剣技修行 NO.4 投稿者: 火消しの風
「ミユ、他人に僕の事話さないでくれるかい。」
「はい、すいません。」

あとちょっとでミユが話し始めようとするとこでシュンが止めた。
シュンは起きあがりミユに近づいた。

「この右腕の治療をお願いできるかい。」
「はい。」

ミユはシュンの右腕に手をあてると凍り付いていた腕を
みるみるうちに修復した。

「うん、動く、ありがとう。」

シュンは自分の腕を触りながら七瀬に近づいた。

「七瀬さん、僕はもうあなたと戦うつもりはありません。まだどうしてもと
 言うのであれば、僕を殺してください。」
「え!?」
「あなたは違うとわかりましたから、戦う意味がなくなりました。」

シュンは向きをかえて出口に向かった。
出口付近で足を止めて俺に話しかけてきた。

「折原さん、生きる意味を見失ったことありますか?」
「・・・・・」
「答えて、くれないんですね。」

それを言うとシュンは屋上から立ち去り、そのあとを追いかけるように
ミユも立ち去った。
七瀬を立たせ俺達も屋上を出た。

「傷、大丈夫か?」
「うん、このぐらい、平気。」
「ならよかった。」
「浩平、今まで修行ありがと。私、明日からまた一人で修行する。
 毎日、浩平に迷惑かけちゃうから。」
「ん?ああ、別に迷惑じゃないけど七瀬がそうしたいのなら
 そうすればいい。」
「ありがと、じゃ、私部活出るから。」
「え、その体で?」
「うん。」
「ま、がんばれや。」

七瀬は体育館に向かって走って行った。

「さて、帰ろうかな。」

・・・・・・・・
・・・・・

あれから数日が過ぎ、七瀬は少し暗くなった気がした。

「七瀬、弁当食おうぜ?」
「うん・・・」

「これ、いただき!」
「どうぞ・・・」

・・・・・

「浩平、最近七瀬さん元気ないね。」
「うん、あの日なんじゃないか?」

ガン!!

「っう、ててて、元気あるじゃないか!まったく。」
「今のは浩平が悪いよ。」
「一応、相談にのってやるか。」

俺は長森と話を聞いてみることにした。

「七瀬さん、最近元気ないけど、どうしたの?」
「何をしたかは知らないけど自首なら早い方がいいぞ。」

・・・・・・

「すいません。」
「まったく、浩平は。」

「まあ、とりあえず言うだけ言ってみろ、言いたくないなら
 しょうがないけどな。」
「・・・うん、あいつの事なんだけど、あいつなんであんなに悲しそうな
 目してたんだろ。」
「あいつって、浩平の話てた人のこと?」
「ああ、そうだ。」
「私、最近よく思うんだけどあいつあんなに強いのになんで、
 あんなに寂しそうに戦うんだろなって。」
「多分、ミユが言っていた事が理由じゃないか?」
「私もそう思う・・・」
「理由か・・・よし、俺が聞いてやる。」

俺は教室を出てシュンのクラスに向かった。

・・・・・・
・・・・

「あの、このクラスに氷上シュンってやつなんだけど、今いる?」
「え?ああ、シュンさんなら屋上に行きましたけど。」
「そう、ありがとう。」

聞くなり屋上にダッシュした。

・・・・・

屋上に着くとシュンが空を眺めている姿が目に入った。

「よう、こんな所で日向ぼっこか?」
「折原さん、何か御用ですか?」
「いや、別に用ってほどでもないんだけどな、ちょっと聞きたいことが
 あってな。」
「聞きたいことですか、なんです?」
「ミユとかいう女の子が言ってたことなんだけど。」
「ミユですか、ミユが何か言ってましたか?」
「お前が姉をって事だけど。」
「・・・すいません、それはお話できません。ミユですら事実は
 知らないんですから。」
「そうか、なら、七瀬からの疑問だ、なんでお前は寂しそうに戦うんだ?」
「寂しそうに見えますか・・・」
「別に答えたくないんならいいんだけど。」
「すいません。」
「邪魔して悪かった。」
「別にいいですよ。」

俺は出口へと向かった。

「守るものを失った・・・そう、お伝えください。」

シュンは俺が出口に一歩足を踏み出したあたりで話しかけてきた。

「・・・わかった。」

俺は屋上を後にした。

・・・・・
・・・
・

教室に帰ってきた俺はすぐに七瀬に伝えた。

「なんか、よく意味がわかんないな。」
「俺は、彼奴の気持ちが解る。」
「それだけで?」
「ああ。」
「ふーん、さて、私そろそろ帰ろうかな。」
「そうだな、俺も帰ろう。」

俺は七瀬と別れ学校を後にした。

・・・・・・
・・・・

家につき俺はベッドに横になった。

「(守るものを失った、か・・・)」

・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・

俺の強くなった理由は全てみさおのためだった。


「お兄ちゃん、昨日もお勉強してたの?」
「お勉強?違うよ、修行だよ、修行。俺はいつでもみさおを守れるように
 修行してるんだよ。」
「え?私を守る?なんだかよくわかんないけど、ありがとう。」
「それより、早く元気になれよ。」
「うん。私、はやく元気になってお兄ちゃんと遊びたいな。」
「よし、じゃ約束だ。」
「うん、約束。」

そして俺は毎日、毎日、修行を欠かさなかった。
しかし、俺の想いとは逆にみさおの病気はおもくなるだけだった。

「お兄ちゃん・・私、元気になれないんだよ。」
「バカ!何言ってるんだ、そんなわけないだろ。」
「私、なんか、疲れちゃった・・・」
「そんなこと言うな!俺が絶対守ってやるから。」
「えへ、ありがとう・・・お兄ちゃん。」

数日後、みさおは静かに息をひきとった。
最後に一言こう言って・・・

「今まで守ってくれて、ありがとう・・・私の、お兄ちゃん。」

結局俺はみさおを守ることができなかった。
病気の前に俺の力は無意味だった・・・

「ごめんよ、みさお・・・口だけのお兄ちゃんで・・・」

俺は初めて泣いた。今までどんな辛い時だって、どんな痛い思いをした時だって
泣かなかったのに・・・

「くそーー!なんのために今まで修行したんだー!みさおを、みさおを守る
 ために修行したのに、どうして・・・」

俺はみさおの葬儀のあとすぐに引っ越しをした。
親戚のおばさんの家に引き取られた。
もう、生きる意味がなくなった・・・毎日が地獄だった。
一番大切なものを失い、守るべきものも失った。
俺は毎日窓から空を眺めていた。
それが唯一悲しみを和らげてくれたから・・・

「ねえ、ちょっと?」
「(もう俺は生きることもないのかな・・・)」
「もしもーし、聞こえてますか?」
「(・・・・・)」
「よーし!・・・えい!!」

ガン!!

直径2cm位の石が俺の頭にあたった。

「・・・痛い、痛いぞ!誰だ!」
「あ、やっと気がついた。」
「何すんだよー!なんか用か!」
「ごめんね、あてるつもりなかったんだよ、で、一緒に遊ぼ?」
「いい。」
「えー、遠慮しないでさあ。」
「断ってるんだよ!わかったらとっとと消える!」

俺に石をぶつけた女の子は頬を膨らませて向こうに消えていった。

「ふう、わからん。」

しばらくすると女の子はさっきより一回りでかい石を持って来た。

「はやく降りてきて、今度はこれぶつけちゃうよ?」
「・・・・・」

俺は黙って見ていた。

「ほ、ホントにぶつけちゃうよ?」
「・・・・・」
「知らないよ、本気だよ。」
「・・・・・」
「もう、ちゃんと、よけてね、えい!」

ガン!!

俺の目の前が赤く染まった。どうやら頭から血が流れているようだ。

「・・・気がすんだか?」
「え、え、何でよけないの!?」
「俺は一人がいいんだ・・・わかったら帰ってくれ。」

女の子は泣き出してしまった。

「ご、ごめんね、で、でも、何で私と遊んでくれないの?どうして?」
「・・・一人がいいんだ。」
「わかった・・・ごめんね、私も痛い思いしなきゃ。」

そう言うと女の子は木によじ登り俺の方を涙目で見た。

「これで許してね・・・」

ヒュン・・・

俺は一瞬で木まで飛び、女の子を抱きかかえ部屋まで飛んだ。

「あ?!・・・助けてくれた。」
「なんでそんなこと・・・」
「こ、これも、計算のうちだったりして。」
「いや、それはうそだな。」
「でも、やっと近くに来れた。」

そういうと女の子は俺の頭に両手をおいて目をつぶった。
一瞬、青白く光り、さっきの傷の痛みがなくなっていた。

「もう、痛くないでしょ?」
「確かに。」
「初めまして、私の名前は・・・・」

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火消し「読んでくれた方々、感想をくれた方々どうもありがとうございます。
    それでは失礼いたします。」