第二話 夢・・・
「澪、行くわよ!」
授業が終わると、部活動の時間だ。えんちゃんが、私の席まで来て、せかしている。
「うるさいぞ・・・。もう少し寝かせてくれ・・・」
隣の席で、午後の授業中ずーと寝ていた先輩が、ようやく目を覚ましたみたいだった。
「うるさいじゃないよ!折原君!!」
「・・・、あれ?髭がいつの間に遠藤になったんだ?」
「・・・、澪、それ貸して」
そう言って、私のスケッチブックを手から奪い取る。
「誰が、髭だ!!」
ばし!!
「ぐぉぉ!!・・・・冗談の通じない奴だな・・・」
えんちゃんは、スケッチブックで先輩の頭を叩いた。スケッチブックが傷むから、やめてねって、何回もお願いしたのに、やめてくれない。
え!!今えんちゃんが持っているスケッチブックは!!
バシ!!
えんちゃんの手から、スケッチブックを奪い取る。
うーーーーー!!
無言で、えんちゃんを威嚇する。
「あ!ごめん澪!」
えんちゃんは、私の行動の意味を理解して、とっさに謝った。えんちゃんが、先輩を叩いたスケッチブックは私の宝物。過去、何回か同じ事で喧嘩をしたことがある。今では、えんちゃんが間違えた場合、何かをおごってもらう事が、習慣になっていた。
「山葉堂の、ワッフルおごるから、許して!」
うん
私も、慣れてしまったので、それで手を打った。それに、山葉堂には、あの人がいる。久しぶりに逢いたかった。
「今、どうかしたのか?」
私達のやりとりを、先輩はただ見ていた。
「いいじゃない。何でもない、ね澪?」
うん
その時、先輩の視線が、私のスケッチブックをじっと見ているのに気づいた。
”どうかしたの”
私は気になったので聞いてみた。
「いや、ずいぶん古いスケッチブックだなって、思っただけだ」
”宝物なの”
「そうなのか・・・。澪の大切なものか?」
うーんと、少し考える。これは、あの子から預かったものだから、少し違うような気がする。でも、私の宝物には違いないから、
”宝物なの”
と、答えた。
「澪、そろそろ行かないと、後輩が待っているよ!」
えんちゃんは、演劇部の部長でもある。新入部員が入った今は、結構忙しかった。
”またなの”
私は、えんちゃんにせかされて、急いで演劇部の部室へと向かった。その時、私は大切なものを、机の上に忘れてしまったことに、気づかなかった。
どうして、すぐに忘れ物ってしちゃううんだろ?部室について、大切なスケッチブックを教室に忘れて来たことに気づいた。えんちゃんの小言をはねのけ、教室へと急いだ。
??
先輩がいた。先輩の手には、私のスケッチブックがある。中を見ているようだった。
「・・・、怒るだろうな・・・」
何か呟いている。声が小さくて、ハッキリと聞こえてこない。
「このまま、何も言わない方が、いいのかな・・・。思いでは、思いでもままの方が・・・」
???
私は、先輩に気づかれないように、そっと接近した。
「ぐぉ!!誰だ!!」
後ろから、目隠しをする。よっぽど考え込んでいたみたいで、私が背後に回り込んだのに、全く気づかなかったみたいだった。
「澪だな!!」
え?何で解るんだろう・・・?
「このクラスで、俺にこんな事をするのは、お前ぐらいだ!」
そうかもしれない。私と、えんちゃん以外の人は、先輩のこと、接しにくそうだった。それでも、少しずつうち解けてはいるけど、まだ何となく、壁がある。
「お前、これ忘れただろ!」
私が、目隠しをやめて、先輩の前に立つと、先輩はスケッチブックを、私に手渡した。
「大事なものだろ?無くしたら、ちゃんと返せないだろ?」
うん
そう。これは無くしてはいけない、大切なもの。
「俺は、これからバイトだから、帰るけど、部活頑張れよ!」
うん
そう言うと、先輩は帰ってしまった。あれ?なんか変な感じがする。それが何か、解らないけど、私の中に、何かが引っかかっている様な気がして、もどかしかった。
その日の夜、私は懐かしい夢を見た・・・。悲しかった頃の夢。泣き虫だった頃の夢・・・。忘れていた、大切な出来事・・・。
わたしは、独り・・・。ブランコに揺られている。
わたしは、寂しかった。友達だった子と、遊べない。
わたしは、悲しかった。伝えたいことが、伝わらない。
ブランコに乗っていると、砂場で遊んでいる子が見える。お兄さんと妹みたいだった。
「何で、お兄ちゃん、おやま壊すの!!」
「破壊は、男のロマンだ!」
「お兄ちゃんの、馬鹿!」
「馬鹿とは何だ!みさおの泣き虫!」
「みさお、泣き虫じゃないよ!」
喧嘩をしているみたいだったけど、楽しそうだった。わたしも、あんなお兄さんが欲しい。そう思った。そう強く思った。
そして、一瞬だけ、その願いが叶った。そのお兄さんが、わたしに話しかけてくれた日。わたしの特別な日・・・。
そこで目が覚めてしまった。枕がつめたかった。気づかないうちに泣いていたみたいだった。悲しいこと。でも、そのおかげで、えんちゃんと友達になれた。悲しいことだけじゃなかった。それを私は知っている。
布団から出て、カーテンを開ける。朝の光が、部屋の空気を入れ換えていく。
”今日も一日頑張るの!!”
心の中で気合いを入れて、私の一日が始まる。
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皆さんこんばんは。パルです。この話は、全部で5か6話の予定です。それと、感想は、明日まとめて書くつもりです!
今日は、これで失礼します。