もうひとつの繭の物語10 「おかあさん」 第1話 『まゆのだもん』 「あら、繭、どうしたの?この犬・・・」 「かうの」 「・・・でもね、繭。この子、首輪付けてるよね。どこかで飼われてる子なのよ」 「でも、まゆについてきたもん・・・」 「今ごろ、この子のお家の人、心配してるんじゃないかな」 「・・・だって・・・ついてきたんだもん・・・まゆのだもん」 **** 「いえいえ、娘が勝手に連れてきちゃったものですから」 「むーちゃん・・・て言うんですね。どうもご迷惑おかけしました。心配なされたでしょう?」 「・・・いるんですけど・・・出てきたくないみたいで・・・」 「でしょうかねぇ・・・ゆうべもこの子飼うんだって言ってききませんでしたし」 「はい・・・そう言っていただけると助かります・・・」 「繭ー?・・・出てきなさい。早くしないと、むーちゃん帰っちゃうわよ?」 「繭?・・・すみません。なんかすねちゃってるんでしょうかね」 「・・・でも、仕方ありませんから・・・」 「ええ、どうもご足労おかけしました・・・むーちゃんも、ごめんね」 *** 「どうしたの、繭。むーちゃん、行っちゃったよ。きちんとバイバイしないで、良かったの?」 「・・・っ・・・じゃ・・・ないもん・・・」 「・・・繭?・・・」 「む、・・・ひぐっ・・・っ・・・む・・・ちゃんじゃ・・・ない、もん・・・っ・・・」 「・・・・・・」 「まゆの、だもん!・・・」 「・・・繭。むーちゃんはね、物じゃないの・・・」 「まゆが・・・かうんだ、も・・・っ・・・」 「繭だってお母さんと一緒なのがいいでしょ? むーちゃんもそうなのよ?」 「でも・・・でも・・・っ・・・」 「知らない人が繭を連れて行きたいって言ったら繭は行く?」 「・・・いかない・・・」 「そうよね、お母さんもいやよ。繭はむーちゃんにそういうことしたいの?」 「う・・・っ・・・う・・・」 「仕方ないことなの・・・分かって・・・ね?」 「う、うわああぁぁぁーーーーーーーーん」 第2話 『へれっと』 「わぁ♪」 「さすが評判のペットショップ。いっぱいいるわねぇ。ワンちゃんや猫ちゃんだけじゃないし」 「わぁ♪・・・・・・わぁ♪・・・」 「繭、ほら、このハムスターも大きいけどかわいいわよ」 「はやぁ・・・ふぇ〜・・・」 「あらま、50万もするの!?」 「?・・・はえ〜・・・」 「こっちは・・・イグアナ? こんなの飼う人いるのねぇ」 「ほえー・・・」 「ふふっ・・・繭のために来たのに私の方が楽しんでるかも」 「・・・・・・!・・・??」 「・・・繭、どうかしたの。!と?だけじゃ分からないわよ」 「これ・・・」 「ん?・・・何これ。やたら胴長の動物ねぇ。えーと、ふぇ・・・フェレット?」 「へ・・・れっと・・・?」 「フェレット。ふふ・・・気持ち良さそうに寝てるわね。結構かわいいかも。ね?」 「うん♪」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・あ、思ったより高いのね・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・おかあさん」 「だ、駄目よ。こんなの飼えるわけないじゃない」 「・・・なにもいってないよ・・・」 「・・・そ、そうね・・・ごめんごめん」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・おかあさん」 「だっ・・・な、何?」 「かわいいね・・・」 「え? あ、そ、そうね。ただで見ている分にはね・・・うん、かわいいかわいい」 「・・・おかあさん」 「な、何?・・・まさか・・・やっぱり?」 **** 「う・・・見に行っただけのはずが・・・どうして・・・」 「へへ〜♪ へれっとかうの♪」 「はぁ・・・ま、私も誘惑に負けたんだから繭だけのせいには出来ないよね。でも、お父さんに叱られるなぁ、これは」 「はやくぅ、はやくぅ」 「そう急かさないの。えっと、ケージも買ったし、餌も買ったし、飼育書も買ったし。OKよね。うん、大丈夫」 「だいじょーぶ♪」 「よし、いつまでもダンボールの中なのもかわいそうだし、出しましょうか」 「うん、うん」 「それでは・・・せえのっ・・・」 *** 「・・・はぁ・・・はぁ・・・」 「うえぇ〜〜〜〜ん・・・うえぇ〜〜〜〜ん・・・」 「・・・はぁ・・・はぁ・・・なんで・・・私達、テーブルの上にいるのかしら・・・」 「うえぇ・・・ひっ・・・うわぁ〜〜〜ん」 「参ったなぁ・・・お店じゃ猫かぶってたんだ、この子・・・おねがいだから、もう暴れないで、ね」 「う〜・・・ひぐっ・・・いたいよぉ・・・」 「噛むし、暴れるし、最悪・・・」 「・・・う〜・・・」 「繭、大丈夫? 噛まれたって言っても血はそんなに出てないから、あの子を捕まえたら消毒してあげるからね」 「う〜」 「しっぽなんか爆発しちゃってるし、うちが気に入らないのかなぁ・・・」 「こわいよぉ・・・う、うっ・・・」 「大丈夫、きっとあの子も慣れてないだけだから・・・」 「・・・もう・・・いやだよぉ・・・」 「そんなこと言わないで。寝顔はあんなにかわいかったのに・・・あ、そういう意味では繭に似てるかも」 「・・・う〜、あんなんじゃないもん・・・かんだりしないもん」 「冗談よ・・・でも・・・早くテーブルから下りたいわね・・・これじゃ、どっちが飼われてるんだか・・・」 「・・・ね、かえそ」 「いい考えだけど、そう簡単にしちゃいけないことなの。大丈夫よ。あの子もきっと慣れてくれるから・・・たぶん、ね」 第3話 『あったかい』 「名前、繭が考えてあげてね」 「ふぇ?」 「フェレットの名前」 「まゆが?・・・」 「そうよ、名前がなくちゃかわいそうでしょ?」 「いや。きらいだもん」 「繭が飼いたいって言ったんでしょ。お世話だってお母さんと一緒にやりましょ」 「う〜」 ***** 「繭。どうしてちゃんとお世話しないの?」 「・・・だって・・・」 「お父さんとも約束したよね。お母さんと繭の二人できちんと面倒見るって」 「・・・う・・・」 「あれからずっとお母さんだけで世話してるけど、繭はどうしてやってくれないの?」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「繭があの子の名前決めてくれないと、お母さんも困っちゃうな」 「っ・・・」 「・・・もう・・・噛んだりしないよ」 「・・・・・・て・・・」 「て?」 「・・・おてて、きずだらけ・・・なのに?」 「あ、これ。少し前までは、ね。でもね、噛んだらダメだって教えていったら、やっと分かってくれたみたい。もう噛まないよ」 「・・・ほんとに?」 「本当よ。もうお母さんとあの子はお友達なんだから。繭はいつまでも仲間はずれで、いいの?」 「う〜・・・」 「繭よりもお利口さんかもね〜。取り替えちゃおっかなぁ〜」 「うぅ〜!」 *** 「こうやって・・・大好きなおやつを・・・手に、付けてと・・・」 「・・・おいしいの?」 「みたいね。って繭が食べるもんじゃないのっ!」 「う〜・・・おいしくない」 「もう・・・じゃ、出すわよ」 「うっ・・・あぅっ・・・」 「ほら、来た来た。大丈夫よ、大丈夫」 「・・・いやっ・・・こわい、こわいよ・・・」 「大丈夫だって・・・早く手を出しておやつあげないと、怒っちゃうかもしれないよ」 「・・・う・・・ひぐっ・・・」 「泣いても分かってくれないから。繭、頑張りなさい」 「・・・うわぁ・・・・・・ひっ・・・っ・・・! ひゃぁっ!」 「・・・・・・」 「・・・っ・・・」 「・・・・・・ほら、怖くないでしょ?」 「・・・?・・・」 「繭のこと、好きだって言ってるよ。ね、分かるでしょ?」 「・・・ぁ・・・」 「よしよし。繭と仲良くしてあげてね・・・繭は?」 「・・・くすぐったい」 「ふふふ」 「・・・あったかい・・・あったかいね・・・」 「・・・繭もね」 「・・・・・・おかあさんもだよ」 第4話 『おかあさん?』 「みゅー?」 「うん」 「みゅー・・・いい名前じゃない。うん、お母さんは賛成」 「へ〜♪」 「みゅーもきっと気に入ってくれるわ、この名前」 「うん」 「これで繭はみゅーの名付け親になったわけだ」 「なづけおや?」 「そう。繭は、みゅーのお母さんになったの」 「・・・おかあさん?・・・まゆが?」 「そうよ」 「じゃ・・・おかあさんは、みゅーのおばあちゃんになっちゃうの?」 「ふふ・・・そうだね、お母さんはおばあちゃんになっちゃうね」 「でも・・・でも、おかあさんはまゆのおかあさんだよね」 「・・・大丈夫よ。お母さんはいつまでも繭のお母さんだから」 「まゆが、みゅーのおかあさんでも?」 「ふふ・・・当たり前でしょ。変な心配して」 「・・・だって・・・」 「繭も、みゅーのお母さんなんだからもっとしっかりしなくちゃね」 「う、うん・・・」 「お母さんも、繭に負けないように頑張らなきゃ。二人で頑張ろうね」 「うん♪」 ***** 「・・・お花、きれいね」 「うん」 「お父さんも来れれば良かったのにね。お仕事だから仕方ないけど、せっかくのお花見日和なのにね」 「うん・・・でも、お母さんがいるからいい」 「・・・・・・」 「みゅーもいるもん」 「・・・そうね・・・」 「あのね・・・おかあさん・・・」 「ん? どうしたの、改まって」 「みゅーにはおとうさんはいないの?」 「へ?・・・」 「・・・いないの?・・・」 「え・・・あ、そ、そうね・・・うーん・・・」 「まゆにはおかあさんもおとうさんもいるよ・・・まゆはみゅーのおかあさんだけど、おとうさんは?」 「う、うん・・・それはそうだけど・・・繭もなかなか鋭いツッコミをいれるわね」 *** 「繭にも好きな人が出来たら分かるんだけどね」 「んー・・・」 「まだもっと先かもしれないけど、きっと現れるわ、繭の大切な人」 「・・・いるよ」 「え?」 「おかあさんでしょ、おとうさんに・・・みゅーも!」 「・・・ふふ・・・そうね。それはお母さんもよ」 「へヘ・・・」 「でもね、お母さんやお父さんやみゅーとは違う、その人だけを思っていられるような、そんな気持ち。繭もきっと分かる日が来るわ」 「・・・ん〜?・・・」 「その人がきっとみゅーのお父さんになってくれるから」 「・・・そうなの?」 「うん、きっと・・・みゅーもそれでいいわよね? って、当の本人は・・・寝てるわね・・・」 「あれ? みゅー?」 「せっかく連れてきてあげたのに・・・まあいいわ。寝かせておいてあげましょ」 「・・・うん・・・」 「・・・・・・」 「・・・おかあさんにもいるの? そんなひと・・・」 「・・・ええ・・・いるわよ・・・」 「だれ?」 「ふふふ・・・それはね、お父さんよ」 「ほぇ・・・」 「だから、繭が生まれたの。お父さんとお母さんが好き同士たから」 「・・・まゆが?・・・」 「そうよ。でも、この話の続きはもっと繭が大人になってからね」 「う〜」 「っと、こんなこと話してたら、もうこんな時間。お父さんが帰ってくる前に帰らなきゃ」 「う〜」 「ほらほら、帰るわよ・・・みゅーが寝てる間に帰りましょ」 「・・・うん・・・」 「みゅーのカゴ、お母さんが持とうか・・・?」 「ううん・・・まゆがもつ・・・みゅーのおかあさんだもん」 「そうよね。偉い偉い」 「・・・うんしょ・・・」 「やっぱりお母さんも半分持つわ」 「だめ。みゅーのおとうさんができるまでは、まゆがもつの」 「・・・もう・・・変なところで意地っ張りなんだから」 「・・・よいしょ・・・」 「じゃあ、これはお母さんが繭のために手伝って持つの。なら、いいでしょ?」 「・・・え・・・」 「繭のお母さんなんだから」 「・・・う・・・うん・・・」 「じゃ、帰りましょっか?」 「うんっ」 おわり (by 光夜じんB&ひろやん) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「あとがき」 久々の投稿・・・というのはいつものこととして(笑) 華穂さんじゃなくて繭の本当のお母さんと繭の会話で書いてみました。 最初の予定では、この後お母さんが死んで、華穂さんがやってきて、さらにはみゅーが死ぬところまで、を書くつもりだったんですが、あまりに辛い話になりそうだったので後半は切って、途中のハッピーなままで終わらせました。 最初に出てきた犬のむーちゃんは、高校のとき自分がなつかれていた近所の犬の名前です。 みゅーと語感が似ているかな、と思って名前を借りました。 あと、このSSでの繭は、某さくらとかを参考にして書いてるところがあります。 もう20世紀も最後の年。 でも、まだ繭SSから卒業できそうにありません。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「感想」 感想を書くのも久しぶり。 >狂税炉 さん ・それいけ!しいこさん!! 『全数アタック』・・・高校でもやってましたよ、僕は。 話が短くバランスよくまとまってるあたり、僕には羨ましい。 >変身動物ポン太 さん ・温泉ばとるろいやる!(4) 僕は年に数回しかSS投稿してないのに、その度にポン太さんの作品があるんですよ。 それだけでもすごいと思うのに、ギャグの冴えもすごいです。 個人的には繭にもっと出てきて欲しいけど、やっぱり茜と詩子の今後の展開に注目かな。 >WTTS さん ・赤射!!(感想) シャリバン・・・懐かしいですねぇ。 ONEじゃないですけど、僕も前にこのOPを替え歌に使ったことがあります。 でも、いまだにシャイダーと混同するんですよね。 >そりっど猫 さん ・新年会?・・・の2 笑いながら一気に読めてしまいました。 え〜っ、続かないんですかぁ? >から丸&からす さん ・夢の一座 あぅ、本当に突然で次の展開が読めない。 とにかく早く第二話が読みたいです。 >GOMIMUSI さん ・夢から来た… うぬぬ・・・さすがに元の話の方までは知らないんですが。 でも、割と僕が好きな感じの話のようです。 >みのり さん ・七草粥は禁断の味 オチが彼女とは・・・。 しかし、僕は七草を全部言えなかったり。 さすがにみなさん、上手いですね。 僕ももっと精進しなければ。