忘却者達の鎮魂歌 (5) 投稿者: 変身動物ポン太
暗い・・・・視界が全く無い、ここは何処なんだ。

「やっと来てくれたんだ。」
ふと見ると・・・・目の前に一人の少年が立っている。
「だれだ、お前は・・・・。」
見覚えのあるような・・・・顔だ。
「あの時の事を、忘れてるんだよね・・・・・永遠の約束の時の事。」
・・・みずかとの約束か?
「覚えている・・・・」
「じゃあ、何故すぐに”永遠の世界”に来なかったんだよ。」
「それは・・・・くっ。」
「やっぱり忘れていたんだ。」
・・・・・そうなのか。
「でも大丈夫だよ。僕が作った”この世界”があるから。」
・・・・・・えっ?
「”永遠の世界”からいずれ”彼女”も連れてくるからさ。」
「お前は・・・・一体・・・・?」
少年はオレの目を見つめて、言った。
「あなたは・・・・僕だ。」
お前が・・・・・オレだと?
「だから・・・一つになろう。元通りに。」
少年がオレに近づいてくる・・・・か、体が動かない。
オレは・・・・やめろ、オレにはまだ・・・・。
「僕はあの時から・・・ずっと待っていたんだよ。さあ、早く・・・・」
やめろ、やめろおおおおおお・・・・・


「うわあああああああ!」
がばあっ
こつん
「うっ・・・・・ん?」
「わっ!・・・・あ。」
ん、なんだ?この柔らかい物は・・・・・って、これは!?

ずざああああああああああ!!!
オレと美香さんは、部屋の端と端に飛び離れた。

これは・・・・ひょっとしてひょっとすると・・・・・・
「お、折原君、あ、あたしは別にそんなつもりだった訳じゃ・・・ない、わよ・・。」
美香さんは、顔を真っ赤にしてそんな事を言っている。
「み、美香さん・・・。」
あの悪夢の後で・・・いきなりこんな・・・・オレの頭の中も混乱している。
部屋の中に不気味な沈黙が・・・・流れる。
き、気まずい。どうにかしなければ・・・・・・ん?


「・・・・朝御飯、出来てます。」

いつの間にか、桜さんが部屋を覗きこんでたりして・・・・。

 ・・・・・・・・・・

朝御飯の時にみんなから聞いたこと。
オレはあの後・・・・気を失って倒れてしまったらしい。
・・・・”彼”との会話はオレの意識の中でされていたのか。

”彼”は言っていた。
『この世界を作ったのは・・・・他でもない、君さ。ただ・・・・君自身と言うわけでは無いけどね』
そして、あの夢の中で出てきた少年はこう言っていた。
『僕が作った”この世界”があるから』
『あなたは・・・・僕だ。』
・・・・・この世界を作ったのは・・・・オレか。

じゃあ、彼女達は・・・・何故ここに来てしまったんだ?
そして・・・・みさおは何故オレを”永遠の世界”でなく”この世界”へ連れてきてくれたんだ?

・・・・解らない。

「折原君。」
ふと顔を上げると・・・・美香さんが俺を呼んでいた。
「ちょっと話があるんだけど。」
「あ・・・・・はい。」
今朝のこともあって・・・・美香さんとは顔を合わせにくい。
「じゃあ、あの丘の上で・・・・待ってるわね。」
・・・・・・・


肌に当たる風が気持ちいい。ここは本当に・・・・。
丘に続く道を歩いていく。
何となく・・・・解る。
オレ(いや、オレでは無いようだが)が”この世界”を新たに作った理由が。

”この世界”は幼いオレではなく・・・・忘れられる寸前のオレが・・・・。

丘の上にたどり着く。
オレに背を向けて、美香さんが座っている。オレはその隣に座った。
「話って・・・・何です?」
「今朝の事じゃ・・・・無いわよ。」
それは、解ってる・・・・と思う。


「”この世界”って折原君が作った物・・・・なんだよね。」
美香さんは・・・・簡単に言った。あの時のように。
「・・・・・ああ。」
オレは何故か素直に肯定してしまう・・・・その理由も聞かずに。

「”何故知ってるんだ?”って、聞かないわね。」
「・・・・・・ごめん。」
オレは・・・・それだけしか言えなかった。
「何で謝るのよ・・・・何で。」
美香さんの声は・・・・少し震えていた。
「オレが・・・・こんな世界作らなかったら・・・美香さんは、いやみんなも・・・ここに来る事なんて。」
「この世界がなかったら・・・・私は、多分消えていたわよ。」
・・・・・!?
「忘れられて・・・・周りの景色がぼやけてから・・・・私は長い時間・・・・何処ともつかない所をさまよってたのよ。」
オレは黙って美香さんの方を見ていた。
「ある時・・・光が見えた。私はそれに向かって・・・・そして、ここに着いたのよ。」
美香さんは静かに・・・淡々と喋っていた。
「・・・ここには私と同じような人がいた。・・・・嬉しかった。忘れられているのは、私一人じゃなかったんだって。」
「でも、結局は同じだった。空間を漂ってる私と・・・・永遠に同じ事を繰り返す私。同じなんだって気づいたのよ。」
だから・・・・美香さんは元の世界へ戻ろうと・・・・。

「昨日・・・・聞こえちゃったんだ。折原君ともう一人の会話が。」
・・・・・・・聞こえてたのか。
「今は迷ってる。元の世界に帰るのか、帰らないのか。だって・・・・・。」
だって・・・?
「折原君の世界だったら・・・・永遠の繰り返しでも良いかなって。」
そう言って・・・美香さんは・・・・オレの顔を見た。
「折原君がいいなら、ずっと一緒にいてもいいなってそう思うの。」
・・・・オレは。

オレは・・・・美香さんとずっと一緒にいたい。
それは間違いない。
でも・・・・・”この世界”には居たいのか?


『選択の時だね』
・・・来たのか。
『この世界から出る為の絆は・・・・』
・・・・絆。
『君が”向こうの世界”で手に入れられなかった絆』
絆は・・・・ある。
『じゃあ、後は君次第だよ』
・・・・何故、”一度”しか喋っていないオレのために
『僕は・・・同じ目を持った君のことが気になっただけさ』
・・・・お前のことは、忘れない・・・・今度は必ず。
『それだけでも・・・・嬉しいよ。・・・・じゃあ、僕は行くよ』
・・・・そうか。
『さよなら、僕と同じ目をした人・・・・』
ああ・・・・さよなら、氷上・・・・・・・。


「折原君は、どうするの?」
美香さんが聞いてくる。どうやら、さっきの会話も聞かれていたらしいな。
「とりあえず・・・・。」
「とりあえず?」
美香さんはそう言って・・・後ろからオレに抱きついてくる。

・・・・”向こうの世界”ではこんな事無かったのにな・・・・。

「奴に会ってみる。」
この世界を作った・・・・もう一人のオレに。

そして・・・オレの選択は、一つだ。
「私達・・・・帰れるよね。」
「ああ・・・・帰ろう。」
帰れるさ・・・・みさおが教えてくれたからな・・・・

『終わってないよ、お兄ちゃんの絆は』

そう・・・・・絆はここにある。

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雪ちゃん「つくづく強引な展開よねー。あれ、ポン太はどこ?」
裏ポン太「あまりの不出来に・・・・永遠の世界に逃げたようですな。」
雪ちゃん「・・・・最終話残ってるのにね。戻ってこれるのかしら?」
裏ポン太「さあ・・・・どうするんでしょーね。」
雪ちゃん「何にせよ・・・・ポン太が居ないから、今日は終りね。」
裏ポン太「次のUPは・・・明日ですか。」
雪ちゃん「それでは皆さん。」

二人「また明日〜〜〜。」

1999.1.19