一陣の・・・風 投稿者: 変身動物ポン太
『覚えてないの?』


彼女と久しぶりに会って話したとき・・・出てきた言葉。


「覚えてないって・・・・何を?」

『”彼”の事なの』


その時の私は・・・・その人の名を覚えてなかった。

 ――――――――――――

彼女・・・・上月澪が初めて演劇部に来たときの事を思い出す。

『入部したいの』

スケッチブックを私に見せて・・・・そう言った。


言葉の無い彼女が・・・・演劇をする。
無理・・・・だと思った。・・・・・最初は。

でも・・・・私は分かった。

『伝えたいことがあるの』

『一杯あるの』

彼女の演劇の才能・・・・いや、表現する力を。
そして・・・・・。

『・・・・頑張りたいの』

精一杯表現する・・・・それには言葉が無いなんて関係ないことを。



それがはっきりと分かったのは・・・あの演劇会だったけど。
私が演劇部長として・・・・最後に臨んだ時の。

 ―――――――――――

あれから半年が経った時、私は母校の演劇部を久しぶりに訪ねた。

今や上月さんは演劇部一の部員・・・・いや、女優かもしれない。

彼女はあの演劇会の数ヶ月前から急激に成長した・・・・と思う。
何故かは分からない。


『・・・・やっぱり知らないの』

「御免なさいね。」

『いいの・・・・待ってるから』

「待ってるって・・・・。」

『”彼”が帰ってくるのを』

 ・・・・・・

やっぱり・・・誰かを忘れてるのかも。
そう思って私はため息をつく。

「雪ちゃん・・・・またため息ついてる。・・・・久しぶりに私達の”母校”に来たのにね。」
「みさきは今でも・・・ちょくちょく来てるんでしょ?」
「もちろんだよっ♪」

そう言えば・・・・みさきがやたら明るくなったのも・・・・卒業する数ヶ月前だったっけ。

 ――――――――― 

前からそれなりに明るいみさき・・・・でもあの時は・・・・。
そう、去年の正月だったわね。

「雪ちゃん!これ見てよ!これ!」
「えっ?・・・・年賀状?」
「うんっ!点字で書いてあるんだよ・・・・ホントに嬉しいよ〜♪」

私だって・・・・点字では書いたこと無いのに。

それからだった・・・・卒業するのを怖がっていたみさきが・・・・それを怖がらなくなったのは。

 ・・・・・・・

「みさき・・・・あの時の年賀状・・・・誰からのだった?」
「えっ?点字の年賀状だね?えーっと・・・・あれっ?誰からだったのかな・・・・雪ちゃんじゃないよね。」

・・・・みさきにも空白があった。

 ――――――――――

卒業する前の数ヶ月・・・・・”誰か”が其処にいた。
私やみさき、そして・・・・上月さんの前に”彼”はいた。

そして・・・・・”彼”は・・・・・・消えた・・・・?



それは・・・・吹き抜ける一陣の冬の風・・・・何事もなかったように・・・・ただ”此処”を駆け抜けた。

・・・・上月さんやみさきには”何か”を残して。



最近・・・・・・・私はそう考えるようになった。


 ――――――――――


そして・・・・また半年が経ち、私は再び母校を訪れている。

「う―っ・・・また無視する・・・。」
当然のようにみさきも後ろから着いてきてるけど・・・・。


職員室で担任だった先生に挨拶し、部室に向かう。

しかし、みさきの一言が行き先を変えた。

「・・・・お腹へったよ。」

・・・今考えると、これは何かの導きだったのかもしれない。


学食についた私の前に・・・・こんな光景が飛び込んできた。


がしゃああぁぁぁぁーーーーーん


何かが床に落ちる音

そして・・・・私の目に映る二人の姿―――――――――


演劇会の時の服装のまま・・・・誰かに抱きついている上月さん

頭からラーメンをかぶって・・・・上月さんを優しく見つめている青年


・・・・・風は戻ってきたようね・・・・。


 ――――――――――――


冬の風はいつか戻ってくる

暖かい・・・・穏やかな風となって

そして・・・・


風を待ち・・・・残された”何か”を持った者達に・・・・・



輝く季節も訪れる・・・・・・・
 




「・・・・やっぱり羨ましいかな。」
「雪ちゃん?何か言った?」
「何でも無いわよ。」


END
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ポン太「本日3本目、澪ちゃんシナリオでの雪ちゃんの重い(字が違う)SSです。浩平の事を”風”って捉えてるのが・・・雪ちゃんらしい・・・かな?」
雪ちゃん「みさきの年賀状イベントは・・・・上月さんシナリオと両立できたっけ?」
ポン太「これは私のオリジナル・・・・と思う。」
雪ちゃん「ふーーーん、そうなの。」
ポン太「トレカ情報なんですけど・・・・雪ちゃんの特技ってバイクなんですね・・・・(−−;;;;」
雪ちゃん「何か文句でも有るの?」
ポン太「・・・・無いです。」

ポン太「しかしこの前の雫様の雪ちゃんSSは・・・・・凄くよかったなあ。」
雪ちゃん「同じ雪ちゃんSS作家でもポン太とは大違いね。」
ポン太「ぐはあっ!?(吐血)・・・・精進するです。(−−;;;;」
雪ちゃん「そう言えば・・・ONE一周年には何も出してないわね。」
ポン太「土曜出勤なんてもう嫌だああああああーーー!!!」だだだだっ!
雪ちゃん「あっ・・・・逃げた。」

裏ポン太「えーっと・・・おしまいです。後は感想SSがつづきますっ!」

1999.6.5