 茜に感染して激甘というのも怖いかも(^^;;
 岡田が消えているのも凄いです(^^

 少ない上に、鈴うたSSだけの感想で申し訳ないです(^^;;
 最近、誤字脱字が多いので、気をつけてはいるのですが、特技に誤字発見を持つ方に、前回かなり発見されてました(^^;;
 矢田 洋さんには毎回ご迷惑かけてます(^^;;
 誤字の指摘は大変助かります。この場を借りて、お礼を言います。

 では、今回はこれで失礼します。 
 
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