今日は、特別な日だった。
高校を卒業した私が、再び演劇部の教室に来ている。
私のための劇。特別なお芝居を、一人の後輩が演じてくれると言う。
私は、事故で光を失った。その子は、言葉を失った。お互いに、一人の男の子のおかげで知り合って、今ではお友達だった。
「準備は良いか?」
私の隣で、浩平君が確認をしている。これを考えたのは浩平君だった。
「澪が、卒業までにみさき先輩のために劇をしたいって言ってるんだ」
澪ちゃんも、今年で高校を卒業をする。その前に、自分の夢を実現したいと、浩平君に相談したらしい。それに雪ちゃんも、色々と協力したみたいだった。そして、今日その夢が実現する。
「毎日、頑張ってるわよあの子。みさきも幸せよね。素敵な彼氏と、可愛い後輩がいて」
素敵な彼氏というのは疑問だったけど、可愛い後輩というのは間違ってないと思う。私は、そんなに澪ちゃんに何かしたわけでもない。
でも、澪ちゃんは私のことを先輩として慕ってくれている。
「じゃぁ、始めるわよ」
舞台の上座から、雪ちゃんの声が聞こえた。
「みさき先輩、澪の劇を楽しんでくれ」
「うん・・・・」
どんな劇なのか想像できない・・・。
カ、カッカカカカ
何か、響くような音。それが、規則正しく、リズムを産み出している。
カツカツ、カッカ、カツカツ
繰り広げられる音。楽しそうなリズム・・・。
「あ・・・・」
それが何なのか、何となくわかった。澪ちゃんは、舞台の上で踊っていんだ。この音は靴の音。澪ちゃんが自分で踊ることで産み出している、音だけの芝居・・・。
カカカッカカカカッ・・・・
時には楽しく、時には静かに、穏やかに、そして激しくと演じていくお芝居。
「凄い・・・、凄く嬉しいよぉ・・・・」
みんなが、私のため・・・。ううん、私達のために色々考えてくれた事が伝わってくる。
・・・・・・・・
暫くして、音が止まる。劇が終わったのかな?でも、浩平君は何も言わない。だったら、続きがあるのかもしれない。
カツ、カツ、カツ・・・
小さな足音がちかずいてくる。そして、それは私の目の前で止まった。
ぎゅ・・・
小さな手が、私の手を握ってくる。
「おしまい?」
私には、これが劇の終わりを知らせる合図だと分かった。これは、私と澪ちゃんの劇だから、浩平君達は何も言わなかった。
うん、うん
握った手が縦に揺れる。
パチパチパチパチ・・・・
ようやく、浩平君達から拍手が聞こえた。
「ありがとう」
私は思わず、澪ちゃんの小さな身体に抱きついてしまった。
ドクン、ドクン・・・
身体から伝わる、激しい鼓動。それは、澪ちゃんが一生懸命劇をしてくれた証だった。
「本当にありがとう・・・・」
澪ちゃんは、私に劇を見て貰うのが夢と言ったらしいけど、私も澪ちゃんの劇を見るのが夢だった。
小さな夢だけど、本当に小さくて、でも実現するのはあきらめていた夢がかなって、私は嬉しかった。
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えーと、パルというものです(^^;;
このSSは、自分が、かなり前に書いたファーストコンタクトの続きです。
続きと言っても関連性はないですけど、みさき先輩と澪のコミュニケーションを考えてみました。
澪が音で劇をやると言う発想は苦しいかもしれませんけどね(^^;;
では、これで失礼します(^^;;http://www.zzz.or.jp/~rururu/nekomimi/