空色のクレヨン −6− 投稿者: パル
 第6話−思い伝えて−

 今日は文化祭。私とえんちゃんで作った劇の幕が上がる。劇の名前は”言葉”。私の体験を元にしたお話。
 今日は、特別に演劇部のO・Bの人も手伝ってくれている。深山先輩や川名先輩に混じって、お姉さんも特別に招待した。是非今日の劇を見て欲しかった。私が好きになった人がえらんだ人。私も好きな人だから、私のことを知って欲しい。

 「澪、ちょっと良い?」
 開幕の前、えんちゃんが私に言った。
 「何で、茜さんを招待したの?」
 ”見て欲しいの”
 私の素直な気持ち。それを見て、えんちゃんは複雑な表情を一瞬見せたけど、少し笑ってから、元気になり、そして私にこう言った。
 「・・・。あのことは、あんまり思い出したくないけどね、澪のために、もう一度、悪い子になるね」

 今日の劇は演劇部の部室で行われる。文化祭最大のイベントとを、グランドでやっている時間帯なので、今か客席にいるのはお兄さんと、お姉さんと、その友達。後後輩の子とか、あんまり多い人数では無かったけど、幕は上がった。

 「悔しかったら、何か言って見なさいよ!!」
 舞台中央で、えんちゃんが私に向かって文句を言っている。これは、実際あった辛いこと。えんちゃんと私が喧嘩したときの話し。
   ぱく、ぱく
  ぶん!ぶん!
 えい!えい!
 私は、口を動かしたり、体を動かして、自分の意志を伝えようとした。
 「ちゃんと、解る言葉で言ってよ!」
   ぱく、ぱく、ぱく
  ぶん!ぶん!ぶん!
 えい!えい!えい!
 「ほら、悔しかったら、何か言ってみてよ!」
 その時、私は悔しくて、悔しくて、そして悲しくて、でも何も出来ずに逃げてしまった。
 でも、これは舞台だから違う・・・。お客さん達が、次に私がどうするか、様子をうかがっているのが解る。舞台と、観客が一体化している。
 ぱしっ!
 「何するのよ!」
 叩かれて、えんちゃんは私の目を見る。
 「・・・」
 「・・・!」
 私は、その子を睨み付ける。言葉に出来ない会話を、目と目でしている。私の、悲しみが、相手に届いているのが解る。
 「な、なによ・・・」
 えんちゃんは、完全に怯んでいる。
 私は、手を動かした。世間一般で言うところの、手話というものを、やってみる。
 「解るわけないでしょ!」
 突然、えんちゃんが叫ぶ。
 「私だって、それが何か知りたいのに、全部覚えられないし、解らないの!」
 実際、後になってえんちゃんは私にそう言って謝った。ただ、それは半年以上過ぎてから、その間、色々と考えて、悩み、苦しんだらしい。私達にとって、辛い半年だった。
 「貴方がそれで先生と話しているの見ると、溜まらなく嫌になるの!」
 一時期、私は手話を習い、手話だけで会話するように心がけていた時期があった。先生が、その方が私のためといったからだ。でも、クラスの子には通じなく、えんちゃんともお話が出来なかった。
 「・・・、貴方が知っているだけじゃ、お話しできないよ・・・」
  うん
 その子は、半分泣いていた。
 「心は、誰でも持っているから、通じ合うことができる。でも、言葉はみんな違うから、お互いの知った言葉じゃないと、お話が出来ない」
 特別参加の、深山先輩、川名先輩によるナレーション。私が書いた言葉を、深山先輩が川名先輩に教えて、川名先輩がナレーションをしている。回りくどいけど、是非自分がやりたいと、川名先輩が言ったらしい。
  うん、うん
 「これ、返す!」
 取り上げていたスケッチブックを、私に渡す。
 「ごめんね・・・」
 ”仲直りするの”
 私は、そう書いてその子に見せる。
 「いいの?こんな酷いことをした私が友達でもいいの?」
  うん
 「だって、謝ってくれたから。きちんと謝る人に、悪い人はいないから。それに、友達だから。」
 いつも私はそう思っている。だから、私が悪いことをしたときは、きちんと謝るようにしている。それが、思いがけない出会いを運んでくることもあった。
 「ごめんなさい・・・」
 そう言って、えんちゃんは下を向いて黙り込んでしまう。
 私は、その子と手を取って握手をする。手と手から伝わる温度が、言葉に出来ない今の気持ちを相手に伝えているようで、嬉しかった。
 私は、笑顔で、えんちゃんを見た。えんちゃんも笑顔で私を見ている。   
 「ありがとう、許してくれて・・・。それに、そのスケッチブックにも、感謝しないとね・・・」
  うん
 「スケッチブックのおかげで、私はみんなと同じ言葉を使うことができる。その事に気づかなければ、今の私は無かったと思う」
 川名先輩のナレーション。
 「ありがとね、私達の恩人のスケッチブックさん」
 えんちゃんが、笑顔でそう言う。
  うん!
 「大切なスケッチブック。私の大好きな人から預かったもの。大切な思いと、私の歩み。沢山の思い出がつまった宝物。早く取りに来ないと、全部貰っちゃうよ!」
 最後のナレーションが入り、劇が終わる。私の思いが、きちんと伝わったかどうか解らない。でも、私は伝えることが出来たと思う。
 部屋が暗くなり、幕が下りる。
 ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!ぱち!
 部屋中に拍手の音が響きわたる。時間にして5分ぐらいの劇だったけど、みんなちゃんと見てくれたみたいだった。拍手の音が、今の私達に心地よい充実感をあたえてくれる。
 「取り合えず、終わったね」
  うん
 「明日、来るといいね」
 うん!

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 第6話です。予定では、次のお話で終わりです。
 ここで、少しえんちゃんについての補足。
 以前、いんちょさんに、澪ENDに出てくること同じ子かと聞かれましたが、始めはその予定でした。だから、エンディングに出ている子だから、えんちゃんという呼び名をつけたんです。
 出も、話を考えるうちに、澪の幼なじみ兼、みさお&浩平とも知り合いだったというキャラになりました。
 いきなり、こんなオリジナルのキャラを創ってしまい、かなり冒険をさせて貰ってます。
 と、言うわけで、次で終わる予定ですので、よろしかったら最後までつき合って下さい。
 最後に、感想書いて下さった方々、ありがとうございます。
 自分の感想は、次の時になります。