第5話 −届かなかった言葉−
(ここまでの話)
俺達は、みさおによって校舎に閉じこめられてしまった。みさおの話だと仮初めの世界らしいが、とにかく、みさき先輩、七瀬、繭と茜が、俺の前から消えてしまった。
みさおが去った後、俺は校舎の中を彷徨っていた。
あの時まで、俺は結構幸せだった。それなりに辛いこともあったけど、幸せだった。
でも、みさおがいなくなって、辛くなって、こんな世界はいらない。こんな悲しい世界は、消えてしまえと、心の底から願った。
「でも、俺はここにいる・・・」
それは、当たり前のことなのに、何となく、違和感を最近感じている。
くい、くい。
後ろから、誰かが袖を引っ張る。
「澪か?
振り向くと、澪がいた。澪は、俺の顔を見て、スケッチブックに何かを書いた。
『泣いてるの?』
そう書かれていた。昔を思い出して、自分でも知らぬ間に、涙が頬を濡らしていた。
「何でもない」
澪に、あまり情けない所を見せたくはなかった。
「・・・??」
澪は、不思議そうな顔をして、俺のことを見ている。澪は、覚えているのだろうか?俺達が本当に最初にあったときのことを。
聞いてみたいという気持ちはある。でも、後ろめたさがあって、未だに聞けない。未だに、あの時のことを謝ることが出来ないでいた。
「やっと、見つけた・・・」
みさおの声だ。その声に驚いて、澪は俺の後ろに隠れると、制服の袖をぎゅっと握りしめた。
(また、制服が伸びるじゃないか・・・)
そう思いながら、澪に頼りにされているみたいで、少し嬉しかった。
「お兄ちゃん。”もしも”という話に興味ある?」
「?」
「もしも、あの時、お兄ちゃんがあの場所へ行けたなら・・・」
「・・・」
「あのね、リボンのお姉ちゃんは、この中で一番古い知り合いになるんだよ・・・」
「言うな!!」
俺は、思わず大声を出してしまった。その声に驚いた澪は、小さな手を離した。
「だって、お兄ちゃん言ったよ。公園で変わった奴にあった。今度お前も一緒に会いに行こうって・・・」
「よく、覚えていたな」
「だって、お兄ちゃんが他のこの話を私にするの珍しいから・・・。私も、少し楽しみにしていたから・・・でも」
「約束、守れなかったんだよな・・・」
俺は、澪の方を見た。澪は、何のことか理解できていないようだった。
「ごめんな・・・」
俺は、澪の頭に手を置きながら、そう呟いた。
「お兄ちゃん、今幸せ?」
「あぁ・・・」
「私が、いなくても幸せ?」
「・・・」
「悲しくない?辛くない?」
「・・・」
「一人になっても平気?」
「・・・」
「お兄ちゃんが望んだ、もう一つの世界・・・。それがもうすぐやって来る・・・」
「また、”もしも”の話か?」
「違うよ・・・。現実の、今の世界のことだよ」
「?」
俺は、みさおの話が気になり、みさおの方へと向かって歩き出した。その時だった。
「怖いよ!!」
確かに、そう聞こえた。心の中に直接響くような声。
「澪!!」
俺は、急いで振り向いた。でもそこに、澪はいなかった。
「駄目だよお兄ちゃん。リボンのお姉ちゃんは、いつも我慢しているから・・・」
「我慢?」
「伝えきれない、たくさんの言葉を心の中にしまっている・・・。私も、お兄ちゃんに言いたいことが、たくさんあった・・・。今も、たくさんあるから・・・」
「なぁ、みさお。お前は、何がやりたいんだ?」
「まだ秘密・・・」
そして、小さく笑った。
「まだ一人いるから・・・。その時、教えてあげる・・・」
そして、みさおはまた姿を消してしまった。
「長森!!」
俺は、最後の一人、長森がいる食堂へ向かって駆け出した。
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皆さんこんばんは。最初に、感想を書いて下さった方々、大変ありがとうございます。
話は変わって、いよいよ明日、小説ONEエピソード2(茜様編)が発売になるようです。(一部のお店では今日すでに売っているようですが)今から楽しみです。
後、今日は感想書けませんでした。ごめんなさい。
最後に、いけだもの様。本日(といっても現時点で後30分しかないけど)誕生日だそうで、おめでとうございます。
では、また・・・。