『かせぐの』−7− 投稿者: ばやん
*場所は変わって保育園*
よし、行くの!
私は、心の中でそう叫んで保育園の門をくぐった
これほど意気込んだ事なんて、久しぶり。 
何か大きな事をやろうとしているみたいで気分がいいの
そして、そのまま事務室へと向かう
元気良く事務室のドアを開け、タイムカードを押し
人には、大きな仕草を言われるようなお辞儀した
これが、私のいつもの挨拶の仕方
そんな私に真っ先に話しかけてくれたのは、昨日私を助けてくれた椎名さんだった
「あら、上月さんこんにちは」
椎名さんはにっこりと微笑みながら、私に挨拶してくれた
『こんにちはなの』
だから、私もできる限りの笑顔で応えた
「今日は二日目ですね。 もう慣れましたか?」
昨日の私の事を知っているのに、何事もなかったような言い方で私に話しかけてくれる
私に気を使ってくれているんだな〜 って感じられて嬉しい
うんとね
『まだなの』
昨日は、健君のことで心残りなの
「そうですか、困った事があったら、すぐに私たちに言って下さいね」
昨日は、言う前に来てくれたの
そう言えば、昨日のお礼をまだ言ってなかった
カキカキ
「ん? 早速何かあるんですか?」
違うの
『昨日はありがとうございましたなの』
そう書いて、ぺこりとお辞儀した
私には、こんな形でしか感謝の気持ちを表せない
こう言うとき、しゃべれないことの辛さを感じるな〜
「いえいえ、いいんですよ。 あれぐらい、それに実を言いますとね、私も何度か園児達に泣かされたことあるんですよ。」
えっ! そうなの?
こんな優しいお姉さんを苛めるなんてひどいの
『何されたの?』
私は、疑問をそのまま書いた
「う〜ん、別に苛められたわけじゃないんですけどね、男の子達に次々にスカートをめくられたことがあるんですよ。 だから、それ以来、仕事中にはスカートは履かないことにしてるんです。 若い保母さんが標的になっているようですから、上月さんも気を付けた方がいいですよ」
そうか、まだそういう事する年頃だもんね
うんうん
『わかったの』
このアドバイスは、正直にありがたかった
「ふふふ、よかった。 元気そうで」
ほぇ?
『どうしたの?』
なんだか、椎名さんがほっとしているみたいなの
「いえ、初日からあんな事があったから、落ち込んでたらどうしようかと思っていたんですよ」
あ、そういう事か・・・椎名さんって優しいなー
『心配ないの』
そんな気を使われたら、逆に恐縮してしまう
「そうですか、良かったー。 それじゃぁ、今日こそは負けずに頑張って下さいね」
うんうん
『大丈夫なの』
「なんだか自信ありそうですね」
うんうん
『秘策ありなの』
「秘策ですか? 一体どんな方法なんですか?」
『見てのお楽しみなの』
「ふふふ、やる気は十分みたいですね。 その意気ですよ」
うんうん
「それじゃ、行きましょうか」
うんうん
『がんばるの』
私は、椎名さんと一緒に外に出た
「それにしても、昨日の健君には驚きましたね」
ほぇ?
『どういうことなの?』
「いえ、昨日も話しましたけど、健君って普段はおとなしくて優しい子なんですよ。 あんなに暴れた事なんて初めてじゃないかしら」
そうなんだー
本当にどうしたんだろう?
あの人には、なぜ健君があんな行動をとったのか、その理由がわかっていたみたいだけど(←茜のことです)
『今日はどうなの?』
私は、取りあえず不安に思っていることを聞いてみた
「今日の健君ですか?」
うんうん
「そうですねー、今日は落ち着いていましたよ」
そっかー
それなら、教えてもらった事をしなくてすみそう
あれって、人前では恥ずかしいからしたくなかったからちょうど良いの



昨日と変わらない園児達
もちろん、あの健君もいる
でも、今日はなんだか昨日と違って落ち着いてるの
「あ、澪おねえちゃん」
「あ、お姉ちゃんこんにちはー♪」
うんうん
『こんにちはなの』
昨日一緒にトンネルを造った女の子達
確か、菫ちゃんと、奈美ちゃんなの
二人は、とっても仲がいい姉妹なの
「ねぇねぇ、今日もいっしょに遊ぼうよー」
うんうん
「わーい、今日はもっとおおきいトンネル掘ろうねー」

***

うんしょ、うんしょ
できたの!
私はぱっと手を挙げた
「わーい、できたねー」
「おっきいねー」
うんうん
昨日よりおっきいのができたの
でも、二日も連続でこれだけは面白くない
『川もつくるの』
「わー、いいねー」
「うんうん、作ろうお姉ちゃん」
うんうん
『おっきいのつくるの』
「うん、まず何用意すればいいかなー・・・・」
っとそこへ
「おい、ここは僕のなわばりだ、どけっ!」
また来たの
昨日トンネルを壊した健君が
でも、今日は壊させないの
「何よ、いつからあんたのなわばりになったのよ!」
菫ちゃんが、怒ってるの
奈美ちゃんは、菫ちゃんの背中に隠れてる
「たった今からだ。 とにかくどけ、僕のなわばりの物だから、そのトンネルも僕のものだ」
無茶苦茶な理屈なの
もちろん、こんな横暴は許さないの!
私は、健君の前に敢然と立ちふさがった
「どけっ!」
『どかないの!』
私は、う〜っと言った感じで健君をしっかりと見つめた
「なんだとっ!」
『どかないの!』
私は、同じ所をもう一度見せた
「また昨日みたいにやられたいのか!」
そのつもりはないの
私は、しゃがんで、目線を健君と一緒にした
そして、健君の目をじっと見つめた
「な、なんだよ、人の顔をじっと見て・・・」
「・・・・・・・・・」
健君も、はじめはそんなこと言ってたけど、何を言われても私が目をそらさないので次第に無口になっていった
「なぁ、だから何なんだよー」
訳がわかんなくて、かなり焦ってる
そろそろ仕上げなの
ここからが本番なの
私は、おもむろに、健君の顔を掴む 健君の両頬は、今私の手の中にある
「・・・・な、なんなんだよー」
当然だが、健君が驚いている
私は、そのまま健君の顔に近づいていき、
「お、おいっ! な、何するつもりなんだよー」
健君は動揺しまくっているみたいだけど、そんなことは無視する
私は目を閉じ
そして、その可愛い額にそっとキスをした
これが、教えてもらったとっておきの方法だ
効果は謎だけど、なんだか、うまくいくような気がするの
「ななな、いきなりなにするんだよ」
案の定、健君は思いっきり慌ててるの
「うわー」
「ねぇ、お姉ちゃん、あれってキスだよね、キスだよね」
「う、うんそうだよねー」
菫ちゃんと、奈美ちゃんが驚いてるみたいなの
当然だけどね
「ば、ばかっ! こんなのがキスなわけないだろう? な、お姉ちゃんそうだよな?」
健君は、何がなにやらわかんないみたい
取りあえず、今のところアドバイス通りになっているみたい
でも、これで完了じゃないの
ここからが仕上げ、私は何も言わずにじっと健君を見つめ、そして
ニコっ
最高の笑顔を見せた
「・・・・・・・・」
私の笑顔を見た瞬間から、健君は、はっとなったみたいに私から目をそらさなくなった
そして
「・・・・・・・・」
「・・・・・昨日は悪かったな」
うぅん
『かまわないの』
「ぼくも・・・いっしょにあそんでもいいかな?」
うんうん
『大歓迎なの』
「わたしもかまわないよ」
「うん、わたしもいいよ」
菫ちゃんと奈美ちゃんも許してくれてる
「よ〜し、邪魔者も仲間になったことだしさっきより大きいトンネル掘ろうねー」
「うん、お姉ちゃん頑張ろうね〜」
「おぉ〜」(もうとけ込んでる)
それからは、4人でおっきい山を作り、さらに水を流してみんなを驚かせた
昨日は、あんなに恐かった健君が、実は優しい子何だと言うことも感じられたの
昨日は、きっと初対面の人にあって戸惑ってただけなんだね (←ちょっと違うと思うぞ)
楽しそうに、砂場で遊んでいるこの子達を見てると、なんだかこっちまで幸せな気分になってくる
無邪気な笑顔 純粋に一つ一つのことにまっすぐな反応を見せてくれる天使と小悪魔
私は、そんな子供が大好き
ここのアルバイトをして、ホントに良かったなーと思えるの

−保育園の外−
「うまく行ったようですね 」
「みたいだな、それにしても茜、あんな方法何処で知ったんだ?」
「ひ・み・つ♪ です」
「・・・・・」
「浩平どうしました?」
「い、いや、茜がそんな可愛い言い方するようになったのかと思ってな」
「・・・恥ずかしさが後から込み上げてきました」
「みんなに教えたら、びっくりするだろうなー」
「浩平、困ります」
「大丈夫だよ、誰にも言わないから」
「はい、信じてますよ」
「よし、信じられたぞっ! 所でさ茜」
「はい・・・」
「そいつでいったい何個目だ?」
「数えてません」
「そうか、すっかり茜のお気に入りになっちまったなパタポ屋のクレープは」
「おいしいです」
「そいつは良かった」
「上月さんも、うまくいったみたいですし、安心したらまたおなかがすいてきました。 浩平、商店街に行きましょう。 今度は三葉堂のワッフルが食べたいです」
「茜、まだ食うのかー?」
「浩平は行かないんですか? 今度は私がおごろうと思ったんですけど」
「あ、そういう事なら喜んで行かせてもらうよ」
「はい」
「よし、行こう」
「はい」
っとそんなところへ
「あら、折原君 こんなところで何してるの?」
「み、深山先輩っ!」
「どうしたの? そんなに驚いて、私の顔に何かついてる?」
「そうだな、目と鼻と口と・・・」
「それがなかったら、変でしょう?」
深山先輩がやれやれと言った感じで俺を見ている(←ここから視点が浩平に変更してます)
「特に、変な物はついていません」
茜は、何の変哲もない答えを出してる
そんなんでは、お笑い芸人なんかにはなれんぞっ!(←茜にそんなつもりはありません)
「えっとー、あなたは」
「ああ、そうか二人とも初対面だったな」
俺は、二人を軽く紹介した
「里村さんって言うんだね、初めまして」
「初めまして」
「それにしても、折原君って結構もてるんだね」
は?
俺がもてる?
「深山先輩、どういう意味だよ?」
「だってさ、こないだは、別の娘、そう長森さんだったかな? 彼女と一緒にうちの部室に来たじゃない」
「まぁ、確かにそうだが、そんなんでどうして俺がもててることになるんだ?」
「そっかー、ひょっとして長森さんは住井君の彼女なのかな?」
「それは絶対にないっ!」
俺は力一杯否定した
何で長森のことでこんなに熱くなってるんだ俺は?
「あれ? 違うんだー、でもさぁ、折原君何でそんなに力一杯に否定するのかなー」
なんだか、深山先輩がにやにやしている
な、なんなんだよー
「折原君ってひょっとして・・・」
ど、どういう意味だよー
「はい・・・」
「ん? 里村さん心当たりがあるの」
「あります」
「そっかー。そうなんだ」
だから、なんなんだよー
くっそー、俺一人蚊帳の外かよ
「ねぇ、もうちょっと詳しく教えてくれないかなー」
「わかりました」
あー、気づいたらどんどん話が進んでるー
「よっし、じゃ、いこっか 近くにおいしいケーキ屋さん知ってるのよ。そこでゆっくりと・・・」
「はい」
「じゃ、折原君、彼女借りてくわねー」
「浩平、さようなら」
「お、おい、ちょっと いったい何の話なんだよー」
「まぁ、良いじゃない ふふふ」
うー、その笑い方無茶苦茶気になるぞー
「それじゃねーって、あれ? あれって上月さんじゃぁ・・・」
はっ! しまったーーー 澪が気づかれてしまった
「み、深山先輩どうしたんですか」
「あ、あの子って上月さんじゃないの?」
うぅ、こんな遠くから良く澪を識別するなー
でも、ここで澪がバイトしていることを知られるのはまずい、と思う
ここはごまかさないと
「い、いやあれは澪とは違うと思うぞ」
俺は、とにかく否定した
「そんなこと無いわよ、ほら、あんなおっきいリボンしてるのって上月さんぐらいよ」
「いや、あんなリボン別に珍しくないと思うぞ」
「それにほら、あの無邪気な笑顔。間違いない、上月さんよ、こんなところで何してるのかしら?」
まずい、すこぶるまずい
っとそんなときに
「アルバイトだそうです」
・・・茜がばらしてしまった
そう言えば、茜には澪がバイトしている理由を教えていなかった
こんなところで、足がつくとは・・・
「上月さんがアルバイト? そう、それでここん所部活にも出てこなかったのね」
「深山先輩には言っていなかったんですか?」
「えぇ、上月さんだけじゃないわ 他の部員もここのところおかしいのよ」
げっ! 深山先輩、完璧に怪しんでる
す、鋭い人だ
「そっかー、こないだお金が必要とか言ってたけど、それでバイトしてるのね」
あぁ、やばい、このまま行くと、計画が発動する前に深山先輩に発覚しそうだー
ってまてよ
考えてみたら、計画の内容って俺聞いてないぞ
「ねぇ、折原君」
「は、はいっ!」
「あれから、上月さんから何か聞いてないの?」
やっぱりそう来たか
でも、ぼろを出そうにも俺は何も知らない
「いや、俺は何も聞いてないぞ」
「本当みたいです」
「里村さん、折原君の考えてることがわかるの?」
「はい」
「何か、こつでもあるの?」
「何となくです」
「そっかー、で、本当に折原君は何も知らないみたいなの?」
「はい、何かあるらしい、ぐらいのことしか知らないみたいです」
茜、どうしてそこまでわかるんだ?
「そっかー、それじゃぁ、折原君を尋問しても何も出てこないね」
深山先輩の尋問・・・何か恐そうな気がするのは俺だけか?
い、嫌、俺は本当に何も知らないんだから無実だっ!
「里村さん、あなたには心当たり無いの?」
「ありません」
「うーん、この場で考えてもしょうがないわね。 今度みさきでも尋問しましょう♪」
深山先輩、なんだか楽しそうだな
「先輩、楽しそうだな」
「ん? みさきの反応って面白いからね」
「浩平、誰なんです? そのみさき先輩って」
「あそっか、茜は知らなかったんだな」
「私の幼なじみよ、目が見えないんだけど、それ以上によく食べることの方がインパクトがあるわね」
・・・確かに
「浩平が前に話していた人のことですか?」
「あぁ、そうだ。 あの学校のすぐ近くに家がある人のことだ」
「そうですか」
「まぁ、ここで話していてもしょうがないから、そろそろケーキ屋さんに行かない?」
「はい」
そう言えば、そんなこと言ってたな
「俺も行って良いですか?」
「折原君はダメよ、君のことも話題に入ってるんだから」
だから、なおさらなんだけどな
「だからですよ」
「ふーん、まぁ、私は構わないけどね」
「はい、私も構いません」
「そうか、それなら・・・」
っと俺が言ってるところを遮り
「ただし、私たち二人の尋問に答えるって言うんならね☆」
「へ?」
茜を見ると
「私も、同じ意見です」
・・・ご丁寧にもそう言ってくれた
「折原君、どうする? 一緒に来る?」
「・・・・・いや、俺は帰るよ」
「そうですか」
「意気地なしねー」
「そ、それじゃな、茜、深山先輩」
俺は、二人の女性陣から逃げるように帰った

―――――――――――――――――――――――――――――――――続く
覚えている人がいるのかさえ自信がない7本目です
本編が長かったので、いつものアシはいません
感想書きたかったんですが、しばらくこっちに来ていなかったのでできませんでした。
申し訳ありません
いやー、未読が多すぎて、読むのをあきらめてしまいました(60本を軽〜く越えてます。っと言うか、それ以降、数えてません)

ちなみに、深山先輩は、本当にみさき先輩を尋問する訳じゃありません
あれは、言葉のあやです (これ言っとかないと、また誤解されそうなんで)

それと、前作は一部の読者の方を不愉快にさせてしまったようですが、そう言う場合は私へのメールか、もしくは私のHPの掲示板等をご利用下さい
下手に名指しを避けても、あんな書き方では誰の事なのかすぐにわかります
もし意図的にああいう書き方をされているのでしたら、なおさら私に直接連絡くれた方がましです
っと言うことなので、お願いします

http://www.geocities.co.jp/Playtown-Dice/3821/