第5話 マイ フレンド
えんちゃんから電話を貰った次の日。私は公園に来ていた。えんちゃんと待ち合わせをしていた。
えんちゃんの電話の内容は、簡単に言えばこうだった。
えんちゃんの隣の家。
えんちゃんと親しかった兄妹が住んでいた家。
今は、誰も住んでいない家。
先輩が昔住んでいた場所。
えんちゃんと先輩の妹さんは仲が良く、たまに先輩とも遊んだらしい。もっとも、先輩はえんちゃんのことに、気づいていたらしい。
何でも、辛いことだったので、出来れば、黙っているつもりだったと、先輩はえんちゃんに言って、叩かれたみたいだった。
えんちゃんは結構手が早いから、仕方ないことかもしっれないけど、知っていたことを内緒にしていたのは、それなりの訳があるのだろう。
私は、先輩が、あの子だというに気づいたのは、いつだったかわからない。公園で遊んでいる兄妹の夢を見た時から、何となく、先輩が、あのお兄さんの様に感じた。
お兄さんが、私に話しかけてくれたみたいに、先輩は私のことを色々と心配してくれた。
そして昨日、先輩はこの近くにいたことを知った。偶然じゃない。これはきっと、偶然なんかじゃない。お兄さんと、先輩を結びつける接点が見つかった。それに、えんちゃんの話・・・
「一つ、こー君のことで、覚えてることがあるの」
えんちゃんは言った。
「私と、みさおが一緒に遊んでいるときに、こー君が来て、今度、一緒に新しい友達が出来たから遊ぼうって誘ってくれたの・・・」
きっと、私のことだと思う。えんちゃんもそう言っていた。
「でもね、その後すぐに、こー君のお父さんが亡くなられたの・・・。その後、みさおも入院しちゃって・・・。そして、引っ越しちゃったんだ、こー君」
きっと、えんちゃんは、先輩のことを慕っていたと思う。
「でも、まさかあの折原君が、こー君だったとは、全然気づかなかった」
えんちゃんは、少し悲しそうに呟いた。
私が一人、考え事をしていると、えんちゃんがやって来た。
「澪!」
えんちゃんが私を呼んでいる。約束の時間になったみたいだった。いつもなら、私の方が遅れるけど、今日は違った。
「まさか、澪が先に来ているとは思わなかったよ」
”今日は、特別なの”
「そうかもね・・・。で、早速本題にはいるけど、良い?」
コクリ
私は、少し緊張して頷く。
「折原君は、澪の待っているあの子に間違いないと思うけど?」
”そうなの”
私も、そう思う。あの時の子は、先輩だと思う。
「澪も、そう思う訳ね」
”間違いなの”
「折原君は、気づいているのかな・・・」
多分、お兄さんは私のことに気づいている。あの日、教室で呟いていた言葉。何となく覚えていた言葉が、それを裏付けている。
”多分知ってるの”
「やっぱりね・・・。澪は気づいていたんだ」
うん
「で、澪はどうしたいの?」
私がどうしたいか。私は、あの時の約束、必ずスケッチブックを返すという約束を果たしたい。それが私の望みだったけど・・・。
”わからないの”
そう。返さなければいけないものなのに、私の中に、これをお兄さんに渡したくないと言う気持ちがある。これは、私の大切な宝物。ずっと、ずっと、手にしていたい、思い出の宝物。
「だから、私に一つ考えがあるけど?」
えんちゃんの考え。何となくわかる。私が一晩考えたことと、多分同じだ思う。
「一枚ちょうだいね」
えんちゃんは、スケッチブックを一枚破り、私からペンを奪って何かを書いた。
「澪も、考えてきたんでしょ?」
うん
「これが、私の考えてきたこと」
えんちゃんの手にしている紙には演劇と書いてあった。
私は、手にしているスケッチブックのページをめくり、あらかじめ書いておいた言葉を見せた。
”劇やるの”
そう。私の出来ること。お兄さんへのお礼がしたい。私に出来る精一杯の表現で、感謝の気持ちを伝えたい。
「丁度、11月に文化祭があるからね」
”そうなの”
文化祭で、演劇部は恒例のミニ劇場を行う。題目はまだ決まっていない。数人ずつで、短いお芝居を作って発表する。本当なら、3年生は参加しないけど、私は、参加したかった。
「そうと決まれば、あまり時間はないよ。もうすぐ夏休み終わるから、それまでに、シナリオ作ろうね」
そう、もうすぐ夏休みは終わる。文化祭まで二ヶ月あまりしかない。それまでに、私なりの感謝をあらわす劇を作る。お兄さんが何故、気づいているのに、何も言わないのか解らない。何か理由があると思う。
だから、私も気づいていない振りをする。嘘をつくのは辛いけど、そう決めて、私達は文化祭に向けて行動を開始した。
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みなさんこんばんは。第5話です。感想を書いて下さった方々、ありがとうございます。
感想は、次の時にまとめて書きます。
今日の所は、この辺で失礼します。ではまた・・・