「美味しいよ〜」
一心不乱に、テーブルの上の料理を食べ続けるみさき先輩。
「遠慮しないで、もっと食べてくれ」
「うん、嬉しいよ」
今日はみさき先輩の誕生日。何かプレゼントしようと、無い知恵を振り絞って考えたのは、みさき先輩のために、スペシャルな料理を作ることだった。
「まだあるからな」
正直、この日のために、色々な本を読んで沢山の料理が作れるように、練習を重ねた。それは、トラの穴でのハードな特訓に匹敵する辛さだろう。
「美味しいか?」
「え〜と、65点ぐらいかな?」
どうやら、オレの料理の腕はまだまだのようだった。
「ちなみに、何点満点でだ?」
「65点だよ」
「何だ、その曖昧な点数は?」
「冗談だよ・・・。やっぱり、100点かな?」
「その、「かな?」って言うのが、凄く気になるんですけど?」
「だって、まだ食べ終わって無いんだよ?」
「なるほど・・・」
みさき先輩は、食べ終わるまで、味のことを言いたく無いみたいだった。
「これで、最後だ!」
オレは最後の料理をテーブルの上に置いた。
「うん、いただきます」
みさき先輩は、美味しそうにそれを食べてくれる。
「ごちそうさま」
最後の一口を食べ終わりみさき先輩は、笑顔でそう言ってくれた。料理した人間としては、凄く嬉しい一言だった。
「ほんと、美味しかったよ」
流しには、大量の食器が積んである。後でこれを洗わなければならないと思うと、ちょっと辛いけど、みさき先輩が喜んでくれたから、それで良いと思った。
「で、お味の方は、気に入ってもらえたでしょうか?」
「うん。これなら、100点満点だよ」
そう言いながら、みさき先輩は手を差し出してきた。
多分、感謝の気持ちを表したいのだろう。最近は、出来るだけ、みさき先輩の行動を理解しようと思っている。
だから、オレはみさき先輩の手の近くに自分の手を持っていく。決して自分から手を握らないのがポイントだ。
「ありがとう、浩平君」
オレの手をぎゅっと握りしめて、みさき先輩はお礼を言ってくれた。
「っ!!」
しまった、その時になって、オレは後悔した・・・。
大事なことを忘れていた・・・。
「どうかしたの?」
ぎゅっと、力を入れられたオレの手は、バンソウコウだらけだった。握られたとき、痛みで手を少し引いてしまった。
「・・・?浩平君、怪我してるの?」
感触から、バンソウコウの存在に気づいたみさき先輩が、心配そうに聞いてくる。
「た、大したことはないぞ」
オレは、冷静に対処する。そう、本当に対したことはない怪我だった。
「もしかして、今日のお食事のために、無理をしたの?」
「それは、絶対に違うぞ」
これは本当。今日の料理に関しては、この怪我の理由にはならない。
「・・・、本当かな?浩平君、嘘つくの下手だから、何か隠しているのわかるんだよ」
「ぐぁ!」
流石はみさき先輩だ。ここは、下手に言い訳をしない方が良いだろう・・・。
「実は、色々と試していたんだ・・・」
そう、いつだったかみさき先輩が言った言葉がある。
「浩平君の為に、料理してみたいな・・・」
小さく、呟いた言葉だったけど、そんなみさき先輩の夢を実現させてあげたい。オレも、みさき先輩の料理が食べてみたい。
と言う思いから、目隠しして、包丁を握ってみたり(これが原因で指を切った)、鍋の火を消そうとしてみたり(これが原因で火傷した)と、色々試している最中だった。
その事を、正直にみさき先輩に言う。
「・・・、気持ちは嬉しいんだよ・・・」
寂しそうにみさき先輩は、呟く。
「でも、無理なんだよ・・・。私一人で料理するのは・・・」
それは、解っっていた。色々と試してみて、これは無駄な努力じゃないかと、本気で思ってしまった。
世の中には、不可能と言うことはある。絶対に不可能は無い、と言う言葉が嘘だと言うことを、オレは知っている。
「だから、私のせいで浩平君が怪我をするのは嫌なんだよ」
みさき先輩の目は、少し涙ぐんでいた。せっかくの誕生日のお祝いなのに、みさき先輩を泣かせるわけには行かない。
「ちょっと来てくれ?」
強引にみさき先輩の手を掴んでキッチンへと向かう。試行錯誤を重ねた結果、一人では無理だと言うことはわかった。
「これを、持って」
「え?」
みさき先輩に、包丁を握らす。
「ちなみにそれは、包丁だから、今握っている部分以外を触るなよ」
「・・・わかったよ。浩平君の言うことに従うよ」
みさき先輩は、素直にオレの言うことに従う。
「そのまま、まっすぐしたに下ろしてくれ」
「・・・」
慎重に、包丁を下げていく。
「・・・、ケーキかな?」
包丁から伝わる感覚で、何を切っているのか解ったらしい。
「流石みさき先輩、食べ物に関しての感覚は鋭いな」
「・・・」
気がつけば、みさき先輩は泣いていた。
「ど、どうかしたのか?」
「嬉しいよ〜」
「な、何で泣く必要がある?」
「だって、ケーキを自分で切るなんて、何年ぶりなんだよ・・・。凄く、嬉しいよ〜」
その、何年ぶりかに切ったケーキの上に、大粒の涙が落ちていく。
「そのまま、まっすぐ手前に切ってくれ」
そんな、みさき先輩を見ながら次の指示を出す。
一人では、こんな簡単なことも不可能なんだ。みさき先輩にとっては・・・。
でも、協力すれば、何とか出来る。出来ることは限られているけど、色々と協力すれば、他にも何か出来るはずだ。
「でも、これだと、私がお料理していると言えるのかな?」
「気持ちの問題だよ、みさき先輩」
「うん、そうだね。浩平君がそう言ってくれるなら、そうだと思うよ」
ちょっと、いびつな形に切れたケーキを二人で運んで、お茶にする。
これからも、こうやってお互いに協力しあえば上手くいくと、何となく思えた。
こうやって、協力しようと、美味しそうにケーキを食べているみさき先輩を見ながら、心の中で強く誓った。
「なんだか、このケーキしょっぱいよ」
「え?」
「変だよね、ケーキなのにしょっぱいなんて?」
「ちょっと、みさき先輩、それはオレの分のケーキだぞ!」
先輩の涙でしょっぱくなったケーキを、食べようと思っていたんだけど、一瞬の隙をつかれて、食べられてしまった。
「浩平君、ありがとう」
それが何に対しての感謝の言葉か、ちょっと分からなかったけど、笑顔のみさき先輩を見てなんだか嬉しかった。
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こんばんわ、パルという者です。
トレカ情報の誕生日。繭の時もSS書いたので、みさき先輩の誕生日である6月3日にもSS書いてみました。
ちなみに明日は澪・・・。出来るかな?
感想です
>由代 月さん 佐織 VOL 2
そう言えば、何でしたっけ?(爆)
後、由代さんの、佐織のイメージってどんな感じですか?ちょっと気になるんですよね。こう言う、絵のないキャラのSS書くとき、その人がどんなイメージ持っているのかって気になるので・・・。
自分も、昔誰かにこんな事聞かれた気もしますし、よろしければ、教えて欲しいです。
>シンさん 俺が悪かった
おろし浩平って・・・(^^;;
長森の逆襲ですか?なんか、執念みたいなものがありますね。
>WTTSさん 一方その頃…広瀬(第19投稿)
勿論、南君が投票したのは彼女ですよね?
これからの広瀬の行動に期待です(^^
>雀バル雀さん『本当は残酷なむかし話』 〜「青りぼんちゃん」〜
童話って、本当は残酷ですよね(爆)
青リボンちゃん、無事で何よりでした(^^;;
オオカミは、自業自得と言うことで(爆)
6月4日はあるゲームの発売日ですけど、澪の誕生日と言うこと忘れては行けませんよ(爆)
澪SS、書けたら良いな(^^;;