粉雪の舞う舞台で・・・ (4) 投稿者: 変身動物ポン太
来るはずのない時・・・・・何もかもが溶け出す時間・・・・・それは

幼き日の約束を守り・・・・・知るべきものを知り・・・・・誰かを求める・・・・・そんな時間

そんな時がこの世に存在するならば・・・・・悲しみは輝きに・・・・・変わる


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もう3月も近い日・・・演劇部も7日の講演に備えて大わらわだった。

「折原君、ちょっと買い物につき合ってくれない?」
これが部室の中で言われたんじゃなかったら・・・・・最高なんだけどな。
「ああ、いいですよ。」

深山先輩を支える・・・そう言った日から、オレと深山先輩は二人で行動するようになっていた。・・・部活の時がほとんどだけどな。
そして・・・・澪もいたけど。
今日は澪が用事が有るとかで早く帰っていったんだったよな・・・。
・・・・・そう言えば、なんか買う物って残っていたっけ?
廊下に出ようとしたオレの耳に、1年の女の子の声が入ってきた。
「深山部長と折原先輩って・・・・なんかいつも一緒にいると思わない?」
「付き合ってたりして・・・・。」
会話の後にきゃー、という声も上がってるし・・・・。

校門から出たあたりで、オレは深山先輩に聞いてみた。
「えーっと、今日は何買うんですか?」
深山先輩は一瞬びくっとして・・・・とぼけたような顔をして言った。
「・・・・・私の服・・・・かな。」
ふーん、そうか・・・・って。
「深山先輩って、役無いじゃないですか。」
「役が無かったら・・・服を買っちゃ駄目なの?折原君。」
うっ、そう言う訳じゃないけど・・・・な、なんか今日の深山先輩、別人みたいだぞ!?
「じゃあ、ついてきてね。」
・・・・いや、もしかしたらこれがホントの深山先輩の姿なのかも・・・・

「えーっと、この服似合うかな、折原君。」
「あっと・・・うん、似合うと思うぞ。」
ここは商店街のおしゃれな服屋。
・・・・さっきの事は深山先輩の冗談だと思ってたけど・・・。
ホントに深山先輩は、自分の”私服”を選んで試着してるし・・・・。
「よくお似合いですよ・・・・ホントに。」
えらく愛想のいい店員がそう言っている。
・・・そういえば、深山先輩の私服姿って初めて見たな・・・・。
うーん、なかなかいい・・・ってオレは何考えているんだ。

「ありがとうございましたー。」
あれから2時間ほど深山先輩の”買い物”に付き合って、オレ達はまた学校へ向かっている。
・・・・一応、演劇部のための買い品もあったけど・・・・。
さっき買った差し入れのワッフル(もちろん山葉堂だ)だけだった・・・。
・・・この”買い物”ってやっぱり・・・・あれだよな。
「ごめんね、折原君。引っ張り回しちゃって・・・つまらなかったでしょ?」
「そんな事無いってば。」
いや、それどころか・・・なんか、楽しかった。それに・・・・・。
「あと、これ・・ありがとう。」
深山先輩が小さなキーホルダーをオレに見せて、微笑んでくれた。
何件目かのファンシーショップで、先輩があまりにもじっと見ていたのを見かねてオレが買ったのだ。
「いや・・・別にいいって。」
演劇に打ち込んでる深山先輩もいいけど・・・・・今の深山先輩もいいと思うぞ。うん。
「折原君・・・・・。」
「何だ?先輩。」
深山先輩は一呼吸おいて、言った。
「今は演劇のことがあるから・・・・・これだけしか出来なかったけど・・・。講演が終わったら・・・もう一度、買い物付き合ってくれる?」
・・・・・ホントに不器用だな、オレ達って・・・・。
「ああ、付き合うぞ。」
「約束してよ。」
・・・・・約束・・・・・か。守れるよな・・・・多分。


「あー雪ちゃん、ずるいんだー。買い物って、2時間も何やってたんだよ。」
部室の入り口でみさき先輩が待っていた。
「ごめんね、みさき。ワッフル”たくさん”買ってきたからね。」
「うっ、ワッフル・・・・・雪ちゃん、ホントにずるいよー。でも・・・。」
さすが深山先輩。みさき先輩の食い意地を読んだ見事な作戦だ。
しかし、ほのぼのとした空気もつかの間だった・・・。

「ううー、分かったよー。でもホントに一人で2時間も何やってたの?」

えっ?一人って・・・・。

「一人じゃないわよ、折原君と一緒に・・・・。」
次のみさき先輩の言葉・・・・・・・・。

「折原君って・・・・・・」
これ以上・・・聞けない、いや・・・聞きたくない。
しかしオレの耳は、冷静に事実を俺自身に・・・突きつけた。

「誰?」

オレは・・・・・消えるのか。

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日めくりカレンダーは3月に入っていた・・・・。
オレの存在はカレンダーがめくられるたびに・・・・薄れていった。

もうオレの周りで、オレのことを覚えている人はいない・・・・はずだ。
長森も、七瀬も、住井も、澪も、部活の仲間も・・・・忘れていた。
そして・・・・いや、もういい。

みさき先輩に忘れられてからも、オレは理由をつけて部活に出ていた。

「知り合いが昔、演劇やってたから・・・。」
「・・・・人手が足りないって聞いたもんで。」

誰も知らない人間が、手伝う理由・・・・・これぐらいしかなかった。
それでも1日立てばまた・・・・忘れられてしまう。
でも、なぜか・・・オレは部活へと・・・足を向けていた。

『坂道で先輩の背中を押すくらいのことはしても・・・・いいよな?』

深山先輩・・・・。

忘れられてもいい・・・・先輩を全力で支えたいんだ・・・・オレは。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あれっ、あなたは・・・・。」
「!」
「あっ、深山部長。この人は人手が足りないから来てくれた人ですよー。」
「・・・・・・・。」
オレは・・・・先輩に背を向けた・・・・・。
「・・・・・・・。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、この夢か・・・・。
見たくない・・・・深山先輩の顔・・・・・あの目は・・・・もう。

しかし・・・あと、少しなんだ・・・・。

そして、オレは・・・・・また・・・・・歩いている。


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3月7日
「・・・・いよいよか。」
深山先輩の作った”舞台”が発表される日・・・・・だ。
オレは制服に身を通し・・・・・部屋を出る
二度と戻れぬ・・・・・部屋を。


まだ開演にはほど遠い。
体育館に入ってみるか・・・・

「やっぱりな・・・・。」
案の定、まだ用意は出来てないようだ。当然といえば当然だな。
一番力仕事の得意な奴が、ここしばらくは満足に手伝ってなかったからな・・・・。
だから・・・・・・。

「すいません、手伝ってもらって。」
「いえ、いいんですよ。何かしないといけないと思ってましたから・・・・。」

オレはまた作業を手伝っている。
・・・・深山先輩に見付からないようにして・・・・。

『あれっ、あなたは・・・・。』

あの目は見たくないからな・・・。


・・・・・・・・・・・・・

オレの手の中にある一冊の本

台本だ

”忘れられる”前に手に入れた物

だからオレは”舞台”の内容は知っている・・・・はずだった

だが・・・・

深山先輩、やっぱり凄い・・・・・

オレの前で繰り広げられる・・・・舞台は・・・・


割れるような拍手が全てを包み込んでいた・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・

「終わったな・・・・何もかも。」
全てが暗闇に包まれる時間
オレは誰もいなくなった体育館の舞台の上にいる。
周りには背景の板や、舞台装置が立ち並んでいる。
ほとんどどれにも、触った記憶がある。
まあ・・・大道具だったから当たり前なんだけど。
「片づけは明日・・・だったよな。」
今頃、部員達は打ち上げの真っ最中だろう・・・。

終わった

深山先輩の舞台が
オレの存在理由が

そして・・・・

深山先輩を支える時間が・・・・

「終わった筈なのにな。」
この胸の中の・・・痛みは・・・・なんだ?
誰も答えてくれないよな・・・忘れられているんだからな・・・。
彼女にだって・・・・。

「後は・・・・消えるだけか。」
いろいろ考えたが・・・・・

「やはり、ここだな。」
消えるまでの三ヶ月、オレはこの、深山先輩の舞台を作るために存在していたといってもおかしくないだろう。
消えるならここが一番・・・・いい。


オレは近くにあった椅子に座り込んだ。
”舞台”の中では澪が使っていた物だ。

「?」

足下に違和感を感じて、見てみる。
「台本か・・・。」
拾い上げたオレに、月明かりがそれの所有者の名を告げる。
『深山雪見』
・・・・先輩・・・・。
オレは無意識の内にそれを開いていた。
「!」
そこには・・・・書いてあった。
『演技指導・大道具 折原浩平』


”そこ”にはまだ明かりが付いていた。
「・・・・・。」
オレは無言で扉に手を掛ける。


「あっ、折原君。来てくれたのね。」
三度目だな、このセリフは・・・。
「深山先輩・・・・オレのこと、覚え・・・」
オレのセリフは止まった。
いや・・・止められた。
深山先輩の口に・・・・。

「先輩・・・・・・。」
オレはただ一つのことを思っていた。
それは初めて深山先輩と会ったときの記憶・・・。

(綺麗な髪の人だな・・・・・・・。)

そして今、分かった。
先輩の髪って、こんな綺麗な香りがするんだと・・・・・。

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「折原君・・・・ごめんね。あなたのこと少しでも忘れて・・・・。」
「もう・・・・いいよ、そんな事。」
深山先輩はオレの事を、覚えていてくれた。それだけでいい。
・・・・ずいぶんオレも人間が丸くなったな。

「約束があったよね・・・・・。」
「ああ・・・・・確かに。」

『講演が終わったら・・・もう一度、買い物付き合ってくれる?』

「今から、行きたいんだけど・・・・いい?」
「・・・・・・ああ。」
もうオレには時間がないから・・・・・な。


「と、言ってもここぐらいしか開いて無いぞ。」
「私はいいわよ。折原君がいてくれるなら。」
コンビニで買った肉まんと缶コーヒー・・・・クリスマスと同じだな。
これで雪でも降ってこりゃ・・・って、おい!?

空から降る・・・小さな白い・・・羽

「雪だね・・・・。」
「・・・・ああ。」
季節はずれの雪・・・・。
「私みたいだな・・・・・降る時期がずれてて、不器用な雪だね。」
「・・・・オレはこんな雪は・・・好きだぞ。雪見も・・・な。」
不器用なオレ達・・・・。


でも・・・・街灯の明かりは静かにオレ達を包んでくれる・・・・・粉雪は二人の距離を近づけさせてくれて・・・。


そして・・・オレは深山先輩の舞台の上にいた・・・・。
しっかりと先輩を抱きしめて・・・・。
・・・頼りない主人公と不器用なヒロイン。
でも・・・二人で作った舞台だった。

短い舞台、でもオレは・・・・幸せだった。


そして・・・・時間が来た。


(曲:遠いまなざし)


               Fin
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私には・・・親友がいた・・・みさきと、もう一人の
従姉妹の子だった・・・

『美香ちゃんってホントにえんぎがうまいんだね』
『雪ちゃんはじをかくのがすきなんだ』

たあいない約束だった

『美香はじょゆうさんになるから・・・・』
『雪はだいほんをかくよ』
『ふたりで”ぶたい”をつくるんだよね』
『ゆびきりげんまん・・・・だよ』

そして・・・・

『美香ちゃん!やくそくしたよね!おきてよ・・・・美香ちゃん!』
『うん・・・・やくそく、し、たよ、・・・ゆき・・ちゃ・・んと・・・ふたりで・・・ぶたい・・・』
『美香ちゃん?・・・・おきてよ・・・・うそでしょ・・・・美香ちゃん・・・・』

幼き日の約束・・・・それは私を縛り付けた。そう思っていた
・・・・・彼に会うまでは

『ここ−演劇部にオレを入部させてほしい。』
『先輩・・・オレが家まで送った方がいいかな?』
『坂道で先輩の背中を押すくらいのことはしても・・・・いいよな?』
『・・・・オレはこんな雪は・・・好きだぞ。雪見も・・・な。』

折原浩平

彼が私のそばにいてくれるようになってから、演劇は私を縛る物では無くなった
最高の”舞台”作りたい、みんなに、彼に、見てもらいたい。
一人では”舞台”は作れないわね・・・・。

でも今なら言える・・・・
「美香ちゃん・・・あなたとの約束・・・・部活のみんなと、そして・・・・彼のおかげで」
「”舞台”はできたわよ」
って・・・・。

「ゆきちゃん・・・・さいこうのぶたいだったよ。とくにさいごのしーん。」
「すてきなかれとこなゆきのぶたいで・・・・うらやましいな、ゆきちゃん」

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「みさきー、さぼらないでよー!」
「あうー、今日はバイトなんだよー。いまびんぼーなんだよー。」

私は今日も一人で部室にいる・・・・。
「・・・・OBにこんな事させないでよ・・・。まったく。」
大学に入ってもうすぐ一年・・・・になるけど。
高校の部活には時々、顔を出していて・・・・・この有様。
まあ・・・・これが自分の性格なんだけどね。

「はあー、いまの部員はたるんでるわよねー。誰か手伝いに来てもいいのに。」
みさきも逃げたからね・・・・・。
でもみさきって・・あの後なんか言ってたような・・・。
確か・・・・。
「雪ちゃんにはいつも手伝ってくれる人−浩平君がいるじゃない。」
えっ!?

後ろで扉の開く音・・・・。

「深山先輩・・・・まだいたのか。」
・・・・いたわよ、ずっと・・・帰ってくるまで
冷え切った私の体を、後ろから抱きしめてくれるあなたが。

「雪見・・・・遅くなってごめんな。」

いいの、でも遅れたから一つだけ言うこと聞いてもらうわよ。

「二人で・・・・”二人だけの舞台”を作らない?」

(曲:輝く季節へ)





粉雪の舞う舞台で・・・  END
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ポン太「長すぎいいいいいいいいい!!!!!!!!と、いうわけでおしまい!」
つっこみ茜ちゃん「・・・・ホントに長いです。」
雪ちゃん「ごめんなさい、つっこみ茜ちゃんの出番もこれだけです。」(いけだもの様、ホントにごめんなさい)

ポン太「では、また来年!」
つっこみ茜ちゃん「・・・・これで来年まで引くつもりですか?」
雪ちゃん「ひょっとしたら明日なにか書きこむかも・・・・だそうです。」

ポン太「それではー。」

1998.12.25