粉雪の舞う舞台で・・・ (3) 投稿者: 変身動物ポン太
全てが静止する時、人は何を見るのだろう・・・・・・。

誰も語らない・・・・・・誰も語れない・・・・・・。

ただ・・・・・・静かなる空虚があるだけなのか・・・・・・。

あるいは・・・・・・


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「浩平君、ちょっといいかな。」
珍しくみさき先輩が声をかけてきた。
「ああ、別にいいけど・・・・」
「じゃあ、廊下でね。」
なんだろう・・・みさき先輩・・・。
「・・・・澪、ちょっと休憩だ。」
『分かったの』
澪の演技の特訓を一時中断して、廊下の方へ歩く。


年が明けて最初の部活の日・・・・・オレは深山先輩にあることを頼まれていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「上月さんの演技のコーチをしてもらいたいの。ホントは私がしたいんだけどね・・・。」
えっ?
「でもオレなんかにやれるんですか?」
オレじゃ・・・・無理だよ・・・・。
「折原君に出来ないんだったら・・・・誰にも出来ないと思うけど・・・。」
先輩には・・・・・かなわないよ。
「うっ、深山先輩にそう言われるんじゃ・・・・。」
・・・・・・オレは。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

正直、オレは戸惑っていた。それは、あの夜の出来事・・・・・・のせいでもあった
粉雪の降る中での深山先輩の姿・・・・・綺麗で・・幻想的で・・。

彼女の演劇への思い・・・・それが気になってオレはここへ入部した。
しかしそこで見えたのは・・・深山先輩の圧倒的なまでの演劇の才能と情熱・・・・だ。

オレみたいに大した動機も無しに入った奴は・・・・足手まといになる・・・・・・先輩の才能の前には。
そう思ってしまっていた。
だが・・・・・・・・・・・・・。

「雪ちゃんは、浩平君のことホントに信頼してるんだよ。」
開口一番みさき先輩が言ったことはこれだった。
「いきなり・・何言ってんですか・・?」
「こんなに雪ちゃんに信頼されるなんて・・・正直嫉妬しちゃうな・・・。」
オレなんか信頼されてないって・・・。
だが・・・・みさき先輩の次に言った言葉にオレは驚いた。

「雪ちゃんが言うには、澪ちゃんって今度の演劇での要の役なんだって・・。」

えっ!?そんな事聞いてないぞ・・・・・。
「普通だったら、雪ちゃんは自ら指導するはずだよ。・・・・でも・・・・。」
あえてオレに・・・・・なぜだ?
オレなんか・・・・・。

「浩平君・・・・雪ちゃんの足手まといになってるって思ってない?」
「なっ・・・・・。」
声も出ない。みさき先輩なんでそれを・・・・。
「目が見えないと、逆によく見える物もあるんだよ。例えば・・・心かな。」
「・・・・・・・。」
思わず、顔をそらしていた。みさき先輩の顔をまともに見られなかった。

「浩平君。」
顔を上げる。
「!」
みさき先輩はいつもの明るい表情でなく・・・・真剣で、そして泣き出しそうな顔だった。
「み、みさき先輩・・・・・。」
「雪ちゃんは無理してる・・・・私には分かるんだよ。だから浩平君・・・雪ちゃんを支えてあげてね。」
「オレじゃ・・・・。」
「無理じゃない・・・・私にこそ無理だよ。だって・・・・」
みさき先輩は一呼吸おくと
「雪ちゃんは浩平くんのこと・・・・・・・。」

「みさきー、どこなのー、手伝ってよー。」
深山先輩の声だった。
みさき先輩はびくっと体を震わせると・・・くるっと振り向いて走っていった。
そして・・・・・。
「約束だよ。」
そんなみさき先輩の声が、風に乗って聞こえた。

オレは何も言えず、ただ・・・・・・立っていた。
「くっ!」
拳を壁に打ち付ける。
痛みが拳に伝わってくる。しかし、

胸の中の痛みは消してくれなかった・・・・。

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『今日はこれで終わりなの?』
「ああ。」
『もっとやりたいの』
「おいおい、外はもう真っ暗だ。帰れなくなるぞ。」
『それはいやなの』

オレと澪はそろって校門を出る。
(オレは・・・・)
今は、他には何も考えず・・・澪の演技の事だけ考える。
(それだけでも・・・・。)
深山先輩にはかなわないけど・・・・でも・・・・・。

『折原君に出来ないんだったら・・・・誰にも出来ないと思うけど・・・。』
『雪ちゃんは、浩平君のことホントに信頼してるんだよ。』

先輩達の言葉を信じて・・・・やるだけだ。

しかし、みさき先輩が言いかけた言葉は・・・・・。

くいっ

ん?澪がオレの袖を引っ張っている・・・・なんだ?
『部室に忘れ物したの』
・・・・・前にこんな光景を見たような・・・・。
当然、オレは澪に部室まで引っ張られた。

部室は真っ暗だった・・・・・。
(まあ、同じ事が二度あるわけないよな)
そう思って、部屋の電気を付ける。
澪が部室の端にあるロッカーに走っていった。
そして、すぐ戻ってきた。
『変なの』
「なにがだ。」
『荷物が余分にあるの』
「澪みたいに忘れたんじゃないのか?」
『鞄なの』
・・・・・・・・
「!」

オレと澪は部室練を歩いていた。
真っ暗な・・・・そこを。
「確かいつも裏口から入って来てたはずだ・・・。」
『なんで分かるの』
月明かりにスケッチブックを掲げて澪が聞く。
「それは・・・・・?」
何で分かるんだろう・・・オレは。
そして・・・・彼女はそこに居た・・・いや、

倒れていた。

「深山先輩!」

階段の手すりにもたれ掛かるようにして・・・。

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「・・・・・無理しすぎだよ。ホントに。」
「・・・・何でだよ。こんなに熱があるのに・・・・クリスマスだって・・・・いつだって・・・・演劇だけ考えて・・・。」
救急病院の廊下・・・・。
「雪ちゃんには・・・理由があったんだろうけど・・・・でも・・・。」
「・・・・・・みさき先輩。」
出来るかもしれないな・・・・今だけかもしれないけど。
「何?浩平君。」
「・・・・深山先輩を・・・できるだけ、いや全力で・・・・支えてみるよ。」
理由なんて・・・・無い。
少なくともオレにとっては・・・。
「雪ちゃん・・・喜ぶよ・・・・きっと。」
それだけでいいんだ・・・。

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「あっ、折原君。来てくれたのね。」
初めて部室に入った時と同じセリフ・・・・・だな。
「もう起きられるんですよ・・・ね。」
あれから三日だ。
「私を助けてくれたの、折原君だったのね。ありがとう。」
「澪のおかげ・・・かな?どっちかというと。」
もう迷わないで・・・・言えるよな、オレ。
「えーっと・・・・・・。」
「あの・・・・・。」
うっ・・・・やっぱ言いにくい。

「オレが・・・澪だけじゃなくて、先輩の補助も・・・。」
「えっーと、上月さんだけじゃなくて私のサポートも・・・。」

・・・・・・えっ?

「あ・・・・・・。」
「う・・・・・・。」

オレ達二人にとっては・・・長い沈黙が続いたと思う。

「ま、まあ。先輩の背負っている何か・・・・代わりに持つことは出来ないけど・・・・。でも・・・。」
深山先輩は、じっとオレの方を見ていてくれている。
「坂道で先輩の背中を押すくらいのことはしても・・・・いいよな?」
彼女は大きく・・・頷いてくれた。
「折原君・・・あ、ありがと、う。わ、私・・・・。」
「おいおい、泣かないで・・・・ん?」

はっ、と視線を扉の方に向ける。
「あっ・・・・・お邪魔だったみたいだね・・・。」
『ごめんなの』
ばたばたばた・・・・。
逃げていった・・・・雰囲気ぶち壊し・・・。

深山先輩の方を振り返ると・・・・うわっ、真っ赤。
「じ、じゃあ、オレ帰るわ。」
「あっ、折原君。みさきにお礼、言っといてくれる?”みさきの助言ホントだった”ってね。」
えっ?深山先輩もみさき先輩に・・・?ってことは・・・。
ふうっ、全てお見通しってことか・・・みさき先輩。


「深山先輩・・・・一つだけ聞いていいか?」』
「いいわよ。今なら・・・”何でも”ね。」
・・・・”何か”についてはまだ・・・聞かない。そうじゃなくて・・・。
「ホントにオレでいいのか?」
オレも弱気になったもんだな・・・・この折原浩平が。

でも・・・深山先輩はこう言ってくれるんだよな・・・。
「いいの・・・だって気が付くと折原君、いつも一緒にいてくれるからね。」
・・・・だからあの時・・・・先輩の居る所が分かったんだよな・・・・。

・・・・・・・・・・・・

病院からの帰り道・・・・オレは思った。
・・・”いつも一緒”か・・・・いつまで居られるのか・・・・。
いつまで!?

『永遠はあるよ』

『ここにあるよ』


「幼き日の約束」・・・・イメージが急速にオレの中で膨らんでいく。

せめて・・・・・深山先輩の作った”舞台”をもう一度見てから・・・・・・だな。

もう少し待って欲しい・・・・・オレの願いはそれだけだった・・・・・・。


To be continued・・・・
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ポン太「ポン太でーす。中盤から後半にかけて・・・・展開がかなり強引になってしまったなー。」
雪ちゃん「なんか・・・みさき、さまさまって感じね。」
ポン太「うーん、浩平と雪ちゃんが少しでも素直になるためには・・・って考えたらこうなってしまった。」
雪ちゃん「上月さん・・・・存在感薄いわ・・・・。」
ポン太「・・・・・澪ちゃんファンの方、ごめんなさい。」

ポン太「ここまで書いて一つ分かったことがある。」
雪ちゃん「えっ?何?」
ポン太「私がシリアスを書くと”浩平は必ず弱気になる”ということだな。」
雪ちゃん「ギャグを書くと”七瀬さんは必ず◯◯になる”もそうね。」
ポン太「・・・・◯◯の中はご自由にご想像ください。」

ポン太「よーし、今日はここまで。」
雪ちゃん「いよいよ次回が最終回ね。私はどうなるのかしら。」
ポン太「うむ、間違ってもプロフェッサー雪ちゃんにはならない。安心して・・・・」
雪ちゃん「当たり前よ!!」

ごいーん

雪ちゃん「あっ、飛んでった。」
裏ポン太「(やっと出番だ)と、いうとこで後書きは終了です。」
雪ちゃん「では皆さん。」

二人「またお会いしましょーね。」

1998.12.24