木枯らし吹く冬のある日… とある教室のとある窓、一人の少女が外を見ています。 「…もう…冬ね…」 憂いを帯びたその表情、さらりと流れる長い髪…そう、彼女の名は… 「雪ちゃ〜〜〜ん、何深刻な顔してるの?…なんとなくだけどね」 「みさき…アンタ時々鋭いわね…」 「時々は失礼だよ〜〜〜」 …演劇部部長にして川名みさきの親友、深山雪見。 このお話は彼女と彼女の賑やかな仲間達のお話です… 『冬の雪見さん』 〜悩みを聞かせて〜 「…と、いう訳なんだよ浩平ちゃん」 「いや、全然話が見えてこないんだが…って、言うかその呼び方やめてくれ先輩…」 ここは高校の近くのある喫茶店。 雪見の親友である川名みさきとその恋人(?)の折原浩平が二人で席に座っています。 みさきの前にジャンボパフェが3つも並んでいるのは…お約束ですね。 「えーっと…雪ちゃんが最近深刻な顔で窓の外見てるらしい…って所までは話したよね?」 「…いや、そんな事聞いてないぞ」 「えっ?」 「オレが聞いたのは、みさき先輩が深山先輩に昨日も追い掛け回されたっていう話だけだぞ」 「あれ?」 …今日も相変わらずな二人のようだ。 で、みさきは浩平にずずいっと詰め寄ります。 「で…私が「どうしたの?悩みでもあるの?」って聞いても…」 「ふんふん」 「「なんでもないわよ」って…ちょっと笑うだけで何も答えてくれないんだよ」 「ふーん」 「だから…浩平君何とか聞き出してくれない?」 「なるほど…って、何でオレなんだ!?」 「浩平君なら聞きだせそうな気がするから(きっぱり)」 「…おいおい、相手は深山先輩だぞ!?オレが言ったって…」 「ううっ、浩平君はこんな薄幸の美少女のささやかなお願いも聞いてくれないんだね…」 そう言って泣きまねをするみさき。 「…先輩、泣き真似は反則だぞ」 今目の前にいる浩平はともかく、周りの人間がそれに気づくとえらい事になりかねません。 現にさっき近くをとおったウエイトレス達が奥でひそひそ話しているようです。 当然浩平は… 「…みさき先輩、分かったから泣きまねだけは止めてくれ…」 「あ、聞いてくれるんだ。お願い♪」 仕方なく頷く浩平と、一転して嬉しそうなみさき…二人の結婚生活が何となく想像できそうな光景ですな。 ―――――――― で、次の日の屋上。 雪見は浩平に呼び出されてここにやって来ました。 「折原君、何の用なの?」 雪見は浩平の姿を見るなりそう言います。 で、浩平はいつものように自分のペースに引き込もうと話し始めます。 「深山先輩、実は…」 口を開きかけた浩平に、雪見は微笑みながらこう言いました。 「ひょっとして愛の告白?駄目よ、みさきを悲しませるような事したら」 「み、深山先輩!?」 「冗談よ♪…で、何の用?」 「うっ…」 …この会話で完全に主導権は雪見が握ってしまったようです。 さすがの浩平も自分のペースに持ち込む事ができなかったようで…仕方なくみさき先輩に頼まれた事をそのまま伝えます。 「…みさき先輩はそういう訳で深山先輩の事を心配してるんですよ」 浩平の話を聞いて雪見は少しの間考え込んでいた…そして、 「うーん、その時はちょっと気分が優れなかっただけよ」 そう言って何故か話を誤魔化したようです。…当然浩平は納得できません。 「いや…みさき先輩が言うには何か悩みでもあるんじゃないかって…オレも何となくそう思いますけど」 雪見の顔を見ながらそう言う浩平。 確かに雪見の今の言動を見てもそう思うのは当たり前なんですが… 「そんな事無いわよ…私は悩んでなんかいないわよ」 …いつもの調子でそう言う雪見。うーむ、これでは駄目だな…浩平はそう思います。 と、いきなり浩平が叫ぶようです。…どうしたんでしょう? 「この手段は使いたくなかったが…仕方ない、出でよ!次期演劇部長!」 「えっ!?」 その謎の浩平の叫びに呼応して…誰かが給水塔の影から姿をあらわしました。 それは… 『そう言う呼び方をされると照れてしまうの』 …演劇部一の頑張りやさん、上月澪でした。 さすがの雪見もビックリしている様です。 「こ、上月さん?一体いつからそこに…」 『初めから居たの、とても寒かったの』 そう言って寒そうに体を振るわせる澪…いや、ホントに寒そうです。 そんな澪に浩平が言います。 「澪…証言その1だ」 『まかせるの』 澪はそう言うとスケッチブックの新たなページを開きます。 『証言その1:部長が疲れて居眠りしていた時の寝言「…たまには舞台に上がりたいわ」』 …その言葉にハッとする雪見。 で、浩平と澪のやり取りは続きます。 「証言その2…だな」 『わかったの』 『証言その2:部長のひとり言より「…これで良かったのかしら、部長兼監督で…」』 そのスケッチブックを見て浩平は雪見に言います。 「深山先輩…正直に言ったらどうです?…みさき先輩にね」 「…負けたわ、折原君」 …既に十分過ぎるほど打ちのめされてた雪見は…とうとう観念したようです。 ――――――― 「えーっ!?雪ちゃんそういう事で悩んでたのーーー!?」 「み、みさき…声が大きいわよ」 …ここは前と同じ喫茶店。ジャンボパフェが並んでるのも同じです。(笑) で、ここに雪見、みさき、澪、浩平の4人が集合したって訳です。 「しかし…部長は舞台に絶対上がらない…っていうのも凄いな」 そう言って腕組する浩平…そう、雪見の悩みとは… 『たまには自分も舞台で演じてみたい』 『でもそれでは部長の権限を行使しているみたいで嫌』 『それに脚本や演技指導で忙しくて実現できない』 …そう言う事なのだ。 つまり部長になってから舞台に上がれない不満…みたいなものです。 『そう言えば深山部長が演じてるの見たこと無いの』 「でも…一年と二年の時は…雪ちゃん演じてたような気がするよ」 パフェを口に運びながらそう話す澪とみさき。 そんな二人に恥ずかしそうにこう言う雪見。 「だって…脚本書くのも私で…演じるのも私っていうのは…ちょっとズルイかなって…」 そんな雪見にみさきが詰め寄ります。 「雪ちゃん…私に言ってくれれば良かったのに」 「えっ?でも…」 「やっぱり私じゃ…相談するのに心細かったかな…」 そう言って寂しそうな顔をするみさき。そんな彼女をマジマジと見ていた雪見ですが… 「みさき…ごめんね」 と、ポツリと漏らしただけでした。 …4人の間に少しの間、沈黙が流れます。 …………が、 突然みさきが大きい声を出しました!…どうしたんでしょう? 「すいません!ここのメニュー上から順に持ってきてください!」 …いきなりの大声とその内容に呆然とする3人。 ですが…一番最初に浩平が意識を取り戻しました。 「えーっと…オレは支払わないぞ、うん」 えっ?って顔をする雪見に…澪も言います。 『支払うのは深山部長なの♪』 更にええっ?という表情になる雪見。そんな彼女にみさきが…止めを刺します。…笑顔で。 「雪ちゃん……支払ってね♪」 「………みさき、ホントに私が悪かったわ」 ……そういう雪見の顔には少しですが…笑みが戻っていました。 ―――――― 「私は…いつも雪ちゃんにお世話になりっぱなしだから…悩みぐらい聞いてあげたいよ」 「…みさき先輩にとっての親友は…オレにとっても親友みたいなもんだぞ」 『深山部長のお役に立てて嬉しいの』 ……………ありがとう、みんな ―――――― 後日:上月澪の日記より 『今日は半年に一度の演劇部の発表会があったの』 『私も出たの…失敗無しで演じれて嬉しかったの』 『それと…深山部長も演じてたの…でも主役じゃなかったの』 『「これでギリギリの線ね」…って言ってたの…私はホントは主役の部長が見たかったの』 『でも…やっぱり部長の演技は凄いの』 『いつか……追いつきたいの!』 おしまい ============================ 「雪ちゃんがゲーム中で演技してる場面無いなー」…こう思った事が私がこのSSをきっかけです。 ひょっとして何か理由があるのでは…と無理やり考えて書いたので…理由が目茶目茶かもしれない…(^^;;; でも久しぶりに力を入れた…そう思えるSSだとポン太は思ってます。 …ではもう一度言いますか。 「雪ちゃん、誕生日おめでとう!」 1999.12.1