3年目のバレンタイン  投稿者:パル


 2月14日。それは、夢見る乙女にとって、大切な日だとあいつは言っていた。
 「まだ、形にこだわってるのか・・・」
 約束の時間まで、まだ少しある。今日は休日だから、二人ですごしたいと七瀬が言うので、俺はこうして待っている。
 「1年なんて、すぐ過ぎるものだな・・・」
 俺は、今年一年を振り返ってみた。幼い頃望んだ永遠の世界からこの今の世界に戻り、今は七瀬と同じ時を過ごしている。七瀬とは、一応恋人同士という関係だった。
 七瀬は、俺を待っている間に、いろいろ勉強していた。ただ待ているのではなく、料理とか、掃除とか、俺がいつ帰ってきてもいいように、いろいろ勉強していた。
 情けないことに、俺の方は、昔とあまり変わってないと思う。まぁ、七瀬のことを愛おしく思っているし、大切にしたいと思っている。でも、具体的にどうしたらいいのか、最近不安になっていた。
 「明日は、雪が降るのかな?」
 「遅れてきて、それはないだろ?」
 「だって、折原が約束の時間より前に来たのは、この前のクリスマスの時だけでしょ?」
 「あの時は、ホワイトクリスマスだって、喜んでいたじゃないか」
 「そりゃ、大切な日は、それなりの演出があっても良いでしょ?」
 「だから、きちんとしたレストランで食事をしただろ」
 「うん。嬉しかった」
 にっこり笑いながら、七瀬は俺の横に来て、腕を組んだ。
 「で、今日は何処に行くんだ?」
 「行きたいところがあるの」
 「今日は、お前につき合う約束だからな」
 「じゃぁ、行きましょ!」
 七瀬は、女らしくなった。こう言うと、鉄拳が飛んでくるのは相変わらずだが、なんかこう、表現しにくいけど、優しくなった様な気がする。
 現に、俺と腕を組んで歩いている七瀬は、可愛かった。ぎゅっと、抱きしめたくなるぐらい可愛く思える。出会った頃の俺達からは、想像できないことだった。
 「もうすぐよ」
 何となく、見覚えのある場所を歩いていた。お喋りをしながら七瀬に案内された場所は、懐かしい場所だった。
 「来たかったのは、ここか?」
 「思い出の場所でしょ?」
 「最悪の思い出かもな」
 「・・・、そんなことないけど」
 この場所で、俺と七瀬は出会った。出会ったというと聞こえは良いが、とにかく出会った場所だった。
 「何でだ?」
 「私、最近思うんだ。もし折原とここでぶつかってなかったら、今の私達の関係、無かったでしょ?」
 「そうだろうな。俺も、他の連中と同じで、お前のの猫っかぶりに騙されていたかも」
 「そうね。でも、あの時の私は真剣だったんだから」
 「解ってる。乙女になりたかったんだろ」
 「うん・・・。でも、今なら乙女と言うものが何か、何となく解る気がする」
 「そうか・・・」
 「折原のおかげだから」
 「俺の?」
 「そう、無理して乙女を目指さなくても、自然に乙女になれたから・・・」
 七瀬は、照れているのか、うつむいている。そして、何か言いたげだった。
 「言いたいのは、それだけか?」
 「解る?」
 「さっきから、何か隠しているだろ?」
 「はい、これ」
 七瀬は、鞄の中から一つの包みをとりだして、俺にくれた。見れば解るが、チョコレートだと思う。
 「バレンタインの、チョコ。あげるのは初めてだよね」
 「・・・そうだな」
 出会った年は、まだ七瀬がこう言ったことに抵抗を感じていたのか、結局チョコはもらえなかった。クリスマスを意識してたのに、ここまで頭が回らなかったらしい。
 「ほんとはね、はじめてのバレンタインの時も、チョコ用意してあったの」
 「じゃぁ、何でくれなかったんだ?」
 「不安だったの。だって、折原には瑞佳がいて私のことは、本当に好きじゃないのかもって、思ってたから・・・」
 「あのなぁ、何度も言うけど、長森は」
 「わかってる。瑞佳とは幼なじみでしょ?でも、本当に恋すると、少しのことでも不安になるの・・・。折原がいない年も、バレンタインのチョコを用意して待ってた。折原のことだから、去年もらえなかったから、文句を言いながら戻ってくるかもしれないって、思いながら待った」
 「・・・」
 「今年は、ちゃんと渡せた・・・」
 「ありがとな・・・」
 「ねぇ、私のこと好きだよね?」
 「当たり前だ」
 「うん・・・。でも、折原優しいから、時々不安になるんだ」
 「なぁ、なな・・・、留美」
 「え?」
 「俺は、留美の事大切に思ってる」
 「うん。ありがとう・・・浩平」
 「なんか、照れるな・・・」
 「そうね・・・」
 暫く無言で見つめ合ってしまった。でもお互い、道の真ん中で見つめ合っていたことに気づいて、慌てて場所を変えることにした。
 再び腕を組みながら、街の中を二人で歩く。何となく、お互いの思いを確認し合うことが出来た感じがした。心なしか、さっき感じていた不安が薄れていた。留美と二人なら、何とかなりそうな気がした。
 「なぁ、留美」
 「なに?浩平」
 「・・・、呼んでみただけだ」
 「・・・、馬鹿」
 顔を真っ赤にして照れている留美の横顔を見て、俺は幸せだった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 皆さんこんばんは。パルという者です。
 一応、バレンタインSSと言うものに挑戦してみました。いかがでしたか?
 また、こりもせずラブラブな話を目指して書いてみました。
 えーと、感想を書いて下さった方々、大変ありがとうございます。自分の分の感想は、また次の時にするつもりです。
 それでは、またです!