一緒に歩こう  投稿者: 変身動物ポン太
「えっ?みさき、今なんて言ったの?」
私は親友にそう聞きかえした。
「だから・・・・・街の中を一人で歩けるように練習したいって言ったんだよ。」

4月・・・・私こと深山雪見とその親友の川名みさきは同じ大学に入った。
それから10日も立たない内の出来事。
突然みさきは上のような事を言い出したのだった。

「その事を私の両親に一緒にお願いして貰いたいんだけど・・・・・駄目かな?」
「ぜぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーったい、駄目!みさきみたいなぼーーーーっとした子は一人歩きしちゃ駄目なの!」
「雪ちゃん・・・・・そう言う意味じゃなくて、私は普通に歩けるようになりたいだけだよ・・・・学校と同じように街もね。」
「みさき・・・・・?」

その時、私は正直言って驚いていた。
何故かって?・・・・みさきは今まで−失明してから、学校と家以外の場所は極力避けていたから。

私に相談してくれるのは嬉しいけど・・・・”外を歩きたい”なんて何で急に変わったのかしら。
そう言えば・・・みさきとは卒業式から一週間くらい音信不通だったわね。
心配したけど・・・・大学の入学式には、ちゃんと来たから安心したんだけどね。

「ねえ・・・・練習位はしていいよね?」
「みさき・・・・あなた、卒業してしばらく顔見なかったけど・・・・・何かあったの?」
何気なく私の言った言葉・・・・でも。

「・・・・な、何でもないんだよ。」
「!?」

その一言で・・・・・みさきは驚くほど狼狽していた。一瞬だけど、普段のぼーっとした表情が崩れた。
何か・・・・あったの?みさき・・・・。
こんな時、いつもなら”何があったの!?”とか聞いてしまう私だけど・・・・・。

「・・・・・・そう。」

この時のみさきの顔を見ていると・・・・とても聞けなかった。だって・・・・。
私には見えたから・・・・みさきの心が揺れている事が。


「分かったわ。みさきの両親に頼んであげる。」
「・・・・・えっ?」
「街の中を一人で歩きたいんでしょ?」
「・・・・・うん。じゃあ、練習しても良いんだね。」
緊張した表情を緩め、喜ぶみさき。
喜ぶみさきに視線を合わせて・・・・・私はこう言った。

「ただし・・・私も協力させてもらうという条件付きでね。」

何があったかは分からないけど・・・・・みさきが自分から言い出したことだからね。

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それから・・・・少しずつだけど、みさきは街の中を歩いていった。


春・・・・・桜の花びらの舞う公園−みさきはここを歩きたかったと言っていた。

夏・・・・・焼け付くような日差しの街角−山葉堂やパタポ屋を見つけたみさきが喜んでいたわね。

秋・・・・・紅葉が綺麗だった街路樹−「きっと綺麗な色なんだろうね」みさきは少し寂しそうに笑っていた。

冬・・・・・木枯らしの吹く神社−「今日は良い風が吹いてるね」みさきは静かに何かを思い出していたようだった・・・・。


私はある時はみさきの傍らで、またある時は影からみさきが歩けるようにサポートしていた。
そして・・・・私は気付いていた。いつも思っていた。

『みさきが一緒に歩いていたいのは・・・・・私じゃない』

この事を。
みさきは大切な人と隣で一緒に歩いていたいから・・・・・頑張って居るんだと。

みさきの大切な人・・・・・・・誰かは分からない。
いや、違う・・・・・思い出せないだけ?


・・・・その事を考える度に私は・・・・少しだけ・・・・みさきが羨ましかった。


そんな事を思っていた冬のある日・・・・・私と一緒に街の中を歩いていたみさきは、突然私にこう言った。

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「雪ちゃん・・・・・ゴメンね。」

何を謝っているのか・・・・分かったけど分からないふりをした。

「何言ってるの?」
「私のこんな我が儘に雪ちゃんを付き合わせちゃってる事だよ。」

・・・・やっぱりこの事ね。
何も言わない私に、みさきは続けて言う。

「雪ちゃん、今でも演劇してるし・・・・それにこの”街を歩きたい”って言うのは私が・・・・。」

いつになくしおらしいみさき・・・・・分かってるわよ、みさきの言いたいことは。
だから私は、みさきの言葉を遮るようにこう言った。

「・・・・一緒に歩きたい人が居るんでしょ?みさきには。」
私の一言にみさきはハッとした表情になった。

「誰かは分からないけど・・・・その人の為に少しでも歩きたいんでしょ。だったら私に謝る前に・・・・その人の為に頑張りなさいよ。」
「ゆ、雪ちゃん・・・・・。」
・・・良いじゃない。大切な人の為に頑張ることって。私はそう思うわよ。
大人の人の為だったら・・・・親友でも何でも使える物は使いなさい。・・・・私だったらいつでも使ってね、みさき。

「練習に付き合いたいって言ったのは私の方なんだし・・・・ね?」
そう言ってみさきの肩をポンポンと叩く。

みさきは小さく頷いた。

「じゃあ、一緒に歩こう。」
「そうだね、雪ちゃん。」

再び・・・・私達は二人で歩いていった。


春の訪れを予感させる風が吹く、街の中を。






「そういえば、浩平君・・・・・だったわよね、あの時みさきの片棒担いでいた子って。」
「えっ?」

END
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ポン太「いや〜〜〜、”雪ちゃんSS4連発”やっと終わりました。・・・・疲れた。」
雪ちゃん「ホントはもう一本書くはずだったのよね。」
ポン太「”池−深山雪見編”ですな。でも・・・・。」
裏ポン太「オチがありきたりだったので止めたんですよね。」
ポン太「そうです。(TT)もし見たいっ!って言う奇特な人が居たら・・・書きますけどね。」
雪ちゃん「・・・・居ないと思うけど。」

雪ちゃん「で、いけだものさんに渡した予告編のSSの本編は・・・・何処まで出来たの?」
ポン太「まだ3話までしか書いてないです・・・・公開はまだまだ先ですな。( ̄∇ ̄)」
雪ちゃん「ふ〜〜〜ん。」

ポン太「次はいつ来れるかなあ・・・・早く完全復活したいな〜〜〜。」
雪ちゃん「と、言うわけで次のUPの日は当然未定です。」
裏ポン太「それでは。」

3人「またお会いする日まで、さよなら〜〜〜〜〜〜〜〜。」

1999.4.10