未来からの贈りもの  投稿者:パル


 「ゆうちゃん、電話なんだよ」
 「わかってるよ」
 電話が鳴っていた。隣でテレビを見ていたすずが受話器を取ろうとしたが、それより先に、俺が取る。
 こいつに任せると、何言うか解らないからな・・・。
 すずとの生活も、何となく馴染んでいる。
 こいつが誰で、一体何処から来たのか気になるが、特に詮索しようと思わなかった。
 「俺様だ」
 「切るぞ!」
 「冗談のわからん奴だなお前は!」
 「うるさい!いちいちお前の冗談なんて、聞いてられるか!!」
 電話の主は、予備校仲間兼、バイト仲間の岡田からだった。
 「ほーう、そんなこと言っても良いのかな、祐児君」
 「何企んでやがる!」
 「ふっ・・・。企むなんて人聞きが悪い」
 「じゃぁ、何のようだ?」
 「みつきがな、今部屋にいるんだ」
 「で?」
 ちなみに、みつきというのは、岡田にちっとも似てない妹だ。
 あの後、岡田の部屋にたびたび遊びに来るようになったらしい。そして、たまに俺の部屋にも遊びに来るようになっていた。
 「何でも、親父達が急用で今晩泊まりがけで出かけたらしい」
 「で?」
 「つれいないなぁ、祐児君」
 「気色悪い声出すな!」
 「で、お前に頼みがある」
 「何だ?」
 「みつきの奴、俺様の部屋に泊まりに来たんだが、あいにく俺様はバイトだ」
 「一日ぐらい休めないのか?」
 「ふっ・・・。俺様の野望のために、バイトを休む訳にはいかん!」
 「で、何が言いたいんだ?」
 「今晩、みつきを泊めてやって欲しい」
 「良いのか?」
 「ちなみに、みつきを泣かせるようなことしたら、命は無いと思え」
 「はいはい、天に誓ってそんな真似はしないよ」
 「まぁ、お前の部屋にはすずちゃんもいるからな。大丈夫だろう」
 「で、みつきちゃんは、いつ来るんだ?」
 「もうついた頃じゃないのか?」
 「へ?」

 ピンポーン

 タイミング良く、玄関の呼び鈴が鳴る。
 「あ!みつき姫なんだよ」
 玄関に確認に出たすずが、喜びの声をあげている。あいつは、結構みつきちゃんのこと好きみたいだった。
 「こんばんわ」
 「・・・今ついたぞ」
 「では、よろしく頼むぞ相棒」
 「はい。はい」
 俺は、受話器を置いて、みつきちゃんを迎え入れた。
 「夜分遅くに、すいません」
 「ゆうちゃん、みつき姫今日はお泊まりなの?」
 「そうだよ、すずちゃん。一晩よろしくね」
 「うん」

 その後、テレビ見ながら話したり、ゲームやったりしていたら、11時を過ぎていた。
 いつもなら、そろそろ眠る時間だった。
 「みつきちゃんとすずは、同じベットで良いか?」
 「はい」
 「うん」
 二人ともパジャマに着替えて、寝る準備は万全だった。
 「ゆうちゃんも、今日は一緒に寝るんだよ」
 「馬鹿なこと言うな」
 「いやなんだよ。一緒にベットでねるんだよ」
 珍しく、すずがわがままを言っている。
 
予感・・・。
 何となく思ったことがあった。

 「祐児さん・・・」
 みつきちゃんが、俺の方を見つめている。
 「はぁ・・・。今日だけだぞ」
 「うん」
 みつきちゃんが一番奥、真ん中がすず、そして俺。
 かなり狭いけど、一つのベッドの上で三人仲良く並んで布団をかぶる。
 「川の字になって寝るって、このこと言うんですよね?」
 みつきちゃんが、そう呟いた。
 「かわのじ?」
 「お父さん、お母さんと、子供が並んで寝ることを、そう言うんだよ」
 「ゆうちゃんが、お父さんで、みつき姫が、お母さんだね」
 「すずちゃんが、子供なの?」
 「そうなんだよ」
 なんか、不安な気持ちが、さっきからしていた。
 「ずっと、ずっと一緒なんだよ」
 「うん。ずっと一緒だよね、祐児さん」
 「そうだな・・・。それも良いかな」
 この部屋に充満している空気。暖かくて、気持ち良い感覚。
 こんな時間が、ずっと続いたら、幸せだと思う。
 「ずっと、いしょにいたいね・・・」
 その言葉を最後に、すずは眠ってしまった。

 「狭くない?」
 「大丈夫です」
 静かな寝息を立てている、すずをはさんでみつきちゃんと、少しの間話をした。
 お互いの昔話。岡田に関する色々な出来事。みつきちゃんの学校のこと。予備校での出来事・・・。
 お互いお喋りに夢中になって、気がつけば1時過ぎ。
 「そろそろ、寝ようか?」
 「はい・・・。お休みなさい」
 「お休み」
 俺達が話している間、すずはずっと眠っていた。知らない間に、その小さな手が俺の手と、みつきちゃんの手をそれぞれ握っていたけど、俺達はそのまま手を握った状態で、眠りについた。


 小鳥のさえずり。
 眩しい光。
 朝の、雑音・・・。

 それらに誘われて目が覚める。そして気づく。
 「すず・・・」
 すぐ目の前にいたのは、まだ眠っているみつきちゃん。
 真ん中にいたはずのすずの姿は、ここにはない。
 「ちゃんと、家に帰れたのか・・・」
 もうここには戻ってこない。漠然とそれだけがわかった。
 「・・・あれ?おはようございます」
 みつきちゃんも、目が覚めたみたいだった。
 「すずちゃんは?」
 「・・・いなくなった」
 枕元に、髪飾りの鈴が転がっている。
 いつの間にか、すずと繋がっていた手がみつきちゃんと繋がっていた。それはまるで、仲良くするんだよって、すずからのメッセージみたいだった。
 「もう会えないのかな?」
 「多分、また会えると思う・・・」
 
 結局、あいつがどこから来たのか、この時はわからなかった。
 わかったのは、ずっと後になってから。
 すずがいなくなって、寂しかった。たった数日間一緒に過ごしただけの存在なのに、俺の心の中に、あいつは入り込んでいた。
 思い返せば、みつきちゃんと出会えたきっかけをくれたのはすずだった。
 そして、すずのことで少し落ち込んでいた俺を励ましてくれたのがみつきちゃんで、俺はますますこの子のことが好きになった。
 そして、再びすずと出会えたとき、俺は全ての謎が解けた気がした。

 「祐児さん、この子の名前、決めました?」
 「勿論、女の子なら絶対にこの名前にしようって決めてたからな」
 「私もです・・・」
 「どんな名前だ?」
 「あなたこそ、どんな名前なんです?」
 俺達二人が、決めていた名前。
 それは、あの日迷い込んできた、一人の女の子の名前だった・・・。

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 久しぶりに投稿します(^^;;パルという者です
 ほとんどの人が、はじめましてと言う状態ですね(^^;;

 今回は、鈴うたSSに挑戦してみました。
 みつきシナリオで、すずについて特に追求していないので、全く違った存在にしてしまいました(^^;;
 本当は、蛍ヒロインの予定だったんですけどね(^^;;
 途中で、みつきに変えてしまいました(^^;;
 蛍SSは、難しいなぁと思いました。

 では、今回はこの辺で失礼します。

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